時間:15:00-15:25
会場:B
対象:一般向け
 
2012-ato

 講師:阿戸 学

国立感染症研究所 免疫部第二室長

 


1992年北海道大学医学部卒業。自治医科大学附属病院で劇症型溶血性レンサ球菌感染症の臨床例を経験。英国留学を経て2004年に国立感染症研究所に着任し、2008年より現職。劇症型レンサ球菌感染症を始めとする重症細菌感染症において、なぜ精巧な免疫機構が菌を排除できないか研究し、これらの感染症対策への貢献をめざしている。


講演要旨

 

1980年代、突然のショック、発熱、手足の激痛で発症し、治療をする間もなく急速に進行して死亡するという病気が報告された。患者の血液や手足からは細菌が検出される一方、細菌と戦うはずの白血球はほとんど認められず、この疾患が新たな感染症であることが判明した。その後、世界各地で同様の報告が相次いだことから、1994年にイギリスの新聞がこの奇妙な感染症を「人食いバクテリア」とした記事を発表して、世界中に衝撃をもたらした。そのため、この病気は今でも「人食いバクテリア」として報道されるが、「人食いバクテリア」という名の細菌は存在しない。原因菌の大部分は、こどもに咽頭炎などをおこす溶血性レンサ球菌(溶レン菌)であり、環境中に存在し、胃腸炎の原因となるビブリオ・バルニフィカスやエアロモナス・ハイドロフィラなど複数の細菌も含まれる。では、咽頭炎などから劇症型感染症に進展するのだろうか。明確な答えは未だ得られていないが、最近の研究からいくつかの証拠が得られつつある。すなわち、劇症型感染を起こした溶レン菌は、咽頭炎をおこす溶レン菌と比べて、突然変異により遺伝子発現パターンが大きく変化しており、ヒトの防御機構を破壊する能力が増大する一方、伝播するために必要な能力が著しく弱くなっていた。これらに加えて、菌の侵入防御や免疫能を低下させるようなヒトの要因(外傷、糖尿病、肝臓疾患、循環障害など)が存在して初めて「人食いバクテリア」として発症すると考えられる。このことは、この感染症の発生がごく稀で、ヒト間でうつらないことを説明できる。「人食いバクテリア」の感染部位は、血流が低下しており抗菌薬が到達しにくいため、感染組織をできるだけ外科的に取り除くとともに、迅速で、かつ集中的な治療が必須である。

 

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