国立感染症研究所

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2012年の風疹ウイルスの流行状況―兵庫県

(IASR Vol. 33 p. 308-309: 2012年11月号)

 

はじめに
兵庫県内の2012年の風しん患者は、第8週以降毎週報告が続き、風しんが全数報告となった2008年以降では最大の患者数となっている。5月には患者報告数が全国最多となったため、兵庫県は流行状況調査のため遺伝子検査を行うこととし、健康福祉事務所に届出があった風しん症例について検体を積極的に提供するよう通知した。第39週までに実施した検査で風疹ウイルスが検出された33例において遺伝子解析を行ったところ、ウイルスの遺伝子型の推移等が明らかになったのでその結果を報告する。

風しんの発生状況
風しん患者の報告は、1~2月に障害者通所施設で発生した発熱や発疹等を主徴とする麻しんの集団感染を疑う事例において、遺伝子検査によって風疹ウイルスを検出した第8週の症例が最初であった。その後数名の報告が続き、第20週になると13名と急増、その後も6~17名で増減を繰り返しながら推移し、第36週から減少傾向を示している(図1)。県内で第39週までに報告された風しん患者は男性200名(78%)、女性58名(22%)で、年齢分布は10歳未満4%、10代16%、20代30%、30代28%、40歳以上22%で、20~40代が患者の73%を占めていた。性別にみると、男性は30代が32%、20代が31%で、流行の主体を占めていた。これは、風しんワクチンの導入当初は女子中学生に限定して定期接種されたため1) 、当時の接種対象から外れた年代の男性に感受性者が多いことが一因と考えられる。一方、女性は男性に比べて患者数は少なかったものの、20代が29%、10代が26%、30代が16%となっており、風しん感染を避けるべき出産年齢に当たる年代が女性患者の71%を占めていた。

医師の届出票によると、1回目のワクチン接種有が8%(2回目接種は有り2%、無し3%、不明4%)、無しが33%、不明が59%と、確実にワクチン接種を受けている患者は非常に少ないことが判明した。感染経路が記入された70名(27%)の多くが家庭や職場での感染が疑われていることから、2012年の風しんの流行は抗体保有率の低い成人男性2) を中心とした職場や家族内感染が主体であったことがうかがわれた。このような風しん流行やその被害防止のためにも、ワクチン接種の徹底や妊娠前女性の抗体検査が必要である。

風疹ウイルスの遺伝子解析
風疹ウイルスのPCR検査は、患者の血液、咽頭ぬぐい液や尿から抽出したRNAについて、RT-nested PCR法によってNS領域を増幅した。その結果、風しんの届出があった患者21名中14名から、麻しんの届出があった患者34名中19名から風疹ウイルス遺伝子が検出された。NS領域のPCRが陽性となった検体は、新たにE1領域を増幅させて、その塩基配列から系統樹解析によって遺伝子型を決定した。

風疹ウイルスが検出された33症例の症状と風疹ウイルスの遺伝子型を表1に示した。臨床診断時の報告基準とされている発疹、発熱、リンパ節腫脹の3症状が記載された症例は、33症例中16症例とほぼ半数であったことから、その確定には抗体や病原体検査が必要と考えられる。検体は発症後0~7日目(中央値は2.0日)に採取されており、検体別の陽性率は、血液(血漿) 91.3%(21/23)、咽頭ぬぐい液96.3%(26/27)、尿74.2%(23/31)であった。この中で、発症後7日目に採取された2検体では、咽頭ぬぐい液中のウイルス遺伝子は陽性であったが尿では陰性となっており、麻しんでみられるような遺伝子検査における尿検体の有用性3) は確認されなかった。

遺伝子型が同定されたのは29症例で、遺伝子型の推移をみると、1~5月の検出ウイルスはすべて遺伝子型2Bであったが、6月からは1Eが出現し、その後は2Bと1Eの両者が検出されている(図2)。今回、兵庫県で検出された1Eはヨーロッパ等、2Bは東南アジア等の流行株と高い相同性を示しており、海外からの輸入ウイルスが県内で感染拡大していると思われた。一方、世界的には他に1G等の流行報告もあるため4) 、それらの侵淫状況を監視するためにも、ウイルス遺伝子の解析を継続することが必要と考えられる。

謝 辞:風しんのRT-PCR検査にご助言をいただきました国立感染症研究所ウイルス第三部・森嘉生先生に深謝いたします。

 参考文献
1) 多屋馨子, 他, IASR 32: 263-266, 2011
2) 年齢・年齢群別の風疹抗体保有状況~2010年度感染症流行予測調査より~
https://idsc.niid.go.jp/yosoku/Rubella/Serum-R2010.html
3) 赤地重宏, 他, IASR 30: 107-108, 2009
4) 森 嘉生, 他, IASR 32: 260-262, 2011

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