国立感染症研究所

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ベトナム帰国者より風疹ウイルスが検出された症例―三重県

(掲載日 2015/12/22)   (IASR Vol. 37 p. 31: 2016年2月号)

2015年11月、ベトナムより帰国し、デング熱を疑ったが風疹ウイルスが検出された症例について報告する。

症例と経過:32歳の男性、度会郡玉城町在住。ベトナムに業務のため2015年10月6日~11月1日まで滞在し帰国した。帰国前の10月下旬より鼻汁・咽頭痛・咳・微熱等の症状があり、帰国後の11月4日に近医にて咽頭と扁桃の腫大発赤および後頚部リンパ節の腫脹を認めたため咽頭扁桃炎として消炎鎮痛剤と抗菌薬の処方がなされた。症状が治まらなかったため11月7日に別の医院を受診。その後38℃の発熱と頚部~上肢にかけての皮疹が出現したため、11月9日に伊勢赤十字病院を受診した。海外滞在歴があること、A社簡易検査キットにより抗デング熱ウイルスIgMが検出されたことから、デング熱として三重県保健環境研究所に血液、血清、咽頭ぬぐい液、尿の検体提出があった。

ウイルス学的検査:11月9日および10日に採取された検体(血液、血清)および11月10日に採取された検体(咽頭ぬぐい液、尿)を用いてデング熱、チクングニア熱の検査を実施した。

デング熱ウイルスについてはデング熱迅速抗体検査キット(B社)による抗デング熱IgG、抗デング熱IgM検査、デングウイルスNS1抗原検出キット(C社)によるデング熱ウイルスNS1抗原検査、デング熱ウイルス感染症診断マニュアルに基づくconventional RT-PCR法によるデング熱ウイルス遺伝子検査を実施したが、いずれも陰性であった。また、チクングニア熱ウイルスについても検査マニュアルに基づき、conventional RT-PCR法によるウイルス遺伝子検査を実施したが、有意なウイルス由来遺伝子は検出されなかった。

渡航先がベトナムであること、所見に後頚部リンパ節の腫脹が認められることから、麻しん・風しんの可能性を疑い検査を追加実施した。

麻疹ウイルスについては検査マニュアルに基づきconventional RT-PCR法によるウイルス遺伝子検査を実施したが、麻疹ウイルス由来遺伝子は検出されなかった。風疹ウイルスについては検査マニュアルに基づき、conventional RT-PCR法によるウイルス遺伝子検査を実施したところ、血清(11月9日、10日)、尿から風疹ウイルス由来と考えられる増幅産物が得られた。確認のためreal-time RT-PCR法による検査を実施したところ、血清(11月9日、10日)において陽性所見が得られた。風疹ウイルスE1遺伝子の解析のためconventional RT-PCRを実施したところ、real-time RT-PCR法と同様、血清(11月9日、10日)より増幅産物が得られ、解析の結果2B型と判明した。 

考 察:東南アジア等からの帰国者において、発熱を伴う発疹性疾患の場合、デング熱等を疑うのが一般的と考えられる。しかしながら、東南アジア地域には発疹性疾患として麻しん・風しんの発生がある地域も多く、ベトナムでは2015年1月1日~9月20日までで麻しん確定症例135人(100万人当たり2.2人)、風しん確定症例179人(100万人当たり2.9人)の患者が認められている〔Measles-Rubella Bulletin, Vol. 9 (9); July 2015〕。今回の症例は32歳男性であり、風疹ワクチン接種歴は不明であった。感染症流行予測調査事業の結果、30代~50代男性は風疹抗体の保有率が低めであることから(http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/5502-rubella-yosoku-serum2014.html)、これら感受性者に対し、渡航先によっては渡航前に風疹ワクチンの接種等の対策も必要と考えられる。

 
三重県保健環境研究所
 赤地重宏 楠原 一 矢野拓弥 小林隆司 西中隆道
伊勢保健所
 豊永重詞 三浪綾子 河合のぞみ 稲垣 滋 鈴木まき
伊勢赤十字病院 辻 幸太
 

 

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