国立感染症研究所

 

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2016年のつつが虫病患者の多発―富山県

(掲載日 2016/12/21) (IASR Vol. 38 p.115-116: 2017年6月号)

富山県のつつが虫病は、近年、年間0~5名程度で推移していたが、2016年は11名(2016年12月5日現在)の患者が発生し、1998年以来18年ぶりに9名を超えた。その概要について報告する。

本県のつつが虫病は、主に黒部川流域の黒部市および入善町で発生しており、原因リケッチアはタテツツガムシが媒介するKawasaki型Orientia tsutsugamushiである。他にフトゲツツガムシが媒介するKarp型もわずかに発生する。県内のその他の地域でも、Karp型、Kawasaki型が散発する。

本県では、1970年代半ばより患者が確認され始め1)、ピーク時の年間患者数は20名近くとなった(図1)。その後、住民への注意喚起、リケッチアを媒介するツツガムシ幼虫が主に寄生する野生げっ歯類の駆除などにより、増減を繰り返しつつも徐々に患者は減少し、2001年以降は年間5名以下であった。患者の発症月をみると、11月が最も多く、次に10月となっており、典型的な秋冬型である(図2)。

2016年に報告があった11名の患者は、すべて黒部市および入善町の住民であり、56kDa蛋白遺伝子を対象としたPCR検査2)により、いずれもKawasaki型が検出された()。発症月は10月が7名、11月が4名と、例年に比べ早い時期から発生していた。年齢は10代~90代(中央値74歳)、男女比は4:7であった。つつが虫病の主要3徴候である発熱が10名、発疹が11名、刺し口が9名でみられた。その他、リンパ節腫脹や、頭痛、関節痛、全身倦怠感等が報告された。10名の血液および9名の痂皮からリケッチア遺伝子が検出された。検体採取日は3~10病日であった。患者のほとんどは畑仕事や庭仕事をしており、これらが感染の機会になったと考えられたが、1名はこのような活動は全くなく、感染機会は不明であった。患者はいずれもテトラサイクリン系抗菌薬の治療により回復した。

2016年に患者が多発し、しかも例年より早い時期から発生する傾向があった要因としては、ツツガムシが早期から増加していたことなどが考えられるが、現在調査中である。本県の黒部市および入善町では、住宅付近の畑仕事や庭仕事で感染することが多い。感染予防のためには、長袖、長ズボン、長靴、手袋などを着用し、作業後は入浴、体に付着しているおそれのあるツツガムシ幼虫を洗い落とすなどの対策が必要である。今回の患者多発を受け、当該地域では、地元ケーブルテレビ、防災無線を介した住民への注意喚起、病院へのパンフレット配布などが行われた。また、つつが虫病は、ミノサイクリン等の有効な抗菌薬があるにもかかわらず、治療が遅れ死亡する例もある。医師の迅速な診断と治療、地方衛生研究所等での検査体制の整備が重要である。

 

参考文献
  1. 富山県におけるつつが虫病, 富山県厚生部公衆衛生課, 1984
  2. Furuya Y, et al., J Clin Microbiol 31: 1637-1640, 1993

富山県衛生研究所ウイルス部
 名古屋真弓 佐賀由美子 稲崎倫子 長谷川澄代 稲畑 良 板持雅恵 米田哲也
 小渕正次
黒部市民病院 大石直人
川瀬医院 川瀬紀夫
富山県新川厚生センター
 広明秀一 齋藤知里 久松佑生子 松島範子 黒澤 豊
富山県健康課
 三井千恵子 新保孝治 加納紅代

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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