国立感染症研究所

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北海道で発生したKudoa septempunctata による食中毒事案について

(IASR Vol. 33 p. 150-151: 2012年6月号)

 

北海道内の宿泊施設において発生したKudoa septempunctata を病因物質とする食中毒事例について、概要を報告する。

概 要
2011(平成23)年9月14日、北海道上川保健所に医療機関から「上川保健所管内の宿泊施設の客2名が嘔吐、下痢等の食中毒様症状を呈し、来院した」旨の通報があった。

同保健所が調査をしたところ、9月13日(火)に宿泊した401名中4名(2団体)が同日21時頃から、また翌14日(水)に宿泊した291名中9名(2団体)が同日21時頃から嘔吐、下痢等の食中毒様症状を呈し、有症者13名のうち10名が同医療機関で治療を受けていた。喫食状況を調査したところ、有症者の共通食はいずれも当該宿泊施設が提供した食事であり、有症者13名を含む19名にのみ、ヒラメの刺身が提供されていた。

また、有症者は全員、ヒラメ刺身を喫食後、3~6時間で発症していた(図1)。

当該宿泊施設に関する調査では、調理場の衛生管理にとくに問題はなく、調理従事者の健康状態は良好であった。

なお、当該宿泊施設では、13日にヒラメを丸のまま仕入れ、冷蔵で保管し、13日および14日の夕食に刺身に調理し、提供していた。

検査結果
有症者便(12検体)、調理従事者便(18検体)、保存食(128検体)、施設のふきとり検体(10検体)について、食中毒菌の検査を実施したが、有意な菌は検出されなかった。

有症者らに提供されたものと同一個体のヒラメ残品について、北海道立衛生研究所において、平成23年7月11日付け食安監発0711第1号「Kudoa septempunctata の検査法について(暫定版)」に従って検査を行った。その結果、6~7個の極嚢を有するクドア胞子が検出された(8.5×106個/g)(図2)。

さらに、同通知が示すリアルタイムPCR検査法に準ずる方法(横山の方法:平成23年6月17日付け23推進第277号水産庁増殖推進部長通知別添2別紙)で遺伝子検査を行い、K. septempunctata に特異的なバンドを確認した(図3)。

遡り調査
原因食品であるヒラメについて、平成23年7月12日付け厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報管理室事務連絡「食中毒調査に係る病因物質不明事例の情報提供について(協力依頼)」に基づき、遡り調査を行った。

その結果、当該ヒラメは大韓民国済州島産の養殖ヒラメで、国内に輸入後、数カ所の事業者を経て、当該施設に販売されたことが判明した。

考 察
K. septempunctata に起因すると考えられる有症事例については、平成23年6月17日付け食安発0617第3号「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例への対応について」により、食中毒事例として取り扱う旨が通知された。

本事案は、通知後、道立保健所管内で初めて発生したK. septempunctata 食中毒であった。今回、有症者の発症時間や臨床症状がK. septempunctata によるものとよく一致していたことに加え、有症者が喫食したものと同一個体の検体が残っており、その検体からK.septempunctata が検出されたことから、病因物質を特定することができた。

しかしながら、現在までにK. septempunctata 食中毒において患者由来の検体からK. septempunctata を検出する有効な方法等は示されておらず、疑わしい食品の残品がない場合など実際に病因物質を特定できない事案も多いと考えられる。

また、K. septempunctata 自体についてもまだ不明な点は多く、その詳細な生活環や食中毒の発症メカニズムなどは明らかにされていない。現在、国においても様々な調査研究が進められており、今後、これらの研究の成果から効果的な食中毒発生予防のための方策や効率的な検出方法がとりまとめられることを期待する。

謝辞:今回、原因食品の遡り調査にご協力いただいた関係自治体各位に御礼申し上げます。

北海道保健福祉部健康安全局食品衛生課 齋藤亜由子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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