国立感染症研究所

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台湾におけるブルセラ症
 -33年ぶりの患者報告と届出疾患へ-

(IASR Vol. 33 p. 193-194: 2012年7月号)

 

はじめに
台湾では、1978年の実験室感染患者を最後にブルセラ症患者報告がなかった。しかし、2011年、実に33年ぶりに、相次いでブルセラ症患者5例が報告され(表1)、ブルセラ症は2012年には届出疾患となった(表2)。本稿では、台湾CDCウェブページに報告されている情報を中心に、その経緯をまとめた。台湾では日本と同様に、国内の家畜における感染は確認されておらず、いずれのケースも輸入感染症例であった。

第1例
2011年5月17日に、33年ぶりにブルセラ症の患者が確認された。女性(患者)は同年2~3月にかけて、いとこと北アフリカ(モロッコ、アルジェリア)を旅行し、現地でラクダと接触、牛肉やラム肉の生食やチーズ等酪農製品を喫食した。帰国後4月に発熱と肝機能の異常で、いとことともに医療機関を受診し、ブルセラ症疑い2例として台湾CDCに報告された。台湾保健当局は23名の旅行同行者に連絡し、健康状態を確認したが、女性とそのいとこ以外に異常を示す者はいなかった。最終的にいとこの感染は確認されず、女性のみがブルセラ症と確定された。

第2例
確定は2011年5月24日であるが、2010年の感染症例である。患者は2010年2~3月にかけてマレーシアにいる家族を訪れた。その際、ペナンを訪れ、現地のヤギの乳製品を喫食した。4月になって発熱と脊椎痛を訴え医療機関を受診し、背景から疑い例として保健当局に報告され入院治療を受けた。報告を受け、台湾CDCはペナンでの疫学的調査を実施し、農場のヤギの感染と、その農場の乳製品を喫食した現地の住民にも患者が発生していたことを確認した。2011年になりブルセラ症の第1例が確定されるにあたり、本例もブルセラ症例として確定された。

第3・4例
2011年7月5日に3例目が確定された。それを受けて、3例目の患者と一緒に同年3~4月にかけてマレーシア・ペナンの寺院を訪れた人々に対して、地方保健所は疫学的調査を実施した。その結果、同行者で現地の農場で生産された感染ヤギの乳を飲み、感染したと思われる4例目の患者が見つかり、9月14日に確定された。マレーシア保健当局は同農場のヤギでのブルセラ症の発生を4月に確認・公表し、農場を閉鎖した。

ブルセラ症の届出疾患への追加
2011年10月21日に中国からの輸入感染例も確定され、台湾では33年ぶりに発生したブルセラ症の輸入患者は5例となった。そこで、ブルセラ症の伝染のリスクを低減するためにも本疾患の発生動向を監視する必要があると考え、2012年2月7日にブルセラ症をカテゴリーIVの届出疾患とした。医師はブルセラ症の患者を診断もしくは疑ったときには、1週間以内に所管官庁に届出なければならないとされ、違反に対して罰金が課せられることとなった。

*台湾では届出疾患は、カテゴリーI~Vまでに分類されている(表2)。カテゴリーI~IIIは致死率、発生率、感染の拡大しやすさを基準に分類されている。カテゴリーIVはそれらとは異なるが、台湾CDCにより監視する必要があると考えられた疾患が分類されている。

台湾CDCでは、海外に旅行する2~4週間前までに、国際的な流行と目的地の伝染病情報を、旅行者診療所やCDCのウェブサイトで入手するよう推奨し、家畜ブルセラ症の発生国では動物との接触や生肉・非殺菌乳・乳製品の喫食を避けるようアドバイスしている。また、旅行者が旅行中や帰国時に異常を感じた場合は、空港検疫所を訪れるように勧めている。さらに、医療機関に対しては、疑わしい患者の血清を実験室診断のために台湾CDCに提供するよう求めている。

  

 参考文献

 

国立感染症研究所獣医科学部第1室 今岡浩一 鈴木道雄
台湾行政院衛生署疾病管制局研究検験中心
  腸道及新感染症細菌実験室 慕蓉蓉 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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