国立感染症研究所

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連情報ページ

(このページでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連の記事を、掲載日が新しい順に表示しています)

COIVD-19は、2023年5月8日に感染症法上の位置付けが5類感染症へ変更されましたが、2024年9月においても免疫不全者におけるCOVID-19の臨床対応においては大きな困難を伴い、何らかの「指針」が強く求められている状況です。しかし、参考となる研究的事実が限られているため、未だに関連学会等から免疫不全者のCOVID-19に特化した指針やガイドラインは発表されていません。そこで、AMED 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の研究班(長期ウイルス排出COVID-19患者の臨床的・ウイルス学的・免疫学的特徴解明と臨床対応指針案の作成、研究代表者 鈴木忠樹)では、研究で得られた知見とともに2024年5月までのエビデンスを整理し、研究班には所属していない外部専門家の査読を経て「免疫不全者におけるCOVID-19の臨床対応指針案」として取りまとめました。

この文書が、各医療機関で奮闘されている先生方の役に立つ情報となることを願っています。また、この文書の公開により、免疫不全者のCOVID-19に関する課題が関係者に広く認知され、関連する学会等において免疫不全者におけるCOVID-19の臨床対応について建設的な議論が進むことを期待しております。
詳細は添付のPDFファイルを御覧ください。

免疫不全者におけるCOVID-19の臨床対応指針案第1版

研究代表者 鈴木忠樹(国立感染症研究所 感染病理部)

令和6年9月20日

 

国立感染症研究所

2024年9月13日時点
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概要

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言し、以降は長期的な世界的共同監視体制の一環として、ゲノムサーベイランスによる従来及び新規の変異株の監視と追跡が重要としている。
  •    2022年9月以降、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統とその亜系統が世界的に主流となっていたが、2023年7月に、BA.2系統の亜系統であるBA.2.86系統が初めて報告された。当初はXBB系統からの置き換わりは緩やかであったが、2023年10月以降、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が日本を含めた全世界で置き換わりを見せ、2024年1月頃に主流となった。以降世界的にJN.1系統とその亜系統が主流となっている状況が続いており、4月頃からはKP.3系統の割合が世界的に増加している(WHO, 2024a、covSPECTRUM, 2024)。日本国内でも5月以降、KP.3系統とその亜系統が主流となっている。
  •    現時点で得られている疫学的・臨床的な知見が限られているため、KP.3系統とその亜系統の評価のため、引き続きウイルス学的・疫学的・臨床的知見の収集と、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。

 

検出状況について

  •    2023年7月にBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統がイスラエルとデンマークから報告され、さらにスパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が10月に欧州から報告されると、2023年10月以降全世界的に主流となった(GISAID, 2024)。
    その後、JN.1系統から派生した亜系統が占める割合が上昇した。JN.1系統の亜系統の中で、スパイクタンパク質にS:R346T変異とS:F456L変異を有するKP.2系統、LB.1系統や、S:F456L変異とS:Q493E変異を有するKP.3系統等の多様な亜系統が複数の国で感染者増加の優位性を示した。 2024年4月以降はその中でも、JN.1系統にS:F456L、S:Q493E、S:V1104Lの変異が加わったKP.3系統とその亜系統の占める割合が世界的に上昇しており、直近の1ヶ月間で全世界からGISAIDに登録されたウイルスゲノムの半数以上を占めている。さらに、KP.3系統の中でもS:31delを獲得したKP.3.1.1系統などの優位性が認められている (covSPECTRUM, 2024)。
  •    2024年8月8日までに59ヵ国から39,734件のKP.3系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されている。カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国等の欧米諸国では、2024年5月以降徐々にKP.3系統の占める割合が上昇し7月にかけて主流となっているが、日本では4月末頃から上昇し、6月には8割以上を占め主流となっている。西太平洋地域では主流となっている国は少ないものの、韓国では6月以降徐々に割合が上昇し、7月上旬には6割を占めるようになっている(covSPECTRUM, 2024)。また、米国でも2024年5月以降、KP.2系統やLB.1系統などの他のJN.1亜系統と並んで、KP.3系統とその亜系統の占める割合が上昇している。特にKP.3系統とその亜系統の感染者増加の優位性が大きく、8月4日から8月17日にゲノム解析が実施されたウイルスの53.6%を占めると推定されている(CDC, 2024)。ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存しており、2023年以降ゲノム解析結果のGISAIDへの登録件数が世界的に減少していることから、地域によるばらつきが大きく正確な状況は明らかではない。
  •    日本国内のゲノムサーベイランスでは、各都道府県は、週100件程度を目安に各自治体において臨床検体からのウイルスゲノム解析を実施し、その結果を国立感染症研究所(以下、感染研)に登録するよう要請されてきた。また、感染研では民間検査機関と契約し、全国をブロックに分けそれぞれの地域の人口に比例した数の臨床検体をランダム抽出し、週200件を目安にウイルスゲノム解析を実施してきた。2024年4月からは昨今のCOVID-19の流行状況を鑑みて規模を縮小し、都道府県ごと、また感染研としてそれぞれ月140件を目安にウイルスゲノム解析を実施している。
    2024年3月頃にBA.2.86.1系統とFL.15.1.1系統の組換え体であるXDQ系統の占める割合が一時的に上昇したものの、5月以降はKP.3系統およびその亜系統の占める割合が上昇し、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2024年第26-29週(6/24-7/21)の検出割合は、KP.3.3系統が60.71%、KP.3.3.3系統が16.43%、KP.3.1系統が5.00%(全て合わせると82.14%)と主流となっている。また第28-29週(7/8-7/21)の系統別検出状況ではXDQ.1系統の占める割合が低下し、KP.3系統の割合がさらに上昇している (国立感染症研究所, 2024)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には注意が必要である。

 

科学的知見について

  •    KP.3系統は、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統の亜系統のうち、スパイクタンパク質にS:F456L、S:Q493E、S:V1104Lの各変異を獲得した変異株である。シュードウイルスを用いてLB.1系統、KP.2.3系統、KP.3系統のウイルス学的特徴を調査した研究では、これらの亜系統はこれまでのオミクロンの流行株(XBB.1.5系統、EG.5系統、HK.3系統、及びJN.1系統)の既感染、およびXBB.1.5系統対応1価ワクチンにより誘導される中和抗体に対して、JN.1系統よりも免疫を逃避する可能性が高いことが指摘されている(Kaku Y. et al., 2024a)。
    また、KP.3系統の亜系統であるKP.3.3.1系統についても、シュードウイルスを用いたin vitroの実験で中和抗体からの免疫を逃避する可能性が高く、標的細胞への感染性が高いことが指摘されている(Kaku Y. et al., 2024b)。
  •    日本を含む複数の国では、2023年9月以降(2023-2024シーズン)にXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が行われてきた。JN.1系統に対するXBB1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関しては、 KP.2系統やKP.3系統による置き換わりが進んでいるためデータは流動的かつ限られているものの、感染・発症に対するワクチン有効率(Vaccine Effectiveness:VE)が約49%と推定する米国の報告(Link-Gelles R. et al., 2024)や、感染・発症に対するVEが18-59歳で約41%、60-85歳で約50%と推定するオランダの報告(Huiberts A et al., 2024)などに基づき、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できるとする報告もある。一方、米国の他の研究では、JN.1系統が主流となる以前の感染・発症に対するVEは約42%であったのに対し、JN.1系統が主流となった後のVEは約19%であった(Shrestha NK et al., 2024)といった報告もある。
  •    KP.3系統に対するワクチン効果を推定するための疫学的な報告はないものの、前述のとおりin vitroの実験結果からは、KP.3系統およびその亜系統が従来のワクチンによる獲得免疫を逃避する可能性は高いと考えられ、従来のワクチンではJN.1系統に対する効果よりも劣ると推測されている(Li P et al., 2024)。一方、モデルナ社やファイザー社が公表しているJN.1系統対応ワクチンの非臨床データでは、XBB.1.5 対応ワクチンと比較して、JN.1ワクチン の接種により、JN.1系統やKP.3系統に対してより強く中和抗体が誘導されることが示されている。また、JN.1ワクチンの、KP.3に対して誘導される中和抗体価は、JN.1系統と比較して同程度であることが示されている。これらのことから、JN.1ワクチンは、XBB.1.5ワクチンと比較して、JN.1系統と同様KP.3系統に対しても、より強く免疫を誘導し、効果の向上が期待できると考えられる(モデルナ、2024、ファイザー/BioNTech、2024)。なお、これらの知見については査読を受ける前のプレプリント論文が含まれることに注意が必要である。

 

各国、各機関による評価

  •    WHOは2023年12月18日にJN.1系統を「注目すべき変異株」(VOI: Variants of Interest)に指定しているが、2024年5月3日にその中からKP.3系統、JN.1.7系統、JN.1.18系統、KP.2系統を「監視下の変異株」(VUM: Variants Under Monitoring)に指定している。また、2024年6月28日にはLB.1系統も同様にVUMに指定している(WHO, 2024b)。
  •    欧州疾病予防管理センター(ECDC)は2023年8月24日にBA.2.86系統をVOIに指定しているが、伝播力拡大の可能性や免疫逃避能の増加、さらなる抗原変異追加の可能性を鑑み、BA.2.86系統から独立させる形で2024年7月26日にKP.3系統をVOIに指定している。また、KP.3系統の持つ変異の中でも特にQ493E変異が、他の変異株に対する感染者数増加の優位性に寄与しているとしたうえで、KP.3系統の流行が2024年夏のCOVID-19感染者数の増加に影響した可能性があると述べている(ECDC, 2024a、ECDC, 2024b)。
  •    英国健康安全保障庁(UKHSA)は、KP.3系統のデータは限られているものの、他の流行している亜系統と比べて重症度が高いという知見はなく、公衆衛生的なリスクは他の亜系統と同等としている(UKHSA, 2024)。

 

関連項目

参考文献

    •        CDC. COVID Data Tracker. Summary of Variant Surveillance. Updated 22 August 2024. https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#variant-proportions.
    •        covSPECTRUM. As of 22 August 2024. https://cov-spectrum.org/explore/World/AllSamples/Past6M.
    •        ECDC. SARS-CoV-2 variants of concern as of 30 August 2024. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern. 2024a.
    •        ECDC. Communicable Disease Threats Report. Week 30, 20-26 July 2024. https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/2024-WCP-0039%20Final.pdf. 2024b.
    •        GISAID. As of 22 August 2024. https://gisaid.org/.
    •        Huiberts, A. J., Hoeve, C. E., de Gier, B., Cremer, J., van der Veer, B., de Melker, H. E., van de Wijgert, J. H., van den Hof, S., Eggink, D., & Knol, M. J. (2024). Effectiveness of Omicron XBB.1.5 vaccine against infection with SARS-CoV-2 Omicron XBB and JN.1 variants, prospective cohort study, the Netherlands, October 2023 to January 2024. Euro surveillance : bulletin Europeen sur les maladies transmissibles = European communicable disease bulletin, 29(10), 2400109. https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2024.29.10.2400109
    •        Kaku, Y., Yo, M. S., Tolentino, J. E., Uriu, K., Okumura, K., Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, Ito, J., & Sato, K. (2024). Virological characteristics of the SARS-CoV-2 KP.3, LB.1, and KP.2.3 variants. The Lancet. Infectious diseases, 24(8), e482–e483. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00415-8. 2024a.
    •        Kaku, Y., Uriu, K., Okumura, K., Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, Ito, J., & Sato, K. (2024). Virological characteristics of the SARS-CoV-2 KP.3.1.1 variant. The Lancet. Infectious diseases, S1473-3099(24)00505-X. Advance online publication. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00505-X. 2024b.
    •        Li, P., Faraone, J. N., Hsu, C. C., Chamblee, M., Zheng, Y. M., Carlin, C., Bednash, J. S., Horowitz, J. C., Mallampalli, R. K., Saif, L. J., Oltz, E. M., Jones, D., Li, J., Gumina, R. J., Xu, K., & Liu, S. L. (2024). Characteristics of JN.1-derived SARS-CoV-2 subvariants SLip, FLiRT, and KP.2 in neutralization escape, infectivity and membrane fusion. bioRxiv : the preprint server for biology, 2024.05.20.595020. https://doi.org/10.1101/2024.05.20.595020.
    •        Link-Gelles, R., Ciesla, A. A., Mak, J., Miller, J. D., Silk, B. J., Lambrou, A. S., Paden, C. R., Shirk, P., Britton, A., Smith, Z. R., & Fleming-Dutra, K. E. (2024). Early Estimates of Updated 2023-2024 (Monovalent XBB.1.5) COVID-19 Vaccine Effectiveness Against Symptomatic SARS-CoV-2 Infection Attributable to Co-Circulating Omicron Variants Among Immunocompetent Adults - Increasing Community Access to Testing Program, United States, September 2023-January 2024. MMWR. Morbidity and mortality weekly report, 73(4), 77–83. https://doi.org/10.15585/mmwr.mm7304a2.
    •        Shrestha, N. K., Burke, P. C., Nowacki, A. S., & Gordon, S. M. (2024). Effectiveness of the 2023-2024 Formulation of the COVID-19 Messenger RNA Vaccine. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America, 79(2), 405–411. https://doi.org/10.1093/cid/ciae132.
    •        UKHSA. UK Health Security Agency Blog – Should we be worried about the new COVID-19 variant? Updated 13 May 2024. https://ukhsa.blog.gov.uk/2024/05/13/should-we-be-worried-about-the-new-covid-19-variant-2/.
    •        WHO. COVID-19 Epidemiological Update – 13 August 2024. Edition 170. https://www.who.int/publications/m/item/covid-19-epidemiological-update-edition-170. 2024a.
    •        WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants. As of 22 August 2024. https://www.who.int/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants. 2024b.
    •        モデルナ社. 第2回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(2024年5月29日). https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001266056.pdf. 2024.
    •        ファイザー社およびBioNTech社. 第2回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(2024年5月29日). https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001266057.pdf. 2024.
    •        国立感染症研究所. SARS-CoV-2変異株について. 新型コロナウイルス ゲノムサーベイランスによる都道府県別検出状況 2024年第29週(2024年8月7日時点), 民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスによる系統別検出状況 2024年第29週(2024年8月7日時点). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10745-cepr-topics.html. 2024.

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

更新日:2024年9月13日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は引き続き注目すべき感染症の1つであることから、月報としてまとめております。

注意事項にも記載していますが、報告数は暫定値であり、変更の可能性があるので十分にご注意ください。

新型コロナウイルス感染症サーベイランス 月報

インフルエンザ/COVID-19定点に報告された患者数と基幹定点から報告されたCOVID-19の新規入院患者の集計、並びにゲノムサーベイランスの結果を用いて解釈を行っています。月1回の更新を予定しています。

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Figures from the latest COVID-19 monthly surveillance update jpeg

Fig.1 Number of cases reported per sentinel nationwide

Fig.2 Number of new admissions reported from designated sentinel nationwide

Fig.3 Number of cases reported per sentinel by prefecture (Map)

Fig.4 Number of new admissions reported from designated sentinel by region

新型コロナウイルス感染症サーベイランス 週報

2023年19週から2024年18週までのサーベイランス週報はこちら

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(2023年19週までのサーベイランス週報はこちら

注記

全国のCOVID-19の流行状況について複数の指標を用いてまとめています。「傾向(トレンド)」と「水準(レベル)」を明記し、感染の流行状況について、解釈を行っています。広くCOVID-19に関する疫学情報を提供・還元することを目的としており、COVID-19対策の参考として活用していただければ幸いです。
なお、月報で用いている定点当たり報告数及び基幹定点からの新規入院患者数の詳細は、感染症発生動向調査 週報(IDWR)をご参照ください。また、2023年38週まで用いていたG-MISの詳細は、医療機関等情報支援システム(G-MIS)をご参照ください。厚生労働省がまとめている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等についてもご参照ください。

2024年8月21日
厚生労働省
国立感染症研究所

 

 【背景・目的】

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19) は、2023年5月8日に感染症法上の位置付けが5類感染症へ変更後も流行が継続しており、その疾病負荷は現在においても決して小さくはない感染症である。疾病の発生動向を正確に把握することは公衆衛生対策立案のため必須であるが、定点報告疾病となったことから、発生動向の全体像を捉えるために、様々な手法を用いた調査が実施されてきている。その1つの手法として感染症法に基づく積極的疫学調査として検査用検体の残余血液を用いた血清疫学調査が実施されてきた。この血清疫学調査は、検査用検体の収集方法が異なる複数の調査を組み合わせて実施されてきたが、令和5年7月以降に実施した「民間検査機関での検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有割合実態調査」にて、6ヶ月齢 –11ヶ月齢の小児の抗S抗体保有割合が1–4歳の小児に比べて高い傾向が指摘され、母体からの移行抗体が6ヶ月齢を超えて長期に渡る可能性が示唆されていた。したがって、小児において感染もしくはワクチン接種で誘導された抗体を保有する者の割合を正しく推定するためには、移行抗体の残存期間を詳細に検討する必要性がある。他の病原体に対する血清抗体の研究では、血清抗体の主要アイソタイプであり母体から積極的に移行することが知られているIgG 抗体と母体からの積極的な移行メカニズムを有さないIgA 抗体の2 種類のアイソタイプの抗体を測定し、母体からの移行抗体の影響を推定することが可能であるこ とが報告されている。そこで、本調査では、1歳半未満の小児を対象に、各月齢区分の抗体保有割合を抗体アイソタイプ毎に算出することにより、移行抗体の残存が影響する月齢区分を特定し、小児における感染もしくはワクチン接種で誘導された抗体保有割合を推定することを試みた。

  続きを読む:小児における検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有状況実態調査報告
 

 

IASR-logo

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2024年4月現在

(IASR Vol. 45 p85-86: 2024年6月号)
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。

 

国立感染症研究所

2024年2月16日時点
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背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2024年1月24日現在、SARS-CoV-2の変異株は、EG.5.1系統などのXBB系統(BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体)の亜系統から、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統とその亜系統への置き換わりが世界的に進んでいる (WHO, 2024a、covSPECTRUM, 2024)。

 

検出状況について

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され、さらにスパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が10月に欧州から報告された(GISAID, 2024)。BA.2.86系統が報告された当初は、XBB系統からの急速な置き換わりはみられなかったが、JN.1系統は欧州諸国を中心に感染者数増加の優位性を示しており、世界的にXBB系統からの置き換わりが進み、多くの国で主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。
  •    2024年2月7日までに94ヵ国から89,361件のJN.1系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されている。フランス、デンマーク、スペイン、シンガポールなどでは、2023年10月から11月にかけてJN.1系統の占める割合が上昇し、12月初旬には主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。また、米国でも1月21日から2月3日に検出されたSARS-CoV-2の93.1%を占めると推測され、1月以降主流となっていると考えられている(CDC, 2024)。ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には注意が必要である。
  •    日本国内では週に1,000件程度のゲノム解析が実施されており、2024年2月5日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年第15週(4/10-16)以降59,790件のゲノム解析結果が登録されている。
    BA.2.86系統は2023年第35週(8/28-9/3)に、JN.1系統は第39週(9/25-10/1)に初めてCOG-jpに登録されている。2024年2月5日時点で、2023年第35週以降登録された23,466件のゲノム解析結果のうち、BA.2.86系統とその亜系統が2,794件、さらにそのうちJN.1系統とその亜系統が1,592件を占めている。JN.1系統とその亜系統の報告数は増加傾向にあり、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2024年第7週(2/12-18)には77%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2024a、国立感染症研究所, 2024b)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には注意が必要である。

 

科学的知見について

  •    JN.1系統は、スパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統である。L455S変異は標的細胞のACE2受容体への結合能を低下させる一方で、中和抗体による免疫から逃避する可能性を高めることが示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。また、BA.2.86系統に感染したハムスターの血清を用いた実験において、JN.1系統の免疫を逃避する可能性はBA.2.86系統と同等であったと報告されている。XBB.1.5系統やEG.5系統に感染したヒトの血清では、BA.2.86系統及びHK.3系統(EG.5.1系統の亜系統)と比較してJN.1系統の免疫を逃避する可能性が高かったと報告されている(Kaku Y. et al., 2023、 Wang Q. et al., 2023、 Yang S. et al., 2023)。ただし、これらの知見については、査読を受ける前のプレプリント論文を含むことに注意が必要である。一方で、2023年9月に採取された、ワクチン接種歴のある成人の血清においては、BA.2.86系統、JN.1系統に対して免疫を逃避する可能性の上昇は見られなかったと報告されている(Jeworowski LM. et. al., 2024)。
    SARS-CoV-2に対する細胞性免疫について、SARS-CoV-2特異的T細胞のBA.2.86系統に対する応答はCD4陽性T細胞で72%、CD8陽性T細胞で89%が保存されると予測されており、安定したT細胞応答が得られると可能性が報告されている(Sette A. et al., 2024)。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降に接種されているXBB.1.5系統対応1価ワクチンに関して、ワクチン接種者の血清とシュードウイルスを用いた実験ではBA.2.86系統と比較してJN.1系統の中和抗体価が低く、L455S変異がこれに影響している可能性が示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。
  •    XBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種により、JN.1系統に対する中和抗体価の上昇が認められている (Wang Q. et al., 2023)ほか、検査や治療薬への影響について、BA.2.86系統と比較して検査精度、抗ウイルス薬の有効性が低下するという知見はない。
    米国疾病管理予防センター(CDC)は上記の結果をもとに、免疫を逃避する可能性は指摘されているもののワクチンへの影響は限定的であるとして、現行のワクチン、検査、治療薬はいずれもJN.1系統に対して有効であるとしている(CDC, 2023)。また、WHOも2023年12月に実施されたTAG-CO-VACの会議を受けた声明の中で、前述の動物及びヒトの血清を用いた実験結果を引用し、知見は限定的であるものの、引き続きXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が推奨されるとしている(WHO, 2023) 。
  •    また、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関して、2023年9月21日から2024年1月14日までに米国内の薬局で実施された無料のPCR検査、抗原検査の結果を解析した結果が報告されている。この中で、S遺伝子標的陰性(S gene target failure:SGTF)により調査当時に米国内で流行していたXBB系統とJN.1系統を区別し、感染予防に対するワクチン効果がSGTFの場合(JN.1系統を含む)49%(95%信頼区間:19-68%)、S遺伝子標的陽性(SGTP)の場合(XBB系統を含む)60%(95%信頼区間:35-75%)であったと報告されている(Link-Gelles R. et al., 2024)。
    これらの結果から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンはJN.1系統に対して、特に発症予防効果や重症化予防効果において、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できると考えられる 。
  •    重症化リスクに関しては、WHOは、新型コロナウイルスワクチンに関する技術諮問グループであるTAG-CO-VACの会議で示されたデータとして、デンマークで行われた65歳以上を対象とした研究において、BA.2.86系統以外の亜系統に感染した患者と比較したJN.1系統に感染した患者の入院のオッズ比は、1.15(95%信頼区間:0.74-1.78)と有意な差がなかったと報告した(WHO, 2024c)。またフランスでも同様の傾向が見られたとしたほか、シンガポールからのデータとして、JN.1系統に感染した高齢者、若年者で、ともに入院リスクと重症度が低かったと報告した(WHO, 2024c)。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは2023年8月17日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VOI:Variants of Interest)に指定した。その後、他のBA.2.86系統の亜系統と比較してJN.1系統が世界各地で感染者数増加の優位性を見せたことから、12月18日にJN.1系統をBA.2.86系統とその亜系統から独立させる形でVOIに指定した(WHO, 2024b)。
    欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統をVOIに指定しており、JN.1系統もこの中に含めた取り扱いとしている (ECDC, 2024)。
  •    WHOとCDCはそれぞれJN.1系統の評価を公表しており、世界的に感染者数増加の優位性がみられることに加え、BA.2.86系統と比較して免疫を逃避する可能性が高いとしているものの、感染者の重症度が高くなる知見はなく、公衆衛生的なリスクは他の亜系統と同等としている(CDC, 2024b、WHO, 2024c)。また、英国健康安全保障庁(UKHSA)も公式ブログの中で、公衆衛生上の勧告に変更はないとしている(UKHSA, 2024)。ただし、特に疫学的、臨床的な知見が少ないことから、JN.1系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。

 

関連項目

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

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香川県における新型コロナウイルスに対する小児血清疫学調査(2020~2022年度)

(IASR Vol. 44 p208-210: 2023年12月号)
 
はじめに

小児血清疫学調査は検体採取に困難も多く, 国内のみならず国外においても新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関する小児抗体保有状況の報告は少ない。今回, 小学4年生対象の生活習慣病予防健診(以下, 健診)が毎年行われている香川県市町のご協力のもと, 2020年度から3年間, 同一地域においてSARS-CoV-2感染診断歴(以下, 診断歴), 新型コロナワクチン(以下, ワクチン)接種歴等とともに抗SARS-CoV-2抗体保有状況の変化を追跡し, 小児における感染拡大状況, 感染およびワクチン接種による抗体獲得状況を検討した。

 

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沖縄県における医療施設の新型コロナウイルス感染症5類定点化後流行状況把握調査, 2023年7月末時点

(IASR Vol. 44 p185-186: 2023年11月号)
 
背景と目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2023年5月8日から感染症法上の2類相当全数報告疾患から5類定点報告疾患に変更され, 感染症発生動向調査上は流行のトレンドとレベルの把握が中心となった。沖縄県では2023年4月後半から定点医療機関当たり報告数の増加がみられ, 5月には10人を超え, 第26週(6月26日~7月2日)には48.39人に達した。一方, 同週の日本全体の定点当たり報告数では7.24人と, 大きな隔たりがあり, 沖縄県は定点化変更後, 最も早くCOVID-19の大きな流行を認めた自治体であった。県内医療施設ではひっ迫状況を来しており, その背景情報の収集解析は保健行政・医療機関がCOVID-19対策を構築するうえで重要と考えられた。なお本報告は2023年7月末時点の情報に基づく。

 

国立感染症研究所

2023年11月16日時点
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背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年11月8日現在、SARS-CoV-2の変異株はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっている(WHO, 2023a、covSPECTRUM, 2023)。

 

検出状況

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が、2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され(GitHub, 2023)、その後、亜系統であるBA.2.86.1系統、BA.2.86.2系統、BA.2.86.3系統、JN系統、JQ系統が報告されている。2023年11月13日までに2,704件のBA.2.86系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されており、多くは英国、フランス、スウェーデン、、デンマーク、スペインなど欧州からである(GISAID, 2023)。各国から登録されているBA.2.86系統の亜系統は、国ごとに状況が異なっており、英国、スペインではBA.2.86.1系統、フランスではJN.1系統、スウェーデンではJN.2系統が多くを占めている。また、いずれの国もBA.2.86系統の亜系統が急速に既存の系統から置き換わる状況には至っていない(covSPECTRUM, 2023)。
    ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には留意が必要である。
  •    国内では週に1,000件以上のゲノム解析が実施されており、2023年11月6日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年1月1日以降84,287件のゲノム解析結果が登録されており、うちBA.2.86系統が1件、BA.2.86.1系統が67件、BA.2.86.3系統が6件、JN.1系統が8件、JN.2系統が2件登録されている。JQ系統は登録がない(国立感染症研究所, 2023)。また、登録されている都道府県は関東、九州に多くみられるが、急速に既存の系統から置き換わる状況には至っていない。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には留意が必要である。

 

科学的知見

  •    BA.2.86系統は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあり、XBB系統と抗原性が大きく異なり、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が高くなる懸念が生じていた。現時点までに、XBB系統感染者の血清において、BA.2.86系統の中和抗体の免疫から逃避する可能性は、XBB.1.5系統やEG.5系統と同等である一方で、ACE2受容体への結合能が高いとの報告がある(Wang Q. et al., 2023, Lasrado N. et al., 2023)。そのほか、査読を受けていないプレプリント論文であるが、シュードウイルス、臨床分離株を用いた実験で免疫から逃避する可能性がXBB.1.5系統と同等であったとする報告がある(Hu Y. et al., 2023)。一方でXBB系統よりやや低いとする報告(An Y. et al., 2023、Qu P. et al., 2023)、やや高いとする報告(Yang S. et al., 2023)もあるが、いずれもXBB系統と比較してわずかな違いである。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降にXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が実施されている。ワクチンを生産、販売しているモデルナ社は、同社のワクチンによる追加接種により得られたBA.2.86系統に対する中和抗体価が、XBB.1.5系統に対する中和抗体価と同等であると報告した(Chalkias S. et al., 2023)。また、ファイザー社も、非臨床試験においてXBB.1.5系統対応1価ワクチン接種後の血清におけるBA.2.86系統に対する中和抗体価が、XBB.1.5系統に対する中和抗体価と同等であったと報告している(Pfizer, 2023)。これらの知見から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンによる追加接種は、BA.2.86系統のSARS-CoV-2に対して、XBB.1.5系統と同等の有効性が期待できると考えられる。ただし、査読を受けていないプレプリント論文及び企業報告データであることに注意が必要である。
  •    検査への影響に関して、国立感染症研究所ではBA.2.86系統のゲノム解析結果から感染研PCR法におけるプライマー、プローブ配列に変異がないことを確認しているほか、米国疾病予防管理センター(CDC)も分子・抗原診断への影響は少ないとしている(CDC, 2023)。
  •    治療薬への影響に関して、CDCは複数の米国政府機関の専門家で構成されるSARS-CoV-2 Interagency Group (SIG)の意見として、 BA.2.86系統の有するアミノ酸変異からは、ニルマトレルビル・リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビルなどの現在使用可能なCOVID-19に対する抗ウイルス薬はBA.2.86系統に対しても有効性が示唆されるとしている(CDC, 2023)。
  •    英国のケアホームで2023年8月に発生したBA.2.86系統のウイルスによるCOVID-19のクラスター事例では、オミクロン流行期初期、デルタ流行期の同様の事例と比較して入院症例の割合は高くなく、COVID-19に関連する死亡例はなかったと報告されている(Reeve L. et al., 2023)。ただし、疫学的、臨床的な知見は乏しく、感染性や重症度の上昇を示す知見は報告されていない。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)に指定した(WHO, 2023b、ECDC, 2023a)。
  •    米国、英国、デンマーク、WHO、ECDCはそれぞれ評価を公表しており、欧米、アフリカ、アジアと世界的にウイルスが検出されていること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、水面下で拡大している可能性があるものの、検出数が少なく評価は困難であるとしている(CDC, 2023、UKHSA, 2023、Denmark SSI, 2023、WHO, 2023b、ECDC, 2023b)。BA.2.86系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

国立感染症研究所感染症疫学センター第六室
新型コロナウイルス感染症対策本部
(掲載日:2023年9月26日)

 

 【背景】

日本ではこれまでに3380万例以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例と、74,694例の死亡例が報告されている(2023年5月9日時点)。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)はCOVID-19のサーベイランスとして活用されてきた。届出時点の重症度については届出に必須であり把握されている一方で、最終的な転帰や重症度の入力は必須ではなく、網羅的な把握が困難であった。このため、それまでの流行と比べて大きく報告数が増加したオミクロン流行期に重症例や死亡例を把握するため、厚生労働省より自治体に対して検査陽性となった重症例および死亡例に関する自治体における把握情報の提供依頼が発出された。本検討は、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の依頼で実施され、これまで中間解析結果を厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで報告を行ってきた。今回、感染症法上の位置づけが5類感染症に変更され、HER-SYSによるサーベイランスの運用が停止されたのを受けて、2023年5月31日までに自治体から情報提供されたCOVID-19重症例および死亡例について記述する。死亡例に関する分析は、IASR 2023年7月号にて公表している。

なお、報告された症例は必ずしも各自治体の当該報告期間に確認された全ての重症例・死亡例ではないこと、COVID-19が死亡に直接関係した死因であるかは検討できなかったことに注意が必要である。

  続きを読む:新型コロナウイルス感染症重症例および死亡例の疫学像と死因、重症化に関連する因子
 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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