国立感染症研究所

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連情報ページ

(このページでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連の記事を、掲載日が新しい順に表示しています)

 

国立感染症研究所

2024年2月16日時点
PDF

背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2024年1月24日現在、SARS-CoV-2の変異株は、EG.5.1系統などのXBB系統(BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体)の亜系統から、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統とその亜系統への置き換わりが世界的に進んでいる (WHO, 2024a、covSPECTRUM, 2024)。

 

検出状況について

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され、さらにスパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が10月に欧州から報告された(GISAID, 2024)。BA.2.86系統が報告された当初は、XBB系統からの急速な置き換わりはみられなかったが、JN.1系統は欧州諸国を中心に感染者数増加の優位性を示しており、世界的にXBB系統からの置き換わりが進み、多くの国で主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。
  •    2024年2月7日までに94ヵ国から89,361件のJN.1系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されている。フランス、デンマーク、スペイン、シンガポールなどでは、2023年10月から11月にかけてJN.1系統の占める割合が上昇し、12月初旬には主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。また、米国でも1月21日から2月3日に検出されたSARS-CoV-2の93.1%を占めると推測され、1月以降主流となっていると考えられている(CDC, 2024)。ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には注意が必要である。
  •    日本国内では週に1,000件程度のゲノム解析が実施されており、2024年2月5日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年第15週(4/10-16)以降59,790件のゲノム解析結果が登録されている。
    BA.2.86系統は2023年第35週(8/28-9/3)に、JN.1系統は第39週(9/25-10/1)に初めてCOG-jpに登録されている。2024年2月5日時点で、2023年第35週以降登録された23,466件のゲノム解析結果のうち、BA.2.86系統とその亜系統が2,794件、さらにそのうちJN.1系統とその亜系統が1,592件を占めている。JN.1系統とその亜系統の報告数は増加傾向にあり、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2024年第7週(2/12-18)には77%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2024a、国立感染症研究所, 2024b)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には注意が必要である。

 

科学的知見について

  •    JN.1系統は、スパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統である。L455S変異は標的細胞のACE2受容体への結合能を低下させる一方で、中和抗体による免疫から逃避する可能性を高めることが示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。また、BA.2.86系統に感染したハムスターの血清を用いた実験において、JN.1系統の免疫を逃避する可能性はBA.2.86系統と同等であったと報告されている。XBB.1.5系統やEG.5系統に感染したヒトの血清では、BA.2.86系統及びHK.3系統(EG.5.1系統の亜系統)と比較してJN.1系統の免疫を逃避する可能性が高かったと報告されている(Kaku Y. et al., 2023、 Wang Q. et al., 2023、 Yang S. et al., 2023)。ただし、これらの知見については、査読を受ける前のプレプリント論文を含むことに注意が必要である。一方で、2023年9月に採取された、ワクチン接種歴のある成人の血清においては、BA.2.86系統、JN.1系統に対して免疫を逃避する可能性の上昇は見られなかったと報告されている(Jeworowski LM. et. al., 2024)。
    SARS-CoV-2に対する細胞性免疫について、SARS-CoV-2特異的T細胞のBA.2.86系統に対する応答はCD4陽性T細胞で72%、CD8陽性T細胞で89%が保存されると予測されており、安定したT細胞応答が得られると可能性が報告されている(Sette A. et al., 2024)。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降に接種されているXBB.1.5系統対応1価ワクチンに関して、ワクチン接種者の血清とシュードウイルスを用いた実験ではBA.2.86系統と比較してJN.1系統の中和抗体価が低く、L455S変異がこれに影響している可能性が示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。
  •    XBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種により、JN.1系統に対する中和抗体価の上昇が認められている (Wang Q. et al., 2023)ほか、検査や治療薬への影響について、BA.2.86系統と比較して検査精度、抗ウイルス薬の有効性が低下するという知見はない。
    米国疾病管理予防センター(CDC)は上記の結果をもとに、免疫を逃避する可能性は指摘されているもののワクチンへの影響は限定的であるとして、現行のワクチン、検査、治療薬はいずれもJN.1系統に対して有効であるとしている(CDC, 2023)。また、WHOも2023年12月に実施されたTAG-CO-VACの会議を受けた声明の中で、前述の動物及びヒトの血清を用いた実験結果を引用し、知見は限定的であるものの、引き続きXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が推奨されるとしている(WHO, 2023) 。
  •    また、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関して、2023年9月21日から2024年1月14日までに米国内の薬局で実施された無料のPCR検査、抗原検査の結果を解析した結果が報告されている。この中で、S遺伝子標的陰性(S gene target failure:SGTF)により調査当時に米国内で流行していたXBB系統とJN.1系統を区別し、感染予防に対するワクチン効果がSGTFの場合(JN.1系統を含む)49%(95%信頼区間:19-68%)、S遺伝子標的陽性(SGTP)の場合(XBB系統を含む)60%(95%信頼区間:35-75%)であったと報告されている(Link-Gelles R. et al., 2024)。
    これらの結果から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンはJN.1系統に対して、特に発症予防効果や重症化予防効果において、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できると考えられる 。
  •    重症化リスクに関しては、WHOは、新型コロナウイルスワクチンに関する技術諮問グループであるTAG-CO-VACの会議で示されたデータとして、デンマークで行われた65歳以上を対象とした研究において、BA.2.86系統以外の亜系統に感染した患者と比較したJN.1系統に感染した患者の入院のオッズ比は、1.15(95%信頼区間:0.74-1.78)と有意な差がなかったと報告した(WHO, 2024c)。またフランスでも同様の傾向が見られたとしたほか、シンガポールからのデータとして、JN.1系統に感染した高齢者、若年者で、ともに入院リスクと重症度が低かったと報告した(WHO, 2024c)。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは2023年8月17日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VOI:Variants of Interest)に指定した。その後、他のBA.2.86系統の亜系統と比較してJN.1系統が世界各地で感染者数増加の優位性を見せたことから、12月18日にJN.1系統をBA.2.86系統とその亜系統から独立させる形でVOIに指定した(WHO, 2024b)。
    欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統をVOIに指定しており、JN.1系統もこの中に含めた取り扱いとしている (ECDC, 2024)。
  •    WHOとCDCはそれぞれJN.1系統の評価を公表しており、世界的に感染者数増加の優位性がみられることに加え、BA.2.86系統と比較して免疫を逃避する可能性が高いとしているものの、感染者の重症度が高くなる知見はなく、公衆衛生的なリスクは他の亜系統と同等としている(CDC, 2024b、WHO, 2024c)。また、英国健康安全保障庁(UKHSA)も公式ブログの中で、公衆衛生上の勧告に変更はないとしている(UKHSA, 2024)。ただし、特に疫学的、臨床的な知見が少ないことから、JN.1系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。

 

関連項目

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

IASR-logo

香川県における新型コロナウイルスに対する小児血清疫学調査(2020~2022年度)

(IASR Vol. 44 p208-210: 2023年12月号)
 
はじめに

小児血清疫学調査は検体採取に困難も多く, 国内のみならず国外においても新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関する小児抗体保有状況の報告は少ない。今回, 小学4年生対象の生活習慣病予防健診(以下, 健診)が毎年行われている香川県市町のご協力のもと, 2020年度から3年間, 同一地域においてSARS-CoV-2感染診断歴(以下, 診断歴), 新型コロナワクチン(以下, ワクチン)接種歴等とともに抗SARS-CoV-2抗体保有状況の変化を追跡し, 小児における感染拡大状況, 感染およびワクチン接種による抗体獲得状況を検討した。

 

IASR-logo

沖縄県における医療施設の新型コロナウイルス感染症5類定点化後流行状況把握調査, 2023年7月末時点

(IASR Vol. 44 p185-186: 2023年11月号)
 
背景と目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2023年5月8日から感染症法上の2類相当全数報告疾患から5類定点報告疾患に変更され, 感染症発生動向調査上は流行のトレンドとレベルの把握が中心となった。沖縄県では2023年4月後半から定点医療機関当たり報告数の増加がみられ, 5月には10人を超え, 第26週(6月26日~7月2日)には48.39人に達した。一方, 同週の日本全体の定点当たり報告数では7.24人と, 大きな隔たりがあり, 沖縄県は定点化変更後, 最も早くCOVID-19の大きな流行を認めた自治体であった。県内医療施設ではひっ迫状況を来しており, その背景情報の収集解析は保健行政・医療機関がCOVID-19対策を構築するうえで重要と考えられた。なお本報告は2023年7月末時点の情報に基づく。

 

国立感染症研究所

2023年11月16日時点
PDF

背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年11月8日現在、SARS-CoV-2の変異株はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっている(WHO, 2023a、covSPECTRUM, 2023)。

 

検出状況

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が、2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され(GitHub, 2023)、その後、亜系統であるBA.2.86.1系統、BA.2.86.2系統、BA.2.86.3系統、JN系統、JQ系統が報告されている。2023年11月13日までに2,704件のBA.2.86系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されており、多くは英国、フランス、スウェーデン、、デンマーク、スペインなど欧州からである(GISAID, 2023)。各国から登録されているBA.2.86系統の亜系統は、国ごとに状況が異なっており、英国、スペインではBA.2.86.1系統、フランスではJN.1系統、スウェーデンではJN.2系統が多くを占めている。また、いずれの国もBA.2.86系統の亜系統が急速に既存の系統から置き換わる状況には至っていない(covSPECTRUM, 2023)。
    ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には留意が必要である。
  •    国内では週に1,000件以上のゲノム解析が実施されており、2023年11月6日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年1月1日以降84,287件のゲノム解析結果が登録されており、うちBA.2.86系統が1件、BA.2.86.1系統が67件、BA.2.86.3系統が6件、JN.1系統が8件、JN.2系統が2件登録されている。JQ系統は登録がない(国立感染症研究所, 2023)。また、登録されている都道府県は関東、九州に多くみられるが、急速に既存の系統から置き換わる状況には至っていない。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には留意が必要である。

 

科学的知見

  •    BA.2.86系統は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあり、XBB系統と抗原性が大きく異なり、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が高くなる懸念が生じていた。現時点までに、XBB系統感染者の血清において、BA.2.86系統の中和抗体の免疫から逃避する可能性は、XBB.1.5系統やEG.5系統と同等である一方で、ACE2受容体への結合能が高いとの報告がある(Wang Q. et al., 2023, Lasrado N. et al., 2023)。そのほか、査読を受けていないプレプリント論文であるが、シュードウイルス、臨床分離株を用いた実験で免疫から逃避する可能性がXBB.1.5系統と同等であったとする報告がある(Hu Y. et al., 2023)。一方でXBB系統よりやや低いとする報告(An Y. et al., 2023、Qu P. et al., 2023)、やや高いとする報告(Yang S. et al., 2023)もあるが、いずれもXBB系統と比較してわずかな違いである。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降にXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が実施されている。ワクチンを生産、販売しているモデルナ社は、同社のワクチンによる追加接種により得られたBA.2.86系統に対する中和抗体価が、XBB.1.5系統に対する中和抗体価と同等であると報告した(Chalkias S. et al., 2023)。また、ファイザー社も、非臨床試験においてXBB.1.5系統対応1価ワクチン接種後の血清におけるBA.2.86系統に対する中和抗体価が、XBB.1.5系統に対する中和抗体価と同等であったと報告している(Pfizer, 2023)。これらの知見から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンによる追加接種は、BA.2.86系統のSARS-CoV-2に対して、XBB.1.5系統と同等の有効性が期待できると考えられる。ただし、査読を受けていないプレプリント論文及び企業報告データであることに注意が必要である。
  •    検査への影響に関して、国立感染症研究所ではBA.2.86系統のゲノム解析結果から感染研PCR法におけるプライマー、プローブ配列に変異がないことを確認しているほか、米国疾病予防管理センター(CDC)も分子・抗原診断への影響は少ないとしている(CDC, 2023)。
  •    治療薬への影響に関して、CDCは複数の米国政府機関の専門家で構成されるSARS-CoV-2 Interagency Group (SIG)の意見として、 BA.2.86系統の有するアミノ酸変異からは、ニルマトレルビル・リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビルなどの現在使用可能なCOVID-19に対する抗ウイルス薬はBA.2.86系統に対しても有効性が示唆されるとしている(CDC, 2023)。
  •    英国のケアホームで2023年8月に発生したBA.2.86系統のウイルスによるCOVID-19のクラスター事例では、オミクロン流行期初期、デルタ流行期の同様の事例と比較して入院症例の割合は高くなく、COVID-19に関連する死亡例はなかったと報告されている(Reeve L. et al., 2023)。ただし、疫学的、臨床的な知見は乏しく、感染性や重症度の上昇を示す知見は報告されていない。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)に指定した(WHO, 2023b、ECDC, 2023a)。
  •    米国、英国、デンマーク、WHO、ECDCはそれぞれ評価を公表しており、欧米、アフリカ、アジアと世界的にウイルスが検出されていること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、水面下で拡大している可能性があるものの、検出数が少なく評価は困難であるとしている(CDC, 2023、UKHSA, 2023、Denmark SSI, 2023、WHO, 2023b、ECDC, 2023b)。BA.2.86系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

国立感染症研究所感染症疫学センター第六室
新型コロナウイルス感染症対策本部
(掲載日:2023年9月26日)

 

 【背景】

日本ではこれまでに3380万例以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例と、74,694例の死亡例が報告されている(2023年5月9日時点)。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)はCOVID-19のサーベイランスとして活用されてきた。届出時点の重症度については届出に必須であり把握されている一方で、最終的な転帰や重症度の入力は必須ではなく、網羅的な把握が困難であった。このため、それまでの流行と比べて大きく報告数が増加したオミクロン流行期に重症例や死亡例を把握するため、厚生労働省より自治体に対して検査陽性となった重症例および死亡例に関する自治体における把握情報の提供依頼が発出された。本検討は、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の依頼で実施され、これまで中間解析結果を厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで報告を行ってきた。今回、感染症法上の位置づけが5類感染症に変更され、HER-SYSによるサーベイランスの運用が停止されたのを受けて、2023年5月31日までに自治体から情報提供されたCOVID-19重症例および死亡例について記述する。死亡例に関する分析は、IASR 2023年7月号にて公表している。

なお、報告された症例は必ずしも各自治体の当該報告期間に確認された全ての重症例・死亡例ではないこと、COVID-19が死亡に直接関係した死因であるかは検討できなかったことに注意が必要である。

  続きを読む:新型コロナウイルス感染症重症例および死亡例の疫学像と死因、重症化に関連する因子
 

 

国立感染症研究所

2023年9月8日時点
2023年9月12日一部修正

PDF

背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年8月25日現在、SARS-CoV-2の変異株はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっている(WHO, 2023a)

 

検出状況

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が、2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され(GitHub, 2023)、その亜系統であるBA.2.86.1系統も報告されている。2023年9月7日までに67件(イスラエル3件、デンマーク12件、米国7件、英国8件、南アフリカ16件、ポルトガル2件、スウェーデン5件、カナダ2件、フランス6件、スペイン3件、オーストラリア1件、韓国1件、日本1件)の患者から分離されたBA.2.86系統(BA.2.86.1系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録された(GISAID, 2023)。また、米国オハイオ州、スイス、タイの下水サーベイランスでBA.2.86系統が検出されたとの報告がある(CDC, 2023、WHO, 2023a)。
    米国からからの登録のうち1件は、米国の主要空港で実施されている入国者に対するゲノムサーベイランスにて、日本からの渡航者からBA.2.86系統が検出されたものである(検体採取日:8月10日)。ただし、このゲノムサーベイランスプログラムは匿名での協力を得るものであり個人情報を取得できないことから、日本国内での行動歴や日本以外への渡航歴は不明である(CDC, 2023)
  •    国内では週に1,000件以上のゲノム解析が実施されており、2023年8月28日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年1月1日以降64,654件のゲノム解析結果が登録されているが、BA.2.86系統の登録はなく(国立感染症研究所, 2023)、国内では9月7日に東京都からGISAIDに登録されたBA.2.86.1系統1件のみが確認されている。東京都から報告された1件については、8月24日に都内医療機関で採取された検体であることが公表されている(東京都保健医療局, 2023)。また、検疫における入国時感染症ゲノムサーベイランスにおいても、BA.2.86系統は検出されていない(厚生労働省, 2023)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には留意が必要である。

 

科学的知見

  •    BA.2.86系統は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあることから、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が生じている。BA.2.86系統はXBB系統と抗原性が大きく異なることからXBB系統の感染やワクチンによる中和抗体の免疫から逃避する可能性が高い一方で、細胞への感染性はXBB系統より大幅に低い可能性があるとする報告 (Yang S. et al., 2023)や、ワクチンによる中和抗体の免疫から逃避する可能性はBA.2系統より高いものの、現在主流となっているXBB系統の亜系統と同等であるとする報告 (Lasrado N. et al., 2023)、XBB系統流行以前の献血者の血清ではBA.2.86系統に対する中和抗体価が低かった一方で、XBB系統流行下での献血者の血清ではBA.2.86に対する比較的高い中和抗体価が得られたとの報告があり(Sheward D.J. et al., 2023)、一定した知見は得られていない。ただし、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。
    現時点で、重症度の変化や感染性に関する疫学的、臨床的知見はない。
  •    検査への影響に関して、国立感染症研究所ではBA.2.86系統のゲノム解析結果から感染研PCR法におけるプライマー、プローブ配列に変異がないことを確認しているほか、米国疾病予防管理センター(CDC)も分子・抗原診断への影響は少ないとしている(CDC, 2023)。また、秋以降に接種が実施されるXBB.1.5系統対応1価ワクチンを生産、販売しているファイザー社、モデルナ社はいずれも現在準備中のワクチンにおいて、BA.2.86系統に対する中和活性を確認したとの報道発表を行った (Reuters, 2023、Moderna. 2023)。
  •    治療薬への影響に関して、CDCは複数の米国政府機関の専門家で構成されるSARS-CoV-2 Interagency Group (SIG)の意見として、 BA.2.86系統の有するアミノ酸変異からは、ニルマトレルビル・リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビルなどの現在使用可能なCOVID-19に対する抗ウイルス薬はBA.2.86系統に対しても有効性が示唆されるとしている(CDC, 2023)。。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)に指定した(WHO, 2023b、ECDC, 2023a)。
  •    米国、英国、デンマーク、WHO、ECDCはそれぞれ評価を公表しており、欧米、アフリカ、アジアと世界的にウイルスが検出されていること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、水面下で拡大している可能性があるものの、検出数が少なく評価は困難であるとしている(CDC, 2023、UKHSA, 2023、Denmark SSI, 2023、WHO, 2023b、ECDC, 2023b)。BA.2.86系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

国立感染症研究所

2023年9月7日時点
2023年9月12日一部修正

PDF

概要

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年8月25日現在、SARS-CoV-2の変異株はBJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっており、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、複数のXBB系統の亜系統が報告されている。
  •    2023年2月に初めて報告されたEG.5系統はXBB.1.9.2系統の亜系統である。EG.5系統及びその亜系統はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統などの一部にみられるF456L変異を有しているほか、EG.5.1系統の一部はこれに加えてL455F変異を有しており、XBB.1.5系統と比較して免疫を逃避する可能性が高くなることが示唆されている。
  •    8月22日までにGISAIDに登録されたEG.5系統の90%をEG.5.1系統が占めている。EG.5.1系統はアジアや欧米でこれまで主流となっている系統に対して感染者数増加の優位性を見せているが、重症度や感染性の上昇という知見はなく、世界的に9月以降の接種が計画されているXBB.1.5系統対応新型コロナウイルスワクチンの有効性が低下するという報告もない。
  •    世界的な検出割合の上昇を受け、WHOは8月9日にEG.5系統を注目すべき変異株(VOI: Variant of Interest )に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月10日に他の変異株と合わせて“XBB.1.5-like + F456L”の一群をVOIに指定した。

 

発生状況

  •    2023年8月25日現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株はBA.2系統の亜系統であるBJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっており、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、複数のXBB系統の亜系統がみられている(WHO, 2023a)。
  •    XBB.1.9.2系統の亜系統であるEG.5系統は2023年2月に初めて報告され、さらにその中でQ52H変異を有するものとして、2023年3月にEG.5.1系統が初めて報告された(GISAID, 2023)。8月29日までに、59の国と地域からGISAIDにEG.5系統及びその亜系統(以下EG.5系統)が18,274件登録され (covSPECTRUM, 2023)、登録された全検体に占める割合は、第27週(7月3日~9日)に12.8%であったものが、第31週(7月31日~8月6日)には 23.8%に上昇している(WHO, 2023a)。 GISAIDに登録されたEG.5系統のうちEG.5.1系統及びその亜系統(以下EG.5.1系統)が92.8%(16,967件)を占めている。EG.5.1系統は55の国と地域から登録されており、中国、米国、日本、韓国、カナダ等のアジアと北米から多く登録されているほか、欧州でも登録数が増加しており、各国において感染者数増加の優位性がみられている(covSPECTRUM, 2023)。一方で、これらの国におけるSARS-CoV-2感染者数、重症者数、死亡者数の推移は国によって異なり、EG.5.1系統の割合の上昇は感染者数や重症者数の増加には直結していない(UKHSA, 2023b、China CDC, 2023、CDC, 2023、 Government of Canada, 2023、 ECDC, 2023)。ただし、中国は感染者数などの公表が月1回であり、米国は感染者数の報告が終了するなど、各国におけるサーベイランスやその報告状況が異なることに注意が必要である。
  •    日本国内においては、2023年3月に初めてGISAIDに登録されて以降、8月29日までに1,943件のEG.5系統が登録され、うち96.0%(1,865件)がEG.5.1系統であった (covSPECTRUM, 2023)。民間検査会社の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、第32週(8月7日~8月13日)に検出された検体のうち29%をEG.5.1系統が占め、今後その割合が上昇すると推定されている(国立感染症研究所, 2023a、国立感染症研究所, 2023b)。
  •    現時点で、EG.5系統の重症度への影響、感染性、治療薬への影響などの臨床的、疫学的な知見は得られていないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数、重症者数の推移を注視する必要がある。
  

ウイルス学的知見

  •    EG.5.1系統は、EG.5系統が有しているF456L変異に加えてQ52H変異を有しているXBB.1.9.2系統の亜系統である。
    F456L変異については、F456L変異を有するXBB.1.5系統のシュードウイルスを用いたin vitroの報告で、XBB.1.5系統に対する中和抗体による免疫から逃避する可能性が指摘されている(Yisimayi A. et. al., 2023)。ただし、査読前のプレプリント論文であることに注意が必要である。
    また、EG.5.1系統の一部はF456L変異と隣接したアミノ酸変異であるL455F変異を有しており、XBB.1.5系統にL455F変異やF456L変異が加わることで中和抗体からの免疫を逃避する可能性が高くなるほか、これら2つの変異が併存することでアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能が上昇することを示唆する専門家もいる(Jian F. et al., 2023. 2023)。シュードウイルスを用いたin vitroでの報告では、EG.5.1系統の免疫逃避が起こる可能性はXBB1.5系統やXBB.1.9.2系統、XBB.1.16系統と同等であり、EG.5.1系統の感染者増加の優位性には、ウイルスの性質だけではなく、複数の要因が関与しているとの報告(Kaku Y. et. al., 2023)、XBB系統およびBQ系統の中和抗体による免疫から逃避する可能性がXBB.1.16系統よりわずかに高いとする報告(Wang Q. et al., 2023)や、新型コロナウイルスワクチン接種後のブレイクスルー感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性がXBB.1.9.2系統よりわずかに高いとする報告(Uraki R. et al., 2023)があり、一定した見解は得られていない。ただし、いずれも査読前のプレプリント論文であることに注意が必要である。

 

新型コロナウイルスワクチンに関する知見

  •    現在日本や諸外国において、秋以降に接種が実施される新型コロナウイルスに対するワクチンとしてXBB.1.5系統対応1価ワクチンが準備されている(厚生労働省, 2023)。XBB.1.5系統対応1価ワクチンを生産、販売しているファイザー社、モデルナ社はいずれも現在準備中のワクチンにおいて、EG.5系統に対する中和活性を確認したとの報道発表を行った (Reuters, 2023、Moderna. 2023)。XBB.1.5系統対応1価ワクチンによる中和抗体は、EG.5.1に対してもXBB.1.5と同程度に効果があることも確認されている(Chalkias, S. et al., 2023)。EG.5.1系統とXBB.1系統の抗原性の差を調べたこれまでの報告でも、確認できた差は2倍程度とわずかである(Wang Q. et. al., 2023、Jian F. et al., 2023、Kaku Y. et. al., 2023、Uraki R. et al., 2023)。ただし、いずれも査読前のプレプリント論文等であることに注意が必要である。

 

海外の専門機関による評価

  •    WHOは2023年8月9日にEG.5に関するリスク評価を公表するとともに、EG.5系統をVOIに指定した。このリスク評価の中で、感染者数増加の優位性と免疫から逃避する可能性に関するリスクを中程度(Moderate)、重症度と臨床的な懸念に関してのリスクは低(Low)とし、総合的なリスクについて低(Low)とした。ただし、包括的な評価のためには、さらなる知見が必要と述べている(WHO, 2023b)。
  •    ECDCは2023年8月10日にEG.5系統を含む“XBB.1.5-like + F456L”を、EU/EEA圏内で拡大傾向にあること、市中での流行状況、免疫を回避する可能性に関する知見を理由にVOIに指定した。この中にはEG.5系統のほか、FL.1.5.1系統、XBB.1.16.6系統、XBB.1.5.59系統などが含まれており、EG.5系統だけではなくFL.1.5.1系統やXBB.1.16.6系統も一部の地域で感染者増加の優位性があることから、“XBB.1.5-like + F456L”として評価を行っている(ECDC, 2023)。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

厚生労働省
国立感染症研究所
(掲載日:2023年8月 9日)
(更新日:2023年 8月15日)

 

 【背景・目的】

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2023年4月時点において世界で6億人以上が感染し約600万人以上が死亡している公衆衛生上、極めて脅威の大きい感染症である。新型コロナウイルスに対する我が国の一般住民における抗体保有状況の継続的な検討は、今後のCOVID-19対策に重要である。2020年度、2021年度と厚生労働省および国立感染症研究所が主体となって大規模な血清疫学調査が実施された。本調査は、昨年度までの調査を引き継ぎ、我が国における新型コロナウイルス感染症の疾病負荷の把握と新型コロナワクチン接種で誘導された抗体の保有状況を検討することを目的として、昨年度までの調査と同様に5都府県をおいて実施された。国内の検査陽性者数は2023年4月30日時点において、3372万人が確認されているが実際の感染者数は把握されている数よりも高いことが推測され、信頼性の高い結果を得るために抗体検査の実施が求められている。そこで、2022年度は先般の調査に準拠し、被験者の年齢・性別、職業、ワクチン接種状況や新型コロナウイルス感染症の診断歴等を聴取するとともに抗体保有状況を調査した。本調査により、様々な属性の集団における既感染者割合を推定することが可能となり、今後の感染症対策にとって有用な知見が得られることが期待できる。本報告書では、2022年12月および2023年2月に実施された第5回・第6回の血清疫学調査の結果を示す。

  続きを読む:2022年度新型コロナウイルス感染症に対する血清疫学調査報告
 

掲載日:2023年8月4日

第124回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年8月4日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第124回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版(準備中)

感染状況や医療提供体制の状況等

  • 新規患者数は、4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も11週連続で増加が継続し、直近では全国の定点当たり報告数が15人を超えた。
     (全国の7/24~7/30の定点当たり15.91人、前週比1.14)
  • 地域別の新規患者数は、42都府県で前週より増加傾向にある。沖縄県では7月上旬以降、減少傾向がみられる。
     (沖縄県の7/24~7/30の定点当たり17.59人、前週比0.78)
  • 全国の年代別新規患者数は、10歳代を除きすべての年代で前週より増加傾向にある。
  • 変異株の発生動向について、XBB系統の割合が大部分を占めており、XBB.1.9系統は横ばい、XBB.1.16系統及びXBB.2.3系統は増加傾向、XBB.1.5系統は減少傾向となっている。
  • 新規入院者数や重症者数は、いずれも増加傾向だが、特に7月中旬以降、重症者数が増加している(直近のデータほど過小評価となっている点に留意が必要) 。
  • 医療提供体制の状況について、全国的なひっ迫はみられないが、在院者数は増加傾向にある。沖縄県では、在院者数は減少傾向にある。
  • 救急医療について、救急搬送困難事案数はコロナ疑い、非コロナ疑いともに増加が継続している傾向にある。
  • 夜間滞留人口について、5類移行後において、全国的に大きな増加はみられていない。

 

IASR-logo

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2023年5月現在

(IASR Vol. 44 p99-100: 2023年7月号)
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version