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国立感染症研究所
2021年1月2日15:00時点

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要約

  • SARS-CoV-2新規変異株VOC-202012/01と501Y.V2について、感染性の増加が懸念されている。
  • VOC-202012/01は英国で増加を認め、各種の解析からも従来の流行株よりも感染性が増していることが示唆されているが、重篤な症状との関連は調査中である。また、世界各地で検出されつつある。
  • 501Y.V2は、南アフリカで増加を認め、流行株における501Y.V2の占める割合が増加しているが、感染性の増加や重篤な症状との関連は調査中である。英国、スイス、フィンランドでも検出されている。
  • 国内では、2020年12月25日以降、英国や南アフリカ、アラブ首長国連邦を含む渡航歴がある者またはこれらの接触者から両変異株が検出されている。国内症例・検疫症例のウイルス遺伝子変異については継続して監視中である。
  • 感染拡大とVOC-202012/01または501Y.V2の増加に関連性が認められる国・地域へ渡航歴のある者等の管理体制を強化するとともに、変異株の監視と情報収集を継続することを推奨。

概況(VOC-202012/01)

(発生の背景)
  • 英国では、過去数週間にわたって、ロンドンを含むイングランド南東部で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例の急速な増加に直面しており、疫学的およびウイルス学的調査を強化してきた(1)。そして、イングランド南東部で増加しているCOVID-19症例の多くが、新しい単一の系統に属していることが確認された(1,2)。
  • Nextstrain clade 20B、GISAID clade GR、B.1.1.7系統に属するこの新規変異株は、Variant Under Investigation (VUI)-202012/01と命名されていたが、2020年12月18日リスクアセスメントの結果、Variant of Concern (VOC)- 202012/01に変更となった(1, 3)。
  • VOC-202012/01には、23箇所の変異があり、スパイクタンパクの変異(deletion 69-70、deletion 144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H)とその他の部位の変異で定義される(1,3)。
  • スパイクタンパクの多くの変異数、英国でのウイルスゲノム解析が行われる割合(5-10%)、その他の新規変異株の特徴からは、この株は免疫抑制者等において一人の患者での長期的な感染で、免疫回避による変異の蓄積が加速度的に起こった結果である仮説が考えられる(1)。一方で、ヒトから動物、動物からヒトに感染し変異した可能性やウイルスゲノム解析が(あまり)行われていない国において流行する中で、探知されないまま、徐々に変異が蓄積した可能性は否定的である(1)。
(疫学情報)
  • 英国でのウイルスゲノム解析や疫学データを基にした複数のモデリング解析では、この新規変異株(VOC-202012/01)はいままでの流行株よりも感染性が高い(再生産数(R)を0.4以上増加させ、伝播のしやすさ(transmissibility)を最大70%程度増加すると推定)ことが示唆され、PCR法による核酸検査やウイルスゲノム解析から推定されるウイルス量は、増加していることが示唆されている(1,4,5)。
  • また、VOC-202012/01の変異の一つ、S遺伝子deletion 69-70により、S遺伝子を検出するPCRによっては、結果が偽陰性となるspike gene target failure (SGTF)を認めている(3)。英国の3カ所の検査施設において、SGTF を認める検体が急増するとともに、10月12日の週にはSGTFを認める変異株のうちB.1.1.7に属するものが5%であったが、11月30日にはこの頻度が96%と急増していた(3)。次に記載の南アフリカの新規変異株(501Y.V2)は、S遺伝子deletion 69-70を認めていないため、VOC-202012/01と同様の方法で検知できるのか現時点では不明である(6)。
  • 現時点では、VOC-202012/01に関連した重症化を示唆するデータは認めないが、症例の大部分が重症化の可能性が低い60歳未満の人々(地域で流行している年齢層を反映)であり、評価に注意が必要である(1)。
  • 現時点では、VOC-202012/01のワクチンの有効性への影響は調査中である(1-3)。
  • 2020年12月29日公表のECDCによる新たなリスクアセスメントでは、2020年12月26日までに、英国内では、3,000例以上のVOC-202012/01を認めており、VOC-202012/01が最初に報告されたのは12月上旬であるが、後ろ向き解析では最も早いもので9月20日の症例から同定されたとしている(7)。
(各国の発生状況)
  • VOC-202012/01は、デンマーク、オランダ、ベルギー、オーストラリア、アイスランド、イタリア、ドイツ、フランス、アイルランド、シンガポール、香港、スウェーデン、イスラエル、スイス、レバノン、カナダ、スペイン、ヨルダン、韓国、ノルウェー、インド、パキスタン、チリ、米国、フィンランド、ポルトガル、中国で渡航者等からの検出や、遺伝子情報が報告されている(一部メディア情報含む)(1,2,6,7,8)。
  • ECDCは2020年12月29日公表のレポートで、「EU内にVOC-202012/01と501Y.V2が輸入され蔓延するリスクは高い」としている(1)。

概況(501Y.V2)

  • 2020年12月18日、南アフリカ保健省はCOVID-19患者の急増と新規変異株(501Y.V2と命名)の割合が80~90%に増加していることを報告(9,10)。
  • 501Y.V2は、レセプター結合部位として重要な3箇所(K417N, E484K, N501Y)の変異を含む、スパイクタンパクの8箇所の変異で定義される(6,7,9,10)。英国で検出されたVOC-202012/01と同様のN501Yを認めるが、系統としては進化的関連を認めない(Nextstrain clade 20C、GISAID clade GH、B.1.351系統に属する)(6,7,8,9)。
  • 南アフリカでは2020年12月21日までに300例以上の501Y.V2を認めており、後ろ向き解析では8月上旬に発生し、11月中旬のゲノム解析では501Y.V2がほぼ全ての症例を占めていたとされている(7)。
  • 感染性が増加している可能性が示唆されているが、精査が必要である(9,10)。より重篤な症状を引き起こす可能性やワクチンの効果への影響を示唆する証拠はない(9,10)。
  • 2020年12月23日、英国は、南アフリカからの渡航者との接触歴がある501Y.V2の2例を報告(11)。
  • 2020年12月28日、フィンランドは南アフリカからの帰国者の1例を報告(7)。

各国の対策

  • 英国は、2020年12月20日から今後数週間、南東イングランドで「Tier 4」レベル(外出制限等を含む最も強い措置)となることを発表し、さらに12月26日から、Tier4の地域を拡大している(1)。
  • 英国以外の各国は英国からの一時的な入国制限を検討または実施している(1)。

日本の対策

  • 日本は、英国に対しては2020年12月24日0時より、南アフリカ共和国については12月26日0時より水際対策を強化している(12,13)。
  • 厚生労働省は、本邦入国前14日以内に英国及び南アフリカ共和国に滞在歴がある入国者の方々の健康フォローアップ及びSARS-CoV-2 陽性と判定された方の情報及び検体送付の徹底を求めている。当面の間、英国及び南アフリカ共和国に滞在歴のある入国者については、無症状の場合も含め新型コロナウイルス感染症患者及び疑似症患者については、感染症法に基づく入院措置を行うこととし、退院基準も別に定めている (14)。
  • また、2020年12月28日から2021年1月末まで、防疫措置を確約できる受入企業・団体がいることを条件とした新規入国の許可について、全ての国・地域からの新規入国を一時停止等することとした(15)。

日本の状況

  • ウイルスの遺伝子解析は国内症例全体の一割程度について行われてきた。

    参考)国内のゲノム確定数 14,711検体、空港検疫のゲノム確定数 507 検体(共に2020/12/31現在)。

  • 2020年12月25日、英国からの帰国者の空港検疫の検査陽性者からVOC-202012/01が初めて検出されてから、英国渡航歴のある者またはその濃厚接触者からVOC-202012/01が検出されている。12月31日には、これまで変異株の報告がなかったアラブ首長国連邦からの帰国者でも検出された。12月28日には、501Y.V2を南アフリカ共和国からの帰国者から検出している。いずれの患者も管理下に置かれた。

日本における迅速リスク評価

  • 国内では、変異株は、海外渡航歴のある症例またはその接触者からのみ検出されている。しかし、これは国内に変異株が存在していないことを保証するものではない。
  • 変異株感染者が入国するリスクは高い。変異株のまん延が知られる英国、南アフリカ共和国に限らず、これまで変異株が報告されていなかったUAEに滞在歴がある者からも変異株が国内で検出された。英国、南アフリカ共和国については、新規入国の拒否や14日間待機緩和措置を認めないなどの水際対策と検疫の強化が行われており、新たに変異株感染者が入国し、国内で二次感染させるリスクはとても低い。それ以外の国については、当地でのまん延状況がまだ十分に明らかになっておらず、定量的なリスク評価は困難であるが、厚生労働省と外務省の連携の上、変異株が確認された国に対して、随時検疫体制の強化策が追加・実施されている。
  • 3〜4月の感染拡大以後、海外からの持ち込み株が国内で持続的に拡大した事例は確認されていないが、従来株と比較して感染性が高い可能性に鑑みて、国内で持続的に感染した場合には、現状より急速に拡大するリスクがある。変異による重篤度への影響は報告されていないが、ウイルスの感染性が高まれば、従来と同様の対策では、これまで以上の患者数や重症者数の増加につながり、医療・公衆衛生体制を急速に圧迫するおそれがある。
  • 国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法は、これまでと同様に使用可能である。

日本の対応についての国立感染症研究所からの推奨

  • 変異株の監視体制の強化
    • 特に、最近2週間の海外渡航歴ありの者に対するPCR検査等の実施、検体提出、ゲノム分析の実施。
      <監視体制の優先順位の考え方>
      変異株が検出されていないことは、当該地域内に変異株が存在しないことを保証するものではないが、検体提出、ゲノム分析を行う対象となる者の2週間以内の海外渡航先については、下記の優先順位を考慮する。
      1. 感染拡大とVOC-202012/01または501Y.V2の増加に関連性が認められる国・地域 (英国、南アフリカ)
      2. VOC-202012/01または501Y.V2が1の国・地域への渡航歴に関連が明らかではない症例で検出されている国・地域
      3. VOC-202012/01または501Y.V2が、1の国・地域への渡航歴に関連が明らかな症例でのみ検出されているまたは報告されていない国・地域
    • 上記1の国・地域について、全ての入国者についてPCR検査等の実施と陽性時にはゲノム分析を行うとともに、入国者の健康観察を実施。指定施設での停留(健康観察)や航空便の運行停止も検討。
    • 上記1の国・地域からの入国者の陽性例については、症状等の有無に関わらず入院等により他者との接触機会を避ける。
    • 上記2の国・地域については、全ての入国者についてPCR検査等の実施と陽性時にはゲノム分析を行うことともに、発生数の著しい拡大が認められる場合には、上記1と同様の対応を検討。
    • 上記3の国・地域からの入国者や、渡航歴のない国内例についても、陽性者に上記1の地域に2週間以内の渡航歴がある者との接触歴を認める場合には同様に検体提出、ゲノム分析を実施。
    • 国内については、特に2020年11月から12月の症例について、地域等の偏りなく検体提出とゲノム分析を実施。
  • 変異株への感染者が見つかった場合には、変異株の国内のまん延を防ぐため、感染源、濃厚接触者の追跡と管理、臨床経過等を含めた積極的疫学調査を行う。
  • 変異株であっても、個人の基本的な感染予防策としては、従来と同様に、3密の回避、マスクの着用、手洗いなどが推奨される。

引用文献

  1. European Centre for Disease Prevention and Control. Rapid increase of a SARS-CoV-2 variant with multiple spike protein mutations observed in the United Kingdom. December 20, 2020. https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/SARS-CoV-2-variant-multiple-spike-protein-mutations-United-Kingdom.pdf.
  2. World Health Organization. SARS-CoV-2 Variant - United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland. Disease outbreak news. December 21, 2020. https://www.who.int/csr/don/21-december-2020-sars-cov2-variant-united-kingdom/en/.
  3. Public Health England. Investigation of novel SARS-COV-2 variant: Variant of Concern 202012/01. December 21, 2020.
    https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/947048/Technical_Briefing_VOC_SH_NJL2_SH2.pdf.
  4. The New and Emerging Respiratory Virus Threats Advisory Group (NERVTAG). NERVTAG meeting on SARS-CoV-2 variant under investigation VUI-202012/01. December 18, 2020.
    https://www.gov.uk/government/groups/new-and-emerging-respiratory-virus-threats-advisory-group.
  5. The New and Emerging Respiratory Virus Threats Advisory Group (NERVTAG). NERVTAG/SPI-M Extraordinary meeting on SARS-CoV-2 variant of concern 202012/01 (variant B.1.1.7). December 21, 2020.
    https://www.gov.uk/government/groups/new-and-emerging-respiratory-virus-threats-advisory-group.
  6. Genomic epidemiology of hCoV-19. https://www.gisaid.org/epiflu-applications/phylodynamics/.
  7. European Centre for Disease Prevention and Control. Risk related to spread of new SARS- CoV-2 variants of concern in the EU/EEA. December 29, 2020. https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/covid-19-risk-assessment-spread-new-sars-cov-2-variants-eueea.
  8. Chen H, Huang X, Zhao X , Song Y, Hao P, Jiang H, Zhang X, Fu C. The First Case of New Variant COVID-19 Originating in the United Kingdom Detected in a Returning Student — Shanghai Municipality, China, December 14, 2020. China CDC Weekly. December 30, 2020. doi: 10.46234/ccdcw2020.270
  9. COVID-19 Corona Virus South African Resource Portal. New COVID-19 variant identified in SA. December 18, 2020. https://sacoronavirus.co.za/2020/12/18/new-covid-19-variant-identified-in-sa/.
  10. Tegally H, et al. Emergence and rapid spread of a new severe acute respiratory syndrome-related coronavirus 2 (SARS-CoV-2) lineage with multiple spike mutations in South Africa. MedRxiv. 2020. doi:10.1101/2020.12.21.20248640.
  11. Public Health England. Confirmed cases of COVID-19 variant from South Africa identified in UK. December 23, 2020.
    https://www.gov.uk/government/news/confirmed-cases-of-covid-19-variant-from-south-africa-identified-in-uk.
  12. 外務省. 外務省海外安全ホームページ:新型コロナウイルス感染症に関する英国に対する新たな水際対策措置. 2020年12月23日. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2020C086.html.
  13. 外務省. 外務省海外安全ホームページ:新型コロナウイルス感染症に関する南アフリカ・オーストラリア・英国に対する新たな水際対策措置. 2020年12月25日. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2020C089.html.
  14. 厚生労働省新型コロナウイルス対策推進本部. 英国に滞在歴がある入国者の方々の健康フォローアップ及び SARS-CoV-2 陽性と判定された方の情報及び検体送付の徹底について. 2020年12月23日(12月24日一部改正、12月25日一部改正). https://www.mhlw.go.jp/content/000712474.pdf
  15. 内閣官房.新型コロナウイルス感染症対策:水際対策強化に係る新たな措置(4).2020年12月26日.https://corona.go.jp/news/pdf/mizugiwataisaku_20201226.pdf

参考資料

  1. World Health Organization. SARS-CoV-2 Variants. Disease outbreak news. December 31, 2020.
    https://www.who.int/csr/don/31-december-2020-sars-cov2-variants/en/

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