厚生労働省
国立感染症研究所
(掲載日:2022年12月23日)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、無症状病原体保有者の存在などから全ての感染者の診断は困難であるため、これまでに診断された症例の累積報告数よりも実際の累積感染者数が多い可能性が指摘されている。これまでに厚生労働省と国立感染症研究所では、我が国における新型コロナウイルス感染症の疾病負荷の把握と新型コロナワクチン接種で誘導された抗体の保有状況を検討することを目的として、5都府県をおいて大規模な血清疫学調査を計4回(2020年6月、2020年12月、2021年12月、2022年2月)実施しているが、全国47都道府県における網羅的な抗体保有状況の把握はできていなかった。2022年2月における血清疫学調査では感染によって誘導される抗N抗体保有割合は概ね4%程度であったが、その後、オミクロン株の流行下において過去最大規模の流行(第7波)があり、その後も流行が継続しており、血清疫学調査により市中感染状況の推移を把握する必要があった。
そこで、本調査では日本赤十字社による協力のもと、全都道府県を対象に、献血時の検査用検体の残余血液を用いて、2022年11月6日〜11月13日における献血者における抗N抗体保有割合を調査した。本報告書では、献血検体を用いた血清疫学調査の結果を示す。
続きを読む:2022年11月における献血検体を用いた既感染割合に関する分析新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。
続きを読む: IASR 43(12), 2022【特集】新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2022年11月現在
2022年12月13日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で高い有効性(vaccine efficacy)が示された1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関や民間検査会社の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施し、実社会における有効性(vaccine effectiveness;発症予防効果)を検討している。これまでの暫定報告においては、B.1.1.7系統(アルファ)およびB.1.617.2系統(デルタ)に対して、高い有効性を示すことが確認された一方で4-5、2021年末に出現したオミクロンにおいては、発症予防効果が一定程度みられたものの、相対的に低く、免疫の減衰も示唆された6-8。こうした中で、ファイザー社およびモデルナ社は、オミクロンの亜系統であるBA.1およびBA.4-5にそれぞれ対応した2種類のオミクロン対応2価ワクチン(以下、オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)およびオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5))を開発し、国内においてこれらが承認され、接種が開始された9-10。ファイザー社製およびモデルナ社製のオミクロン対応2価ワクチン(BA.1)は9月20日に、ファイザー社製のオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)は10月13日に、モデルナ社製のオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)は11月28日に、それぞれ接種が開始されている9-10。そこで今回は、2価ワクチンの接種が開始された9月20日から11月30日の調査における暫定結果を報告する。なお同時期には、関東地方において、BA.5が75-90%以上を占めるとされた11。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAウイルスであり変異株の出現は避けられないことから, 新たに出現することが想定されるウイルス株の感染力, 病原性, ワクチンの効果等を評価するために, 迅速に変異株を検出できる手法が求められている。下水には上気道, 糞便由来のSARS-CoV-2が含まれているため, 下水中のウイルスゲノム検出事例が国内外で報告されている。福島県では2013年度よりポリオ環境水サーベイランス(感染症流行予測調査事業への協力)を実施しており, 本調査方法は腸管系ウイルスの監視に優れた感度特性を持つ。本報告では, 下水中のSARS-CoV-2遺伝子について, サンガーシーケンス法によりレセプター結合部位の解析を試み, 臨床由来検体の解析結果と比較を行った。
富山県では2022年1月より, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断され, 宿泊療養施設で療養中の者に対して, 発症後5~6日目に陰性化確認を目的としたreal-time RT-PCR検査を行ってきた。今回, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株流行期のCOVID-19臨床唾液検体において, 発症後5~6日目の検体中のウイルスゲノム量を測定し, 陽性率および検体のthreshold cycle(Ct値)別の割合を算出した。また, 培養細胞を用いてウイルス分離を行い, PCR陽性の唾液検体中の感染性ウイルスの量について検証した。
本解析の目的は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対して実施された積極的疫学調査情報を集約し, 変異株の感染性や, 感染者や濃厚接触者の特徴を明らかにすることである。これまでに非変異株流行期, アルファ株流行期, デルタ株流行期に実施した調査結果をIASRに報告1-3)してきたが, 今回オミクロン株流行期の情報を新たに集約し, 変異株流行期別, 感染者と濃厚接触者基本属性別の二次感染リスクを検討した。
(IASR Vol. 43 p238-240: 2022年10月号)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株(以下, オミクロン株)が優勢となった2022年1月に発生した高知市内の急性期病院(A病院)におけるクラスターで, 職員へのスクリーニング検査で得られた知見を報告する。
続きを読む: 新型コロナウイルスオミクロン株によると推定された院内クラスターにおける医療従事者を対象としたスクリーニング検査
(IASR Vol. 43 p240-241: 2022年10月号)
愛知県衛生研究所(当所)では国立感染症研究所(感染研)の方法1)にのっとり, SARS-CoV-2のゲノム解析を実施している。今回, BA.5.2.1系統とBA.2.9系統の組換え体と考えられる2株を検出したので報告する。
続きを読む: BA.5系統とBA.2系統の組換え体と推察された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)株の検出について
国立感染症研究所
(掲載日:2022年9月27日)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防には、SARS-CoV-2感染や新型コロナワクチン接種に誘導されるSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対する抗体が重要であることが知られている。
本邦においては、新型コロナワクチンの接種が広く普及しており、2022年7月25日現在で6割以上の者が3回以上のワクチン接種を完了している(デジタル庁ワクチン接種記録システム (VRS) 新型コロナワクチンの接種状況, https://info.vrs.digital.go.jp/dashboard/)。
一方で、オミクロン株の出現後の第6波以降、本邦の感染者数は急増しており、一般人口において感染歴とワクチン接種歴の双方を有する者の割合が増加しつつある。感染とワクチンの組み合わせにより誘導されるハイブリッド免疫は、SARS-CoV-2再感染に対して優れた免疫防御を与えることが報告されている。一方で、ハイブリッド免疫の質と持続性は、感染したウイルス株や、接種ワクチンの種類、ワクチン接種間隔、ワクチン接種と感染の間隔など様々な要因の組み合わせにより変動する可能性が指摘されている。よって、今後の新型コロナウイルス感染症の疾病負荷予測のためには、感染もしくはワクチン接種により誘導された免疫保有者だけでなく、ワクチン接種と感染歴の双方を有するハイブリッド免疫者のSARS-CoV-2に対する免疫防御の特性を評価しておくことが重要となる。
しかしながら、本邦においては、感染履歴のないワクチン接種者の血清抗体の報告に比べて、感染とワクチン接種の双方の履歴を有しハイブリッド免疫を有する者の血清抗体の特性解析の報告は限られている。また、これまでに実施された血清疫学調査では、ワクチン株として使用されている祖先株に対する抗スパイク抗体のみの評価であり、変異株に対する抗体は評価されていなかったが、SARS-CoV-2に対する免疫の全体像を理解するためには、抗原性の変化した変異株に対する抗体も合わせて評価する必要がある。
そこで、本研究では、令和3年度に厚生労働省/国立感染症研究所が実施した新型コロナウルス感染症に対する抗体保有状況の調査において感染やワクチンによりSARS-CoV-2に対する抗体を保有することが判明した者の血清の残余を用いて各種変異株に対する中和試験を実施することにより、感染歴を持つ者におけるSARS-CoV-2変異株に対する血清中和抗体の性状を評価した。
続きを読む:新型コロナウイルスに対する抗体保有者の血清中和抗体の性状に関する解析(IASR Vol. 43 p196-198: 2022年8月号)
2021年12月, 国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者の届出数は, 前年同時期の約10分の1で推移していたことから〔12月31日時点, 直近7日間の1日当たり平均感染者報告数2021年320人(2020年3,532人)〕, 東京都内にある神社Aでは, 前年に減少した初詣の参拝者が増加することを想定し, 12月初旬より主に巫女業務に従事する臨時勤務者を約100人雇用し, 初詣への準備を進めていた。
続きを読む: B.1.1.529系統(オミクロン株)SARS-CoV-2国内流行初期に都内神社Aにおいて発生したオミクロン株による集団感染事例(2021年12月~2022年1月)