(IASR Vol. 43 p42-43: 2022年2月号)
本解析の目的は, これまで収集された積極的疫学調査情報を集約し, 濃厚接触者の基本情報と接触場所から変異株の感染性や感染者の特徴を明らかにすることである。これまでに積極的疫学調査情報を基にした二次感染率を報告1, 2)してきたが, 今回は, 特に感染伝播性が高いL452R変異を有するデルタ株と呼ばれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(L452R変異株)の二次感染率を従来株やN501Y変異株と比較検討した。
(IASR Vol. 43 p43-45: 2022年2月号)
2021年7月から東京都および大阪府内の複数の百貨店従業員の間で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が増加した。同年6月以前のたび重なる国内COVID-19流行時には確認されなかった患者数の急増であった。比較的大規模な事例として疫学調査の対象となり, 情報提供の協力が得られた3百貨店(A, B, C)の事例について, 調査から得られた知見を報告する。
(IASR Vol. 43 p45-47: 2022年2月号)
我々はこれまでに, 2020年9月に県内の単科精神科病院において発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の集団感染事例とその対応, および事例発生から約2カ月後の血清疫学調査の結果について報告してきた1,2)。今回, 本事例における調査対象者の抗体測定結果について, 事例発生から1年間の動態と感染歴のある人へのワクチン接種に関する知見が得られたので報告する。
続きを読む: 単科精神科病院の療養病棟で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)集団感染事例の血清疫学調査(第二報)
令和4年2月18日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている (1)。
国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴の報告は限られている(2) (3)。そのため、国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴を迅速に把握することを目的として、検疫及び国内にて、初期に探知されたオミクロン株症例について積極的疫学調査を行った。第4報の疫学的・臨床的特徴の報告書では、第4報の報告時点で収集できた122例の日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を記述的に初めて明らかにした(4)。本報告書では積極的疫学調査で収集した全てのSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による報告を行う。本調査実施時期は、国内における新型コロナワクチン接種率が高く、ワクチン接種者(新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者をワクチン接種者と定義)と未接種者(ワクチン接種者と定義された以外の者)の属性等が異なることから2者を分けてオミクロン株の疫学的・臨床的特徴の記述を行う。なお、本調査はワクチンの有効性等について評価することはできない。
本調査は、厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づいて行われた。
対象症例の退院後に調査票を用いて以下の情報を収集し、疫学的記述を行った。
調査対象の年齢層の中心は比較的若年層で、89例(64.0%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(109例[78.4%])であった。多くの症例に発症前14日以内に海外への渡航歴があり、55例(39.6%)に発症前14日以内のCOVID-19確定例もしくは疑い例との濃厚接触歴を認めた。入院時に124例が胸部レントゲン検査もしくはCT検査を受けて、7例(5.6%)に肺炎像を認めた。入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。基礎疾患(高血圧症と脂質異常症)を有するワクチン未接種の80代男性1例に対して酸素投与(2L/分)が行われた。ワクチン接種者、未接種者ともに、重症例は認めず、死亡例も認めなかった。
本調査には複数の制限がある。本調査の対象は、積極的疫学調査協力医療機関で入院診療を行ったゲノム解析によるオミクロン株確定例の初期の患者であり、ゲノム解析で確定診断できていない疑い例は調査対象にしていない。2つ目に、調査期間中に、オミクロン株確定症例の入退院基準の変更が、知見や状況に合わせて行われている。当初、原則全例入院の上、退院基準として、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていたが、2022年1月5日、ワクチン接種者においては、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取扱いとすることとなった(5)。また、自宅等の療養体制が整った自治体における感染急拡大時の対応として、医師が入院の必要が無いと判断した無症状病原体保有者や軽症者については、他の新型コロナウイルス感染症患者と同様に、宿泊療養・自宅療養とすることとして差し支えなくなった(6)。さらに、1月14日、ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとすることとなった(7)。これらの入退院基準の変遷を本調査では考慮していない。3つ目に、国内で早期に探知された症例は、比較的若年層であり、基礎疾患を有する者が少なかった。このため、本調査結果のみで、COVID-19の重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者における重症化リスクを評価することは困難である。なお、13例(9.3%)の60歳以上では、7例(53.8%)に何らかの基礎疾患があり、11例(84.6%)がワクチン2回以上接種しており、全例有症状であった。11例(84.6%)にCOVID-19への直接的な効果を期待して治療介入が行われ、10例(76.9%)にソトロビマブが投与された。ワクチン未接種の40例においては、80代男性1例に対して酸素投与(2L/分)が行われた患者を認めたが、重症例や死亡例も認めなかった。4つ目に、本調査は初期に探知された症例から収集された情報のため、検疫法による入院が多く含まれており、国内流行の疫学的特徴(年齢、性別、ワクチン接種歴、渡航歴、接触歴等)とは異なる可能性が高い。5つ目に、国内におけるワクチン接種率が高い時期であることと、本調査の医療機関への業務負担を考慮し、接種者は2021年12月24日までの新規入院患者分まで収集した。一方、未接種者は稀で、情報を集めることが困難であったため、2022年1月12日新規入院分まで継続した。6つ目に、日本で初期に確認されたオミクロン株を対象としたため、ワクチン接種者には検疫法での入院例が多く含まれ、ワクチン未接種者には小児例が多く含まれることとなった。なお、本調査は、ワクチン接種歴を考慮した上でのワクチン接種者と未接種者それぞれの疫学的・臨床的特徴の把握を目的としており、これら2者の比較を目的として行われたものではない。
本調査では、積極的疫学調査で収集した139例の日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を、ワクチン接種者と未接種者に分けて記述的に明らかにした。ワクチン接種者、未接種者ともに、重症化した症例や死亡した症例は認めなかった。
迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
大阪市立総合医療センター、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立大学法人千葉大学医学部附属病院、国立病院機構沖縄病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、常滑市民病院、成田赤十字病院、横浜市立市民病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
国立感染症研究所
(掲載日:2022年2月18日)
2022年2月12日現在、国内ではファイザー製、武田/モデルナ製、アストラゼネカ製の新型コロナワクチン(以下、ワクチン)が使用されています。ファイザー製と武田/モデルナ製の接種対象は12歳以上で、アストラゼネカ製の接種対象は原則40歳以上です。2021年12月1日から18歳以上の者を対象として、ファイザー製ワクチンによる追加接種(3回目接種)が始まり、2021年12月17日からは、武田/モデルナ製ワクチンも追加接種(3回目接種)可能となりました。初回接種(1回目・2回目接種)で使用したワクチンとは異なる種類のワクチン(ファイザー製、武田/モデルナ製)で追加接種すること(交互接種)も可能です。なお、武田/モデルナ製ワクチンによる追加接種は、初回接種の半量で実施する必要があるため注意が必要です(初回接種:1回0.5mL、追加接種:1回0.25mL)。
米国では2021年10月29日、5~11歳の小児に対するファイザー製ワクチン(以下、小児用ファイザー製ワクチン)の緊急使用許可( Emergency Use Authorization:EUA )が承認され、2021年11月3日から接種が始まっています。国内では2021年11 月 10 日に薬事申請がなされ、2022年1月21日に小児用ワクチン「コミナティ筋注 5-11歳用」(一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))として特例承認されました(1)。
2022年2月10日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(2)で、5~11歳の小児に対しても予防接種法に基づく特例臨時接種として実施される方針が決まりましたが、現時点では、①小児におけるオミクロン株の感染状況(感染者、重症化の動向)が未だ確定的でないこと(増加傾向の途上にあること)、②オミクロン株については小児における発症予防効果・重症化予防効果に関するエビデンスが必ずしも十分ではないこと(オミクロン株の出現以前の知見であること)から、努力義務の規定は適用されないこととなりました。また、11歳で1回目の小児用ファイザー製ワクチンの接種を受けた小児が2回目接種時点で12歳以上になっていた場合、2回目接種でも小児用ファイザー製ワクチンを使用することとなりました。小児用ファイザー製ワクチンは、12歳以上用のワクチンとは生理食塩水での希釈量 (小児用:1.3mL、12歳以上用:1.8mL)、1回接種量(小児用0.2mL、12歳以上用0.3mL)、1バイアルの接種可能人数(小児用10人分、12歳以上用6人分)、保存及び移送方法が異なるため、別の種類のワクチンとして区別して扱う必要があります。
一方、努力義務の規定が適用されていなかった妊娠中の女性については、最新の科学的知見を踏まえて、努力義務の適用除外が解除されることになりました。
2022年2月10日現在の国内での総接種回数は2億1,140 万1,896回で、このうち高齢者( 65歳以上 )は6,613万8,923回、職域接種は1,939万507回でした。2022年2月10日時点の1回以上接種率は全人口(1億2,664万5,025人)の80.1%、2回接種完了率は78.9%、3回接種完了率は7.9%で、高齢者の1回以上接種率は、65歳以上人口(3,548万6,339 人)の92.6%、2回接種完了率は92.3%でした。
2022年2月7日公表時点の年代別接種回数別被接種者数と接種率/接種完了率( 図1 )を示します。また、新規感染者数と累積接種割合についてまとめました( 図2 )。
図1 年代別接種回数別被接種者数・接種率/接種完了率(首相官邸ホームページ公表数値より作図): 2022年 2月 7日公表時点
注)接種率は、VRSへ報告された、一般接種(高齢者を含む)と先行接種対象者(接種券付き予診票で接種を行った優先接種者)の合計回数が使用されており、使用回数には、首相官邸HPで公表している総接種回数のうち、職域接種及び先行接種対象者のVRS未入力分である約1000万回分程度が含まれておらず、年齢が不明なものは計上されていません。また、年齢階級別人口は、総務省が公表している「令和3年住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」のうち、各市区町村の性別及び年代階級の数字を集計したものが利用されており、その際、12歳~14歳人口は10歳~14歳人口を5分の3したものが使用されています。
図2 日本_新規感染者数と累積接種割合の推移 [データ範囲:2020年1月22日~2022年2月7日]下記データより作図.Roser M, Ritchie H, Ortiz-Ospina E and Hasell J. (2020) - "Coronavirus Pandemic (COVID-19)". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/coronavirus' [Online Resource](閲覧日2022年2月9日)
参考文献
今回は、下記の内容について、最近のトピックスをまとめました。
2022年2月18日
2020(令和2)年12月9日に予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律(令和2年法律第75号)が公布、施行され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は臨時接種対象疾病に位置付けられた。予防接種法に基づく接種後に副反応を疑う症状が見られた場合、医療機関の開設者又は医師等は、厚生労働大臣(送付先は医薬品医療機器総合機構)に、予防接種後副反応疑い報告(以下、副反応疑い報告)を行うことが義務づけられている[1]。
国立感染症研究所が毎月公表している「新型コロナワクチンについて」で示してきたように、先行して接種が進んだイスラエルや米国、欧州から、ファイザー製あるいはモデルナ製のmRNAワクチン接種後に心筋炎・心膜炎(以下、心筋炎関連事象)を呈した例が報告され[2]、特に若年男性の2回目接種後に頻度が高いと報告されている[3]。
我が国において、予防接種後心筋炎関連事象に係る評価・分析については、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同開催(以下、合同部会)において審議がなされている。予防接種法に基づいて医療機関等から報告された予防接種後副反応疑い報告は製造販売業者に情報提供され、製造販売業者は更に詳細な調査を実施している。その結果、製造販売業者により重篤と判断された場合には、薬機法に基づいて厚生労働大臣(送付先は医薬品医療機器総合機構)に報告される。製造販売業者の調査による詳細な情報が付与された報告をもとに、合同部会において審議が実施されている。
本稿では、わが国において新型コロナワクチン接種が開始された2021年2月17日から同年10月24日(疫学週:第42週)までに、心筋炎関連事象を疑うとして報告された事例の特徴についてまとめた(以下、本稿では、心筋炎関連事象疑い事例の件数及び報告頻度について記述する)。なお、2021年11月12日に開催された合同部会で、この期間にファイザー製ワクチンは155,454,673回、モデルナ製ワクチンは30,632,541回、アストラゼネカ製ワクチンは64,713回の接種が実施されたことが報告された[4]。
続きを読む: 予防接種法に基づき医療機関等から予防接種後副反応疑い報告として届けられた 新型コロナワクチン接種後の心筋炎関連事象の特徴
2021年11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)へ最初の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規変異株B.1.1.529 系統SARS-CoV-2(オミクロン)感染例が報告された。以降、日本を含め世界各地から感染例が報告され、各地でオミクロン株の感染拡大がみられている1)。
続きを読む: 沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告(続報)
2022年2月15日
新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける成人(20歳以上)を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施している。これまでの暫定報告においては、我が国における新型コロナワクチン導入初期に流行したB.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性(vaccine effectiveness)を示すことが確認された4-5。しかし、海外の報告によると、2回接種により獲得した免疫が半年程度で減衰することが確認されており6-8、国内でも2021年12月から3回目の接種(ブースター接種)が開始となった。また、2021年11月末以降に出現し、世界各地に急速に流行拡大した感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されるB.1.1.529系統(オミクロン株)については、デルタ株を含む過去の流行株に比してワクチンの有効性が減弱している可能性が指摘されている9-10。そこで、今回は、関東において上旬にはオミクロン株が9割以上を占め、下旬にはほぼ全ての検出株がオミクロン株であったと想定される11-12、2022年1月3日以降の調査における暫定結果を報告する。
2021年12月末に、沖縄県で初めて確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株による感染者は米軍基地従業員であった1)。その後、県内の感染は急速に拡大し、2022年1月末現在も、多くの感染者数が県内で報告されている(第6波)。
令和4年1月28日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている (1)。
国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴の報告は限られている(2) (3)。そのため、国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴を迅速に把握することを目的として、検疫及び国内にて、初期に探知されたオミクロン株症例について積極的疫学調査を行った。本調査は、厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づいて行われた。
以下の条件を全て満たすものとした。
調査対象の年齢層の中心は比較的若年層で、80例(65.6%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(92例[75.4%])であった。多くの症例に発症前14日以内に海外への渡航歴があり、50例(41.0%)に発症前14日以内のCOVID-19確定例もしくは疑い例との濃厚接触歴を認めた。入院時の画像検査で肺炎像を認めた症例は少なく、入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。入院期間中に酸素需要を認めた症例はなく、COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。重症例は認めず、死亡例も認めなかった
本調査には複数の制限がある。はじめに、本調査の対象は、積極的疫学調査協力医療機関で入院診療を行ったゲノム解析によるオミクロン株確定例の初期の患者であり、ゲノム解析で確定診断できていない疑い例は調査対象にしていない。2つ目に、調査期間中に、オミクロン株確定症例の入退院基準の変更が、知見や状況に合わせて行われている。当初、原則全例入院の上、退院基準として、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていたが、2022年1月5日、ワクチン接種者においては、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取扱いとすることとなった(4)。また、自宅等の療養体制が整った自治体における感染急拡大時の対応として、医師が入院の必要が無いと判断した無症状病原体保有者や軽症者については、他の新型コロナウイルス感染症患者と同様に、宿泊療養・自宅療養とすることとして差し支えなくなった(5)。さらに、1月14日、ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとすることとなった(6)。これらの入退院基準の変遷を本調査では考慮していない。3つ目に、国内で早期に探知された症例は、比較的若年層であり、基礎疾患を有する者が少なかった。このため、本調査結果のみで、COVID-19の重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者における重症化リスクを評価することは困難である。なお、10例(8.2%)の60歳以上では、7例(70%)に何らかの基礎疾患があり、9例(90%)がワクチン2回以上接種しており、全例有症状であったが、9例(90%)にソトロビマブが投与され、重症化した症例は認めなかった。4つ目に、本調査は初期に探知された症例から収集された情報のため、検疫法による入院が多く含まれており、国内流行の疫学的特徴(年齢、性別、ワクチン接種歴、渡航歴、接触歴等)とは異なる可能性が高い。
本調査では、日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を初めて明らかにした。
迅速な情報共有を目的とした資料であり、 内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
大阪市立総合医療センター、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立大学法人千葉大学医学部附属病院、国立病院機構沖縄病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、成田赤十字病院、横浜市立市民病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター