国立感染症研究所

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新型コロナウイルスN501Y変異株による接触場所別SARS-CoV-2 PCR検査陽性率の変化

(IASR Vol. 42 p236-237: 2021年10月号)

 
はじめに

 全国自治体が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者発生に際して実施する積極的疫学調査では, 患者および濃厚接触者に対して詳細な聞き取り調査が行われる。本解析の目的は, これまで収集された積極的疫学調査情報を集約し, 感染者と濃厚接触者の基本情報と接触場所から感染リスクの高い属性や感染場所の特徴を明らかにするとともに, 感染伝播性が高いといわれるN501Y変異を有する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(N501Y変異株)の二次感染率を従来株と比較検討することである。

掲載日:2021年10月21日

 新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進む中、その効果によって、感染者数(検査陽性者数)が多くとも必ずしも直ちに医療提供体制の逼迫につながるわけではなくなってきている。われわれは、今後の感染拡大の際に必要となる病床数(酸素投与を必要とする患者や重症者の数にもとづく)といった医療需要について、短期的(1から4週間後)あるいは中期的(1から2ヶ月後)に予測するためのツールを開発した。本ツールでは、任意の状況を想定して「新規陽性者数、ワクチン接種率、感染拡大スピード」を使用者が入力する。ワクチンの効果・年代別の重症化率・入院期間といったパラメータはあらかじめ入力されている。これらの初期値は、科学論文や複数の自治体からのデータをもとに設定したが、使用者が任意の値に変更することも可能である。

 本ツールによって、2021年の冬期の流行をそれぞれの自治体で想定しながら、必要とする病床の確保ならびに、どういう段階で地域での感染対策の強化などを呼びかける必要があるかの検討に用いることができる。また、今後リバウンドが起こった際には、その後に起こりうる状況の見える化にも用いることができる。

・短期的な予測

 短期的な予測において2週間~4週間後の状況が現在の確保病床数を越えるか否かを検討することで、警戒や感染対策の強化を行うべきか判断の参考として用いることができる。(なお、4週間にわたって同じ感染拡大スピードであり続けると仮定している。一方で、市民の行動の変化などがあった場合にはその想定は過大になる可能性があることに注意が必要である。)

・中期的な予測

 今後の流行で想定される感染の広がりとして、たとえば、ある時点での新規陽性者数・ワクチン接種率を入力し、「拡大シナリオ:横ばい(1.0→横ばい)」とすることで、現在の状態が続いた場合に医療需要がどの程度になるのかを検討することができる。また、今後、リバウンドが見られ始めたとき、「そのときの新規陽性者数」と「そのときのワクチン接種率」を入力し、「拡大シナリオ:増加(1.3~1.5→先月と同様)」と設定することで、第6波で起きうるその後2か月間の悲観的な予測を検討できる。さらに、「さまざまな新規陽性者数」と「今冬に想定されるワクチン接種率」を入力し、予測ツールによって算出される「酸素投与を要する人の数、重症者数、必要な確保病床数」を参照することで、【現在の確保病床ではどの程度の規模の感染状況に耐えられるのか】や【想定される感染規模に対して、どの程度の確保病床数が必要になるのか】を検討するためのデータを得ることができる。

 本ツールはインターネット上で公開されており、行政・医療機関・一般市民が自由に利用することができる。あくまでモデルであり絶対的なものではないことには留意されたい。1つの参考資料として、本ツールが今後の流行に対する備えや、更なる議論の発展に役立つことを期するものである。

本ツール、およびモデルの詳細や説明資料を入手できるURL:

https://github.com/yukifuruse1217/COVIDhealthBurden

 

予測ツール開発・検証チーム:

古瀬 祐気(京都大学)
和田 耕治(国際医療福祉大学)
押谷 仁(東北大学)
髙 勇羅(国立感染症研究所)
鈴木 基(国立感染症研究所)
脇田 隆字(国立感染症研究所)

 

 

国立感染症研究所
(掲載日:2021年10月15日)

2021年10月8日現在、国内ではファイザー製、武田/モデルナ製、アストラゼネカ製の新型コロナワクチン( 以下、ワクチン )が使用されています。ファイザー製と武田/モデルナ製の接種対象は12歳以上で、アストラゼネカ製の接種対象は原則40歳以上です。

10月7日現在の総接種回数は1億7,212万7,058回で、このうち高齢者( 65歳以上 )は6,455万3,077回、職域接種は1,752万3,553回でした。10月7日時点の1回以上接種率は全人口(1億2,664万5,025人)の72.8%、2回接種完了率は63.1%で、高齢者の1回以上接種率は、65歳以上人口(3,548万6,339 人)の90.8%、2回接種完了率89.6%でした。10月4日公表時点の年代別1回以上接種者数と接種率( 図1 )、および2回接種完了者数と完了率( 図2 )を示します。また、新規感染者数と累積接種割合についてまとめています( 図3 )。

covid19 vaccine 20211008_1 covid19 vaccine 20211008_2
図1 年代別1回以上接種者数・1回以上接種率( 首相官邸ホームページ公表数値より作図 ): 2021年10月4日公表時点 図2 年代別2回接種完了者数・2回接種完了率( 首相官邸ホームページ公表数値より作図 ): 2021年10月4日公表時点

注)接種率は、VRSへ報告された、一般接種(高齢者を含む)と先行接種対象者(接種券付き予診票で接種を行った優先接種者)の合計回数が使用されており、使用回数には、首相官邸HPで公表している総接種回数のうち、職域接種及び先行接種対象者のVRS未入力分である約1000万回分程度が含まれておらず、年齢が不明なものは計上されていません。また、年齢階級別人口は、総務省が公表している「令和3年住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」のうち、各市区町村の性別及び年代階級の数字を集計したものが利用されており、その際、12歳~14歳人口は10歳~14歳人口を5分の3したものが使用されています。

covid19 vaccine 20211008_3図3 日本_新規感染者数と累積接種割合の推移 [データ範囲:2020年1月22日~2021年10月3日]下記データより作図.Roser M, Ritchie H, Ortiz-Ospina E and Hasell J. (2020) - "Coronavirus Pandemic (COVID-19)". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/coronavirus' [Online Resource](閲覧日2021年10月5日)
 

今回は、下記の内容について、最近のトピックスをまとめました。

【本項の内容】
  • 海外のワクチン接種の進捗と感染状況の推移・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
  • 懸念される変異株(VOCs)に対するワクチン有効性について・・・・・・・・・・・・・ 10
  • デルタ株に対するワクチン効果について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
  • 既感染者への接種について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
  • 妊婦への接種について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
  • ワクチンと授乳について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

新型コロナワクチンについて(2021年10月8日現在)

 

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆直近の新型コロナウイルス感染症の状況

 

 2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021年10月8日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で236,747,683例(4,834,252例)、196カ国・地域(集計方法変更:海外領土を本国分に計上)に広がった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21555.html)。

2021年10月6日

要約

国立感染症研究所では、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、社会活動・行動のリスクを検討するための症例対照研究を実施している。本暫定報告は、2021年6月から7月に東京都内の5ヶ所の医療機関の発熱外来等を受診した成人のうち新型コロナワクチンの接種歴がない753名(うち陽性257名(34.1%))の解析結果である。

会食・飲み会に参加しなかった者と比較して、会食・飲み会に参加した者では、感染のオッズが高かった。ただし、飲酒を伴う場合は1回でも高いオッズであった。また、レストラン・バー・居酒屋などでの飲み会・会食は感染のオッズが高いが、レストラン・バー・居酒屋などでの飲み会・会食に参加していなくても、自宅における同居者以外との会食や飲み会等への参加もリスク因子であることが示された。いずれの状況でも、昼よりも夕方・夜の飲み会・会食において感染のオッズが高かった。一方で、カフェや喫茶店、食事配達、テイクアウトの利用、1人での外食は明らかなリスク因子ではなかった。会食や飲み会、食事様式、カフェ利用等の様子に関連した検討では、最大同席人数は自身を含めて5人以上で感染のオッズが高く、最大滞在時間は2時間以上の場合オッズが高かった。会食/飲み会参加・カフェ利用がない者と比較して、食事や飲み物を口に運ぶとき以外マスクをつけていた者は感染のオッズは変わらなかったが、マスクを着用していなかった・席についてマスクを外した者では、極めて高いオッズを示した。また、不織布マスクを着用していた者と比較して、布/ガーゼマスクやウレタンマスクを着用していた者は感染のオッズが高かった。この関係は、会食歴があるものに限定した際により強くなった。その他の行動歴として、デパートやショッピングセンター訪問においては、感染のオッズの上昇は認めなかったが、2人以上のカラオケでは、行った者の数が少ないため信頼区間が広いが感染のオッズが高かった。就業・就学については、就業・就学の有無、フルタイムかパートタイムか、電車通勤かどうかで感染のオッズは大きく変わらなかった。テレワーク・オンライン授業の実施状況についても、明確な傾向はみられなかった。

感染のリスクは単一ではなく、一つの感染対策で十分というものも存在しないため、本報告等を踏まえて、流行状況に応じて政府・自治体の要請に応じた感染対策を遵守し、感染リスクの高い行動を極力避け、ワクチン接種を検討し、複合的に感染リスクを下げることが重要である。

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新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査の結果について(最終報告)

(IASR Vol. 42 p197-199: 2021年9月号)

 

 本報告は, 感染症法第15条第1項の規定に基づいた積極的疫学調査1,2)で集約された, 各自治体・医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の退院患者の情報に関する最終報告3,4)である。ただし, 本情報は統一的に収集されたものではなく, 各医療機関の退院サマリーの様式によるため解釈には注意が必要である。

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消防学校における新型コロナウイルス感染症症例集積事例

(IASR Vol. 42 p199-201: 2021年9月号)

 
端 緒

 2021年4月13日(Day1, 発症日の最も早い症例の発症日をDay0としている), 消防学校にて初任教育学生2名がPCR検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と判明し, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断されたことから, 学校は保健所からの指導を受け, 4月14日(Day2)からの校内留置措置を実施した。消防学校の初任教育学生は203名, 職員が35名であった。学生は4つの小隊(50名程度)に分かれ, 基本的には小隊ごとに授業が実施されていた。それぞれの小隊はさらに8つの班(6名程度)に分かれていた。男子学生の場合, 同班の学生は寮で同室であった。室内は完全個室ではなく各個人のスペースが仕切られ, 天井部が空いていた。寮は3つのフロアに分かれて学生が居住していた。

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福岡県新型コロナウイルス感染対策調査:介護・福祉施設等における課題

(IASR Vol. 42 p201-203: 2021年9月号)

 
はじめに

 介護・福祉施設等では, 共同生活ならびに認知・身体機能の維持を目指した活動を行うため, 3密を完全に避けることは困難である。さらに, マスク着用を遵守できない利用者も一定数いるため, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播が起こりやすい環境である。実際に福岡県内の介護・福祉施設等では, 第3波と称される2020年12月~2021年3月までに64件(計1,144人)のクラスターが発生しており, 迅速かつ抜本的な対策が求められている。今回, 福岡県医師会が主体となり, 福岡県保健医療介護部とともに県内の医療機関ならびに介護・福祉施設等における感染対策の実情を評価し, 講じるべき対策を検討するためにアンケート調査を行った。

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群馬県におけるSARS-CoV-2アルファ株関連症例の特徴について(2021年2月10日~6月2日)

(IASR Vol. 42 p203-204: 2021年9月号)

 

 2020年11月, 英国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株であるVOC-202012/01(アルファ株)が報告され, 世界各地で感染拡大がみられている1,2)。アルファ株は, 従来株と比較して感染力および重篤度が高いウイルスと推定されており, 英国での感染者数の増加を引き起こした要因と考えられている。国内でも, 2020年12月25日に, 英国からの帰国者でアルファ株が初めて検出された2)。2021年2月, 群馬県においてもアルファ株が検出され, その後, 県内の主流行株へと代わってきた。群馬県衛生環境研究所では, 国立感染症研究所(感染研)病原体ゲノム解析研究センターと共同で, SARS-CoV-2のゲノム解析を行っている。その情報を基に, ハプロタイプ・ネットワーク図を作成し, 疫学調査と統合して解析することで, 群馬県におけるアルファ株の感染状況に関する知見を得たので報告する。

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高い累積罹患率を認めた札幌市内コールセンターでの新型コロナウイルス感染症アウトブレイク(2021年5月)―健康管理, 感染管理, 換気を確認する重要性について

(IASR Vol. 42 p206-207: 2021年9月号)

 

 2021年4月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第4波を迎えていた札幌市で, 市内コールセンターAでCOVID-19アウトブレイクが確認された。コールセンターは, 比較的密な環境で時に大声を出して勤務していることから, 海外でもアウトブレイクが報告されており1), 安全な勤務体制の構築が課題である。今回, 調査で判明した課題を整理し, 改善点を検討した。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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