印刷

 

第1報:令和3年4月8日
国立感染症研究所

【背景・目的】

感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株(懸念される変異株(variants of concern; VOC))の感染者が世界各地から報告されている。日本国内においても、英国で最初に検出されたVOC-202012/01、南アフリカで最初に検出された501Y.V2、ブラジルからの帰国者において日本で最初に検出された501Y.V3の流行が懸念され、令和3年1月以降、VOC-202012/01症例の報告が増えている。

新型コロナウイルス感染症患者は感染症法に基づいて入院措置が行われる。令和3年4月8日0時現在、VOCによる新型コロナウイルス感染症患者(変異株症例)については従来株(非変異株)による新型コロナウイルス感染症患者(非変異株症例)と異なる退院基準が設定されており、核酸増幅法(PCR等)による2回連続の陰性確認が必要とされている。しかしこの退院基準を満たすために入院期間が長期化することが患者及び医療機関の負担となっている。このため変異株症例のウイルス排出期間及び感染性のある期間等について明らかにする必要がある1)

本調査は、変異株症例と非変異株症例におけるウイルスRNAコピー数の経時変化を検討することを目的として行った。ウイルスRNAコピー数は感染性のあるウイルス検出の代替指標として役立つと考えられている。また感染性のあるウイルスの排出期間についても評価を行った。本稿ではその中間解析結果を報告する。

なお本調査は、感染症法第15条の規定に基づく積極的疫学調査として実施したものである。

 

【方法】

対象者の選定

対象は日本の空港検疫にて令和 2年12月以降に新型コロナウイルス感染症の検査で陽性となった者とした。変異株症例1例に対し、非変異株症例1例を選定した。但し、症状悪化等で入院を要した症例は除いた。

変異株症例は、令和3年1月17日までに空港検疫における入国時の新型コロナウイルス感染症検査で変異株陽性と診断された者とした。

非変異株症例の選定にあたっては、次の条件をすべて満たす者とした。

  1. 新型コロナウイルス陽性(空港検疫の入国時検査)
  2. 変異株症例と同じ年齢層(20歳未満、20歳以上60歳未満、60歳以上)
  3. 変異株症例と同じ性別
  4. 変異株症例と同じ地域の国籍(欧州、中東、北米、中・南米、アジア、オセアニア、アフリカ)
  5. 変異株症例診断日±30日に診断
検体の選定及び検査方法(PCR)

宿泊療養施設での待機期間中に採取された検体のうち、唾液検体でありかつ検体採取日が、診断日から0日、7±1日、10±1日、14±1日である検体を対象とした。RNAは唾液検体200 µLからMagMax CORE Nucleic Acid Purification Kit (Applied Biosystems)を用いて自動核酸抽出機(KingFisher Flex)により調製した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしてQuantiTect Probe RT-PCR Kit (Qiagen)を用いてリアルタイムPCRによりCq値を測定し、ウイルスRNAのコピー数は500×2 基準Cq値-計測Cq値として算出した。陰性と判定された検体のCq値は45とした。

検体の選定及び検査方法(分離試験)

宿泊療養施設での待機期間中に採取された検体のうち、空港検疫で測定されたCq値が34未満かつ検体採取日が、診断日から10日以降である検体を対象とした。検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無について評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。

 

【結果】

PCR検査

令和3年3月25日までに空港検疫から集められた対象者数は、61例(うち変異株症例32例、非変異株症例29例)であった(表)。変異株症例数と非変異株症例数が異なるのは、マッチング症例がいなかった、唾液検体がなかった、検体が入手困難であった等の理由によるものであった。検査対象となった検体数は、137件(変異株87件、非変異株51件)であった(表)。137検体中、Cq値が測定可能であった検体数は113件(変異株70件、非変異株43件)、陰性判定された検体は24件(変異株17件、非変異株7件)であった。変異株の内訳は、26例(VOC-202012/01)、2例(501Y.V2)、4例(501Y.V3)であった。変異株において、新型コロナウイルス感染症症状を発症した者(発症者)は21例、無症状者は11例、非変異株において、発症者は12例、無症状者は17例であった。発症の有無にかかわらず、変異株症例、非変異株症例での年齢の違いは認められなかった(表)。

変異株症例と非変異株症例のウイルスRNAコピー数の比較を行ったところ、診断日当日(診断後0日)で差を認めた(p値:Mann-Whitney検定0.007、Wilcoxonの符号付順位検定0.02)が、診断後7日の時点では同程度であった(p値:Mann-Whitney検定0.31、Wilcoxonの符号付順位検定0.93)(図1)。

発症の有無で層別化し、変異株及び非変異株の診断後14日までのウイルスRNAコピー数の変化を検討した(図2)。但し、非変異株については診断後10±1日以降の検体はなかった。診断後の変異株及び非変異株のウイルスRNAコピー数は症状の有無にかかわらず、減少傾向であった。

次に、診断後のウイルスRNAコピー数の経時的変化を症例毎に変異株と非変異株で比較を行った(図3)。発症した変異株症例では、診断後0日のウイルスRNAコピー数が107 copies/反応を超えるものもあった(中央値(四分位範囲):変異株26,538 copies/反応(2,376-331,199 copies/反応)、非変異株1,518 copies/反応 (461-9,425 copies/反応))。また、診断後7±1日のウイルスRNAコピー数は、非変異株症例の9割(7/8件)の検体が103 copies/反応未満であったのに比べ、変異株症例では約半数(8/15件)の検体が103 copies/反応以上であった(中央値(四分位範囲):変異株1,366 copies/反応(0-7,727 copies/反応)、非変異株92 copies/反応 (13-493 copies/反応))。診断後10±1日については、すべての変異株症例の検体で103 copies/反応未満となった(中央値(四分位範囲):変異株29 copies/反応(3-165 copies/反応)。無症状症例では、変異株症例と非変異株症例のウイルスRNAコピー数に明らかな経時的変化の違いは認められなかった。

分離試験

令和3年3月25日までに空港検疫から集められた検体のうち、検査対象となった検体は、9症例(うち男性7例)、20件(すべてVOC-202012/01)であった。年齢中央値(範囲)は39(5-60)歳、発症者は6例、無症状者は3例であった。検体採取日の中央値(範囲)は、診断後14(10-20)日であった。また、上記PCR検査の対象でもあった8例のウイルスRNAコピー数の中央値(範囲)は560 copies/反応 (107-3,506 copies/反応)であった。ウイルス分離試験の結果は、いずれも陰性であった。

 

【考察】

変異株症例と非変異株症例のウイルスRNAコピー数の比較を行ったところ、診断後0日では変異株症例のウイルスRNAコピー数が多かったが、診断後7日の時点では明らかな違いは認めなかった。発症の有無で層別化して、変異株症例と非変異株症例におけるウイルスRNAコピー数の経時変化を検討したところ、変異株症例は非変異株症例と同様に症状の有無に関わらず経時的にウイルスRNAコピー数は減少した。

発症した変異株症例は、発症した非変異株症例に比較して、診断時のウイルスRNAコピー数が多く、診断後7日においても、103 copies/反応を超えるウイルスRNAコピーを排出している症例が多く認められた。診断後7日の時点で、ウイルスRNAコピー数が依然として高い症例が少なからずいることに注意が必要である。しかし、診断後10日には、ウイルスRNAコピー数は103 copies/反応以下と少なくなっていた。

また、診断後10日以降の検体におけるウイルス分離試験はいずれも陰性であり、ウイルスRNAコピー数が比較的保たれている検体においても感染性を保持したウイルスの量は限定的であると考えられた。

本調査の制限として、入院を要した症例が含まれておらず、無症状者及び軽症者が調査対象であったこと、PCR検査は唾液検体のみでの検討であること、非変異株症例では検体採取が診断後10日以降は行われておらず、変異株症例との比較ができなかったことがあげられる。また、今回、発症日が不明の症例が多数存在しため、診断日を基準として検討をおこなった。また、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことに注意が必要である。また本稿は中間解析結果の報告であり、解析対象としたサンプル数が限定的である。引き続き症例及び検体を収集し詳細な評価を行う予定である。

 

20210409Covid_table1.png

20210409Covid_fig1.png

 

20210409Covid_fig2.png 

 20210409Covid_fig3.png

謝辞:調査にご協力いただいた厚生労働省、成田空港検疫所、羽田空港検疫所、関西空港検疫所の皆様に感謝いたします。

 

引用文献
    1. 野本ら,新型コロナウイルスVOC-202012/01感染者の陰性確認完了までに要した日数とCq値の推移に関する考察, IASR 速報掲載日2021年4月2日,https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10270-495p02.html.

 

注意事項

      • 迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。

更新履歴

2021/04/09 第1報 図表掲載
2021/04/09 第1報 掲載

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan