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2021年11月9日

端緒

新型コロナウイルス感染症のワクチン開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた1-3。国内外で緊急使用許可や製造販売承認を受け、実社会におけるワクチン導入初期の有効性(vaccine effectiveness)も海外で評価されており、ランダム化比較試験と同等の有効性を認めた4-5。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、症例対照研究(test-negative design)6を実施しており、この暫定報告の第一報では、国内においても高い有効性が示された7。しかし、前回報告では、B.1.1.7系統(アルファ株)からB.1.617.2系統(デルタ株)の置き換わり期であったため8、デルタ株に対する有効性については更なる検討が必要であった。そこで、今回は、関東において月初めにはデルタ株が9割以上を占め、月末にはほぼ全ての検出株がデルタ株であった8月の調査における暫定結果を報告する。

方法

2021年8月1日から8月31日までに関東の7ヶ所の医療機関の発熱外来等を受診した成人を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含むアンケートを実施した。除外基準である未成年者、意識障害のある者、日本語でのアンケートに回答できない者、直ちに治療が必要な者、本アンケート調査に参加したことのある者には調査参加の打診を行わなかった。のちに各医療機関で新型コロナウイルス感染症の診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類した。発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析を行うこととした。

ワクチン接種歴については、未接種、1回接種のみ、2回接種の3つのカテゴリーに分けた。また接種後の期間を考慮するため、未接種、1回接種後13日目まで、1回接種後14日から2回接種後13日目まで(partially vaccinated)、2回接種後14日以降(fully vaccinated)の4つのカテゴリーに分けた。ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比と95%信頼区間(CI)を算出し、ワクチン有効率は(1-オッズ比)×100%で推定した。多変量解析における調整変数としては、先行研究等を参照し、年齢、性別、基礎疾患の有無、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1ヶ月の新型コロナウイルス検査の有無をモデルに組み込んだ。ワクチン有効率においては、多変量解析から得られた調整オッズ比を使用した。ワクチン接種歴等について、欠損値のある者は本解析では除外したが、ワクチン接種歴の欠損を未接種として感度分析も行った。

本調査は国立感染症研究所および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された(国立感染症研究所における審査の受付番号1277)。

結果

関東の7医療機関(うち6医療機関は東京都)において、発熱外来等を受診した成人1867名が本調査への協力に同意した。うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した78名、症状のなかった436名を除外して解析した(図1)。

61 fig1

図1.フローチャート

*37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状

 

解析に含まれた1353名(うち陽性636名(47.0%))の基本特性を表1に示す。年齢中央値(範囲)34(20-93)歳、男性658名(48.6%)、女性695名(51.4%)であり、何らかの基礎疾患を346名(25.6%)で有していた。また、ワクチン接種歴については表2に示しており、未接種者は858名(64.9%)、1回接種した者は212名(16.0%)、2回接種した者は252名(19.1%)であった(欠損31名を除く)。なお、ワクチン接種歴のある464名中、回答のなかった20名を除いて185名(41.7%)がワクチン接種記録書等の原本や写真等を携帯しており、259名(58.3%)はカレンダーや手帳を見ながらアンケートを回答した。

 

表1.研究対象者の基本属性

 

全体 (n=1353)

n (%)

検査陽性者 (n=636)

n (%)

検査陰性者 (n=717)

n (%)

年齢

20代

504 (37.3)

251 (39.5)

253 (35.3)

30代

365 (27.0)

157 (24.7)

208 (29.0)

40代

259 (19.1)

132 (20.8)

127 (17.7)

50代

148 (10.9)

74 (11.6)

74 (10.3)

60代

46 (3.4)

14 (2.2)

32 (4.5)

70代以上

31 (2.3)

8 (1.3)

23 (3.2)

性別

男性

658 (48.6)

353 (55.5)

305 (42.5)

女性

695 (51.4)

283 (44.5)

412 (57.5)

基礎疾患*あり

 

346 (25.6)

139 (21.9)

207 (28.9)

発症〜検査(日)**

 

2 (1-3)

2 (1-3)

2 (1-3)

濃厚接触歴あり(欠損45)

 

360 (27.5)

194 (31.8)

166 (23.8)

過去1ヶ月間の新型コロナウイルスの検査あり(欠損35)

 

231 (17.5)

102 (16.5)

129 (18.4)

*高血圧、心臓病、糖尿病、肥満、腎臓病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肥満、がん、免疫不全、免疫抑制剤使用中
**中央値(四分位範囲)

 

表2.研究対象者のワクチン接種歴

 

全体

n (%)

検査陽性者

n (%)

検査陰性者

n (%)

ワクチン接種歴(欠損31)

なし

858 (64.9)

498 (80.3)

360 (51.3)

1回

212 (16.0)

84 (13.5)

128 (18.2)

2回

252 (19.1)

38 (6.1)

214 (30.5)

ワクチンの種類(接種歴ありのみ;欠損4)

ファイザー

237 (51.5)

72 (60.5)

165 (48.4)

モデルナ

218 (47.4)

46 (38.7)

172 (50.4)

種類不明

5 (1.1)

1 (0.8)

4 (1.2)

接種間隔(2回接種歴ありのみ;欠損44)*

 

26 (21-28)

22 (21-28)

27 (21-28)

ワクチン1回目接種から検査までの日数(欠損46(うち接種月まで判明37名))*

 

29 (13-49)

12 (7-31)

36 (18-52)

ワクチン2回目接種から検査までの日数(欠損30(うち接種月まで判明24名))*

 

20 (11-36)

20 (10-39)

20 (12-36)

*中央値(四分位範囲)

 

ワクチン接種歴を接種回数別で3つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した。未接種者を参照項とする調整オッズ比は、1回接種者では0.47 (0.34-0.66)、2回接種者では0.13 (0.09-0.20)であった(表3(a))。次に接種後の期間ごとに検討したところ、1回接種13日目までの調整オッズ比は1.06 (0.69-1.63)、1回接種14日以降2回接種13日まで(partially vaccinated)およびワクチン2回接種14日以降(fully vaccinated)では、それぞれ0.16 (0.10-0.24)、0.13 (0.08-0.21)であった(表3(b))。ワクチン接種歴不明例・接種日不明例は主解析では対象から除外したが、未接種として解析に含めた場合でも調整オッズ比は同様であった。

 

表3.ワクチン接種歴ごとの感染のオッズ比(未接種者との比較)

(a) 接種回数別

 

検査陽性者

n

検査陰性者

n

オッズ比

(95%信頼区間)

調整オッズ比*

(95%信頼区間)

未接種

498

360

1

1

1回接種

84

128

0.47 (0.35-0.64)

0.47 (0.34-0.66)

2回接種

38

214

0.13 (0.09-0.19)

0.13 (0.09-0.20)

 

(b) 接種からの期間別

 

検査
陽性者

n

検査
陰性者

n

オッズ比

(95%信頼区間)

調整オッズ比*

(95%信頼区間)

未接種

498

360

1

1

1回接種13日目まで

62

43

1.04 (0.69-1.57)

1.06 (0.69-1.63)

1回接種14日以降2回接種13日まで(partially vaccinated)

31

147

0.15 (0.10-0.23)

0.16 (0.10-0.24)

2回接種14日以降
(fully vaccinated)

23

142

0.12 (0.07-0.19)

0.13 (0.08-0.21)

*年齢、性別、基礎疾患の有無、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1ヶ月の新型コロナウイルス検査の有無で調整

 

調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出したところ、1回接種14日以降2回接種13日まで(partially vaccinated)では84%(95%CI 76-90%)、2回接種では87%(95%CI 80-91%)、ワクチン2回接種14日以降(fully vaccinated)では87%(95%CI 79-92%)であった。

 

表4.ワクチン有効率(暫定値)

 

有効率(95%信頼区間)

1回接種13日目まで

-6 (-63-31)

ワクチン1回接種(接種からの期間を問わない)

53 (34-66)

1回接種14日以降2回接種13日まで(partially vaccinated)

84 (76-90)

ワクチン2回接種(接種からの期間を問わない)

87 (80-91)

ワクチン2回接種14日以降(fully vaccinated)

87 (79-92)

考察

本報告では2021年8月のデルタ株流行期におけるワクチンの有効性を検討した。前回のアルファ株からデルタ株の置き換わり期の報告と同様に、デルタ株流行期における現時点で承認されているワクチンの新型コロナウイルス感染症の発症に対する高い有効性が示され、デルタ株に対しても極めて有効であることが示唆された。また、前回同様、1回接種13日目までは有効性が認められず、それ以降では、接種回数・(短期的には)接種からの期間が長くなるにつれて有効率が高くなる傾向が見られた。諸外国の報告としては、米国からの報告では、ファイザー社製の新型コロナワクチン(BNT162b2)2回接種7日後から1ヶ月間のデルタ株による感染に対する有効率は93%(95% CI 85-97%)9、英国からの報告では、接種間隔が最大12週間とわが国とは異なるものの、BNT162b2を2回接種後の有効率は88.0%(95%CI 85.3-90.1%)であり10、同等の結果となっている。なお、諸外国や本報告の通り、新型コロナワクチンの有効性は100%ではない、つまりブレイクスルー感染は起こりうるため、適切な感染対策を継続することが重要である。

本調査はあくまでも迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であり、今後もより詳細な解析を適宜行い、免疫減衰や感染対策の緩和の影響等をみていくために、経時的に評価していくことが重要である。

制限

本調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。特にワクチン接種歴については、ワクチン接種記録書等の原本や写真を携帯している者は4割程度であり、カレンダーや手帳をみながら回答する者が多かった。2つ目の制限として、ワクチン接種歴等について欠損値のある者は本解析では除外している。ただ、ワクチン接種歴の欠損を未接種として解析に含めた場合でもオッズ比は同様であった。3つ目の制限として、今回の調査はアンケートに回答可能な軽症例を対象としており、無症状病原体保有者・中等症例・重症例・死亡例における有効性を評価しておらず、ワクチンの種類ごとの有効性は評価していない。4つ目の制限として、本研究では陽性例についてウイルスゲノム解析を実施していない。ただし、デルタ株流行期における解析であり大部分はデルタ株への感染であったとの想定のもとで実施している。最後に、本報告で示したのは短期的な有効性であり、免疫の減衰を示す海外の報告も複数あり9, 11-12、中長期的な有効性については今後調査を継続していくのが重要である。

参考文献

  1. Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. doi:10.1056/NEJMoa2034577
  2. Baden LR, El Sahly HM, Essink B, et al. Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416. doi:10.1056/NEJMoa2035389
  3. Voysey M, Clemens SAC, Madhi SA, et al. Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet. 2021;397(10269):99-111. doi:10.1016/S0140-6736(20)32661-1
  4. Dagan N, Barda N, Kepten E, et al. BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting. N Engl J Med. 2021;384(15):1412-1423. doi:10.1056/NEJMoa2101765
  5. Pilishvili T, Fleming-Dutra KE, Farrar JL, et al. Interim Estimates of Vaccine Effectiveness of Pfizer-BioNTech and Moderna COVID-19 Vaccines Among Health Care Personnel - 33 U.S. Sites, January-March 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70(20):753-758. Published 2021 May 21. doi:10.15585/mmwr.mm7020e2
  6. Sullivan SG, Feng S, Cowling BJ. Potential of the test-negative design for measuring influenza vaccine effectiveness: a systematic review. Expert Rev Vaccines. 2014;13(12):1571-1591. doi:10.1586/14760584.2014.966695
  7. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第一報).国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10614-covid19-55.html
  8. 厚生労働省.アドバイザリーボード資料.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000843175.pdf
  9. Tartof SY, Slezak JM, Fischer H, et al. Effectiveness of mRNA BNT162b2 COVID-19 vaccine up to 6 months in a large integrated health system in the USA: a retrospective cohort study. Lancet. 2021;398(10309):1407-1416. doi:10.1016/S0140-6736(21)02183-8
  10. Lopez Bernal J, Andrews N, Gower C, et al. Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2 (Delta) Variant. N Engl J Med. 2021;385(7):585-594. doi:10.1056/NEJMoa2108891
  11. Chemaitelly H, Tang P, Hasan MR, et al. Waning of BNT162b2 Vaccine Protection against SARS-CoV-2 Infection in Qatar. N Engl J Med. 2021;NEJMoa2114114. doi:10.1056/NEJMoa2114114
  12. Goldberg Y, Mandel M, Bar-On YM, et al. Waning Immunity after the BNT162b2 Vaccine in Israel. N Engl J Med. 2021;10.1056/NEJMoa2114228. doi:10.1056/NEJMoa2114228

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