印刷

 

令和4年2月18日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

【背景・目的】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている (1)

国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴の報告は限られている(2) (3)。そのため、国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴を迅速に把握することを目的として、検疫及び国内にて、初期に探知されたオミクロン株症例について積極的疫学調査を行った。第4報の疫学的・臨床的特徴の報告書では、第4報の報告時点で収集できた122例の日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を記述的に初めて明らかにした(4)。本報告書では積極的疫学調査で収集した全てのSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による報告を行う。本調査実施時期は、国内における新型コロナワクチン接種率が高く、ワクチン接種者(新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者をワクチン接種者と定義)と未接種者(ワクチン接種者と定義された以外の者)の属性等が異なることから2者を分けてオミクロン株の疫学的・臨床的特徴の記述を行う。なお、本調査はワクチンの有効性等について評価することはできない。

本調査は、厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づいて行われた。

【方法】

対象症例
以下の条件を全て満たすものとした。
  1.   1.2021年11月29日から2022年1月12日までに本積極的疫学調査協力医療機関に入院し診療を行った感染者
  2.   2.ゲノム解析によりB.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が確定した感染者
調査方法

対象症例の退院後に調査票を用いて以下の情報を収集し、疫学的記述を行った。

  1.   1.基本情報
  2.   2.渡航情報
  3.   3.新型コロナウイルスワクチン接種歴
  4.   4.基礎疾患
  5.   5.入院時のバイタルサイン、臨床症状
  6.   6.入院時の検査所見
  7.   7.入院期間中に観察された臨床症状
  8.   8.合併症
  9.   9.入院中の治療
  10.   10.入院経過・退院時転帰

【結果】

調査対象は139例で、男性91例(65.5%)であった。年齢の中央値(範囲)は33(0-81)歳で、40代27例(19.4%)、20代27例(19.4%)、30代26例(18.7%)の割合が多かった。60代以上は13例(9.4%)であった。検疫法による入院が88例(63.3%)、感染症法による入院が51例(36.7%)であった。出身国は日本が最多であった(107例[77.0%])。BMIの中央値(四分位範囲)は22.3 (19.1-25.3) kg/m2で、33例(23.7%)に喫煙歴、73例(52.5%)に飲酒歴を認めた。99例(71.2%)に発症前14日以内に海外への渡航歴があり(述べ109カ国)、主な渡航国(トランジットを除く)の内訳は、米国(36例、33.0%)、英国(13例、11.9%)、ケニア(7例、6.4%)、ナイジェリア(7例、6.4%)が多かった。55例(39.6%)に発症前14日以内のCOVID-19確定例もしくは疑い例との濃厚接触歴を認めた。主な接触歴の内訳は、家族24例(43.6%)、航空機の機内8例(14.5%)、職場8例(14.5%)、友人5例(9.1%)であった。35例(25.2%)に発症前14日以内の同居家族以外での集団での飲食歴、20例(14.4%)にいわゆる3密空間への滞在歴を認めた。発症から入院までの期間の中央値(四分位範囲)は、3(2-4)日であった。ワクチン接種歴は3回3例(2.2%)、2回86例(61.9%)、1回4例(2.9%)、接種なし46例(33.1%)であった。ワクチンの種類は、3回接種者は、2例が1回目と2回目アストラゼネカ製、3回目ファイザー製、1例が1回目ジョンソン・エンド・ジョンソン製、2回目と3回目ファイザー製であった。2回接種者は、ファイザー製49例(57.0%)、武田/モデルナ製28例(32.6%)、アストラゼネカ製6例(7.0%)、不明3例(3.5%)、1回接種者はジョンソン・エンド・ジョンソン製3例、武田/モデルナ製が1例であった。年齢について、ワクチン接種者(89例)は20~40代が多かったが、未接種者(50例)は10歳未満が16例(32%)と多くを占めた。ワクチン接種者は発症14日以内に海外渡航歴があり検疫法で入院加療している傾向が認められた(表1)。

5例(3.6%)に過去のSARS-CoV-2感染歴が認められた。139例において、何らかの基礎疾患を有した症例は30例(21.6%)であり、高血圧(17例、12.2%)、脂質異常症(11例、7.9%)、肥満(6例、4.3%)の頻度が多かった。ワクチン接種者は、年齢が未接種者より高く、何らかの基礎疾患を有する傾向が認められた(表2)。

入院時の体温、脈拍数、呼吸数の中央値(四分位範囲)は、それぞれ36.8 (36.5-37.2)℃、 86 (77-98)回/分、 18 (16-20)回/分で、入院時に1例が酸素2L/分の投与が必要で、酸素飽和度の中央値(範囲)は98 (95-100)%であった。入院時に106例(76.3%)が何らかの症状を認めていた。一方、入院時の無症状者は33例(23.7%)で、うち5例が入院後に何らかの症状を認めた。COVID-19診断による入院時の主な症状は、咳嗽(64例、46.0%)、咽頭痛(47例、33.8%)、37.5℃以上の発熱(43例、30.9%)、鼻汁(25例、18.0%)で、味覚障害は1例(0.7%)、嗅覚障害は1例(0.7%)に認めた。入院時に139例のうち、124例が胸部レントゲン検査もしくはCT検査を受けて、7例(5.6%)に肺炎像(胸部レントゲン検査3/108例[2.8%]、胸部CT検査5/45例[11.1%])を認めた。入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内で、白血球数の中央値(四分位範囲)は5,100(3,900-6,400)/µLで、CRPの中央値(四分位範囲)は0.4 (0.1-1.1) mg/dLであった(表3)。

139例中26例(18.7%)にCOVID-19への直接的な効果を期待して治療介入が行われ、113例(81.3%)が対症療法のみであった。治療介入の内容は、ソトロビマブ19例(13.7%)、レムデシビル4例(2.9%)、カシリビマブ/イムデビマブ3例(2.2%)、ステロイド1例(0.7%)であった。抗菌薬投与は3例(2.2%)に、抗血栓・抗凝固療法は4例(2.9%)に行われた。入院期間中に1例(0.7%)が酸素投与(2L/分)を行われた。ICUでの加療や、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)の使用といった重症治療を受けた者は認めなかった。年齢がより高い接種者においては、COVID-19への直接的な効果を期待して治療介入が行われる傾向が認められた。酸素投与が行われた1例は基礎疾患を有する80代のワクチン未接種者であった(表4)。

全入院期間の中央値(四分位範囲)は11(9-14)日であった。細菌性肺炎や急性呼吸切迫症候群(ARDS)の合併例は認めなかった。発症から退院までの期間に観察された主な症状は、咳嗽(79例、56.8%)、37.5℃以上の発熱(78例、56.1%)、咽頭痛(58例、41.7%)、鼻汁(45例、32.4%)で、味覚障害は10例(7.2%)、嗅覚障害は8例(5.8%)に認めた。なお、28例(20.1%)が退院まで無症状で経過した。133例(95.7%)が自宅退院し、4例(2.9%)が医療機関へ転院し、2例(1.4%)が医療機関以外の施設へ入所した。ワクチン接種者、未接種者ともに死亡例は認めなかった(表5)。
 

【考察】

調査対象の年齢層の中心は比較的若年層で、89例(64.0%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(109例[78.4%])であった。多くの症例に発症前14日以内に海外への渡航歴があり、55例(39.6%)に発症前14日以内のCOVID-19確定例もしくは疑い例との濃厚接触歴を認めた。入院時に124例が胸部レントゲン検査もしくはCT検査を受けて、7例(5.6%)に肺炎像を認めた。入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。基礎疾患(高血圧症と脂質異常症)を有するワクチン未接種の80代男性1例に対して酸素投与(2L/分)が行われた。ワクチン接種者、未接種者ともに、重症例は認めず、死亡例も認めなかった。

【制限】

本調査には複数の制限がある。本調査の対象は、積極的疫学調査協力医療機関で入院診療を行ったゲノム解析によるオミクロン株確定例の初期の患者であり、ゲノム解析で確定診断できていない疑い例は調査対象にしていない。2つ目に、調査期間中に、オミクロン株確定症例の入退院基準の変更が、知見や状況に合わせて行われている。当初、原則全例入院の上、退院基準として、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていたが、2022年1月5日、ワクチン接種者においては、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取扱いとすることとなった(5)。また、自宅等の療養体制が整った自治体における感染急拡大時の対応として、医師が入院の必要が無いと判断した無症状病原体保有者や軽症者については、他の新型コロナウイルス感染症患者と同様に、宿泊療養・自宅療養とすることとして差し支えなくなった(6)。さらに、1月14日、ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとすることとなった(7)。これらの入退院基準の変遷を本調査では考慮していない。3つ目に、国内で早期に探知された症例は、比較的若年層であり、基礎疾患を有する者が少なかった。このため、本調査結果のみで、COVID-19の重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者における重症化リスクを評価することは困難である。なお、13例(9.3%)の60歳以上では、7例(53.8%)に何らかの基礎疾患があり、11例(84.6%)がワクチン2回以上接種しており、全例有症状であった。11例(84.6%)にCOVID-19への直接的な効果を期待して治療介入が行われ、10例(76.9%)にソトロビマブが投与された。ワクチン未接種の40例においては、80代男性1例に対して酸素投与(2L/分)が行われた患者を認めたが、重症例や死亡例も認めなかった。4つ目に、本調査は初期に探知された症例から収集された情報のため、検疫法による入院が多く含まれており、国内流行の疫学的特徴(年齢、性別、ワクチン接種歴、渡航歴、接触歴等)とは異なる可能性が高い。5つ目に、国内におけるワクチン接種率が高い時期であることと、本調査の医療機関への業務負担を考慮し、接種者は2021年12月24日までの新規入院患者分まで収集した。一方、未接種者は稀で、情報を集めることが困難であったため、2022年1月12日新規入院分まで継続した。6つ目に、日本で初期に確認されたオミクロン株を対象としたため、ワクチン接種者には検疫法での入院例が多く含まれ、ワクチン未接種者には小児例が多く含まれることとなった。なお、本調査は、ワクチン接種歴を考慮した上でのワクチン接種者と未接種者それぞれの疫学的・臨床的特徴の把握を目的としており、これら2者の比較を目的として行われたものではない。

【結論】

本調査では、積極的疫学調査で収集した139例の日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を、ワクチン接種者と未接種者に分けて記述的に明らかにした。ワクチン接種者、未接種者ともに、重症化した症例や死亡した症例は認めなかった。

【注意事項】

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。

【謝辞】

本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

大阪市立総合医療センター、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立大学法人千葉大学医学部附属病院、国立病院機構沖縄病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、常滑市民病院、成田赤十字病院、横浜市立市民病院、りんくう総合医療センター(五十音順)

【引用文献】

  1.   1.World Health Organization. Classification of omicron (B1.1.529): SARS-CoV-2 variant of concern.
    https://www.who.int/news/item/26-11-2021-classification-of-omicron-(b.1.1.529)-sars-cov-2-variant-of-concern.
  2.   2.Maruki T, Iwamoto N, Kanda K, et al. Two cases of breakthrough SARS-CoV-2 infections caused by the Omicron variant (B.1.1.529 lineage) in international travelers to Japan. Clin Infect Dis 2022:ciab1072. doi: 10.1093/cid/ciab1072.
  3.   3.Okumura N, Tsuzuki S, Saito S, et al. The first eleven cases of SARS-CoV-2 Omicron variant infection in Japan: A focus on viral dynamics. Glob Health Med 2021. doi: 10.35772/ghm.2021.01124.
  4.   4.国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第4報): 疫学的・臨床的特徴
  5.   5.B.1.1.529 系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて(令和3年11月30日(令和4年1月5日一部改正)付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf
  6.   6.新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について(令和4年1月5日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000876462.pdf
  7.   7.B.1.1.529 系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて(令和3年11月30日(令和4年1月14日一部改正)付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000881572.pdf

 

table1

 

table2

 

table3 1

 

table3 2

 

table4

 

table5

 

発出元

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan