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2022年2月18日

はじめに

2020(令和2)年12月9日に予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律(令和2年法律第75号)が公布、施行され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は臨時接種対象疾病に位置付けられた。予防接種法に基づく接種後に副反応を疑う症状が見られた場合、医療機関の開設者又は医師等は、厚生労働大臣(送付先は医薬品医療機器総合機構)に、予防接種後副反応疑い報告(以下、副反応疑い報告)を行うことが義務づけられている[1]。

国立感染症研究所が毎月公表している「新型コロナワクチンについて」で示してきたように、先行して接種が進んだイスラエルや米国、欧州から、ファイザー製あるいはモデルナ製のmRNAワクチン接種後に心筋炎・心膜炎(以下、心筋炎関連事象)を呈した例が報告され[2]、特に若年男性の2回目接種後に頻度が高いと報告されている[3]。

我が国において、予防接種後心筋炎関連事象に係る評価・分析については、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同開催(以下、合同部会)において審議がなされている。予防接種法に基づいて医療機関等から報告された予防接種後副反応疑い報告は製造販売業者に情報提供され、製造販売業者は更に詳細な調査を実施している。その結果、製造販売業者により重篤と判断された場合には、薬機法に基づいて厚生労働大臣(送付先は医薬品医療機器総合機構)に報告される。製造販売業者の調査による詳細な情報が付与された報告をもとに、合同部会において審議が実施されている。

本稿では、わが国において新型コロナワクチン接種が開始された2021年2月17日から同年10月24日(疫学週:第42週)までに、心筋炎関連事象を疑うとして報告された事例の特徴についてまとめた(以下、本稿では、心筋炎関連事象疑い事例の件数及び報告頻度について記述する)。なお、2021年11月12日に開催された合同部会で、この期間にファイザー製ワクチンは155,454,673回、モデルナ製ワクチンは30,632,541回、アストラゼネカ製ワクチンは64,713回の接種が実施されたことが報告された[4]。

報告症例の概要

2021年2月17日から同年10月24日(疫学週:第42週)までに、新型コロナワクチン接種後に医療機関等から報告された副反応疑い報告のうち、MedDRA PT(ver.24.1)におけるPreferred term (PT)名が「心筋炎」、「免疫性心筋炎」、「好酸球性心筋炎」、「巨細胞性心筋炎」、「心膜炎」、「自己免疫性心筋炎」、「胸膜心膜炎」、「自己免疫性心膜炎」を含む症例を心筋炎関連事象報告として集計した。総計255人(274件)が報告され、うちファイザー製接種後133人(147件)、武田/モデルナ(以下、モデルナ)製接種後122人(127件)、アストラゼネカ製接種後0件であった。心筋炎としてのPT名(心筋炎、免疫性心筋炎、好酸球性心筋炎、巨細胞性心筋炎)と、心膜炎としてのPT名(心膜炎、自己免疫性心筋炎、胸膜心膜炎、自己免疫性心膜炎)を重複して報告している症例が19人あった。報告例の症状内訳、性別、年齢、接種回数について表1に示した。既報と同様、若年男性、2回目接種後の報告割合が多かった。また、10~20代の男性については、ファイザー製ワクチン接種後よりモデルナ製ワクチン接種後の方が報告頻度が高かった。

表1: 新型コロナワクチン接種後に医療機関等から副反応疑いとして報告された心筋炎関連事象の概要(2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig7

次に、審議会資料[4]に基づいて作図した、被接種者年齢群別、製造販売業者別推定接種数を図1に示す。

図1: 被接種者年齢群別、製造販売業者別新型コロナワクチン推定接種回数(2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig1

ファイザー製は医療従事者ならびに高齢者への接種に、モデルナ製は職域接種に多く用いられたという被接種者層の背景を反映して、ファイザー製は高齢者、女性に多く、モデルナ製は20~50代の男性に多く使用されていることが確認された。

次に、100万回接種あたりの年齢群別・性別・接種回数別新型コロナワクチン接種後心筋炎関連事象の報告頻度を、製造販売業者別に示す(図2-1:ファイザー製、図2-2:モデルナ製、モデルナ製接種後の男性のみY軸のスケールが異なることに留意)。

図2-1: ファイザー製ワクチン100万回接種あたりの年齢群別・性別・接種回数別心筋炎関連事象の報告頻度(2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig2

図2-2: モデルナ製ワクチン100万回接種あたりの年齢群別・性別・接種回数別心筋炎関連事象の報告頻度(2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig3

図右に2回目接種後の心筋炎関連事象報告数を年代群別に、それぞれの性別の中に占める2回目接種の割合を括弧内に示した。2回目接種の割合は、男性でモデルナ製を接種した群における91.8%が最多であり、ファイザー製も男性の割合が多いものの、モデルナ製より頻度は低かった(67.1%)。心筋炎関連事象の報告頻度は、10-19歳群の男性でモデルナ製2回目接種後の102.1/100万回接種が最多であり、次いで20-29歳群の男性でモデルナ製2回目接種後の47.2/100万回接種であった。ファイザー製では、10-19歳男性の2回目接種後の15.4/100万回接種、次いで20-29歳群男性の2回目接種後の10.0/100万回接種であった。

次に、ワクチン接種後から心筋炎関連事象が発生するまでの日数についてワクチン別(図3-A)年齢群別(図3-B)に示す。

図3: 新型コロナワクチン接種から心筋炎関連事象発症までの日数(中央値、四分位範囲、A: ワクチン種別、B:年齢群別、2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig4

発症日不明の計4症例を除外した解析では、発症までの日数の中央値2日、四分位範囲2-4日であった。ファイザー製被接種者(130例、発症日不明3例除く)の発症日は中央値3日、四分位範囲2-7日、モデルナ製被接種者(121例、発症日不明1例除く)の発症日は中央値2日、四分位範囲2-3日であり、モデルナ製接種後のほうが発症までの日数が有意に短かった(unpaired t-test, p=0.0278)。また、40歳未満群(160例、発症日不明2例除く)の発症日は中央値2日、四分位範囲1-3日、40歳以上群(91例、発症日不明2例除く)の発症日は中央値4日、四分位範囲2-11日であり、40歳未満群のほうが発症までの日数が有意に短かった(unpaired t-test, p=0.0001)。

次に、心筋炎関連事象の報告時点の転帰について、表2及び図4に示す。

表2: 新型コロナワクチン接種後に医療機関等から副反応疑いとして報告された心筋炎関連事象の報告時点の転帰(2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig8

図4: 新型コロナワクチン接種後に医療機関等から副反応疑いとして報告された心筋炎関連事象の年齢群別、製造販売業者別報告時点の転帰と新型コロナワクチン推定接種回数(2021年2月17日~2021年10月24日)

75 fig5 75 fig6

高齢者の心筋炎関連事象報告はモデルナ製接種後には少なく、ファイザー製接種後に多い傾向があったが、これは高齢者への接種に用いられたワクチンの多くがファイザー製であったことを考慮する必要がある。死亡例は高齢者に多い傾向があり、転帰が確認された者のうち、軽快または回復が確認された者の割合(改善率)は、モデルナ製接種後のほうが高い傾向があった。これについても、被接種者の属性がモデルナ製は若年者に多く、ファイザー製は高齢者に多いことを考慮する必要がある。40歳で区切った年齢群間での比較では、40歳未満のほうが予後良好者が多く、全体としての改善率も80%を超えていた。

考察

わが国で新型コロナワクチンが導入されてから2021年10月24日までの約8か月の間に、新型コロナワクチン接種後に医療機関等から予防接種法に基づき副反応疑いとして総計255人(274件)の心筋炎関連事象の報告があった。報告頻度は、100万回接種あたりファイザー製0.9件、モデルナ製4.0件であり、10月21日公表の米国Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)資料[5]に基づく報告数の100万回接種あたり6.5件(mRNAワクチンとしてファイザー製、モデルナ製の総計として報告)と比べて報告頻度は低かった。ワクチン接種後に副反応を疑う事象が生じた際に、厚生労働大臣に報告されるまでの期間は医療機関等によって異なるが、接種から30日以内に当該事象が生じた場合に副反応疑いとして報告されると仮定して算出した発生頻度は、ファイザー製0.03件/100万人・日、モデルナ製0.13件/100万人・日であり、7日以内とした場合にはファイザー製0.13件/100万人・日、モデルナ製0.57件/100万人・日であった。これらは、厚生労働省の発表によるNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)における非ワクチン接種者の狭義の心筋炎関連事象の定義(急性心筋炎・急性心膜炎)の発生頻度0.14件/100万人・日と、広義の定義(放射線・癌性・慢性等を除く心筋炎・心膜炎)の発生頻度0.38件/100万人・日[4]と比較した場合、モデルナ製ワクチン接種後において、観察期間を7日間とした発生頻度が一般人口より高い結果となった。本検討でも明らかになったように、mRNAワクチン2回目接種後の10代、20代の男性に心筋炎関連事象の報告頻度が高いことから、この年代の男性に対して、厚生労働省のWebサイト(Q&A)やリーフレットによる情報の周知と、ワクチン接種後4日程度の間に胸痛や息切れ、動悸等の心筋炎関連事象を疑う症状が出現した場合の速やかな医療機関受診の重要性について、注意喚起が行われるようになった[6]。一方、COVID-19罹患後の心筋炎関連事象がCOVID-19による入院例のレジストリ研究(COVID-19 Registry JAPAN)から報告されている。2021年5月31日時点で15歳以上の症例100万人あたり男性1,048人、女性607人(このうち、15歳~40歳未満の男性100万人あたりの心筋炎関連事象数は834人)と報告され、ワクチン接種によりCOVID-19を予防する方がbenefitが大きいと考えられた。

2021年10月24日時点では、予防接種法施行規則第五条に規定され、因果関係の有無を問わず報告する症状としては、アナフィラキシー(接種後4時間以内)、血栓症(血栓塞栓症を含む。)(血小板減少症を伴うものに限る。)(接種後28日以内)の2つであった。これに加えて、医師が予防接種との関連性が高いと認める症状で、 入院治療を必要とするもの、 死亡、身体の機能の障害に至るもの、死亡若しくは身体の機能の障害に至るおそれのあるものは、報告が促されていたものの、心筋炎関連事象は予防接種法施行規則第五条には含まれていなかった。ワクチン接種が先行していたイスラエル等からは、国際的な副反応分類基準(Brighton分類)に基づいて診断の確からしさの分類を施行した上で、臨床的特徴のまとめが報告されている[7]。今回のまとめでは、ファイザー製ワクチン接種群において、接種から発症までの日数が長く、予後不良であった高齢者が多く報告されていたが、詳細な臨床症状、検査所見が不明であり、心筋炎関連事象はワクチン接種と無関係に発生する可能性がある疾患であること等から、報告された心筋炎関連事象とワクチンとの因果関係を検証することは困難であった。そこで、2021年12月3日開催の合同部会において、予防接種法施行規則第五条で規定される報告対象の症状に心筋炎、心膜炎(それぞれ接種後28日以内)を追加するとともに、Brighton分類に準じた調査票を導入し、より詳細な情報を収集する方針となった。

また、日本の副反応疑い報告は米国のVaccine Adverse Event Reporting System(VAERS)に相当し、自発的な有害事象報告による早期の探知と異常シグナルを検出することを目的としており、迅速な情報提供とその後の対応方針の決定に貢献できたと考えられるが、 ワクチンと有害事象の因果関係の検証はできない。今後は、特定のワクチンの接種群と非接種群における有害事象の発生率を比較し、 VAERSで検知した有害事象のシグナルが、 当該ワクチンと関連しているかを検証可能なVaccine Safety Datalink(VSD)のような制度整備が望まれている。しかしながら、新型コロナワクチンのように、接種率が極めて高いワクチンではワクチン非接種者を選択することが困難であり、ワクチン非接種者は接種を受けることができない基礎疾患を有するなど、対照として選択することが不適切な場合もある。そこで、わが国が実施しているような、ワクチン接種開始前(2019年以前)の疾患発症率をコントロールとして比較検討する方法も見直されるべきと考えられた。

参考文献

  1. 厚生労働省, 予防接種法に基づく医師等の報告のお願い.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou20/
    hukuhannou_houkoku/index.html.
  2. 国立感染症研究所, 新型コロナワクチンについて.https://www.niid.go.jp/niid/images/vaccine/
    covid19_vaccine_20210702.pdf.
  3. 国立感染症研究所, 新型コロナワクチンについて.https://www.niid.go.jp/niid/images/vaccine/
    covid19_vaccine_20211107.pdf.
  4. 厚生労働省, 第72回(11/12開催)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第22回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料.https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00034.html.
  5. ワクチン諮問委員会(ACIP)における米国疾病予防管理局(CDC)会議資料2021年10月21日,https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2021-10-20-21/07-COVID-Su-508.pdf.
  6. 厚生労働省, 10代・20代の男性と保護者の方へのお知らせ:新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について.https://www.mhlw.go.jp/content/000844011.pdf, 2021.
  7. Mevorach, D., et al., Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccine against Covid-19 in Israel. N Engl J Med, 2021. 385(23): p. 2140-2149.
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