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IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆直近の新型コロナウイルス感染症およびインフルエンザの状況(2021年3月12日現在)

 

新型コロナウイルス感染症:

 2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021年3月12日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で118,570,917例(2,629,522例)、194カ国・地域(集計方法変更:海外領土を本国分に計上)に広がった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17356.html)。

 国内では、厚生労働省により公表されている、各自治体がプレスリリースしている個別の症例数(再陽性例を含む)を積み上げた情報によると、2021年3月12日0時現在、新型コロナウイルス感染症の検査陽性者数は444,289例、死亡者数は8,451例と報告されている。累積のPCR検査実施人数は、暫定値として8,834,799例であった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17356.html)。全国の報告日別新規陽性者数は、2020年9月後半(第39週)より増加傾向に転じ、2021年第1週(1月4〜10日)42,882例をピークとして減少傾向であった。検査数も第3週(1月18〜24日)513,832件をピークとして減少傾向であった。しかし、第9週(3月1〜7日)は、新規陽性者数7,237例、検査数332,058例となり、第8週(2月22〜28日)のそれぞれ7,084例、293,275例に比べて微増した。検査陽性率(検査数に対する陽性者数の割合)は、2020年第53週10.9%(23,423/213,986)をピークとして、2021年第3週6.8%(34,897/513,832)以降減少に転じ、第8週は2.4%(7,084/293,275)であった。第9週の検査陽性率は、新規陽性者数が増加したが検査数も増加し、2.2%(7,237/332,058)と僅かに減少した(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)。

 COVID-19による全国の入院治療等を要する者の数の推移については(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1)、2020年10月20日(5,031例)以降は、継続して増加していたが、2021年1月18日(71,129例)をピークに減少に転じ、3月5日以降は横ばいである(2021年3月12日現在)。また、全国の入院治療等を要する者のうち重症者数においても、2021年1月26日(1,043例)をピークに減少が続いている(354例:3月11日現在)。しかし、第1波時の重症者数のピークであった2020年4月30日(328例)を上回っている(2021年3月12日現在)。同様に、日本COVID-19対策ECMOnetが集計するECMO/人工呼吸器装着数の推移(https://crisis.ecmonet.jp/)においても、感染者数の新たな増加に伴い、時間差をおいて2020年10月下旬から増加し、11月29日以降は4月と8月のそれぞれのピークを上回り、その後も増加を続けたが、2021年1月20日(623例)をピークに、減少傾向に転じた(2021年3月12日現在)。第9週は、第8週と比較して、検査陽性率は微減したものの、新規陽性者数は微増し、入院治療を有する者の数の減少傾向も鈍化した。在院中の重症患者数は、微減傾向であるものの、依然として多くの重症患者が入院しており、医療への負荷が懸念される地域が存在する。なお、重症患者数については、一部の都道府県においては、都道府県独自の基準にのっとって発表された数値を用いて算出されていることに注意する。また、全国的に、医療機関や介護施設等を含む集団感染(クラスター)の発生が継続して認められている。

 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株の感染者が世界各地から報告され、いくつかの国ではこれらの変異株による感染者の割合が上昇している。警戒を要する変異株としては、英国で最初に検出されたVOC-202012/01、南アフリカで最初に検出された501Y.V2、ブラジルからの帰国者において日本で最初に検出された501Y.V3が挙げられる。国内においても渡航歴のない者や、渡航者と疫学的関連がない者からの新規変異株感染者が報告されている。これらの変異株の検出には検査体制の拡充が不可欠であり、全国で整備が進みつつある。変異株が検出された症例への対応は、通常のSARS-CoV-2感染症例への対応と原則、同様であるが、広域事例を含め、積極的疫学調査によりクラスターを検出し対応していくことがより重要である。

 また、感染症発生動向調査(NESID)病原体サーベイランスには、医療機関、保健所等で採取された検体から、各都道府県市の地方衛生研究所、保健所、ならびに検疫所で検出された病原体の情報が陰性結果を含めて、任意ではあるが報告されている。2021年3月15日現在、地方衛生研究所および保健所から報告された、新型コロナウイルス感染症/新型コロナウイルス感染症疑い症例から検出された病原体は、SARS-CoV-2が14,946件、陰性が95,883件であった。これ以外にも検疫所で検出されたSARS-CoV-2が320件報告されている。

 2020年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、移行可能な自治体から順次、移行を実施し、現時点で全国の自治体で利用されている。厚生労働省においては、今後の統計情報の集計等については、HER-SYSに入力された情報に基づいて行うことを基本とするとしている。本稿では、HER-SYSに基づく情報は含めておらず、今後分析を行っていく予定である。

 

季節性インフルエンザ:

 全国約5,000のインフルエンザ定点より報告された、2021年第9週(2021年3月10日現在)の定点当たりのインフルエンザ報告数は0.01(患者報告数26)となり、前週の定点当たり報告数0.01(患者報告数46)と同程度であった。都道府県別の第9週の定点当たり報告数(報告数)では兵庫県0.03(報告数5)、島根県0.03(報告数1)、宮城県0.02(報告数2)、茨城県0.02(報告数2)、京都府0.02(報告数3)、高知県0.02(報告数1)、大分県0.02(報告数1)、沖縄県0.02(報告数1)、北海道0.01(報告数2)、静岡県0.01(報告数1)、愛知県0.01(報告数1)、大阪府0.01(報告数2)、広島県0.01(報告数1)、埼玉県0.00(報告数1)、東京都0.00(報告数1)、神奈川県0.00(報告数1)となっている。定点医療機関からの報告を基にした、定点以外を含む全国の医療機関をこの1週間に受診した患者数は約0.0万人(95%信頼区間:0〜0.0万人)となり、前週の推計値(約0.0万人)と同程度と推定された。また、全国約500の病原体定点からの報告による感染症発生動向調査(NESID)病原体サーベイランスにおける、インフルエンザウイルス分離・検出速報によると(https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html)、2020/21シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出報告において、2020年第43週、第44週の長崎県からの報告として、採取検体からAH1pdm09がそれぞれ1例ずつ、2021年第6週の山形県からの報告として、採取検体からAH3が2例検出された(2021年3月10日現在)。より重症な患者を反映する、全国約500カ所の基幹定点医療機関からのインフルエンザによる入院患者数(インフルエンザ入院サーベイランス)においては、2020年第36週1例、第40週1例、第41週1例、第42週4例、第43週1例、第44週4例、第45週4例、第46週9例、第47週2例、第48週5例、第49週3例、第50週5例、第51週2例、第52週6例、第53週9例、2021年第1週7例、第2週8例、第3週3例、第4週8例、第5週4例、第6週8例、第7週8例、第8週6例、第9週3例(2021年3月10日現在)が報告されており依然として少数であった。

 「感染症法に基づくサーベイランス」以外の情報においても、インフルエンザは低いレベルで推移しており、大きな増加傾向は見られていない。インフルエンザ様疾患発生報告数(全国の保育所・幼稚園、小学校、中学校、高等学校におけるインフルエンザ様症状の患者による学校欠席者数;https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-flulike.html)においては、2020年第36週以降、第37週に学年閉鎖1、第43週に学級閉鎖1、第44週に学級閉鎖1、2021年第6週に学年閉鎖1と学級閉鎖1、第7週に学年閉鎖1が報告された。「国立病院機構におけるインフルエンザ全国感染動向」〔国立病院機構141病院で、診察医師がインフルエンザ(疑いを含む)と仮診断した患者にインフルエンザ迅速抗原検査を実施した検査件数と陽性となった数の報告;https://nho.hosp.go.jp/cnt1-1_0000201804_00005.html〕のデータにおいては、2021年2月1〜15日では2,404件の検査のうち、インフルエンザ陽性は0件、2月16〜28日では1,744件の検査のうち、インフルエンザ陽性は0件と報告された。

 

 新型コロナウイルス感染症においては、2021年第1週以降、全国的には新規の検査陽性者数が減少に転じ、その後に検査陽性率、入院患者数、重症患者数も減少に転じていたものの、3月12日現在、それらの減少傾向は非常に緩やか、若しくは横ばいになってきている。一方、現在も多くの重症者が入院している。インフルエンザについては、例年のピーク時期にも増加を認めず、現在、複数の指標で依然として低いレベルで推移している。なお、国立感染症研究所で公開している2020/21シーズンのインフルエンザ流行レベルマップ(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html)は、2021年第9週(3月12日更新)を今シーズンにおける最終更新週とした。しかし、引き続き今後の状況に関する注視を行うとともに、変化が観測された際には国立感染症研究所ホームページ等で情報提供する。二つの感染症に共通する個人の予防策として、マスクの適切な使用、手洗い・手指衛生の徹底、適切な換気等の実施に努めていただきたい。

 

   国立感染症研究所 感染症疫学センター

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