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IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆直近の新型コロナウイルス感染症の状況(2021年5月21日現在)

 

 2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021年5月21日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で165,529,392例(3,430,363例)、194カ国・地域(集計方法変更:海外領土を本国分に計上)に広がった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18783.html)。

 国内では、厚生労働省により公表されている、各自治体がプレスリリースしている個別の症例数(再陽性例を含む)を積み上げた情報によると、2021年5月21日0時現在、新型コロナウイルス感染症の検査陽性者数は704,159例、死亡者数は12,046例と報告されている。累積のPCR検査実施人数は、暫定値として13,556,976例であった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18783.html)。2021年第4週(1月25〜31日)以降、全国の報告日別新規陽性者数、検査数、検査陽性率(検査数に対する陽性者数の割合)はいずれも減少傾向であったが、第10週(3月8〜14日)〜第18週(5月3〜9日)は、新規陽性者数、検査陽性率がともに増加した。第18週は、第17週(4月26日〜5月2日)と比べて、検査数(第18週:450,700、第17週:494,034)が減少したにもかかわらず、新規陽性者数が微増し(第18週:35,989、第17週:35,836)、検査陽性率が増加した(第18週:8.0%、第17週:7.3%)。一方、第19週(5月10〜16日)は、第18週と比べて、新規陽性者数(第19週:43,023)は増加したが、検査数(第19週:639,782)が大きく増加したため、検査陽性率(第19週:6.7%)は減少した(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)。

 COVID-19による全国の入院治療等を要する者の数の推移については(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1)、2021年1月18日(71,129例)をピークに、3月9日(11,581例)まで減少傾向であったが、3月10日〜5月15日は、再び増加した。一方、5月16日以降は減少し、5月21日0時現在の入院患者数は66,809例であった。また、全国の入院治療等を要する者のうち重症者数においても、2021年1月26日(1,043例)をピークに減少が続いていたが、3月26日(331例)以降増加傾向に転じた(1,294例:2021年5月21日0時現在。重症患者数については、一部の都道府県においては、都道府県独自の基準にのっとって発表された数値を用いて算出されているため、地域毎の比較には注意が必要である)。入院患者数とは異なり、重症患者数は、依然として増加傾向である(1,294例:5月21日0時現在)。日本COVID-19対策ECMOnetが集計するECMO/人工呼吸器装着数の推移(https://crisis.ecmonet.jp/)においては、3月下旬から継続して増加していたが、5月9日頃から高止まりで推移している(2021年5月21日現在)。

 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株の感染者が世界各地から報告され、これらの変異株による感染者の割合が上昇している。懸念される変異株としては、イギリスで最初に確認されたB1.1.7(VOC-202012/01)、南アフリカで最初に確認されたB.1.351(501Y.V2)、ブラジルで最初に確認されたP.1(501Y.V3)、フィリピンで最初に確認されたP.3、インドで最初に確認されたB.1.617が挙げられる。国内においても渡航歴のない者や、渡航者と疫学的関連がない者からの新規変異株感染者が報告されており、報告数と割合が多くの地域でともに増加傾向である。国内において、これまでに確認されているこれらの件数については、本号10ページ「国立感染症研究所および地方衛生研究所等における全ゲノム解析により確認されたVOC, VOI」を参照いただきたい。これらの変異株の検出には検査体制の拡充が不可欠であり、全国で整備が進みつつある。変異株が検出された症例を含む事例への公衆衛生上の対応は、通常のSARS-CoV-2感染症例への対応と原則、同様であるが、広域事例を含め、積極的疫学調査によりクラスターを検出し丹念に対応していくこと、面的な対応を強力に行うことが重要である。また、変異株に関する詳細な解析結果については、以下を参照いただきたい:「空港検疫所における新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第1報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10282-covid19-42.html、「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10279-covid19-40.html、「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第2報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/coronavirus/2019-ncov/2551-lab-2/10354-covid19-45.html

 また、感染症発生動向調査(NESID)病原体サーベイランスには、医療機関、保健所等で採取された検体から、各都道府県市の地方衛生研究所、保健所、ならびに検疫所で検出された病原体の情報が陰性の結果を含めて、任意ではあるが報告されている。2021年5月21日現在、地方衛生研究所および保健所から報告された、新型コロナウイルス感染症/新型コロナウイルス感染症疑い症例から検出された病原体は、SARS-CoV-2が17,548件、陰性が110,759件であった。これ以外にも検疫所で検出されたSARS-CoV-2が404件報告されている。

 2020年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、移行可能な自治体から順次、移行を実施し、現時点で全国の自治体で利用されている。

 新型コロナウイルス感染症は、全国的には3月以降継続して増加傾向であった新規陽性者数、検査陽性率、入院患者数、重症患者数、ECMO/人工呼吸器装着数が、2021年5月21日現在、異なる傾向を示している。引き続き、複数の情報源と指標を用いて、発生動向を注視する必要がある。また、個人の予防策として、マスクの適切な使用、手洗い・手指衛生の徹底、適切な換気等の実施に努めていただきたい。

 

   国立感染症研究所 感染症疫学センター

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