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新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第2報)

(速報掲載日 2021/6/18) (IASR Vol. 42 p148-150: 2021年7月号)
 
目 的

 本調査は、厚⽣労働省健康局結核感染症課名にて協⼒依頼として発出された、感染症法第15条第2項の規定に基づいた積極的疫学調査(健感発0315第3号、令和3年3月15日、https://www.mhlw.go.jp/content/000753875.pdf)に基づいて集約された、医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規変異株患者の疫学情報・臨床情報に関する報告である。第1報として、2021(令和3)年4月23日に記述疫学を報告した1)。第2報ではVOC-202012/01〔B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)〕における重症例と非重症例の臨床的特徴を比較検討した。

調査対象者

 以下の条件をすべて満たす者とした。

 (1)  2020年12月22日~2021年3月9日までに感染症法に基づくCOVID-19の届出がされた患者

 (2)   ゲノム検査が実施され、B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)、B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)のいずれかが確定した患者2)

 (3)  ゲノム検査結果がCOVID-19等情報把握・管理支援システム(Health Center Real-time Information-sharing System on COVID-19: HER-SYS)に報告された患者

 (4)   入院医療機関名がHER-SYSに報告された患者(調査期間中の新規変異株患者は原則入院対応)

 なお、重症例を「入院期間中にネーザルハイフローセラピーを必要とした、もしくは集中治療室(ICU)で治療を必要とした、もしくは死亡した」と定義した

統計学的手法

 重症例と非重症例における基本情報、基礎疾患、入院時の臨床症状・画像・検査所見、治療内容、合併症・予後などについて、連続変数はMann-Whitney U 検定を、カテゴリー変数はFisher's exact 検定を用いて単変量解析を行い、オッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を用いて示し、統計的有意性は両側のP値が<0.05の場合とした。

結 果

 調査期間中、全国で感染症法に基づくCOVID-19の届出がされた患者は242,373例で、うちゲノム検査でB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)、B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)のいずれかが同定・報告された患者が380例(0.16%)、そのうち入院医療機関名が判明した患者が112例(0.05%)であった。112例中110例(0.05%)から調査への協力が得られ〔回収割合:98.2%(110/112例)〕、B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)は105例(95.5%)であった。105例の性別は男性49例(46.7%)、年齢の中央値(四分位範囲)は40(26.5-66.0)歳であった。重症例は9例(8.6%)(ICUでの加療5例)、非重症例は96例(91.4%)であった。に統計学的有意であった主な結果を示す。

 重症例は、非重症例と比較して年齢が高く、65歳以上の高齢者を多く認めた(OR=13.3、95%CI=2.6-69.0)。また発症14日以内の同居家族以外での集団での飲食歴を多く認めた。重症例は何らかの基礎疾患を多く有しており(OR=11.8、95%CI=2.3-60.8)、基礎疾患のうち高血圧(OR=10.8、95%CI=2.5-46.7)と脂質異常症(OR=6.4、95%CI=1.3-31.0)を多く認めた。重症例は現在もしくは過去の喫煙歴も多く、発症から初診までの期間も長かった。

 入院時の臨床症状は、重症例は、倦怠感、呼吸困難、咽頭痛を多く認め、身体所見では呼吸回数が多く、酸素飽和度が低かった。入院時の画像所見では、重症例は胸部レントゲン写真で肺炎像を多く認めた(OR=5.6、95%CI=1.1-29.7)。入院時の血液検査所見では、重症例は非重症例と比較して、CRP、BUN、クレアチニン、AST/GOT、LDH、D-ダイマーが高く*、アルブミンが低かった。

 重症例は非重症例と比較して、何らかのCOVID-19の治療薬投与を受けており、治療のうち、ステロイド、レムデシビル、トシリズマブを多く認めた。また、重症例は抗菌薬と抗凝固療法の投与も多く受けた。重症例9例のうち5例がICUで加療を受けICU滞在期間の中央値(四分位範囲)は12(5-15.5)日で、3例に人工呼吸器管理が行われ使用期間の中央値は10日間で、1例に体外式膜型人工肺(ECMO)装着が行われ使用期間は9日間であった。

 合併症として、重症例は細菌性肺炎(OR=27.1、95%CI=2.2-337.4)と急性呼吸窮迫(促迫)症候群(ARDS)(OR=27.1、95%CI=2.2-337.4)を多く認めた。予後として、重症例は全入院期間〔中央値(四分位範囲)〕が長く〔25.5(17.8-32.0)日 対 16.0(12.0-21.0)日〕、自宅退院は少なかった(OR=0.1、95%CI=0.02-0.50)。105例中死亡例は、重症例における1例のみであった。

 *D-ダイマー上昇
 COVID-19は凝固能の異常を起こし血栓傾向を示すことが指摘されているが、凝固能の異常を起こす際に血液検査所見としてD-ダイマーの上昇を認める。

考 察

 調査対象のB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)における重症化の主なリスク因子は、65歳以上の高齢者、高血圧、脂質異常症、喫煙など従来株における重症化の主なリスク因子3)と同様であった。しかしながら、本調査の第2報における重症例は9例のみであったので、発症から入院までの期間、基礎疾患など重症化に影響を与える因子の調整を行っていないため、B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)における重症化のリスク因子の断定は困難である。

 また、重症例の方が、有意に細菌性肺炎や急性呼吸窮迫(促迫)症候群(ARDS)の合併症を認め、全入院期間も統計学的有意に長く、自宅退院者は有意に少なかった。死亡例は重症例における1例のみであった。

制 限

 本調査には複数の制限がある。はじめに、本調査は入院症例を対象に行われた。新規変異株症例は原則入院対応とされているが、変異株と判明した時期、地域のCOVID-19の発生状況等の理由により入院しなかった無症状や軽症症例が調査対象とならなかった可能性がある。2つ目に、全国で届出されたCOVID-19全例にゲノム検査が実施されたわけではない。3つ目に本調査の第2報における重症例は9例のみであるため多変量解析を用いて重症化に影響を与える因子の調整を行っていない。

結 論

 本調査では、日本国内のCOVID-19のB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)における重症例と非重症例の臨床的特徴を比較した。今後、多変量解析を用いた重症例と非重症例の比較、従来株と新規変異株との比較等の解析が期待される。

 謝辞:本調査にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

 岡山大学病院、小樽市立病院、鹿児島市医師会病院、金沢赤十字病院、関西医科大学総合医療センター、岐阜赤十字病院、京都中部総合医療センター、県立広島病院、公益財団法人甲南会甲南医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院、公立岩瀬病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立大学法人千葉大学医学部附属病院、埼玉医療生活協同組合羽生総合病院、自衛隊阪神病院、自治医科大学附属さいたま医療センター、社会福祉法人恩賜財団済生会支部神奈川県済生会横浜市東部病院、社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院、市立芦屋病院、市立札幌病院、高砂市民病院、立川綜合病院、地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター、地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立舟入市民病院、東京医科大学八王子医療センター、東京都立駒込病院、独立行政法人国立病院機構指宿医療センター、独立行政法人国立病院機構西新潟中央病院、独立行政法人地域医療機能推進機構北海道病院、長岡赤十字病院、新潟県厚生農業協同組合連合会長岡中央綜合病院、新潟県地域医療推進機構魚沼基幹病院、新潟県立加茂病院、新潟県立新発田病院、新潟県立燕労災病院、新潟県立吉田病院、新潟市民病院、西宮渡辺脳卒中・心臓リハビリテーション病院、藤沢市民病院、富士宮市立病院、防衛医科大学校病院、北海道大学病院、前橋赤十字病院、横浜市立市民病院(五十音順)

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, IASR, 新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第1報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10320-496p01.html
  2. 国立感染症研究所, 日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10279-covid19-40.html
  3. 厚生労働省, 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第5版 
    https://www.mhlw.go.jp/content/000785119.pdf
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