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新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例に関する積極的疫学調査(第二報)

(速報掲載日 2021/12/17) (IASR Vol. 43 p15-18: 2022年1月号)
 

 国立感染症研究所(感染研)では、感染症法第15条の規定に基づいた積極的疫学調査として、新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と検査診断された症例(ワクチン接種後感染症例)に関する調査を行っている。2021年7月にこの第一報を報告した1)が、今回は続報としてその後の進捗を報告する。なお、前回同様、本調査では、ワクチンの有効性やワクチン接種後感染の発生割合については評価していない。また、この報告された症例の一部においては、診察した医師からの求めに応じて感染研で血清抗体検査を実施しており、これを後ろ向きにまとめた研究の暫定結果はIASRの別の記事で報告している2)

方 法

 方法の詳細は第一報1)を参照されたい。第二報では2021年4~8月に報告された症例を対象としたが、7月26日に本調査の事務連絡が改正され、それ以降は調査対象が2回接種後14日以降の、いわゆるブレイクスルー感染症例のみを調査対象としている。第一報同様、免疫が部分的に付与された1回目接種後14日〜2回目接種後13日(部分的接種者の感染)とブレイクスルー感染症例を分けて解析したが、これら2群は集団の特徴が異なることから、比較して解釈すべきではない。

結 果

 2021年4~8月に33都道府県から、ワクチン接種後感染者343例(うちブレイクスルー感染症例257例)が報告された。その基本特性を表1に示す。年齢中央値(範囲)53(16-100)歳、男性125例(36.4%)、女性218例(63.6%)であった。免疫不全のある者〔(狭義の)免疫不全の診断を受けた者〕は2例(0.7%)、ステロイド等の免疫抑制剤の使用歴は7例(2.3%)で認めた(欠損値を除く302例)。武田/モデルナ社製ワクチンの製造販売承認がファイザー社製より遅かったことや、症例が探知されやすい医療従事者や高齢者の多くがファイザー社製を接種していることもあり、298例(93.4%)がファイザー社製ワクチンの接種後であった(欠損値を除く319例)。症例報告書提出時点での重症度(データ欠損23例を除く320例)は、107例(33.4%)が無症状、179例(55.9%)が軽症、15例(4.7%)が中等症Ⅰ、18例(5.6%)が中等症Ⅱ、1例(0.3%)が重症であった。感染者との接触歴を約7割の者で認め、接触した場面や接触した者は家庭内、医療・介護関連、友人・知人、職場、部活等であった。

 11月15日現在、呼吸器検体については316例(うちブレイクスルー感染症例235例)から収集され、N2領域のPCR再検査で247例が陽性となり、サイクル値(Cq値)の中央値(範囲)は27.0(11.1-38.8)であった。ウイルス分離については、検体量不十分であった6例、および11月15日時点で未施行であった6例を除いた235例で施行され、97例(41.3%)で分離可能であった(表2)。変異検出PCRの結果から240例でウイルスの系統が推定でき、B.1.617.2系統(デルタ株)157例、B.1.1.7系統(アルファ株)76例、R.1系統6例、P.1系統(ガンマ株)1例であった(一部はゲノム解析により確認済み)。各系統の検出状況はそれぞれの系統の国内での流行状況と概ね一致しており、大きな偏りは認められなかった。ブレイクスルー感染症例のうち検出数が多かったアルファ株、またはデルタ株感染者(ブレイクスルー感染症例に限る)の呼吸器検体中のウイルス量を比較したところ、Cq値の平均値〔95%信頼区間(CI)〕およびウイルス価の幾何平均値(95%CI)がそれぞれ、アルファ株で29.5(26.3-31.3)・32.8(16.3-65.9)、デルタ株で25.3(24.3-26.3)・155.7(87.8-276.4)であり、デルタ株感染者はアルファ株感染者に比べて、呼吸器検体中のウイルス量が統計学的に有意に多かった〔,PCRのCq値はt検定(p=0.0001)、ウイルス力価はMann-Whitney U検定(p=0.0014)〕。

考察・公衆衛生的意義

 本報告では、国内におけるワクチン接種後感染の積極的疫学調査の第二報として、疫学的特徴およびウイルス分離の可否、検出されたウイルスへの変異検出PCRの結果、感染者における抗体応答を示した。前回報告では大多数が優先接種対象である医療従事者であったが、本報告では4割弱は医療従事者以外であり、10代を除いた広い年齢層でブレイクスルー感染を認め、家庭内、医療・介護関連、友人・知人(会食を含む)、職場、部活など、感染が起こったと疑われた機会は多岐にわたることが分かった。ただし、接触歴の割合については検査頻度等の違いを反映している可能性があることから、解釈に注意が必要である。また、免疫不全や免疫抑制剤を使用している者は引き続き稀であった。本調査ではワクチンによる重症化抑制効果の評価を目的としていないが、多くが軽症および無症状であった。

 無症状を含む約4割のワクチン接種後感染者の呼吸器検体中には感染性のあるウイルスが存在しており、ワクチン接種後の者においても、アルファ株感染者と比較して、デルタ株感染者の排出ウイルス量が多いことが示唆された。今後も免疫逃避能を有する新たな変異ウイルスの出現の監視など、病原体解析を継続して実施していく必要がある。

 ワクチン接種後感染例の調査については、8月24日以降、より効率的な積極的疫学調査のために、重症例やクラスター例に絞って調査を継続することとなっている。

 本調査の制限は第一報に記載の通りである1)。また、海外における臨床試験や観察研究と同様に、国内においてもデルタ株に対する新型コロナワクチンの高い有効性は示されており3)、本報告は日本において承認されている新型コロナワクチンの高い有効性を否定するものではない。また、本調査で報告されたものは、国内で発生した新型コロナワクチン接種後感染の一部であることに留意されたい。

 注意事項:迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。

 謝 辞
本調査にご協⼒いただいた以下の各自治体および医療機関の皆様に⼼より御礼申し上げます:
青森慈恵会病院、秋田県健康環境センター、安芸福祉保健所、阿蘇温泉病院、厚木市立病院、池上総合病院、石川県済生会金沢病院、石川県保健環境センター、イムス札幌消化器中央総合病院、イムス富士見総合病院、印旛健康福祉センター、宇都宮市衛生環境試験所、江別病院、大分県衛生環境研究センター、大分県厚生連鶴見病院、大分市保健所、大阪医科薬科大学病院、大阪医療センター、岡山協立病院、岡山市新型コロナ保健・衛生対策本部、帯広第一病院、帯広徳洲会病院、帯広保健所、小山田記念温泉病院、笠井医院、柏市保健所、亀田総合病院、河内総合病院、北九州市保健環境研究所、北里大学北里研究所病院、岐阜県総合医療センター、岐阜県保健環境研究所、岐阜市保健所、岐阜赤十字病院、京都医療センター、京都市衛生環境研究所、共立習志野台病院、協和会協立病院、近畿大学病院、熊本県保健環境科学研究所、熊本市新型コロナウイルス感染症対策課、熊本市民病院、熊本赤十字病院、久留米市保健所、群馬県衛生環境研究所、群馬県済生会前橋病院、慶應義塾大学病院、公立阿伎留医療センター、公立八鹿病院 老人保健施設、郡山市保健所、国際医療福祉大学病院、国際医療福祉大学三田病院、国際親善総合病院、国立国際医療研究センター、国立病院機構名古屋医療センター、済生会守山市民病院、済生会山口総合病院、さいたま市立病院、埼玉西協同病院、さくら総合病院、佐世保市総合医療センター、札幌市保健福祉局、渋谷医院、島根県保健環境科学研究所、下関市立市民病院、下関市立下関保健所、順天堂大学医学部附属順天堂医院、湘南第一病院、市立伊丹病院、新小文字病院、新山手病院、杉並保健所、墨田区保健所、ダイワ会大和病院、高崎市保健所、玉島中央病院、多摩南部地域病院、茅ヶ崎市保健所、千葉県衛生研究所、千葉市環境保健研究所、つくばセントラル病院、土谷総合病院、鶴川サナトリウム病院、東京医科歯科大学、東京女子医科大学東医療センター、東京高輪病院、東京都健康安全研究センター、東京都健康長寿医療センター、栃木県保健環境センター、斗南病院、豊田市保健所、長崎県壱岐病院、長野県上田保健福祉事務所、長野県環境保全研究所、長野市保健所環境衛生試験所、成田赤十字病院、成田富里徳洲会病院、南海医療センター、南洲整形外科病院、南部徳洲会病院、新潟県保健環境科学研究所、新潟市保健衛生部、西神戸医療センター、西宮市保健福祉局保健所、新田耳鼻咽喉科、日本医科大学千葉北総病院、函館市衛生試験所、原田病院、兵庫県立健康科学研究所、広崎会さくら病院、福岡市民病院、牧田総合病院、松井病院、松本市保健所、三重県保健環境研究所、みさと健和病院、水島協同病院、三井記念病院、三和会永山病院、箕面市立病院、山梨県衛生環境研究所(五十音順)

 

参考文献
  1. IASR 42: 167-170, 2021
  2. 新城ら, 新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例における抗体応答,IASR(2月号掲載予定)
  3. 新城ら, 国立感染症研究所, 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第一報および第二報)

国立感染症研究所 
 感染病理部
 感染症疫学センター
 病原体ゲノム解析センター
 危機管理研究センター
 研究調整企画センター
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