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那覇市立病院における新型コロナウイルスオミクロン株感染とみなされた初期入院症例40例の臨床的特徴

(速報掲載日 2022/2/10) (IASR Vol. 43 p67-69: 2022年3月号)
 
はじめに

 2021年12月末に、沖縄県で初めて確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株による感染者は米軍基地従業員であった1)。その後、県内の感染は急速に拡大し、2022年1月末現在も、多くの感染者数が県内で報告されている(第6波)。

 那覇市立病院では、2021年12月21日に最初のオミクロン株が同定された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院症例を受け入れて以降、2022年1月18日までに40例が入院した。今回、その臨床的特徴を検討した。

対象と方法

 2021年12月21日~2022年1月18日まで当院に入院した、SARS-CoV-2 PCR検査もしくは抗原検査でCOVID-19と診断された症例、40例を対象とした。このうち最初の4例から得られた検体(咽頭ぬぐい液1件、唾液3件)については沖縄県衛生環境研究所でゲノム解析が行われ、3例がオミクロン株と確定された(1例は判定不能)。その後、当院に連続して入院した5例については、PCRによって検出されたSARS-CoV-2陽性検体を用いた変異株の迅速検査を行ったところ、5例すべてでN501Y陽性、L452R陰性であった。この期間に当院に入院したSARS-CoV-2陽性者はすべて沖縄本島内(主に那覇市)に居住しており、沖縄県内では12月30日時点で、検査対象となった全体の97%がオミクロン株あるいはL452R変異陰性が確認されていたことから1)、この期間の当院におけるCOVID-19症例は、大部分がオミクロン株に置き換わっていたであろうと判断した。これら一連の40例について、診療録を用いて後ろ向きに検討した。

結 果

 対象となった40例の特徴を表1に示す。この40例のうち男性は16例(40%)、女性は24例(60%)、年齢中央値は62.5歳(四分位範囲41-76.5歳、範囲22-90歳)であった。新型コロナワクチン接種歴は、3回接種が1例(3%)、2回接種が35例(88%)、未接種が4例(10%)であった。

 推定感染場所は家庭内が20例(50%)、老健施設内6例(15%)、米軍基地3例(8%)、飲食店等2例(5%)、職場内1例(3%)、不明8例(20%)であった。

 併存疾患は高血圧症が最も多く、以下脂質異常症や糖尿病などが認められ、透析患者は4例であった。

 入院時の血液検査では軽症が多かったこともあり、炎症反応は重症度が増すにつれて高値となったが、D-dimerは軽度の上昇にとどまった。

 入院症例全40例に対して行った胸部CT所見のうち、COVID-19に特徴的な斑状すりガラス陰影の所見を6例に認めた他、これまで当院のCOVID-19ではあまり認められていなかった小葉中心性の粒状、斑状影といった気管支肺炎パターンの所見を4例認めた。

 重症度は軽症が29例(73%)、中等症Iが3例(8%)、中等症IIが8例(20%)〔うち高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula: HFNC)が2例〕で、人工呼吸管理を要する例はいなかった。表2に示すように、重症度が高くなるにつれ、男性、高齢者が多く、CRPやフェリチンが高値であったが、D-dimerについては差を認めなかった。

 治療内容はソトロビマブが22例(55%)、レムデシビルが11例(28%)、デキサメサゾンが9例(23%)、ヘパリンが7例(18%)、そして抗菌薬を使用したのが8例(20%)であった(表1)。ソトロビマブを使用した22例のうち3例がその後も発熱が持続し、採血による所見から炎症反応の上昇、胸部CT像で浸潤影(consolidation)の悪化を認めたため中等症と診断し、治療レベルを引き上げた。

 HFNCを使用した2例は膿性痰を喀出し、1例からCorynebacteriumが検出されたが、もう1例はnormal floraであった。喀痰培養で有意な起因菌を同定できなかったが、血液検査ではWBC >10,000/μLと炎症反応が高く、またそのうち1例は胸部CTでconsolidationを認めたことから、COVID-19に細菌性肺炎の合併を否定できなかった。当院ではCOVID-19症例に原則として抗菌薬は投与しないが、細菌性肺炎を合併したと判断した先のCOVID-19症例の治療については抗菌薬治療を追加し、臨床的に改善を認めた。本例を含み、肺炎や尿路感染症を合併した8例に対して今回抗菌薬を使用した。

 転帰は自宅退院が17例(43%)、ホテル療養が6例(2%)、療養型病院へ退院したのが3例(8%)、施設退院が1例(3%)、残る13例(33%)は2022年1月21日時点で入院中である(表1)。

考 察

 オミクロン株による第6波はまだ始まったばかりで(2022年1月現在)、今後の状況を注意深く見ていく必要があるが、デルタ株が流行した第5波(2021年7月1日~2021年9月30日)の際に当院に入院した症例と比較すると、重症度の分類において軽症が多く(表3)、中等症IIの割合は低かった。本報告において軽症が多いことについては、当初(2021年12月21~29日まで)オミクロン株は重症度にかかわらず全例入院となっていたこと(以後は重症度に応じて入院)、入院時に重症化リスク因子のある軽症患者にソトロビマブの投与を行っていること、などが関与していると考えられた2)

 ソトロビマブを投与したあとに治療レベルを引き上げた3例については、全例ワクチンは2回接種済みであったが、2回目のワクチン接種から半年以上経過していたこと、2例は透析患者であったこと、そして3例とも高齢者であったことなど、患者側の要因も関連していたかもしれない。さらにそのうちの1例は治療の段階を強めた後も発熱が続いたため、胸部CTを再検したところconsolidationが出現しており、細菌性肺炎の発症を疑ったため抗菌薬治療を追加した。今回HFNCを要した2例も細菌性肺炎の合併が疑われており、症例によっては細菌性肺炎の合併についても考慮する必要があるかもしれない。

 今後、さらなる症例の蓄積によるオミクロン株によるCOVID-19症例臨床像の詳細な解析が必要である。

 

参考文献
  1. 平良勝也他,沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告(速報掲載日2022/1/11)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10885-504p01.html
  2. Anil Gupta, et al., N Engl J Med 385:1941-1950, 2021

那覇市立病院
 内科 知花なおみ 田端一彦
 医療技術部検査室 大城健哉 宮城ちひろ 平良ひかり
 感染対策室 山城奈奈 久高全達
沖縄県衛生環境研究所
 仁平 稔 髙良武俊 久場由真仁 柿田徹也 久手堅 剛 眞榮城徳之
国立感染症研究所
 砂川富正

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan