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新型コロナウイルス感染症陽性者宿泊療養施設職員におけるオミクロン株感染

(速報掲載日 2022/2/25) (IASR Vol. 43 p72-74: 2022年3月号)
 

 2021年12月に関西国際空港の陽性者用宿泊療養施設(ホテルX)に勤務する職員(症例B)が嘔吐下痢を呈し(発症日をDay0とする)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断され、L452R変異株PCRで陰性を示すことが確認された。部分的に実施できたゲノム解析では B.1.1.529 系統(オミクロン株)が疑われた。当時、オミクロン株は、検疫で輸入例として確認されていたが、国内での感染事例はほとんど確認されていない状況であった1)。ホテルXには、12月に入りオミクロン株陽性症例が複数入所しており、Day-3(症例Bが発症する3日前)に米国からの入国者(症例A)が、Day0に米国からの入国者(症例D)が、Day3には英国からの入国者(症例E)が入所していた。本事例に対し、国内外でオミクロン株の感染経路に関する情報が乏しかったため、感染源や感染経路を検討した。

 症例を2021年12月にホテルXの職員入所者でL452R変異株PCR陰性で全ゲノム解析でオミクロン株と確認された人と定義した。ホテルXの職員等(検疫所職員、ホテルスタッフ、警備員、通訳)計54人(うち、濃厚接触者6人)は最終接触後5~6日以内に抗原定量検査を実施し、その後接触の程度に応じ頻度を変え定期的に抗原定量検査を実施し、発症した場合にはPCR検査を実施した。症例BはホテルXに加え、感染性がある期間に空港の待機施設であるホテルYでも勤務していたため、ホテルY職員も症例Bとの最終接触から4~7日前後にRT-PCR検査を実施した。また、症例に対する直接聞き取りとホテルXの視察を行った。なお、ホテルYの職員に陽性例はみられなかった。検体は大阪健康安全基盤研究所に集められ、ウイルスのゲノム解析が実施された。

 PCR検査で新たに、症例Bの濃厚接触者とは同定されなかったホテルXに勤務する者の感染が確認された(症例C)。ゲノム解析では、症例A、B、Cの検体から得られたウイルスゲノムは、他のオミクロン株に認められない特徴的な塩基配列2カ所(G5515T、G18067T)を有していた(同変異は2022年2月3日時点でGISAIDに登録されている世界のオミクロン株に認められず、国内では関西でのみ30検体が検出)。症例A、Bの検体から得られたウイルスゲノムは同配列、それらと症例Cの検体から得られたウイルスゲノムは1塩基違いであった。症例A、Bの検体から得られたウイルスゲノムと症例Dの検体から得られたウイルスゲノムとは2塩基違いであり、また症例Dと症例Eの検体から得られたウイルスゲノムとは、さらに3塩基異なっていた。つまりゲノム解析では、症例A、B、Cに感染したウイルスは同じ由来、症例DとEは異なる由来である可能性が高かった。症例A、B、Cに関し、下記の行動歴が確認された()。

症例A

 Day-3入国時PCR検査陽性でホテルXに入所し、入所時より鼻汁や咳を認めており、入所中は不織布マスクを着用していた。なお、ワクチンに関しては、2021年8月海外出張中にJohnson & Johnson製を1回接種しており、帰国後、今回の渡航前に自治体でのファイザー製ワクチンを2回接種していた。12月Day-2~Day1まで1日1回、居室前廊下の椅子に配達された食事の他、デリバリー等を人と接することなく受け取った。また、Day-2(1時間半の洗濯と乾燥に加え、乾燥を30分延長)とDay2に1階洗濯室で洗濯をした。その後オミクロン株感染の診断を受け、同日午後に入院となった。洗濯機は奥まったドアが締め切られた通路末端の狭い空間に置かれていた。調査時には空気清浄機が2台置かれており、5名が5分程度滞在した際のCO2濃度は700ppm未満であった。

症例B

 ホテルXに勤務する職員で、11時~翌11時の24時間勤務を行っており、主な業務は、入所時問診、体温確認、物品の受け渡し(居室前の椅子に置く)、洗濯業務支援(洗濯開始、乾燥開始、回収時、計3回の操作説明など)であった。勤務中は長袖エプロン、手袋、不織布マスク、フェイスシールドを着用していた。フェイスシールドは、使用期限や運用は個人に任され再利用されており(職員Bは洗濯支援では継続利用)、使用後の消毒・清拭はなく、個人名を記載した紙袋に入れて、汚染区域内に保管されていた。手指衛生は行っていたとのことであったが、擦式アルコール性手指消毒薬は携帯していなかった。ワクチン未接種であった。Day-2に症例Aの洗濯支援をしたが、その際、乾燥を追加したため症例Aとは計4回接していた。その際、不織布マスク越しに会話をした。同日、デリバリーされた食材を部屋の前まで配達した。Day0に嘔気・下痢症状が出現したが勤務を継続、勤務がなかったDay2には発熱し解熱剤を使用、その後発熱しなかったため、咳症状はあったもののDay4 にホテルYで勤務をし、Day5にPCR検査でSARS-CoV-2感染が確認された。なお、勤務外の行動歴は通勤以外の立ち寄りはなく、リスク行動はみられなかった。

症例C

 ホテルXで入所者と直接接触する業務以外の勤務をしている者であった。無症状であり、ファイザー製ワクチンを7月に2回接種していた。勤務中は不織布マスクを着用しており、休憩時間以外の勤務時間には長袖エプロン、手袋を着用していた。長袖エプロンは脱衣後、外で乾燥させた後、ビニール袋に保管し再利用していた。手指衛生の機会は少なかったとのことであった。Day-1~Day1の勤務時に症例Aが入所していたが、直接接することはなかった。症例BとはDay0で勤務が重なっていたが、休憩時の滞在場所は症例Bが記録等をしていた席から2m以上離れており、また会話もしておらず、トイレも共有していなかった。この滞在場所は、調査時には6名が2時間程度会話していてもCO2濃度は600ppmを維持していた。

 陽性例の行動歴とゲノム解析結果から、宿泊療養施設での入所者から施設従業員への感染と考えられたオミクロン株感染2例を認めた。感染機会として、症例Bは短時間使用フェイスシールドの頻回な再利用における接触感染の可能性が疑われた。洗濯室でのエアロゾル・空気感染は、短時間で会話も最小限であり、可能性は低いと考えられた。症例Cは、症例A、Bとの明確な近距離での接触や会話、エアロゾル・空気感染が起こりうる状況(換気不良、狭い空間、密、長時間)は確認されず、一方で手指衛生をほとんど実施していなかったことから、間接的な接触感染が否定できない状況であった。宿泊療養施設では、職員の非番日を含めた健康観察の徹底、個人防護具の適切な管理、手指衛生の徹底、施設内換気状況の確保、職員のワクチン接種の徹底が重要である。本事例からは、感染・伝播性が増しているオミクロン株による感染であっても2)、宿泊療養施設でN95マスクを一律に使用していく状況ではないと考えられたが、今後感染経路を注意深く観察していく必要がある。

 謝辞:調査と検査に関わられた大阪府健康医療部、泉佐野保健所、大阪府健康安全基盤研究所、大阪市保健所、国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターの皆様に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第4報), 2021年
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10833-cepr-b11529-4.html
  2. Espenhain L, et al., EuroSurveill 26(50), 2021
    DOI: https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.50.2101146

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター 黒須一見 山岸拓也
関西空港検疫所 仲居 亮 石川健史郎 笠松美恵
大阪検疫所 柏樹悦郎
国立感染症研究所感染症危機管理研究センター 齋藤智也
国立感染症研究所実地疫学研究センター 砂川富正

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