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広島県における新型コロナウイルス感染症の重症例・死亡例に関する実地疫学調査、2022年1月

(速報掲載日 2022/3/16) (IASR Vol. 43 p95-97: 2022年4月号)
 

 広島県では2021年12月末より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例が増加し、2022年1月下旬に1週間の新規症例報告者数が人口10万当たり300を超えた。さらに、重症例・死亡例の報告数も増加した。また、それまでの流行株であるB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)からB.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)への急速な置き換わりも確認され、1月4日時点では、県内で実施されたL452R変異判定PCR検査におけるL452(L452R変異陰性)と判定された検体の割合は、約8割であった。本調査は、オミクロン株流行にともなう広島県のCOVID-19重症例・死亡例の全体像を把握することを目的に実施した。

症例の分類

 対象症例は、2022年1月1~31日に広島県が公表したCOVID-19による重症病床入院例(以下、重症登録例という)および死因にかかわらず新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していた死亡例(以下、死亡登録例という)とした。ゲノム解析でデルタ株もしくは変異株PCR検査でL452R変異陽性と判明した症例を除き、重症登録例について「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第6.2版」1)の重症度に基づき、①重症例(上記重症登録例と区別するため、以下、重症例という)と、②中等症例/軽症例に分類した。また、死亡登録例は病院での死亡例(以下、病院死亡例という)と、④病院以外での死亡例(以下、病院以外死亡例という)に分類した。病院死亡例については、①に含める集中治療からの死亡例と、③侵襲的な治療を希望されず亡くなった症例に分類した。

 情報は、広島県内各保健所が実施した積極的疫学調査等の情報、ゲノム解析結果を含む広島県から共有された情報、重症登録例・死亡登録例が入院していた病院のうち8病院の協力を得て診療録・医師等職員から共有された情報(2月1~4日訪問)、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)より得られた情報を用いた。

結 果

 広島県の対象期間内の重症登録例は27例、死亡登録例は42例(計69例)であった。これら69例のうち7例でゲノム解析または変異株判定PCR検査の結果が確認され、デルタ株またはL452R変異陽性例が3例、オミクロン株またはL452R変異陰性例が4例であった。デルタ株またはL452R変異陽性例3例を除外した重症登録例25例、死亡登録例41例を解析の対象とした。重症登録例のうち24例の診療録調査を実施し、①重症例9例と、②中等症例/軽症例15例、に分類した。死亡登録例41例を、④病院以外死亡例8例と病院死亡例33例に分類し、病院死亡例のうち11例の診療録調査を実施し、①集中治療からの死亡例0例と、③侵襲的な治療を希望されず死亡した病院死亡例11例に分類した()。

 解析①重症例9例:年齢中央値(範囲)は70(7-86)歳、全員男性であった。また、全症例に基礎疾患や既知の重症化リスク因子があった〔高血圧症5例、脳血管疾患3例、肥満(BMI25以上)3例、糖尿病2例、気管支喘息2例等、重複あり〕。ワクチン接種歴は2回4例(44%)、1回1例(11%)、未接種4例(44%、うち1例は小児)、人工呼吸器管理9例〔発症から人工呼吸器管理開始までの日数中央値(範囲):4(1-16)〕、体外式模型人工肺(ECMO)0例、腎代替療法0例であった。病態は、COVID-19による重症肺炎3例(うち2例はL452R変異陰性、1例は未検査)、COVID-19と誤嚥性肺炎の合併1例、COVID-19による肺炎以外の理由で人工呼吸器管理がなされた症例(喀痰による気道閉塞等)2例、COVID-19との関連が明らかでない肺炎以外の主病態により集中治療室で治療された症例が3例(熱性痙攣1例、脳出血1例、たこつぼ心筋症または心筋炎の疑い1例)であった。COVID-19による重症肺炎の3例全員がワクチン未接種であった。なお調査時点で8例は入院中であった。

 解析②重症例として登録されていた中等症/軽症例15例:年齢中央値(範囲)は70(37-94)歳、男性10例、女性5例であった。全症例にワクチン2回の接種歴があった。重症登録されていた理由は、重症病床を利用したためであり、その理由は、基礎疾患やリスク因子によりCOVID-19の重症化の懸念があったこと、透析対応の可能な病床が重症病床しかなかったこと、重症例に付き添った軽症例等であった。

 解析③侵襲的な治療を希望されず亡くなった病院死亡例11例:年齢中央値(範囲)は85(77-100)歳、男性5例、女性6例であった。入院前の日常生活動作(ADL)は全介助5例(45%)、部分介助3例(27%)、自立2例(18%)、不明1例(9%)、基礎疾患は、あり10例(91%)、不明1例(9%)であった。ワクチン接種歴は2回7例(64%)、1回1例(9%)、未接種2例(18%)、不明1例(9%)であった。発症日から入院までの日数の中央値(範囲)は2日(0-9)であった(ただし2例については病院での感染であったため診断日で代用した)。また、気管挿管や気管切開による人工呼吸器管理は行われなかったものの、9例(82%)で抗ウイルス薬や中和抗体薬の投与を受けていた。推定感染場所は、病院・施設8例(73%)、不明3例(27%)であった。なお、全例の診療録において、本人もしくは家族が侵襲的な治療を希望されなかった旨の記載があった。

 解析④病院以外死亡例8例:年齢中央値(範囲)は85(71-98)歳、性別は男性5例、女性3例であった。基礎疾患は、あり6例(75%)、不明2例(25%)であった。ワクチン接種歴は2回6例(75%)、不明2例(25%)であった。

考 察

 HER-SYSによると、広島県の2021年12月18日~2022年1月31日(診断日)の症例数は30,035例(2022年2月10日時点)であった。2022年1月1~31日に県が公表した重症・死亡登録例のうち、人工呼吸器管理等の集中治療を受けていた症例は9例であった。本調査は、調査対象期間(1月1~31日)と調査日とが近接しているため、重症例数を過小評価している可能性があるものの、オミクロン株による感染者数が増加した場合の医療計画の策定の一助となるかもしれない。また、集中治療を要したCOVID-19による重症肺炎症例3例は全員ワクチン未接種であったことから、新型コロナワクチン接種はオミクロン株感染例の重症化予防に対しても重要である可能性が示唆された。

 に示すように、死亡登録例(41例)のうち、診療録調査を実施できたのは11例、できなかったのは22例であるが、年齢分布は同様であり、前者および後者の年齢中央値(範囲)は85(77-100)歳、88(76-100)歳であった。診療録調査が実施できた病院死亡例において集中治療を経て亡くなった症例はなく、全例が人工呼吸器管理等の侵襲的治療を希望されず亡くなっていた。大部分が高齢でADLが低く、基礎疾患を有していた。

 本調査から、オミクロン株感染例についても、事前のワクチン接種により重症化予防につながる可能性が示唆された。また、高齢者施設クラスターの中から複数の死亡者が発生していることから、通常時から高齢者施設職員の教育訓練等の感染管理対策を強化すること、クラスター発生後の外部専門家による支援体制を充実させること、が重要であると考えられた。

 なお、今回の調査では、侵襲的な治療を希望されなかった方々の基礎疾患、治療歴等の背景については分析していない。また、クラスター発生高齢者施設におけるCOVID-19流行以前の通常時の死亡については調査してない。

 謝辞:本調査にご協力いただいた広島県内各自治体の皆様および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

 
参考文献
  1. 「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第6.2版」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000888608.pdf

広島県健康福祉局 
 岡田史恵 上田健太 渡部 滋 平中 純 木下栄作
広島県感染症・疾病管理センター(ひろしまCDC)
 西川英樹 桑原正雄
広島県保健環境センター 
 有吉邦江
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP) 
 田畑早季子
FETP修了生 
 田渕文子
国立感染症研究所実地疫学研究センター 
 福住宗久 土橋酉紀 砂川富正

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