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中国武漢市からのチャーター便帰国者について:新型コロナウイルスの検査結果と転帰(第一報:第1便について)(2020年2月14日現在)

(速報掲載日 2020/4/7) (IASR Vol. 41 p76-77: 2020年5月号)

2020年1月3日に、中国湖北省武漢市において原因不明の重症肺炎の集積が報告され、その後、新型のコロナウイルスによることが判明した。1月14日に、神奈川県内の医療機関から管轄の保健所に対して、武漢市に滞在歴がある肺炎の患者が報告され、わが国における新型コロナウイルス感染症の1例目が1月15日に確認された。2月1日、新型コロナウイルス感染症は感染症法において指定感染症に指定された。

チャーター便(第1便)は武漢市から2020年1月29日に到着した。本稿では、新型コロナウイルスに関連した当チャーター便に係る帰国者の検査結果と転帰について情報還元する。

1月29日に武漢市から第1便を利用して帰国した者(第1便帰国者)206人中、5人が何らかの症状を認め(機内検疫により問診・診察の結果、4人は発熱等、1人は降機後、空港で待機中に嘔気)、医療機関へ搬送された。この5人においては入院の上、1月29日に新型コロナウイルスのPCR検査用の咽頭ぬぐい液検体が採取され、すべて陰性と判明した。このうち、1人については1月29日の検体は陰性であったが、同日に肺炎が確認されたことから、1月31日に、採取された喀痰検体のPCR検査の結果、陽性と判明した(患者1)。残り4人は症状軽快後に退院し、経過観察のための宿泊施設に入った。

医療機関へ搬送された5人を除く201人のうち、2人は帰宅後1月31日にPCR検査用の検体が採取され、両者とも陰性と判明した。同意が得られた199人は1月29日に国立国際医療研究センター(NCGM)で問診と検査を受けた。199人のうち7人は症状を認めたことから入院となり、うち1人がPCR検査陽性と判明した(患者2)。残りの6人は症状軽快後、宿泊施設に入った。無症状の192人のうち2人がPCR検査陽性と判明し、入院となった(患者3,4)。残り190人のうち189人は宿泊施設に入った(1名は、問診と検査を受け、陰性が確認された後に自宅に戻った)。また、1名は宿泊施設に数日滞在した後に自宅に戻った。206人の帰国者のうち帰国時点の陽性者は3人(1.5%)であった。

第1便帰国者の1人は、帰国時は症状が無くPCR検査も陰性であったが、その後、健康観察期間中に発症し、PCR検査で陽性が確認された(患者5)。この患者は2月7日(帰国後9日目)に発症し入院となり、2月9日に採取された検体のPCR検査で陽性が確認された。この他に、観察期間中に第1便帰国者のうち発症し入院した患者がもう1人いたが、2回のPCR検査がともに陰性で、検査確認後に再び宿泊施設に戻った。

宿泊施設に滞在していた第1便帰国者197人(帰国当時症状を認め症状軽快後に宿泊施設に入った4人、NCGMで問診の際に症状を認め症状軽快後に宿泊施設に入った6人、無症状で宿泊施設に入った189人から健康観察期間中に入院した前述の1人および健康観察期間中に自宅に戻った1人を除いた187人)は、2月11日に帰国後2週間に2回目のPCR検査のための検体採取が行われた。PCR検査の結果、197人の全員が陰性であった。

現時点で、帰国後2日以内に陽性が確認された患者4人(患者1~4)と健康観察期間中に発症した1人(患者5)以外には2回のPCR検査で陽性者がいなかったことから、計5人の患者が2週間の健康観察期間中に確認されたこととなった。帰国直後に検査実施の同意が得られなかったものの、その後検査が行われた2人と、問診および陰性確認後自宅に戻った2人においては、2回目の検査実施が現時点では保留されている。

陽性が確認された5人の経過は、以下の通りである。帰国時に無症状であった陽性例2人のうち、1人は発症せず無症状で経過し(患者4)、他の1人は2月1日に発症し咽頭痛、頭痛、発熱を認めたが、数日後に軽快となった(患者3)。帰国時に症状があった陽性例2人のうち1人は1月29日に(患者1)、他の1人は観察期間中に肺炎が確認されたが(患者2)、その後ともに改善した。帰国時に症状なくPCR検査結果が陰性であり、2月7日に発症した1人は肺炎が確認され入院した(患者5)。以上、入院した全5例において、厚生労働省が示した退院基準(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000592995.pdf)に従って、入院後のPCR検査が実施されているところである。

また、陽性が確認された5人の年齢は40代が2人と50代が3人であった(男性4人、女性1人)。第1便帰国者206人中185人は男性であった(年齢分布は表)。

まとめると、陽性が確認された5人のうち、帰国後2週間までには、1人は無症状病原体保有者で、1人は軽症者(咽頭痛、頭痛、発熱等)で、3人は肺炎を認めた。第1便帰国者のうち、帰国後2週間までに、2回以上のPCR検査を実施した帰国者は202人であり、うち陽性者は5人(2.5%)であった。症状の有無を問わず全員に検査が実施され、また2週間経過をフォローした(受診行動や医師の判断等の影響を受けない)これらの結果は、新型コロナウイルス感染の臨床像を理解する上にも重要な情報である。

 

参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課 健 感 発 0 2 0 6 第 1 号 令 和 2 年 2 月 6 日 
    https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000592995.pdf
 
 国立感染症研究所

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