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消防学校における新型コロナウイルス感染症症例集積事例

(IASR Vol. 42 p199-201: 2021年9月号)

 
端 緒

 2021年4月13日(Day1, 発症日の最も早い症例の発症日をDay0としている), 消防学校にて初任教育学生2名がPCR検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と判明し, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断されたことから, 学校は保健所からの指導を受け, 4月14日(Day2)からの校内留置措置を実施した。消防学校の初任教育学生は203名, 職員が35名であった。学生は4つの小隊(50名程度)に分かれ, 基本的には小隊ごとに授業が実施されていた。それぞれの小隊はさらに8つの班(6名程度)に分かれていた。男子学生の場合, 同班の学生は寮で同室であった。室内は完全個室ではなく各個人のスペースが仕切られ, 天井部が空いていた。寮は3つのフロアに分かれて学生が居住していた。

症例定義

 消防学校の学生および職員で, 2021年4月1日〔Day-11(Day0から11日前)〕から5月5日〔Day 23(Day0から23日後)〕の間に遺伝子増幅法(PCR法等), または抗原検査によりSARS-CoV-2陽性となりCOVID-19と診断された者。

結 果

 消防学校における症例発生状況

 4月13日(Day1)に学生症例2例が報告された(図上)。4月14日(Day2)に校内の職員および学生の一斉検体採取が実施され, 15名の陽性が確認された。発症日が最も早い症例は学生症例2例(発症日4月12日, Day0)であった(図下)。

 4月12日(Day0)に複数例が発症していること, 12日(Day0)以降持続的に小隊や居住フロア横断的に発症症例が確認されていることから, 潜伏期間を考慮すると, 最も早い症例の発症日(Day0)の前の週末(Day-2, Day-1)直前に小隊および居住フロアをまたぐ感染機会が存在し, 校内で持続的な感染伝播が起こっている可能性があった。

 小隊および居住フロアをまたぐ感染が確認されていたこと, また, 保健所が消防学校へ聞き取りを実施する中で次のことが判明した。①研修活動中は感染防止対策が徹底されていたが, ランニング時はマスクを外していた。②マスクを外しての大声での号令等のリスク行動がみられた。③寮内では, 保健所の助言に基づき4月14日(Day2)以降, 班単位での行動が実施されていたが, 洗面所, トイレ, シャワー室, 洗濯室, 自動販売機付近の主たる共有スペースにおいて, 会話等, 班単位を越えた活動の交差がDay2以降も, 4月20日(Day8)まで続いていた。

 依然として班単位を越えた活動の交差が確認されたことから, 消防学校内に探知されていない濃厚接触者がいる可能性が高いこと, また, 自宅に帰宅した学生から家族に感染伝播する可能性があること, 学校には感染管理に必要な知識を有する職員が在籍し, 学校内における職員や学生の感染管理のコントロールが可能であること, 個人防護具の物品が十分であることから, 保健所および消防学校は, 学校内で学生の集団生活を継続しながら感染を収束させる方針を決定した。決定に際し, 次の事項の徹底を保健所から消防学校へ要望した。①新規陽性者発生時の濃厚接触者の発生を最小限にするため, 班単位での活動を徹底し, 他班との交差をなくすこと。②必要時のアルコール消毒や換気, マスク装着の徹底。③物理的に可能であれば, 1室あたりの居住人数を少なくすること。④発症者が出た場合には, 早期に個室スペースに隔離し, 早期に検査を実施すること。⑤定期的(1週間ごと)に無症状者を検査し, 無症状病原体保有者を早期に探知・隔離すること。

 COVID-19の潜伏期間は平均5~6日1), 中央値4~5日2), 最大14日間であり, 発症する人の97.5%は感染から11.5日以内に発症するとの報告がある2)。ゾーニングおよび感染防止対策が徹底された4月21日(Day9)以降採取された検体で陽性となった35例のうち, 発症日が判明しているものが21例で, 21例すべてが4月21日(Day9)から最大潜伏期間である14日以内に発症し, そのうち19例が潜伏期間の中央値である5日以内に発症していた(図下)。

 一斉検体採取における検査陽性率の推移

 検査陽性率は4月14日(Day2)が229名中15名陽性, 4月21日(Day9)が193名中13名で, ともに7%, 4月26日(Day14)が170名中6名で4%, 5月1日(Day19)は163名中0名, 5月8日(Day26)は9名中0名で, 陽性者がおらず0%となった。5月8日の一斉検体採取では, 健康観察期間が経過し検体採取対象外となった学生が多数存在したため, 対象者が大きく減少している。

考 察

 発症日別流行曲線(図下)から, 4月12日(Day0), Day1, Day2において小隊や居住フロア横断的に発症者がいることから, 潜伏期間を考慮すると, 週末(Day-2, Day-1)直前に小隊や居住フロアをまたぐ感染機会があった可能性が考えられた。週明け以降, 寮内生活や研修を通し, 主に学生間の感染伝播が発生したと考えられた。

 4月25日(Day13)まで持続的に発症者が発生した原因として, 寮内で班単位を越えた活動の交差が4月14日(Day2)以降もあったことが推測された。

 4月21日(Day9)以降陽性となったもののうち, 発症日が判明している21例は, すべてゾーニングおよび感染防止対策が徹底された4月21日(Day9)から最大潜伏期間である14日以内に発症し, そのうち19例が潜伏期間の中央値である5日以内に発症していた。4月26日(Day14)以降に発症する陽性者の発生が減少したことは, 4月20日(Day8)から寮内において, ①ゾーニング(班別行動を含む)および感染防止対策の徹底, ②有症者の早期隔離, 早期検査の徹底, ③1週間ごとの一斉検体採取による無症状病原体保有者の早期隔離の徹底, がなされ, これらの対応は感染拡大リスクを低減させることに寄与したと考えられた。

 寮内において, 集団で2週間以上にわたり健康観察が実施される中で, 学生に心的ストレスがかかることから, 保健所からは, 班別に屋外リフレッシュ時間を確保することを学校へ提言する等, 持続可能性のある提案がなされていたことも, 寮内におけるゾーニング(班別行動を含む)および感染防止対策の徹底に寄与したと考えられた。

 5月5日(Day23)の症例確認以降, 14日間新規陽性患者が出ておらず, すべての学生・職員の健康観察期間が終了したことを受け, 5月13日(Day31)をもってクラスター収束と判断された。

 
参考情報
  1. WHO, Coronavirus disease (COVID-19),12 October 2020 |Q&A
    https://www.who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-covid-19
  2. US CDC, Interim Clinical Guidance for Management of Patients with Confirmed Coronavirus Disease(COVID-19),Updated Feb. 16, 2021
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-guidance-management-patients.html

大阪府四條畷保健所            
大阪府立消防学校             
大阪健康安全基盤研究所公衆衛生部     
健康危機管理課 疫学調査チーム(O-FEIT)

 

 

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