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群馬県におけるSARS-CoV-2アルファ株関連症例の特徴について(2021年2月10日~6月2日)

(IASR Vol. 42 p203-204: 2021年9月号)

 

 2020年11月, 英国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株であるVOC-202012/01(アルファ株)が報告され, 世界各地で感染拡大がみられている1,2)。アルファ株は, 従来株と比較して感染力および重篤度が高いウイルスと推定されており, 英国での感染者数の増加を引き起こした要因と考えられている。国内でも, 2020年12月25日に, 英国からの帰国者でアルファ株が初めて検出された2)。2021年2月, 群馬県においてもアルファ株が検出され, その後, 県内の主流行株へと代わってきた。群馬県衛生環境研究所では, 国立感染症研究所(感染研)病原体ゲノム解析研究センターと共同で, SARS-CoV-2のゲノム解析を行っている。その情報を基に, ハプロタイプ・ネットワーク図を作成し, 疫学調査と統合して解析することで, 群馬県におけるアルファ株の感染状況に関する知見を得たので報告する。

方 法

 2021年2月10日~6月2日までに, 群馬県衛生環境研究所で感染研法に従いSARS-CoV-2と確定した検体のうち, 254株をmultiplex PCR法によりウイルスゲノム全長を増幅して, 次世代シーケンサーによりゲノム配列を確定した3)。その後, アルファ株と確定した101株を使用し, 疫学情報と統合して, ゲノム情報から得られた塩基変異を基に, ウイルス株間の関係を示すハプロタイプ・ネットワーク図を作成した。感染経路は保健所が実施している疫学情報を基に, 家族内, 外国人間(職場での感染も含む), 職場, 飲食店関連, およびその他に分類した。

結果および考察

 今回解析を行った検体の推定される感染経路は, 家族内が28例, 外国人間が22例, 県外からの持ち込みが17例, 職場が13例, 飲食店関連が10例, その他が11例であった。家族内感染の推定感染経路は, 親子間によるものが14例, 夫婦間によるものが13例, その他が1例であった。外国人間での感染では, 東南アジア地域出身者による感染が18例と最も多かった。

 ハプロタイプ・ネットワーク図の結果から, 家族内感染の陽性者においては, 大きなクラスターを形成することはなかった()。このことは, 陽性者の早期探知によって, 濃厚接触者も積極的に検査をすることにより, 感染の連鎖を止めることができている可能性が示唆された。

 一方, 東南アジア地域の人が中心となって拡がったと推定される感染のつながりがみられた()。この事例では, 同時期に県内でもみられた陽性者のゲノム情報と一致していることから, 海外からの流入ではなく, 国内に存在するアルファ株に由来すると推定される。また, 関連する工場に勤務している外国籍コミュニティーの感染伝播であった。いったん外国籍コミュニティーにSARS-CoV-2が蔓延すると, 感染の拡大につながってしまう可能性を示している。したがって, 外国籍の人をはじめとして, 事前に感染防止対策を徹底することが難しいと考えられる集団に対して, 住居環境や派遣労働者の管理体制, 生活習慣などを検討し, 感染伝播を防ぐポイントを明確にする必要がある。そのことによって, 外国籍コミュニティー内での感染伝播に対し, より的確な対応策を立てることが可能となり, 感染拡大抑制に大きく寄与でき, 結果として感染伝播の抑制が期待できる。

 群馬県内でのアルファ株によるクラスターも複数例発生していたが, ハプロタイプ・ネットワーク図では感染の連鎖がみられていないことから, 保健所等による感染対策に効果があることが示された。また, 疫学情報から県外からの持ち込みと推定される陽性者においては, ハプロタイプ・ネットワーク図では県内クラスターとは異なる位置関係に配置され, 疫学的な関連性も乏しいことから, 疫学情報とゲノム情報との整合性を補完できるハプロタイプ・ネットワーク図による解析は, 感染の状況を把握するうえで効果的であると考えられる。このように, 群馬県においては, 県外から持ち込まれるケースも多くみられており, 引き続き県境を越えるような交流はより慎重な対応が求められる。

 以上のように, 群馬県においては, 県内でのクラスターと同時に, 県外からの持ち込み事例も部分的に発生している。陽性者の感染経路を追跡し, クラスターの感染リンクを追跡することで, どの陽性者を優先的に対応すれば, 県内の感染拡大を効果的に阻止できうるのかを示唆するデータとなる。今後も, 実地疫学に基づく情報とゲノム情報を統合し活用することで感染対策へ活用していきたい。

 謝辞:検体採取等調査にご協力いただきました医療機関, 保健所等の関係者に深謝致します。 

 

参考文献
  1. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について(第10報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10501-covid19-48.html
  2. 日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10279-covid19-40.html
  3. Itokawa K, et al., PLOS ONE 15(9): e0239403, 2020

群馬県衛生環境研究所    
 塚越博之 篠田大輔 齋藤麻理子 髙橋裕子 島田 諒 井上伸子
 塩野雅孝 猿木信裕    
国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター
 黒田 誠 関塚剛史

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan