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飲食店の利用促進キャンペーンと新型コロナウイルス感染症発生との関係

(IASR Vol. 43 p121-122: 2022年5月号)

 

 2021年秋には国内で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)B.1.617.2変異株(デルタ株)の流行が落ち着きつつあったが, 旭川市では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患率が高い状況が続いていた。同時期, 旭川市にある繁華街, 通称「さんろく街」では, 2021年10月6日から観光社交飲食協会が加盟店対象に, 複数店舗の利用で特典が得られるキャンペーンを開催しており, 101店舗(うち接待を伴う飲食店24店舗)が参加していた。そのような状況の中で, 10~11月にかけて, さんろく街の飲食店従業員と客を中心としたクラスターが複数確認された。そこで, 繁華街におけるキャンペーンが感染拡大に与えた影響および自治体によるCOVID-19対策優良飲食店の認証制度の感染拡大予防効果について検討した。なお, 2021年10月時点で旭川市には飲食店が3,358店舗存在していた。

 症例定義を, 旭川市全域の飲食店の利用客および従業員で, 2021年10月6日~11月24日の間に抗原定量検査またはPCR検査でSARS-CoV-2が検出された者, とした。また, 旭川市の調査票から症例情報を確認し, 同市経済部局からの店舗数情報, 市内数店舗の現地視察と店舗従業員への聞き取りの結果を利用した。複数店舗利用促進キャンペーンと症例発生店舗との関係は, リスク比と95%信頼区間で評価した。

 旭川市では上記期間に157例のSARS-CoV-2感染者が報告され, うち76例が症例定義に合致した。症例は男性が43例(57%), 年齢は中央値39歳(四分位範囲:28-44歳)であった。飲食店従業員47例(62%), 利用客29例(38%)であり, ワクチン接種者(発症2週間前までに2回接種を完了した者)は11例(14%)のみであった〔うち従業員4例(従業員例の9%)〕。旭川市にある飲食店3,358店舗中, 症例発生店舗は43店舗であった。症例発生店舗の割合は, キャンペーン参加店舗で4.0%(4/101), 非参加店舗で1.2%(39/3,257)で, リスク比は3.3〔95%信頼区間(95%CI): 1.2-9.0〕であった()。

 複数症例が発生した店舗の割合はキャンペーン参加店舗で1.0%(1/101), 非参加店舗で0.6%(18/3,257)で, リスク比は1.8(95%CI : 0.2-13.3)であった。絶対的なリスクは低く, リスクの差は大きくなかったものの, 参加店舗の方が症例発生リスクが相対的に高い傾向がみられた。

 クラスター発生初期に症例が発生した店舗では, 他の飲食店従業員が自分の店の営業終了後に利用していたことが多く, そこで感染した従業員が自分の店に持ち帰り, 感染をさらに広げた例がみられた。一部には換気が不十分なカラオケ設備の店舗や, 1つのビル内に複数飲食店が入居し, 窓がないことや扉の配置等から換気が難しい店舗の例もみられた。

 旭川市では, 複数店舗利用促進キャンペーンを実施していた繁華街において, 複数飲食店の従業員と客の間で, 特に若年のワクチン未接種者を中心にSARS-CoV-2デルタ株感染が広がっていた。

 旭川市における, 1例の発生から数えた症例発生リスクは複数店舗利用促進キャンペーンとの間に関連を認めていたが, 店舗に関連した複数症例発生に関しては, 同キャンペーン参加の有無と明らかな関連を認めておらず, 同キャンペーンが店舗内での感染伝播に寄与したかは明確ではなかった。ただし, 症例発生リスクには, 持ち込みと店舗内での感染伝播の, どちらのリスクも含まれていると考えられた。今回の複数店舗利用促進キャンペーンでは感染対策上の条件は示されていなかったが, キャンペーン実施において, 感染対策を考慮している店舗や, 利用客に対して優遇して特典を付与する, 等の工夫は検討する価値がある。また, 陽性者は若年のワクチン未接種者が多かったことを踏まえ, 接種証明を提示したキャンペーン利用者への特典等もワクチン接種推進の一助として期待される。

 北海道では, 旭川市内の飲食店に対し従業員のマスク着用・手洗い, 従業員の健康管理, 換気, 環境清掃と消毒, 密を避ける工夫, 客の咳エチケットと積極的な情報提供を促す認証制度を設けていた。しかし, 本制度の申請受付は同キャンペーン開始後からであり, この認証制度の内容や開始が今回の症例の増減に与えた影響は評価ができなかった。

 本調査の主要な制限として, 飲食店利用客は特定が難しく接触者全員の検査が不可能であったこと, 飲食店の視察は一部の店舗のみ営業時間外に行っており実際の状況とは異なる可能性があること, リスクが高いと考えられる店舗や業態の店(狭い, 接待を伴う, 換気不十分, 「はしご」しやすい, 等)がキャンペーンにより多く参加していた可能性, が挙げられる。

 オミクロン株の流行により, 国内のCOVID-19対策は変化しつつあるが, 飲食店における対策は引き続き重要である。繁華街でのキャンペーンを実施する場合には, 感染対策の内容をより効果的に店舗や利用者にリマインドしていくことが必要であり, その方法としての認証の実施や更新などの展開は有効であると考えられる。


北海道保健福祉部旭川保健所     
国立感染症研究所実地疫学研究センター 

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