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SARS-CoV-2オミクロン株BA.2系統に特徴的なS371F変異を検出するための工夫―秋田県

(IASR Vol. 43 p170-171: 2022年7月号)

 

 目下のところ, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株を検出する方法として, BA.1系統とBA.2系統の両方にみられるG339D変異と, BA.1系統のみにみられるT547K変異を検出する2波長TaqMan assayを基本原理としたPCR検査プロトコール1)が報告されている。一方, 3月以降にゲノム解析によりBA.1系統よりも感染力が高いとされるBA.2系統の検出例が増えてきたことから, 両者を効率的に鑑別できるスクリーニング手法があればモニタリングに寄与するものと考えられた。我々は先にN501Y変異検出PCRプロトコールに最小限度の改変を加えることで, R.1系統にみられるE484K変異の検出能を付加する工夫を行った2)。今回, その手法を応用してG339D変異検出PCRプロトコールにBA.2系統特異的な変異の検出能を付加することができたので報告する。

 上記の報告1)に記載のあるG339D変異検出プロトコールでは, オミクロン株(339D)に対応したFAMラベルのプローブと, それ以外の株(G339)に対応したVICラベルのプローブを用いることでオミクロン株のスクリーニングが可能となっている(BA.1系統とBA.2系統共通)。T547K変異検出プロトコールでは, オミクロン株BA.1系統(547K)に対応したFAMラベルのプローブと, それ以外の株(T547)に対応したVICラベルのプローブを用いることでBA.1系統のスクリーニングが可能である。一方, ここで用いられるVICラベルプローブは, オミクロン株BA.2系統の他にも, アルファ株, ベータ株, ガンマ株, デルタ株, カッパ株, R.1系統に反応することが確認できている。

 そこで我々は, G339D変異部位の近傍にS371L (BA.1系統で認める)とS371F変異(BA.2系統で認める)があることに着目し, そこが3’末端となるようなallele specific primerを2種類デザインした。しかし, これだけではどちらも同程度に増幅されて識別できないことから, 3’末端から3番目の位置に意図的なミスマッチを入れて特異性を増強させた3)。反応液として, G339D変異検出プロトコールのreverse primerであるS_G339D_2RをAK-S371L-R222: 5’- ACTTAAAAGTGAAAAATGGTGCAAG -3’ (下線部が意図的なミスマッチ)で置き換えたもの(SLセット)と, AK-S371F-R222: 5’- ACTTAAAAGCGAAAAATGGTGCAAA -3’で置き換えたもの(SFセット)を調製し, それぞれに供試RNA (Twist Bioscience社製合成RNA)を加えた後, real-time RT-PCRを行った(条件はG339D変異検出プロトコールと同じ)。図1および図2に示したとおり, BA.1系統ではSLセットで, BA.2系統ではSFセットで効率的な増幅がみられ, 反対側のセットでは増幅の遅延(7-10サイクルが多い)が観察された(全く増幅されないこともあった)。いずれの変異もゲノム解析によって正しく識別されていることが確認できた。デルタ株などのオミクロン株以外のウイルスについては, どちらのセットでも増幅がみられなかった。

 今回の検討では, PCR試薬としてTHUNDERBIRD® Probe One-step qRT-PCR Kit (東洋紡)を, 機器としてLightCycler480Ⅱ(Roche Diagnostics)を使用した。他の試薬を用いる場合には, proofreading活性のある酵素を用いていないかを確認する必要がある(3’ミスマッチが修正されて識別できなくなる可能性がある)。

 いわゆる第6波の流行拡大局面とされる2022年1月~4月30日現在に至るまでにG339D変異検出PCRで識別できた2,155検体におけるS371F変異の検出状況をに示した。1月に初めてS371F変異を持つウイルスがみつかり, ゲノム解析でBA.2系統と確定したが, 一部の地域に限定されており, 他への拡大はみられなかった。3月になって再びS371F変異を持つウイルスが検出され, そのエリアも県内ほぼ全域に及ぶようになった。3月下旬からは検出数が急増してきており, 4月末にはほぼ置き換わった。また, 今回S371F変異を検出した381例について, BA.1系統に特異的な547Kが確認されており, 矛盾する点はなかった。

 BA.2系統のリスク評価はいまだ定まっておらず自治体からの報告対象ではないものの, 流行拡大要因の1つになり得るため, 状況を注視していく必要があるものと思われる。一方で, ゲノム解析に適さないCt値が30以上の検体も多数あることから, 置き換わり状況を効率よく安価に把握する手法として本法が有用であった。また, 本法で用いた意図的なミスマッチを挿入したallele specific primerを用いた識別法は, 他の1塩基変異の検出にも応用できるものと考えられた。

 

参考文献
  1. Takemae N, et al., Jpn J Infect Dis (in press),
    DOI: https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2022.007
  2. 斎藤博之ら, IASR 42: 152-153, 2021
  3. Hayashi K, et al., Theor Appl Genet 108: 1212-1220, 2004

秋田県健康環境センター保健衛生部       
 斎藤博之 秋野和華子 藤谷陽子 樫尾拓子 柴田ちひろ
 佐藤由衣子 鈴木純恵 齊藤志保子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan