印刷
IASR-logo

まん延防止等重点措置にともなう推定感染場所別症例数の推移(2021年8月20日~9月12日)―富山県

(IASR Vol. 43 p198-199: 2022年8月号)

 
はじめに

 富山県内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波(2021年7月3日~10月30日)において, 2021年7月上旬から新規陽性者数が増加し, 第33週(8月16日~22日)をピークに減少に転じた。この期間に, 県内では2,825例の症例が報告され, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主要な変異株はアルファ株(B.1.1.7系統)からデルタ株(AY.4.2系統)へと置き換わった。これまでに著者らは, デルタ株は従来株, アルファ株と比較し, 二次感染率が高いことを報告した1)。一方, 富山県内では, 第5波感染拡大期に確認されたクラスターの4割が飲食店等の飲食をともなう場で確認された。このことから, 県内では初めて, 2021年8月20日~9月12日の期間, A市内にまん延防止等重点措置(以下, 重点措置)が適用され, 飲食店の営業時間短縮, 酒類提供の終日自粛, が要請された。さらに重点措置終了後も飲食店の営業時間, 酒類提供時間の短縮が9月26日まで要請された。本稿では, 重点措置の効果および意義を検証することを目的として, 推定感染場所別の症例数の推移を解析した。

方 法

 A市保健所管内において, 発症日ベースで2021年7月27日~9月12日までの期間に新規に確認されたCOVID-19患者1,206例を調査対象とした。このうち, 発症日不明の2例は解析から除外した。7月27日~8月19日に発症した症例を「実施前群」(n=734), まん延防止等重点措置が実施された8月20日~9月12日に発症した症例を「実施期間群」(n=470)とし, 積極的疫学調査により推定された感染場所別の症例数を比較した。症例の推定感染場所は, 家庭内(同居知人を含む), 社員寮等, 職場, 飲食店, 知人との交流, 福祉施設・医療機関, 学校・部活動等, 県外で感染, 経路不明, の9つに分類した。

結 果

 発症日に基づく推定感染場所別流行曲線をに示す。全体では, 7月下旬から急速に新規患者数が増加し, ピーク時の8月17日には1日で63例の患者が認められた(図A)。8月20日からA市内で重点措置が実施され, 速やかに症例数は減少し, 9月13日に重点措置は解除された。飲食店, 知人との交流に関連する感染症例は, 8月14日~17日頃にピークが認められ, 重点措置開始後速やかに減少した(図B, C)。一方, 家庭内や職場における感染症例は, 重点措置開始後も数日間は増加し, ピークは8月21, 22日頃であり, その後, 飲食店や知人との交流における感染症例と比較して緩やかに減少した(図D, E)。感染経路不明の症例は, 飲食店, 知人との交流と同様, 8月15日~18日頃にピークが認められ, 重点措置開始後, 速やかに減少した。しかしながら, 重点措置実施期間の後半(~9月12日)においても1日数例の患者報告が続いた(図F)。

 症例数の推定感染場所別の推移についてに示す。感染拡大期となる重点措置実施前において, 推定される感染場所は, 経路不明(n=358), 家庭内(n=162), 飲食店(n=85), 職場(n=53)の順に多かった。実施期間における増加比は, 飲食店(0.17), 学校・部活動等(0.26), 知人との交流(0.28), 県外で感染(0.29), 社員寮等(0.37), 経路不明(0.51)の順で低かった。人口10万人当たりの増減差をみると, 経路不明(−42.1), 飲食店(−17.1), 知人との交流(−7.5)の順に大きな減少が認められた。

考 察

 富山県内A市において, 重点措置実施前と比較し, 重点措置実施期間中は, 飲食店, 知人との交流に関連した症例, 経路不明の症例が顕著に減少し, その後に家庭内や職場内感染者数も減少した。重点措置は, 飲食店での感染抑制を主目的とした対策であり, A市においても重点措置により住民の飲食店利用, 会食による感染者数が減少したと考えられる。本調査において, 重点措置実施前には, 全体症例数に占める飲食店での感染症例数の割合は, 約1割程度であった。しかし, 飲食店での感染発生を阻止することは, 家庭や職場内, 他のコミュニティへの二次感染の予防につながることから, 重点措置による第5波の収束への効果は大きかったと考えられる。また, 重点措置に先立ち, 県は警戒レベルをステージ3に引き上げ, 不要不急の外出自粛を要請していたことから, 知人との交流や経路不明も顕著に減少したと考えられる。一方, 調査期間中の主要な感染場所であった家庭内, 職場での感染者数は, 重点措置実施期間中の減少は認められなかった。二次感染のリスクは家庭内が最も高いが1, 2), 感染対策を公共の場と同様に家庭内で実践することは困難であったと考えられる。また, 家庭内感染のピーク時期は, 全体と比較して数日遅かった。家庭内感染は, 流行地域との往来や会食, その他の行動により家庭内にウイルスが持ちこまれることから, コミュニティ全体で流行が減少に転じても, 家庭内感染が一定期間継続したと考えられる。職場では, テレワークや公共交通での時差出勤が推奨されたが, 実践できる労働者は一部であり, 職場における行動変容は限定的であった可能性がある。

 本調査の制限として3点考えられる。第1に, 重点措置に先立ち, 県独自の警戒レベルをステージ3に引き上げた影響を区別できていない。第2に, 経路不明の症例が最も多く, 各感染場所における症例の減少を過小評価している可能性がある。一方, 患者が重点措置実施中に飲食店利用歴などを正直に申告しない, 社会的望ましさバイアスがあった可能性も考えられる。最後に, 2021年7月26日~9月12日の間に, A市内で新型コロナワクチンを2回接種した割合は, 60歳以上で54%から89%に, 20~50代で10%から32%に上昇した。このことから, 本稿で示した重点措置の効果には, 地域住民のワクチン接種率が上昇したことが影響している可能性がある。

結 論

 富山県におけるデルタ株を中心としたCOVID-19の第5波において, A市では重点措置の実施にともない, 飲食店の利用, 知人との交流に関連する症例数が速やかに減少した。今回の調査結果から, COVID-19に対する公衆衛生対策としてのまん延防止等重点措置の効果およびその意義が示唆された。

 

参考文献

富山県衛生研究所               
 田村恒介 加藤智子(現富山県高岡厚生センター)
 中崎美峰子 笹島 仁 大石和徳       
富山県健康対策室               
 松本かおる 守田万寿夫 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan