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新型コロナウイルスオミクロン株によると推定された院内クラスターにおける医療従事者を対象としたスクリーニング検査

(IASR Vol. 43 p238-240: 2022年10月号)

 

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株(以下, オミクロン株)が優勢となった2022年1月に発生した高知市内の急性期病院(A病院)におけるクラスターで, 職員へのスクリーニング検査で得られた知見を報告する。

クラスターの概要

 高知県では, 2021年11月13日以降初の陽性例が同年12月31日に報告された1)。また, 2022年1月2日に県内初のオミクロン株感染例が報告された。高知県衛生環境研究所(衛研)での変異株PCR検査では, クラスターが発生した同年1月第4週のL452R変異検出系陰性検体の疫学週別の割合(判定不能を除く)は95%(21/22)であった1)。同年1月~2月初旬にかけ, 衛研でゲノム解析された検体は, 解析不能を除きデルタ株ないしオミクロン株であったことから, L452R変異検出系陰性検体はオミクロン株と推定された。

 A病院では, 2月1日に最初の陽性例がB病棟で探知された。当該病棟職員や患者に対するスクリーニング検査が開始され, 経過においてB病棟を含むC館の全病棟で陽性例が確認された。そのため, C館に勤務する職員については出勤時に検査を実施し, 陰性確認後に業務についた。最終症例の発症日から新規陽性例を認めず14日間が経過した2月28日に, 事例の終息とした。

方 法

 症例定義を「2022年1月14日~2月28日に, A病院C館での勤務歴ないし入院歴があった者, またはこれらの者からの感染伝播が示唆された職員で, 鼻咽頭ぬぐい液を用いた抗原定量検査またはLAMP法でSARS-CoV-2陽性が判明した者(以下, 陽性例)」とした。SARS-CoV-2抗原量は, ルミパルスプレスト SARS-CoV-2 Ag(富士レビオ)を用い, ルミパルスL240(富士レビオ)で測定し, 1.0pg/mL以下を陰性, 1.0-10pg/mLを判定保留, 10pg/mL以上を陽性とした。診療録ならびにワクチン記録簿をもとに情報収集を行った。ワクチン接種回数については, 1月28日(院内に感染性を有するものが存在したと推定される期間の初日)時点で, 直近のワクチン接種後2週間以上経過している場合を有効な回数とした。

結 果

 対象期間に計131例の陽性例を認めた。そのうち4例の検体で変異株PCR検査が実施され, いずれもL452が検出された。

 1. 基本属性および臨床像

 131例のうち職員陽性例(n=60)の基本属性は, 年齢中央値(範囲)が33歳(21-61歳)で, 女性47例(78%)であった。重症化リスク因子2)となる基礎疾患(肥満・喫煙を除く, 重複なし)は, 喘息3例, 糖尿病3例, 高血圧症1例, 虚血性心疾患1例であった。ワクチン接種歴は, 3回接種35例(58%), 2回接種17例(28%), 接種なし3例(5%), 接種日ないし接種回数不明5例(8%)であった。無症状時に陽性と判明し療養中に発症した者を含め有症状者は45例(75%)であり, 臨床症状の内訳をに示す。頻度の高かった症状(重複あり)は咽頭痛71%(分母は有症状者45例, 以下同じ), 咳嗽53%であった。陽性60例全例で胸部単純X線または/およびCT検査が行われたが, 肺炎を示唆する明らかな所見は認めなかった。モルヌピラビルが投与された症例は2例であった。加療の有無にかかわらず, 全例が無症状ないし軽症にて経過した。

 2. 有症状職員陽性例における抗原定量検査の結果について

 有症状職員陽性例(n=45)のうち, LAMP法にて診断された1例, 抗原定量検査結果が得られなかった1例を除く43例について, 発症日をDay0とし, 初回の抗原定量検査の結果を発症から検査までの日数別にに示す。Day-3とDay-2の初回検査で陽性となった症例はなく, Day-1に初回検査が実施された5例中1例が陽性であった。一方, 初回検査がDay0~Day2で実施された場合, 陽性割合はそれぞれ70%程度であった。なお, 発症前に初回検査(Day-3~Day-1)を受けた21例では, 発症前に延べ31回の検査が実施され, 陽性は前述の1例のみであった。

考 察

 オミクロン株感染例においては, それ以前の変異株感染例と比較し, 無症状感染例の割合が高いこと, 咽頭痛の頻度が高いことが示唆されている3,4)。本解析では主にワクチン接種歴のある若年成人を対象としているが, 諸外国からの報告と同様の結果であった(無症状25%, 咽頭痛71%)。抗原定量検査はPCR検査より短時間で結果が得られるため広く活用されているが, 検査感度はPCR検査より低いとされている5)。今回, 陽性の事前確率が高いと考えられたアウトブレイク対応におけるスクリーニング検査, かつ有症状であっても, 発症当日から発症後2日目までに初回検査を実施した場合の平均の陽性割合は, 68%(15/22)であった。アウトブレイク対応時には, 有症状者の抗原定量検査が陰性であっても注意深い感染対策の継続が必要と考えられる。また, ワクチン接種歴を有する若年者では, 発症前に抗原定量検査陽性となる頻度は低い可能性が示唆された。本調査の制限として, 個々の症例の感染経路, 曝露日の正確な評価が困難であり, 曝露日とスクリーニング検査の間隔ならびに前後関係が特定できなかった。また, オミクロン株によるクラスター事例の可能性が高いと推定されたが, 確定はできていない。

 謝辞:調査にご協力いただいた関係者の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 高知県健康政策部健康対策課記者発表資料
    https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/130401/2020022900049.html(Accessed March 1, 2022)
  2. 新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.0版
  3. UK Health Security Agency, SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 34
    https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1050236/technical-briefing-34-14-january-2022.pdf(Accessed April 1, 2022)
  4. Kim MK, et al., J Korean Med Sci 37(3): e31, 2022
  5. Aoki K, et al., J Infect Chemother 27(4): 613-616, 2021

社会医療法人近森会近森病院  
 石田正之 近森幹子 前野多希 桜木陽子          
国立感染症研究所       
 実地疫学研究センター    
  錦 信吾 島田智恵    
 薬剤耐性研究センター(実地疫学研究センター併任) 
  黒須一見

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