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BA.5系統とBA.2系統の組換え体と推察された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)株の検出について

(IASR Vol. 43 p240-241: 2022年10月号)

 

 愛知県衛生研究所(当所)では国立感染症研究所(感染研)の方法1)にのっとり, SARS-CoV-2のゲノム解析を実施している。今回, BA.5.2.1系統とBA.2.9系統の組換え体と考えられる2株を検出したので報告する。

 当該株(ID: PG-332714およびPG-332715)の検体採取日はそれぞれ2022年7月31日, 8月2日であり, 両患者は家族であった。感染研・病原体ゲノム解析研究センターが運用するCOG-JPでゲノム解析を実施した結果, PG-332715についてはcomplete配列を得られていたが, 両株ともゲノム増幅用のmultiplex PCR primer setのうちの85_LEFTの結合部位にC25614T変異を有し, そのためamplicon#85の増幅効率が悪く, PG-332714にはORF3a領域の一部に未解読部分があった。解読できた範囲においては両株の配列は完全に一致していた。また, 両患者とも2つ以上の系統が異なる株による同時感染を示唆する混合アレルは検出されなかった。

 この2株はPangolin(version: 4.1.1)2)においてBA.2に分類され, またNextclade(v2.4.19)3)ではClade: 21L(Omicron), Pango lineage: B.1.1.529と判定された。採取時期を考慮すると, オミクロン上位系統(B.1.1.529, BA.2)ではなく, より詳細なPANGOLIN ID(例:BA.5.2.1等)として判定されるべきであり, 違和感を覚えた。そこで, Nextcladeによるゲノムアライメントを確認したところ, Sタンパク質領域まではS:F486I変異を有するBA.5.2.1系統の株と類似の配列をもつ一方で, ORF3a領域以降についてはBA.2.9系統に高い相同性を示した(web版のみ掲載図参照:https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2022/10/512c02f01.gif)。

 アミノ酸変異をBA.2, BA.5およびBA.4系統と比較した()。ORF1aおよびSタンパク質領域ではBA.5系統の特徴と一致する変異を有する一方で, BA.2, BA.4系統の特徴とは相違が認められた。しかし, M, ORF6領域における変異はBA.5系統とは合致せず, BA.2系統と符合するものであった。また, ORF3aにH78Y変異が認められた。これは主にBA.2.9およびその下位系統に認められる変異であり, ORF3a以降の変異はBA.2.9系統に由来することが示唆された。

 さらに, この2株にはSタンパク質にF486Iという特徴的なアミノ酸変異が認められた。F486はACE2結合および中和抗体エピトープを構成することが知られており4), BA.4, BA.5系統の株でF486V変異がみられる部位である。F486V, F486Iともにウイルスの免疫逃避にかかわることが推測される。F486I変異を持つ株は, 2022年4月以降GISAIDに399株登録されている(2022年8月18日現在)。そのうちBA.5.2.1系統の株が339株を占め, F486V(TTT>GTT)→V486I(GTT>ATT)という2段階の変異があったと推測された。今回の株の配列のうち, Sタンパク質領域までの配列をPangolinで判定したところ, BF.12(=BA.5.2.1.12)と示され, これはS:F486IをもつBA.5.2.1系統である。以上のことから, この2株はS:F486IをもつBA.5.2.1系統株と, BA.2.9系統株がS-ORF3a間(nt 23,041-25,623)で組換えを起こしたものである可能性が高いと考えられた。この位置はXD系統においてAY.4系統とBA.1系統の組換えがみられた位置(nt 25,469-25,584)と重なり5), 同様の位置で組換えが起きたと推測された。

 このS:F486IおよびORF3a:H78Yをもつ株はGISAIDに10件登録されているので, 今後も他の変異株同様に注視する必要がある。これら10件はいずれも日本で検出された株であり, ゲノム全体を通して今回検出された2株に非常に近い配列を持つことから, 疫学的リンクが推測された。最も早く検出されたのは7月初旬で, 当所より早く検出されていた。

 今回の組換え体ではSタンパク質の配列はBF.12系統から変化はなく, 組換えによる公衆衛生上のリスク増大を積極的に疑う根拠はないと考えるが, モニタリングを行ううえで, 今後も組換え体出現の可能性を念頭に置いてゲノム解析を実施する必要があると考えられた。

 謝辞:COG-JPおよびGISAIDにゲノム登録されている全国の地方衛生研究所・保健所の関係者各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 新型コロナウイルスゲノム解析マニュアル Qiagen 社 QiaSEQ FX 編 version 1.4
  2. O’Toole Á, et al., Virus Evol 7(2): veab064, 2021
  3. Aksamentov I, et al., J Open Source Softw 6(67): 3773, 2021
  4. Barnes CO, et al., Nature 588(7839): 682-687, 2020
  5. Colson P, et al., J Med Virol 94(8): 3739-3749, 2022

愛知県衛生研究所        
 安達啓一 鈴木雅和 宮本真由歌 青山文生 新美 瞳
 廣瀬絵美 髙橋新次 皆川洋子 諏訪優希 佐藤穂奈美
 齋藤典子 伊藤 雅 佐藤克彦

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