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新型コロナウイルス感染症の変異株流行期別二次感染率の推移

(IASR Vol. 43 p267-269: 2022年11月号)
 
はじめに

 本解析の目的は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対して実施された積極的疫学調査情報を集約し, 変異株の感染性や, 感染者や濃厚接触者の特徴を明らかにすることである。これまでに非変異株流行期, アルファ株流行期, デルタ株流行期に実施した調査結果をIASRに報告1-3)してきたが, 今回オミクロン株流行期の情報を新たに集約し, 変異株流行期別, 感染者と濃厚接触者基本属性別の二次感染リスクを検討した。

方 法

 富山県A市で, 2020年7月1日~10月31日(非変異株流行期), 2021年4月1日~4月30日(アルファ株流行期), 2021年7月3日~8月15日(デルタ株流行期), 2022年1月3日~1月23日までの4期間にCOVID-19患者として発生届が提出された感染者を対象とした。濃厚接触者は, 当該期間中に国立感染症研究所が公開している「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」の濃厚接触者の定義に基づき4)決定した。2022年1月3日~1月23日に実施された変異株スクリーニング検査において84%がL452R変異株(オミクロン株)であったことから, 当該期間に優位に流行していた株はオミクロン株であったと確認された(オミクロン株流行期)。本解析では, 感染者と濃厚接触者の基本属性・接触歴〔期間, 感染者の年齢群, 性別, 症状の有無, 診断前のCOVID-19感染者との接触, 同居家族(家族以外の同居者も含む)内接触者の有無, 濃厚接触者の年齢群と性別〕別に二次感染率(濃厚接触者中のPCR検査陽性率)を算出した。また, ポアソン回帰分析を用いて, 基本属性・接触歴因子それぞれにおける二次感染率の相対リスク(期間ごと, 年齢群ごと, 症状の有無等)を算出し, 先述の因子で補正した相対リスクを求めた。

結 果

 オミクロン株流行期にPCR検査結果が報告された濃厚接触者1,145名のうち, PCR検査陽性者は254名であり, 二次感染率は22.2%〔95%信頼区間(CI): 19.8-24.7〕であった。オミクロン株流行期は, 非変異株流行期と比べて補正後二次感染リスクが2.47倍(95%CI: 1.89-3.22)上昇していた()。

 特に同居家族内二次感染率は35.0%(95%CI: 30.3-39.8)と高い値を示した〔図(b)〕。また, 濃厚接触者の年齢群別二次感染率をみると(), 20-39歳の濃厚接触者の二次感染率が最も高く, オミクロン株流行期の当年齢群の二次感染率は30.4%(95%CI: 25.1-36.1), 同居家族内二次感染率は39.3%(95%CI: 29.1-56.1)であった。0-19歳の全濃厚接触者二次感染率は, 保育園や学校での濃厚接触者数が多いことも影響してか低い傾向にあったが, デルタ株流行期以降二次感染リスクは上昇し, オミクロン株流行期には同居家族内二次感染率が20-39歳の二次感染率と同程度になるまで上昇した。また, ワクチン接種率の高い60歳以上の二次感染率は, ワクチン接種者が解析に含まれたデルタ株流行期に低下し, オミクロン株流行期に再び上昇に転じた。一方, 感染者の年齢に注目すると, 60歳以上の感染者と接触した濃厚接触者の二次感染率は全期間を通じて他の年齢群と比べて高い傾向にあることがわかった。特にオミクロン株流行期では, 60歳以上の感染者と接触した人の二次感染率は50%を超えていた。

考 察

 本調査結果から, 変異株の流行時期によって二次感染率が変化してきたことが示された。特に非変異株流行期と比べ, オミクロン株流行期は感染率が約2.5倍上昇した。また, 年齢群別二次感染率の結果から, 年代によって二次感染リスクに特徴があることがわかった。60歳以上の二次感染率はワクチン接種開始後のデルタ株流行期で低下し, その後オミクロン株流行期で再び上昇していた。富山県では, オミクロン株流行期にはワクチン接種希望者の多くがすでに2回接種を完了していた〔ワクチン2回接種率 65歳以上: 93%, 64歳以下: 70%(母数にワクチン接種対象ではない小児も含む, 接種者数はワクチン接種記録システムオープンデータを参照)〕ことから, オミクロン株へのワクチン効果の低下やワクチンによって誘導された抗体価が減衰したタイミングであった可能性が考えられる。一方, 60歳以上の感染者からの感染リスクはワクチン接種の有無にかかわらず全期間を通じて, 他の年齢群より高い傾向を示していた。これは, 高齢者が体調不良時に同居または別居家族からケアを受ける機会が多いことや, 年齢による症状や排出されるウイルス量の違いによって感染性が増加した可能性が考えられる。また, 20-39歳の濃厚接触者の二次感染率がアルファ株流行期で低下していたが, この時期の同居家族内濃厚接触者の特徴として同じ寮に住む技能実習生や, 50代の親世代からの感染が多く, 感染率が高くなる傾向にある配偶者間など同世代同士の接触が少なかったことが関連している可能性がある。

 本調査は富山県の生活環境や対策状況を反映した結果であり, 特に接触状況に左右されやすい年齢群別の二次感染率は一般化できるものではないことに注意が必要である。また流行時期によって接触者調査の重点化がなされていることから, フェーズごとの比較にも注意が必要である。このような制限はあるものの, 同じ地域, 環境下で継続した調査を行うことによって, 流行株の感染性の変化や年齢群ごとの感染性の推移について検討することが可能となる。

 

参考文献
  1. 田村恒介ら, IASR 42: 104-106, 2021
  2. 田村恒介ら, IASR 42: 236-237, 2021
  3. 田村恒介ら, IASR 43: 42-43, 2022
  4. 国立感染症研究所, 新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年5月29日暫定版, 2021年1月8日暫定版)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html

富山県衛生研究所         
 田村恒介 中崎美峰子 谷 英樹 大石和徳            
富山県高岡厚生センター      
 加藤智子            
国立感染症研究所感染症疫学センター
 宮原麗子 大谷可菜子 神垣太郎 鈴木 基

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