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沖縄県における医療施設の新型コロナウイルス感染症5類定点化後流行状況把握調査, 2023年7月末時点

(IASR Vol. 44 p185-186: 2023年11月号)
 
背景と目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2023年5月8日から感染症法上の2類相当全数報告疾患から5類定点報告疾患に変更され, 感染症発生動向調査上は流行のトレンドとレベルの把握が中心となった。沖縄県では2023年4月後半から定点医療機関当たり報告数の増加がみられ, 5月には10人を超え, 第26週(6月26日~7月2日)には48.39人に達した。一方, 同週の日本全体の定点当たり報告数では7.24人と, 大きな隔たりがあり, 沖縄県は定点化変更後, 最も早くCOVID-19の大きな流行を認めた自治体であった。県内医療施設ではひっ迫状況を来しており, その背景情報の収集解析は保健行政・医療機関がCOVID-19対策を構築するうえで重要と考えられた。なお本報告は2023年7月末時点の情報に基づく。

方 法

県内3つの急性期医療施設X, Y, ZにおけるCOVID-19による入院患者, 院内罹患患者および休職を要した罹患・曝露職員に関する情報を収集・解析した。調査期間は2022年6月15日~8月15日(期間1), 2023年5月1日~6月30日(期間2)とし, 各期間に入院期間が含まれる患者と発症日・曝露日が含まれる職員を抽出して比較を行った。それぞれ県内でオミクロン株BA.5系統, XBB系統が主流となる流行が開始してピークに向かう時期であった1,2)

結 果

3施設とも, 患者に対する入院時スクリーニングPCR検査は期間1および期間2で継続しており, 罹患確定者の隔離期間は「発症後10日+PCR検査陰性確認まで」でほぼ同様であったが, 曝露した患者の隔離期間は施設Xは曝露後5日, 施設YおよびZは7日, と違いがあった。一方, 曝露した職員への対応は, 期間2で施設Xは無症状なら抗原検査をしつつ就業, 施設Yは7日間休職後にPCR陰性確認, 施設Zは5日間休職後にPCR陰性確認, と異なる対応であった。期間1と比較して期間2では入院中患者数と休職職員数の比率(休職職員数/入院中患者数)は調査期間を通して同等~高かった(施設Xは期間2の曝露による休職職員のデータが収集されておらず解析できず)。施設Yでは期間1より期間2で, COVID-19入院中患者数は比較的少ないにもかかわらず, 罹患・曝露による職員の不足やクラスター発生の影響が大きく, 診療制限を設ける期間がより長くなっていた(図a-1, 2)。一方, 施設Zでは, COVID-19入院患者数が期間1に比較して期間2では著しく少なく, 職員の罹患は多かったものの診療制限を要する期間は比較的短かった(図b-1, 2)。

本調査対象の3医療施設におけるCOVID-19に罹患した職員の感染源は, 期間1(n=284)は同居者, 同居者以外の市中, 職場, 不明がそれぞれ37.7%, 6.7%, 15.1%, 40.5%, 期間2(n=384)はそれぞれ20.5%, 8.2%, 23.2%, 48.2%となっていた。感染源については不明が最も多く, 感染源が判明したものでは両期間とも職場内より職場以外(同居者+同居者以外の市中)のほうが多かったが, 期間1より期間2で職場内感染が増加していた。

考 察

沖縄県においてBA.5系統が主流となった期間1, XBB系統が主流となった期間2の医療施設におけるCOVID-19流行を比較すると, 期間2は入院患者数の増加よりも施設内発生や休職を要する職員の増加が医療ひっ迫の要因として施設Yでは特に大きかったと考えられた。米国の医療施設を対象にしたコホート研究でも, 市中のCOVID-19罹患者が増加すると医療施設内での発生も増加する傾向が認められていた3)。本研究でも, 家庭内や市中での曝露が職場と同等かそれ以上に多く, 市中感染の影響を職員が受けたことを反映していると推測された。

本報告では, 医療施設が独自に把握していた入院患者および休職情報を基に解析しているが, 当該医療施設から医療機関等情報支援システム(G-MIS: Gathering-Medical Information System)に報告しているデータ(COVID-19に関連して休んでいる医師・看護師の総数, 入院中のCOVID-19患者数など)を用いた場合にも, おおよそ同様な経過を示すグラフを作成することができた。

本調査では, 県内の3急性期病院を対象としており, 医療機関特性や地域特性が多岐にわたる県内の状況を網羅的に把握はできていない。また, 診療録を用いた後方視的調査であり, 情報が不十分な項目があった。医療施設によって就業制限基準や検査実施方針に相違があり, 医療施設同士は一概に比較できないことに注意が必要である。

今後, COVID-19流行をはじめ, 地域流行が医療施設職員に大きく波及するような感染症においては, 地域の医療機能維持の面からも, 医療施設内での感染対策や休職職員への対応策を十分に練っておく必要がある。COVID-19は5類感染症になり, 以前と比較し, 詳細な患者や入院状況の把握がしにくくなったといわれるが, 医療施設で独自に継続的に把握しているデータや, G-MISのように医療施設・行政が収集しているデータ等, 重層的に様々なデータを活用し, 評価をすることで, タイムリーに医療施設のひっ迫状況や流行状況を把握し, 対策につなげることができると考えられる。

本調査にご協力いただきました県内各医療機関, 県内各保健所の皆様に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 新型コロナウイルス ゲノムサーベイランスによる系統別検出状況, 国内 新型コロナゲノムのPANGO lineage変遷(2022/06/24現在)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000958491.pdf
  2. 沖縄県感染症情報センター, 新型コロナウイルス ゲノム解析結果推移(2023年7月第2週公表分)
    https://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/vaccine/kensa/documents/genomukaiseki230721.pdf
  3. Hatfield KM, et al., JAMA Netw Open 6: e2329441, 2023
国立感染症研究所         
 実地疫学専門家養成コース    
  椎木創一 後藤滉平 金﨑美奈子 原國政直           
 実地疫学研究センター      
  小林祐介 島田智恵 砂川富正

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