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新型コロナウイルス感染症情報の効率的な把握・提供・共有のための北海道における取り組み

(IASR Vol. 41 p86-87: 2020年5月号)

2020年4月12日12時時点で, 国内の新型コロナウイルス感染者は5日の3,271例から1週間でほぼ倍増(または前日から743例増加)し, 6,748例となっている。陽性者の把握までには, 有症状者あるいは濃厚接触者からの検体採取, 検査機関への検体搬送, PCR検査とその結果の確認, と多くの人が関与し, また陽性確定後には, 医療機関あるいは宿泊施設の手配と搬送, 濃厚接触者の同定と健康調査が行われる。多くの都道府県で, 夜間, 休日も返上した対応が行われているが, 日常業務に加え, 各所で発生する情報を正確に把握し, 更新すること, あるいは日々公表が求められる数字を算出すること, 近隣自治体間で情報を共有することなど, 一連の作業は相当な負荷を伴う。患者数の急増は, 行政機関における各種業務の逼迫も招いていることから, 効率的かつ正確に情報を把握・提供しつつ, 可能な限り業務を省力化する方策が望まれる。

北海道庁では, 道内の各保健所から報告される検体検査結果, 患者情報, さらには濃厚接触者情報を日々更新し, 必要な集計表や図を作成している。加えて, 医療体制や検査体制の検討の実施, さらには, 札幌市をはじめとする保健所設置4市からの情報も統合して厚労省に報告する責を負っている。そのため, 迅速な情報共有の観点から, 自治体間で同じ方式で情報を入力することは有用であると考えられた。また, データ整理のためには, 作成する一覧情報から必要な集計表を迅速に作成するために, 入力値を制御し, 患者や検体の管理上, 時に必要とされる(例えば, 急激な悪化, 要電話連絡などの)個別の事情に基づく情報に関しては集計値に影響を与えない備考欄に入力するなどの工夫が必要である。そこで, 北海道大学公衆衛生学教室と北海道庁の協力により, 日常的に行政機関で用いられているMicrosoft®エクセルファイル形式で情報入力フォーマットを規定し, さらにそこから必要な表を作成する集計用GUIアプリをWindows環境下で動作可能な形で開発したので紹介する。

本ツールは, 患者情報と検査情報を入力するエクセルファイル, そしてそれらを用いて必要な表を作成するプログラム(集計用GUIアプリ)から成っている。エクセルファイル上, 作表に用いる項目を中心に, プルタブ機能を用いて入力値を制御した。このことから, 例えば, 「男」「男性」など同じ内容が異なる言葉で入力されることを避けた。一方で, 各自治体に応じた入力値(保健所名など)については, 別シートに用意したプルタブシートに情報を追加することでカスタマイズ可能としている。項目は北海道庁で必要とされてきたものをベースに開発しており, 各自治体で不要な場合には, 列幅を0とすることも可能である(ただし, 集計用GUIアプリの参照値の都合上, 列自体を削除することは避ける必要がある)。シート内で設定している項目名と重ならなければ, 自治体独自の項目を追加することも可能である(ただし, 加えただけでは自動集計表に反映させることはできない)。日々, 患者情報, 検査情報の更新が終了する時点などのタイミングでプログラム集計用GUIアプリを実行すると, 簡単に医療機関別入院状況, 日々のPCR検査陽性率などの表が作成される。

このツールを使用することにより, 対策本部で担当者が交代しても引き継ぎの手間をかけることなく, 仕事を継続することが可能であり, 異なる自治体間でも情報の共有ができる。特に患者数が少ないうちに, 情報を管理する体制を構築することが可能になると, 今後患者数が増加した場合にも手間が増大することなく, 日々必要な情報をまとめ, 作表できると期待され, 本ツールが貢献できると考える。なお, 現在のプログラムに搭載している機能は最小限のものとなっており, 今後, 集計表の追加等も検討している。

 
 
北海道大学大学院医学研究院       
社会医学分野公衆衛生学         
 玉腰暁子 朝倉利晃 木村尚史 平田 匠
北海道保健福祉部地域医療推進局     
地域医療課(兼)医務薬務課        
 人見嘉哲               
吉備国際大学保健医療福祉学部看護学科  
 中瀬克己

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