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情報入力用ファイルと集計用GUIアプリを用いた日常業務内における新型コロナウイルス感染症情報の把握例の紹介

(IASR Vol. 41 p87-88: 2020年5月号)

北海道庁は北海道大学大学院医学研究院公衆衛生学教室と連携して, 日常的に行政機関で用いられているMicrosoft®エクセルファイル形式で情報入力フォーマットを規定, さらにそこから必要な表を作成する集計用GUIアプリを開発し, 現在, 運用を行っている。このツールを用いることで, 自治体や保健所などで収集した新型コロナウイルス感染症情報に基づく“自動的かつ効率的な日々の業務に必要な数字”把握が可能となった(本号22ページ参照)。本稿においては, そのツールを用いた分析結果について紹介する。

1)北海道において収集された令和2(2020)年3月31日までのデータから集計用GUIアプリを用いることによって自動的に算出された陽性者数, 陰性者数, 死亡者数を用い, それぞれの累計と, 差分で示される現在患者数の推移を示す図を作成した(図1)。これにより, 北海道独自の緊急事態宣言発出までの患者数の推移とその後の状況を容易に把握することができた。

2)患者情報とPCR検査情報をMicrosoft®エクセルファイルに入力する際, データ形式等を制御し正規化することで各患者の入院期間やPCR検査による診断までに要した期間などをエクセル内の関数を用いて容易に算出することができる。この入力データを用い北海道内での必要病床数推定の際に参考となる入院期間やPCR検査による診断までに要した期間などを算出した()。

患者入院期間の中央値は11日であった。このうち, 回復までに要した期間(入院日-陰性確認検査開始日)は6.5日, 陰性確認検査開始までに必要な期間は約4日であった。また, 発症からPCR検査の陽性確定までに要した日数の中央値は7日であった。北海道では検体の移送や検査実施に約2日を要していたので, 診断された患者は発熱後約5日程度で検査を受けており, PCR陽性判明後1日程度で入院先が確保できていた。陰性確認までに必要な期間の入院先を地域で確保できると, 積極的な治療を担当する感染症指定医療機関などの負担軽減につながる。また, 発症からPCR検査までの期間を確認することで, PCR検査が厚生労働省が示した目安1)に従って適正に実施されていたかどうか判断することができた。

今回のツールは, 集計用GUIアプリによる自動集計機能が有用であるのみならず, エクセルファイルを用いて, 患者ならびに検査情報の管理を容易にしたことが特徴である〔入力画面の一部参照(図2)〕。上述したような検査数の推移や陽性率, 入院期間の動向を確認できるのはもちろん, 各担当部署から発生する患者情報, 検査情報の一元管理と共有化にも役立つものと考えている。

患者数が増え続ける中でこのような情報を正確かつ容易に確認できる体制を構築することは業務の適正遂行だけでなく省力化の面からも重要であり, 本ツールが貢献できると考える2)

 

参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課, 新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安について, 事務連絡 令和2年2月17日
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596978.pdf(2020年4月20日確認)
  2. 北海道大学大学院医学研究院社会医学分野公衆衛生学ホームページ
    https://publichealth.med.hokudai.ac.jp/covid-19-楽々集計セット/(2020年4月20日確認)
 
 
北海道大学大学院医学研究院  
社会医学分野公衆衛生学    
 木村尚史 朝倉利晃 玉腰暁子
北海道保健福祉部地域医療推進局
地域医療課(兼)医務薬務課   
 人見嘉哲          
札幌市保健所感染症担当部長  
 山口 亮

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan