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札幌市内中核病院における医療従事者の新型コロナウイルス感染症事例の感染伝播について

(IASR Vol. 41 p129-130: 2020年7月号)

2019年12月に中国で初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は1), 札幌市では2月14日に初めて患者が確認され2), その後4月より多数の患者発生が確認された。札幌市内の中核病院では4月13日より入院患者および医療従事者にCOVID-19集団感染が発生した。同院A病棟では, 看護師28名中19名が感染し, 9名が濃厚接触者となり, 勤務可能な看護師が不足した。4月21日から他部署の看護師23名が応援業務に就いたが, そのうち看護師5名が発症し, 札幌市衛生研究所で実施したRT-PCRでSARS-CoV-2が検出された。そこで, 感染経路の評価を目的に, 個人防護具(personal protective equipment:PPE)使用状況や勤務状況を電話によるインタビューで確認した。

5名の看護師は4月21日~5月16日に応援業務に入り, 清潔ゾーンでのリーダー業務および外回り業務, 汚染ゾーンでの日勤および夜勤業務を行っていた()。いずれも感染者が多数存在する環境であり, 各ゾーンで決められたPPEを使用して業務を行っていた。また, 休憩は窓が無く換気できない病棟休憩室や接触を避けるために, 今回新たに設けられた換気可能なセミナースタイルのデイルームを使用していた。PPEの着脱手順や管理方法に関する指導は, 勤務前日~翌々日に感染管理の知識や経験を持つ看護師から受けていた。汚染ゾーンでのPPEはN95マスク・サージカルマスク・ガウンを再使用していた(当初サージカルマスクは2日に1枚, その後N95マスク, サージカルマスク, ガウンは1日1枚)。感染患者が増加する中で, PPEの再使用方法や管理方法が日々変更された。PPEの連続使用時間は4~7時間と長く, 中には業務中にPPEを外し再使用することを避けて休憩をとらなかった看護師がいた。勤務中はPHSをガウンの上より使用していた。看護師の感染を受け, 5月7日にN95マスクを脱衣する場所を汚染ゾーンから離れた場所に変更し, PHSをガウンの上から使用することを中止した。また, PPEの配備が整ってきたため, 再使用を中止した。これらの対応後, 新規発症例を認めなかった。

感染者が多く発生した4月中旬は, 全国的にPPEが不足しており, 一部のPPEについては, 例外的に再使用に関する厚生労働省事務連絡3)や学会からの文章等4,5)が出されている。今回の感染伝播では, 無症状感染職員からの感染の可能性に加え, 慣れない環境での煩雑なPPE再使用, 汚染ゾーン付近でのマスクの着脱, PHSの不衛生な使用が関係していた可能性がある。換気の悪い環境ではSARS-CoV-2が1m以上飛散する可能性があり6), 特にマスクの着脱は汚染ゾーンから遠い場所で行うことが望ましいと考えられた。N95マスクの長時間連続使用は呼吸が苦しく, ずれてしまう可能性があり, 連続業務を2~3時間程度にする, 通常より多くの看護師を配置する, などの工夫が重要と考えられた。また, COVID-19は72時間程度環境表面で残存すると報告されており7), ガウンに触れ汚染された可能性のあるPHSを顔の近くで操作することによるPHSからの曝露の可能性が疑われた。COVID-19の国内流行はまだ続くと考えられるため, 病院は医療従事者の手指衛生状況を確認し, PHSの適切な使用方法, 着脱場所を含めたPPE着脱方法, PPE再使用の是非, および適切な連続業務時間に関する検討を行う必要がある。

 

参考文献
  1. Huang C, et al., Lancet 2020; published online Jan 24. DOI: 10.1016/S0140-6736(20)30183-5
  2. 北海道保健福祉部健康安全局地域保健課, 新型コロナウイルス:道内の発生状況 2020
    http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/hasseijoukyou.htm (閲覧2020年5月30日)
  3. 厚生労働省, N95マスクの例外的取扱いについて, 2020年4月10日
    https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf(閲覧2020年5月30日)
  4. 日本環境感染学会, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について-医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド Ver.3, 2020
    http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=328 (閲覧2020年5月30日)
  5. 国立感染症研究所, 新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(2020年6月2日改訂版), 2020
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9310-2019-ncov-01.html(閲覧2020年6月5日)
  6. Guo ZD, et al., Emerg Infect Dis26(7), doi: 10.3201/eid2607.200885., 2020
  7. Doremalen N, et al., New Engl J Med 382(8): 692-694, 2020
 
 
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
 黒須一見 山岸拓也        
同 実地疫学専門家養成コース(FETP)
 黒澤克樹 門倉圭佑        
札幌市新型コロナウイルス感染症対策室
 原 敏行 藤川知子 山口 亮 三觜 雄 矢野公一

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