国立感染症研究所

2024年2月16日時点
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背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2024年1月24日現在、SARS-CoV-2の変異株は、EG.5.1系統などのXBB系統(BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体)の亜系統から、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統とその亜系統への置き換わりが世界的に進んでいる (WHO, 2024a、covSPECTRUM, 2024)。

 

検出状況について

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され、さらにスパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が10月に欧州から報告された(GISAID, 2024)。BA.2.86系統が報告された当初は、XBB系統からの急速な置き換わりはみられなかったが、JN.1系統は欧州諸国を中心に感染者数増加の優位性を示しており、世界的にXBB系統からの置き換わりが進み、多くの国で主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。
  •    2024年2月7日までに94ヵ国から89,361件のJN.1系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されている。フランス、デンマーク、スペイン、シンガポールなどでは、2023年10月から11月にかけてJN.1系統の占める割合が上昇し、12月初旬には主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。また、米国でも1月21日から2月3日に検出されたSARS-CoV-2の93.1%を占めると推測され、1月以降主流となっていると考えられている(CDC, 2024)。ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には注意が必要である。
  •    日本国内では週に1,000件程度のゲノム解析が実施されており、2024年2月5日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年第15週(4/10-16)以降59,790件のゲノム解析結果が登録されている。
    BA.2.86系統は2023年第35週(8/28-9/3)に、JN.1系統は第39週(9/25-10/1)に初めてCOG-jpに登録されている。2024年2月5日時点で、2023年第35週以降登録された23,466件のゲノム解析結果のうち、BA.2.86系統とその亜系統が2,794件、さらにそのうちJN.1系統とその亜系統が1,592件を占めている。JN.1系統とその亜系統の報告数は増加傾向にあり、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2024年第7週(2/12-18)には77%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2024a、国立感染症研究所, 2024b)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には注意が必要である。

 

科学的知見について

  •    JN.1系統は、スパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統である。L455S変異は標的細胞のACE2受容体への結合能を低下させる一方で、中和抗体による免疫から逃避する可能性を高めることが示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。また、BA.2.86系統に感染したハムスターの血清を用いた実験において、JN.1系統の免疫を逃避する可能性はBA.2.86系統と同等であったと報告されている。XBB.1.5系統やEG.5系統に感染したヒトの血清では、BA.2.86系統及びHK.3系統(EG.5.1系統の亜系統)と比較してJN.1系統の免疫を逃避する可能性が高かったと報告されている(Kaku Y. et al., 2023、 Wang Q. et al., 2023、 Yang S. et al., 2023)。ただし、これらの知見については、査読を受ける前のプレプリント論文を含むことに注意が必要である。一方で、2023年9月に採取された、ワクチン接種歴のある成人の血清においては、BA.2.86系統、JN.1系統に対して免疫を逃避する可能性の上昇は見られなかったと報告されている(Jeworowski LM. et. al., 2024)。
    SARS-CoV-2に対する細胞性免疫について、SARS-CoV-2特異的T細胞のBA.2.86系統に対する応答はCD4陽性T細胞で72%、CD8陽性T細胞で89%が保存されると予測されており、安定したT細胞応答が得られると可能性が報告されている(Sette A. et al., 2024)。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降に接種されているXBB.1.5系統対応1価ワクチンに関して、ワクチン接種者の血清とシュードウイルスを用いた実験ではBA.2.86系統と比較してJN.1系統の中和抗体価が低く、L455S変異がこれに影響している可能性が示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。
  •    XBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種により、JN.1系統に対する中和抗体価の上昇が認められている (Wang Q. et al., 2023)ほか、検査や治療薬への影響について、BA.2.86系統と比較して検査精度、抗ウイルス薬の有効性が低下するという知見はない。
    米国疾病管理予防センター(CDC)は上記の結果をもとに、免疫を逃避する可能性は指摘されているもののワクチンへの影響は限定的であるとして、現行のワクチン、検査、治療薬はいずれもJN.1系統に対して有効であるとしている(CDC, 2023)。また、WHOも2023年12月に実施されたTAG-CO-VACの会議を受けた声明の中で、前述の動物及びヒトの血清を用いた実験結果を引用し、知見は限定的であるものの、引き続きXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が推奨されるとしている(WHO, 2023) 。
  •    また、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関して、2023年9月21日から2024年1月14日までに米国内の薬局で実施された無料のPCR検査、抗原検査の結果を解析した結果が報告されている。この中で、S遺伝子標的陰性(S gene target failure:SGTF)により調査当時に米国内で流行していたXBB系統とJN.1系統を区別し、感染予防に対するワクチン効果がSGTFの場合(JN.1系統を含む)49%(95%信頼区間:19-68%)、S遺伝子標的陽性(SGTP)の場合(XBB系統を含む)60%(95%信頼区間:35-75%)であったと報告されている(Link-Gelles R. et al., 2024)。
    これらの結果から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンはJN.1系統に対して、特に発症予防効果や重症化予防効果において、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できると考えられる 。
  •    重症化リスクに関しては、WHOは、新型コロナウイルスワクチンに関する技術諮問グループであるTAG-CO-VACの会議で示されたデータとして、デンマークで行われた65歳以上を対象とした研究において、BA.2.86系統以外の亜系統に感染した患者と比較したJN.1系統に感染した患者の入院のオッズ比は、1.15(95%信頼区間:0.74-1.78)と有意な差がなかったと報告した(WHO, 2024c)。またフランスでも同様の傾向が見られたとしたほか、シンガポールからのデータとして、JN.1系統に感染した高齢者、若年者で、ともに入院リスクと重症度が低かったと報告した(WHO, 2024c)。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは2023年8月17日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VOI:Variants of Interest)に指定した。その後、他のBA.2.86系統の亜系統と比較してJN.1系統が世界各地で感染者数増加の優位性を見せたことから、12月18日にJN.1系統をBA.2.86系統とその亜系統から独立させる形でVOIに指定した(WHO, 2024b)。
    欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統をVOIに指定しており、JN.1系統もこの中に含めた取り扱いとしている (ECDC, 2024)。
  •    WHOとCDCはそれぞれJN.1系統の評価を公表しており、世界的に感染者数増加の優位性がみられることに加え、BA.2.86系統と比較して免疫を逃避する可能性が高いとしているものの、感染者の重症度が高くなる知見はなく、公衆衛生的なリスクは他の亜系統と同等としている(CDC, 2024b、WHO, 2024c)。また、英国健康安全保障庁(UKHSA)も公式ブログの中で、公衆衛生上の勧告に変更はないとしている(UKHSA, 2024)。ただし、特に疫学的、臨床的な知見が少ないことから、JN.1系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。

 

関連項目

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

国立感染症研究所

2023年11月16日時点
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背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年11月8日現在、SARS-CoV-2の変異株はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっている(WHO, 2023a、covSPECTRUM, 2023)。

 

検出状況

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が、2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され(GitHub, 2023)、その後、亜系統であるBA.2.86.1系統、BA.2.86.2系統、BA.2.86.3系統、JN系統、JQ系統が報告されている。2023年11月13日までに2,704件のBA.2.86系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されており、多くは英国、フランス、スウェーデン、、デンマーク、スペインなど欧州からである(GISAID, 2023)。各国から登録されているBA.2.86系統の亜系統は、国ごとに状況が異なっており、英国、スペインではBA.2.86.1系統、フランスではJN.1系統、スウェーデンではJN.2系統が多くを占めている。また、いずれの国もBA.2.86系統の亜系統が急速に既存の系統から置き換わる状況には至っていない(covSPECTRUM, 2023)。
    ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には留意が必要である。
  •    国内では週に1,000件以上のゲノム解析が実施されており、2023年11月6日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年1月1日以降84,287件のゲノム解析結果が登録されており、うちBA.2.86系統が1件、BA.2.86.1系統が67件、BA.2.86.3系統が6件、JN.1系統が8件、JN.2系統が2件登録されている。JQ系統は登録がない(国立感染症研究所, 2023)。また、登録されている都道府県は関東、九州に多くみられるが、急速に既存の系統から置き換わる状況には至っていない。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には留意が必要である。

 

科学的知見

  •    BA.2.86系統は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあり、XBB系統と抗原性が大きく異なり、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が高くなる懸念が生じていた。現時点までに、XBB系統感染者の血清において、BA.2.86系統の中和抗体の免疫から逃避する可能性は、XBB.1.5系統やEG.5系統と同等である一方で、ACE2受容体への結合能が高いとの報告がある(Wang Q. et al., 2023, Lasrado N. et al., 2023)。そのほか、査読を受けていないプレプリント論文であるが、シュードウイルス、臨床分離株を用いた実験で免疫から逃避する可能性がXBB.1.5系統と同等であったとする報告がある(Hu Y. et al., 2023)。一方でXBB系統よりやや低いとする報告(An Y. et al., 2023、Qu P. et al., 2023)、やや高いとする報告(Yang S. et al., 2023)もあるが、いずれもXBB系統と比較してわずかな違いである。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降にXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が実施されている。ワクチンを生産、販売しているモデルナ社は、同社のワクチンによる追加接種により得られたBA.2.86系統に対する中和抗体価が、XBB.1.5系統に対する中和抗体価と同等であると報告した(Chalkias S. et al., 2023)。また、ファイザー社も、非臨床試験においてXBB.1.5系統対応1価ワクチン接種後の血清におけるBA.2.86系統に対する中和抗体価が、XBB.1.5系統に対する中和抗体価と同等であったと報告している(Pfizer, 2023)。これらの知見から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンによる追加接種は、BA.2.86系統のSARS-CoV-2に対して、XBB.1.5系統と同等の有効性が期待できると考えられる。ただし、査読を受けていないプレプリント論文及び企業報告データであることに注意が必要である。
  •    検査への影響に関して、国立感染症研究所ではBA.2.86系統のゲノム解析結果から感染研PCR法におけるプライマー、プローブ配列に変異がないことを確認しているほか、米国疾病予防管理センター(CDC)も分子・抗原診断への影響は少ないとしている(CDC, 2023)。
  •    治療薬への影響に関して、CDCは複数の米国政府機関の専門家で構成されるSARS-CoV-2 Interagency Group (SIG)の意見として、 BA.2.86系統の有するアミノ酸変異からは、ニルマトレルビル・リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビルなどの現在使用可能なCOVID-19に対する抗ウイルス薬はBA.2.86系統に対しても有効性が示唆されるとしている(CDC, 2023)。
  •    英国のケアホームで2023年8月に発生したBA.2.86系統のウイルスによるCOVID-19のクラスター事例では、オミクロン流行期初期、デルタ流行期の同様の事例と比較して入院症例の割合は高くなく、COVID-19に関連する死亡例はなかったと報告されている(Reeve L. et al., 2023)。ただし、疫学的、臨床的な知見は乏しく、感染性や重症度の上昇を示す知見は報告されていない。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)に指定した(WHO, 2023b、ECDC, 2023a)。
  •    米国、英国、デンマーク、WHO、ECDCはそれぞれ評価を公表しており、欧米、アフリカ、アジアと世界的にウイルスが検出されていること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、水面下で拡大している可能性があるものの、検出数が少なく評価は困難であるとしている(CDC, 2023、UKHSA, 2023、Denmark SSI, 2023、WHO, 2023b、ECDC, 2023b)。BA.2.86系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

国立感染症研究所

2023年9月8日時点
2023年9月12日一部修正

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背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年8月25日現在、SARS-CoV-2の変異株はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっている(WHO, 2023a)

 

検出状況

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が、2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され(GitHub, 2023)、その亜系統であるBA.2.86.1系統も報告されている。2023年9月7日までに67件(イスラエル3件、デンマーク12件、米国7件、英国8件、南アフリカ16件、ポルトガル2件、スウェーデン5件、カナダ2件、フランス6件、スペイン3件、オーストラリア1件、韓国1件、日本1件)の患者から分離されたBA.2.86系統(BA.2.86.1系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録された(GISAID, 2023)。また、米国オハイオ州、スイス、タイの下水サーベイランスでBA.2.86系統が検出されたとの報告がある(CDC, 2023、WHO, 2023a)。
    米国からからの登録のうち1件は、米国の主要空港で実施されている入国者に対するゲノムサーベイランスにて、日本からの渡航者からBA.2.86系統が検出されたものである(検体採取日:8月10日)。ただし、このゲノムサーベイランスプログラムは匿名での協力を得るものであり個人情報を取得できないことから、日本国内での行動歴や日本以外への渡航歴は不明である(CDC, 2023)
  •    国内では週に1,000件以上のゲノム解析が実施されており、2023年8月28日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年1月1日以降64,654件のゲノム解析結果が登録されているが、BA.2.86系統の登録はなく(国立感染症研究所, 2023)、国内では9月7日に東京都からGISAIDに登録されたBA.2.86.1系統1件のみが確認されている。東京都から報告された1件については、8月24日に都内医療機関で採取された検体であることが公表されている(東京都保健医療局, 2023)。また、検疫における入国時感染症ゲノムサーベイランスにおいても、BA.2.86系統は検出されていない(厚生労働省, 2023)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には留意が必要である。

 

科学的知見

  •    BA.2.86系統は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあることから、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が生じている。BA.2.86系統はXBB系統と抗原性が大きく異なることからXBB系統の感染やワクチンによる中和抗体の免疫から逃避する可能性が高い一方で、細胞への感染性はXBB系統より大幅に低い可能性があるとする報告 (Yang S. et al., 2023)や、ワクチンによる中和抗体の免疫から逃避する可能性はBA.2系統より高いものの、現在主流となっているXBB系統の亜系統と同等であるとする報告 (Lasrado N. et al., 2023)、XBB系統流行以前の献血者の血清ではBA.2.86系統に対する中和抗体価が低かった一方で、XBB系統流行下での献血者の血清ではBA.2.86に対する比較的高い中和抗体価が得られたとの報告があり(Sheward D.J. et al., 2023)、一定した知見は得られていない。ただし、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。
    現時点で、重症度の変化や感染性に関する疫学的、臨床的知見はない。
  •    検査への影響に関して、国立感染症研究所ではBA.2.86系統のゲノム解析結果から感染研PCR法におけるプライマー、プローブ配列に変異がないことを確認しているほか、米国疾病予防管理センター(CDC)も分子・抗原診断への影響は少ないとしている(CDC, 2023)。また、秋以降に接種が実施されるXBB.1.5系統対応1価ワクチンを生産、販売しているファイザー社、モデルナ社はいずれも現在準備中のワクチンにおいて、BA.2.86系統に対する中和活性を確認したとの報道発表を行った (Reuters, 2023、Moderna. 2023)。
  •    治療薬への影響に関して、CDCは複数の米国政府機関の専門家で構成されるSARS-CoV-2 Interagency Group (SIG)の意見として、 BA.2.86系統の有するアミノ酸変異からは、ニルマトレルビル・リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビルなどの現在使用可能なCOVID-19に対する抗ウイルス薬はBA.2.86系統に対しても有効性が示唆されるとしている(CDC, 2023)。。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)に指定した(WHO, 2023b、ECDC, 2023a)。
  •    米国、英国、デンマーク、WHO、ECDCはそれぞれ評価を公表しており、欧米、アフリカ、アジアと世界的にウイルスが検出されていること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、水面下で拡大している可能性があるものの、検出数が少なく評価は困難であるとしている(CDC, 2023、UKHSA, 2023、Denmark SSI, 2023、WHO, 2023b、ECDC, 2023b)。BA.2.86系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

国立感染症研究所

2023年9月7日時点
2023年9月12日一部修正

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概要

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年8月25日現在、SARS-CoV-2の変異株はBJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっており、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、複数のXBB系統の亜系統が報告されている。
  •    2023年2月に初めて報告されたEG.5系統はXBB.1.9.2系統の亜系統である。EG.5系統及びその亜系統はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統などの一部にみられるF456L変異を有しているほか、EG.5.1系統の一部はこれに加えてL455F変異を有しており、XBB.1.5系統と比較して免疫を逃避する可能性が高くなることが示唆されている。
  •    8月22日までにGISAIDに登録されたEG.5系統の90%をEG.5.1系統が占めている。EG.5.1系統はアジアや欧米でこれまで主流となっている系統に対して感染者数増加の優位性を見せているが、重症度や感染性の上昇という知見はなく、世界的に9月以降の接種が計画されているXBB.1.5系統対応新型コロナウイルスワクチンの有効性が低下するという報告もない。
  •    世界的な検出割合の上昇を受け、WHOは8月9日にEG.5系統を注目すべき変異株(VOI: Variant of Interest )に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月10日に他の変異株と合わせて“XBB.1.5-like + F456L”の一群をVOIに指定した。

 

発生状況

  •    2023年8月25日現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株はBA.2系統の亜系統であるBJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっており、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、複数のXBB系統の亜系統がみられている(WHO, 2023a)。
  •    XBB.1.9.2系統の亜系統であるEG.5系統は2023年2月に初めて報告され、さらにその中でQ52H変異を有するものとして、2023年3月にEG.5.1系統が初めて報告された(GISAID, 2023)。8月29日までに、59の国と地域からGISAIDにEG.5系統及びその亜系統(以下EG.5系統)が18,274件登録され (covSPECTRUM, 2023)、登録された全検体に占める割合は、第27週(7月3日~9日)に12.8%であったものが、第31週(7月31日~8月6日)には 23.8%に上昇している(WHO, 2023a)。 GISAIDに登録されたEG.5系統のうちEG.5.1系統及びその亜系統(以下EG.5.1系統)が92.8%(16,967件)を占めている。EG.5.1系統は55の国と地域から登録されており、中国、米国、日本、韓国、カナダ等のアジアと北米から多く登録されているほか、欧州でも登録数が増加しており、各国において感染者数増加の優位性がみられている(covSPECTRUM, 2023)。一方で、これらの国におけるSARS-CoV-2感染者数、重症者数、死亡者数の推移は国によって異なり、EG.5.1系統の割合の上昇は感染者数や重症者数の増加には直結していない(UKHSA, 2023b、China CDC, 2023、CDC, 2023、 Government of Canada, 2023、 ECDC, 2023)。ただし、中国は感染者数などの公表が月1回であり、米国は感染者数の報告が終了するなど、各国におけるサーベイランスやその報告状況が異なることに注意が必要である。
  •    日本国内においては、2023年3月に初めてGISAIDに登録されて以降、8月29日までに1,943件のEG.5系統が登録され、うち96.0%(1,865件)がEG.5.1系統であった (covSPECTRUM, 2023)。民間検査会社の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、第32週(8月7日~8月13日)に検出された検体のうち29%をEG.5.1系統が占め、今後その割合が上昇すると推定されている(国立感染症研究所, 2023a、国立感染症研究所, 2023b)。
  •    現時点で、EG.5系統の重症度への影響、感染性、治療薬への影響などの臨床的、疫学的な知見は得られていないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数、重症者数の推移を注視する必要がある。
  

ウイルス学的知見

  •    EG.5.1系統は、EG.5系統が有しているF456L変異に加えてQ52H変異を有しているXBB.1.9.2系統の亜系統である。
    F456L変異については、F456L変異を有するXBB.1.5系統のシュードウイルスを用いたin vitroの報告で、XBB.1.5系統に対する中和抗体による免疫から逃避する可能性が指摘されている(Yisimayi A. et. al., 2023)。ただし、査読前のプレプリント論文であることに注意が必要である。
    また、EG.5.1系統の一部はF456L変異と隣接したアミノ酸変異であるL455F変異を有しており、XBB.1.5系統にL455F変異やF456L変異が加わることで中和抗体からの免疫を逃避する可能性が高くなるほか、これら2つの変異が併存することでアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能が上昇することを示唆する専門家もいる(Jian F. et al., 2023. 2023)。シュードウイルスを用いたin vitroでの報告では、EG.5.1系統の免疫逃避が起こる可能性はXBB1.5系統やXBB.1.9.2系統、XBB.1.16系統と同等であり、EG.5.1系統の感染者増加の優位性には、ウイルスの性質だけではなく、複数の要因が関与しているとの報告(Kaku Y. et. al., 2023)、XBB系統およびBQ系統の中和抗体による免疫から逃避する可能性がXBB.1.16系統よりわずかに高いとする報告(Wang Q. et al., 2023)や、新型コロナウイルスワクチン接種後のブレイクスルー感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性がXBB.1.9.2系統よりわずかに高いとする報告(Uraki R. et al., 2023)があり、一定した見解は得られていない。ただし、いずれも査読前のプレプリント論文であることに注意が必要である。

 

新型コロナウイルスワクチンに関する知見

  •    現在日本や諸外国において、秋以降に接種が実施される新型コロナウイルスに対するワクチンとしてXBB.1.5系統対応1価ワクチンが準備されている(厚生労働省, 2023)。XBB.1.5系統対応1価ワクチンを生産、販売しているファイザー社、モデルナ社はいずれも現在準備中のワクチンにおいて、EG.5系統に対する中和活性を確認したとの報道発表を行った (Reuters, 2023、Moderna. 2023)。XBB.1.5系統対応1価ワクチンによる中和抗体は、EG.5.1に対してもXBB.1.5と同程度に効果があることも確認されている(Chalkias, S. et al., 2023)。EG.5.1系統とXBB.1系統の抗原性の差を調べたこれまでの報告でも、確認できた差は2倍程度とわずかである(Wang Q. et. al., 2023、Jian F. et al., 2023、Kaku Y. et. al., 2023、Uraki R. et al., 2023)。ただし、いずれも査読前のプレプリント論文等であることに注意が必要である。

 

海外の専門機関による評価

  •    WHOは2023年8月9日にEG.5に関するリスク評価を公表するとともに、EG.5系統をVOIに指定した。このリスク評価の中で、感染者数増加の優位性と免疫から逃避する可能性に関するリスクを中程度(Moderate)、重症度と臨床的な懸念に関してのリスクは低(Low)とし、総合的なリスクについて低(Low)とした。ただし、包括的な評価のためには、さらなる知見が必要と述べている(WHO, 2023b)。
  •    ECDCは2023年8月10日にEG.5系統を含む“XBB.1.5-like + F456L”を、EU/EEA圏内で拡大傾向にあること、市中での流行状況、免疫を回避する可能性に関する知見を理由にVOIに指定した。この中にはEG.5系統のほか、FL.1.5.1系統、XBB.1.16.6系統、XBB.1.5.59系統などが含まれており、EG.5系統だけではなくFL.1.5.1系統やXBB.1.16.6系統も一部の地域で感染者増加の優位性があることから、“XBB.1.5-like + F456L”として評価を行っている(ECDC, 2023)。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

国立感染症研究所

2023年4月21日9:00時点

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English(summary)

変異株の概況

  •    現在流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第26報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。オミクロンの中では多くの亜系統が派生しており、また、国内外でオミクロンの亜系統間の様々な組換え体が報告されている。WHOは2023年4月12日時点で、XBB.1.5系統を「現在流行中の懸念される変異株(Currently circulating variants of interest (VOIs))」、BA.2.75系統、CH.1.1系統、BQ.1系統、XBB系統、XBB.1.16系統、XBB.1.9.1系統、XBF系統を「現在流行中の監視下の変異株 ((Currently circulating variants under monitoring(VUMs)」としている。ただし、亜系統間で感染者数増加の優位性、免疫逃避の可能性以外に、重症度や感染・伝播性などのウイルスの形質が大きく変わるという知見はなく、国立感染症研究所では当面は現行の変異株の分類を継続する。引き続き、特定の亜系統に限らず、国内や検疫におけるゲノム解析による変異株の発生動向の監視や知見の収集を幅広く実施していくことが重要である。 2023年第12週(3月20日~26日)には、XBB.1.5系統が検出された亜系統の47.9%を占めており、次いでXBB.1.5系統、XBB.1.9.1系統、XBB.1.16系統を除くXBB系統(17.6%)、XBB.1.9.1系統(7.6%)が多く検出された(WHO, 2023a)。日本国内では2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流となったが、10月以降はBQ.1系統およびBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にあり、2023年1月以降はXBB.1.5系統の占める割合が上昇している。

  •    BQ.1系統、XBB系統をはじめとした、特徴的なスパイクタンパク質の変異が見られ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの免疫逃避の可能性や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。特に北米などで増加しているXBB.1.5系統、欧州などで増加しているXBB.1.9系統、インドなどで増加しているXBB.1.16系統など、いくつかの地域で既存の流行株に比較して感染者数増加の優位性が見られる亜系統も報告されている。しかし、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。

  •    現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与する形質を持つがその他の形質は大きく変化していない変異株が生じていると考えられる。世界の人口の免疫獲得状況や、介入施策が多様になる中で、変異株の形質が流行動態に直接寄与する割合は低下していると考えられる。変異株の発生動向や病原性・毒力(virulence)、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像等の形質の変化を継続して監視し、迅速にリスクと性質を評価し、それらに応じた介入施策が検討される必要がある。

第26報からの更新点

  •    国内外で検出されたオミクロンの亜系統とその特性についての追加
  •    各変異株の国内外での発生状況の更新
  •    XBB.1.16系統の亜系統に関する知見の追加
  •    中国における変異株の状況の更新を終了

目次

  •    国内外で検出されたオミクロンの亜系統とその特性について
  •    BA.5系統について
  •    BA.2.75系統について
  •    オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について
     ・XBB系統について
     ・BQ.1系統について
  •    参考  表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年4月17日時点)

国内外において検出されたオミクロンとその特性について

  •    新型コロナウイルスのB.1.1.529系統の変異株は、2021年11月に南アフリカ共和国、ボツワナ共和国などで初めて報告された。特に南アフリカのハウテン州を中心に急速な感染拡大が見られ、ウイルス特性の変化が懸念されたことから、WHOは同年11月24日にVariant under Monitoring(VUM)に指定し、同年11月26日に「オミクロン」と命名し、Variant of Concern(VOC)に指定した。オミクロンはそれまでの変異株と比較して、潜伏期間の短縮や免疫逃避性の上昇などの形質の変化が著しく、それまで世界的に主流であったデルタからの置き換わりが見られた。オミクロンが主流となって以降、BA.1系統、BA.2系統をはじめとしてオミクロンの中で多くの亜系統が派生し、デルタの流行時まではわずかであった系統間の組み換えによる変異株も、オミクロン流行以降ではさまざまな種類が検出されるようになった(表1)。

  •    特に2022年以降、世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とし、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高まる懸念のある亜系統が多数発生した。一方で、これらの系統が占める割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現時点では見られない。
  

表1 2023年4月までに確認された、主なオミクロン亜系統の検出時期と特性

※(国立感染症研究所. 2023d)

 

BA.5系統について

  •    BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加したが、2023年第8週(2月20日~26日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界でGISAIDに登録された株に占める割合は20.1%(WHO, 2023d)と、第3週以降BQ.1系統とその亜系統を含めてBA.5系統は減少傾向が続き、世界的にXBB系統への置き換わりが進んでいる(WHO, 2023a)。日本国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、30週(7月25日~31日)に90%を超えたが、2022年9月頃をピークにBQ.1系統とその亜系統を除くBA.5系統の登録数は減少傾向にある(covSPECTRUM, 2023、国立感染症研究所, 2022)。また、国内民間検査機関2社に集められた検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでは、2022年40週(10月3日~9日)頃から、BQ.1系統とその亜系統を除くBA.5系統の占める割合は低下している(国立感染症研究所, 2023e)。

BA.2.75系統について

  •    BA.2.75系統(亜系統を含む)は、2023年4月10日時点で、GISAIDに118か国から163,928件登録され、うち日本からは12,158件登録されている(covSPECTRUM, 2023)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高くなっているとの報告がある(Cao Y. et al., 2022a) 。一方で、ワクチン接種による中和抗体からの免疫逃避については、BA.2系統と比較して同等、BA.4/BA.5系統に比較して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.2.75系統はインドでの検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されている。国内においては、2022年10月以降XBB系統やBQ.1系統などと共にBA.2.75系統の亜系統であるCH.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)やBN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)が検出されている(国立感染症研究所, 2023d)。しかし、これら亜系統間において感染・伝播性や重症度が上昇するという知見は得られていない。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •    世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統、これらの組換え体が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高まっていることが懸念されている。BQ.1系統、CH.1.1系統などの亜系統が一時期、感染者数増加の優位性を見せていたが、2023年3月頃からは全世界的にXBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体)の亜系統の検出割合が上昇傾向にあり、米国ではXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が主流となったほか、英国を含む欧州やオセアニアではXBB.1.5系統、XBB.1.9系統が、アジアではXBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2023)。一方で、これらの系統が占める割合の上昇傾向は地域によって異なっていること、また、国によってはBQ.1系統、CH.1.1系統、BQ.1系統を除くBA.5系統などが優位となっている国もあることなど、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現時点では見られていない。
  •       これらの亜系統においては、特定のスパイクタンパク質における変異が注目されており、XBB.1.5系統やXBB.1.9.1系統が持つF486P変異や、BQ.1.1.29系統やCH.1.1系統、EG.1系統(XBB.1.9.1系統の亜系統)の有するQ613H変異などが免疫逃避に影響することが示唆され、注目されている。一方で、他に獲得した変異と影響を及ぼしあう可能性もあり、これらの変異を獲得したことで、実際にウイルスの形質に影響を及ぼすとは限らないとしている意見もある(GitHub, 2023)。既知の亜系統の中では、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などがBA.5系統に比較して中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。ただし、これらの亜系統に関して、重症度の上昇などの免疫逃避以外の形質が大きく変化しているという知見はない。

  •       これらの系統について、WHOは2023年4月12日時点で、XBB.1.5系統を「Currently circulating variants of interest」、BA.2.75系統(BN.x系統、CH.x系統、その他の亜系統含む)、CH.1.1系統、BQ.1系統、XBB系統、XBB.1.16系統、XBB.1.9.1系統、XBF系統の7系統を「Currently circulating variants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、BA.2.75系統、BQ.1系統、XBB系統(XBB.1.5系統(とその亜系統)以外の下位の亜系統を含む)、XBB.1.5系統の4系統を「Variants of interest」、BN.1系統、CH.1.1系統、XBB.1.16系統を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、CH.1.1系統、XBB系統、XBB.1.5系統を「Designated Variants」、XBB.1.9.1系統、XBB.1.9.2系統、XBB.1.16系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023a、WHO, 2023b、UKHSA, 2023)。 
  •       また、オミクロンとデルタの組換え体についても、ECDCはXBC系統とXAY系統(いずれもBA.2系統とデルタ組換え体)を「Variants under monitoring」に指定している(ECDC, 2023a)。

 

XBB系統について

  •            2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体が登録されている。2023年4月10日時点で、GISAIDに122か国から261,364件が登録されている(亜系統を含む)(covSPECTRUM, 2023)。2023年第8週時点で、XBB系統とその亜系統は全世界で検出された株の77.1%(うちXBB.1.5系統が47.9%)を占め、前週からその割合は上昇している(WHO, 2023a)。 米国では2022年11月からニューヨーク州など東海岸を中心にF486P変異を有するXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が検出され始めた。XBB.1.5系統は12月以降全国的にその割合が上昇し、2023年第14週(4月2日〜4月8日)には米国で検出された株の88.3%を占めると予測され、主流となっている(CDC, 2023a)。2023年4月10日時点で欧米を中心に97の国と地域からGISAIDに184,652件が登録されており(covSPECTRUM, 2023)、2023年第12週(3月20日~26日)には最も検出割合の高い亜系統となっている(WHO, 2023a)。 また、欧州を中心に、XBB.1.5系統と同じくF486P変異を有するXBB.1.9系統とその亜系統が2022年10月頃から検出され始め、2023年4月10日時点で74の国と地域から20,096件がGISAIDに登録され、特に英国から3,921件が登録されている(covSPECTRUM, 2023) 。特にF486P変異を有するXBB.1.9.1系統が欧州を中心に感染者数増加の優位性をみせており、WHOやECDCでVUMに指定されている。また、インドではE180V、K487R変異を有するXBB.1.16系統が2023年1月頃から検出され始め、検出割合が上昇傾向にある。4月10日時点でXBB.1.16系統は31の国と地域から2,794件がGISAIDに登録され、さらにT547I変異を獲得したXBB.1.16.1系統も報告されている(covSPECTRUM, 2023、GitHub,2023)。 日本からは2023年4月10日時点でXBB系統(亜系統を含む)が1,553件登録されており、うちXBB.1.5系統が691件、XBB.1.9系統が266件、XBB.1.16系統が68件登録されている(それぞれ亜系統を含む) (covSPECTRUM, 2023)。また、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、XBB.1.5系統は、2023年第1週(1月2日~8日)は0.13%であったが、第12週(3月20日~26日)には15.6%と検出割合が上昇傾向にあり、また、XBB.1.9系統は第12週には11.8%を占めている(国立感染症研究所, 2023a、国立感染症研究所, 2023c)。
  •             XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体から逃避する可能性が高いこと(Cao Y. et al., 2022b) や、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている (Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりも免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2023)。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染のリスクが高まるかどうかについての証拠はない(WHO, 2022)。
  •       XBB.1.5系統はXBB系統と同等の免疫逃避が起こる可能性があり、かつACE2受容体への結合親和性がXBB系統より高いことから、感染・伝播性がより高くなっている可能性が指摘されている(Uriu K. et al., 2023)。また、XBB.1.5系統の感染性や重症度に関する疫学的、臨床的な知見はない。米国から、2022年12月から2023年1月の期間に、18~49歳の免疫不全のない成人において、XBB系統、XBB.1.5系統における2価ブースターワクチンの発症に対する接種後2~3か月以内のワクチン効果は、BA.5系統と比較して差はなかったとの報告がある(Link-Gelles R. et al., 2023)。 WHOは2023年2月24日にXBB.1.5系統に関するリスク評価を改正し、感染者数増加の優位性および免疫逃避に関する知見がある一方で、重症度の上昇の兆候は見られず、現時点で他のオミクロンの亜系統と比較して公衆衛生上のリスクの増加につながる証拠はないとしている(WHO, 2023c)。その後、米国から、XBB.1.5系統が主流であった2022年11月から2023年1月までのニューヨーク州において、XBB.1.5系統の感染者の重症度はBQ.1系統の感染者と比較して上昇していないと報告された(Luoma E. et al., 2023)。 XBB.1.16系統はインドで既存の亜系統に比較して感染者数増加の優位性を見せている。加えてBA.2感染後およびBA.5感染後の血清を用いた実験で中和抗体から逃避する能力が高いことが示唆されている(Yamasoba D. et al., 2023)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。 一方で、XBB.1.9系統は欧州で既存の亜系統に比較して感染者数増加の優位性を見せているものの、免疫逃避が起こる可能性、受容体への結合親和性に関するウイルス学上の知見、感染性や重症度の上昇を示唆する所見はなく、また、全世界的に報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

BQ.1系統について

  •       2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2023)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は2023年4月5日時点で、GISAIDに欧米を中心に137か国から458,314件が登録されている(covSPECTRUM, 2023)が、2023年第2週(1月9日~15日)時点で、BQ.1系統の占める割合は全世界で検出された株の46.9%となったのをピークに低下傾向にあり、2023年第12週(3月20日~26日)時点では5.1%となっている (WHO, 2023a)。米国では8月以降BQ.1系統の占める割合が上昇し2022年51週(12月18日~12月24日)には60%に達したが、11月以降XBB.1.5系統への置き換わりが進み、2023年第14週(4月2日〜4月8日)には1.6%まで低下すると予測されている (CDC, 2023a)。欧州でも9月末以降複数の国でBQ.1系統の占める割合が上昇し、BQ.1系統が主流となった国もあるが、2023年3週頃からXBB.1.5系統への置き換わりが進んでいる(UKHSA, 2023、ECDC, 2023b)。日本からは2023年4月10日時点で、BQ.1系統が16,690件GISAIDに登録されており、そのうちBQ.1.1系統とその亜系統が13,479件と多くを占めている(covSPECTRUM, 2023)。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは2023年第4週(2023年1月23日~1月29日)には22.3%まで割合が上昇したが、以降低下傾向にある (国立感染症研究所, 2023b)。

  •       BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体から免疫逃避が起こる可能性が高くなることが示唆されている。また、実験でも中和抗体から免疫逃避が起こる可能性が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) 。一方で、ハムスターを用いた動物実験では、BQ.1.1系統の病原性はBA.5系統と同等またはより低かった (Ito J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高いものの、BA.5系統と比較して入院リスクの上昇は見られなかった(UKHSA, 2023)。ワクチンの有効性に関しては、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりもBQ.1系統に対する免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。また、ワクチンの重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022)が、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。

 

参考  

表2 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年 4月17日時点)

系統名

感染研(NIID)

WHO

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

(オミクロン)

VOC

※各亜系統を以下の通り分類

Currently circulating variants of interest (VOIs): XBB.1.5

 

Currently circulating variants under monitoring (VUMs): BA.2.75, CH.1.1, BQ.1, XBB, XBB.1.16, XBB.1.9.1,XBF

※各亜系統については以下の通り分類

VOI

BA.2.75, BQ.1, XBB, XBB.1.5

VUM

XBC注1), BN.1, CH.1.1, XAY注1), XBB.1.16

De-escalated variant:

BA.1, BA.2, BA.3, BA.4, BA.5, BA.2+L452X, XAK, B.1.1.529+R346X, B.1.1.529+K444X, N460X, B.1.1.529+N460X, F490X, BA.2.3.20, BF.7

※各亜系統については以下の通り

VOC: BA.1, BA.2, BA.4 BA.5.

Designated variants

XE, BA.2.75, BA.4.6, BQ.1, XBB, CH.1.1, XBB.1.5.

Signals in monitoring

XBB.1.9.1, XBB.1.9.2, XBB.1.16

VOC

VOC: Variant of concern(懸念される変異株)、VOI: Variant of interest(注目すべき変異株)、VUM: Variant under monitoring(監視下の変異株)、Designated variants (指定された変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)

注1)  オミクロンとデルタの組換え体

引用文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

27 2023/ 4/21   9:00時点

26 2023/ 3/24   9:00時点

25 2023/ 2/10   9:00時点

24 2023/ 1/13   9:00時点

23 2022/12/16  9:00時点

22 2022/11/18  9:00時点

21 2022/10/21  9:00時点

20 2022/09/08  9:00時点

19 2022/07/29  9:00時点

18 2022/07/01  9:00時点

172022/06/03  9:00時点

162022/04/26  9:00時点

第15報 2022/03/28 9:00 時点

注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

14 2021/10/28  12:00 時点

13 2021/08/28  12:00 時点

12 2021/07/31  12:00 時点

11 2021/07/17  12:00 時点

102021/07/06  18:00 時点

 9 2021/06/11 10:00 時点

 8 2021/04/06 17:00 時点

  7 2021/03/03 14:00 時点

  6 2021/02/12 18:00 時点

第  5 報 2021/01/25 18:00 時点

注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4 報 2021/01/02 15:00 時点

第  3 報 2020/12/28 14:00 時点

第  2 報 2020/12/25 20:00 時点

注)タイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第  1 報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

 

 

国立感染症研究所

2023年3月24日9:00時点

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English(summary)

変異株の概況

  •    現在流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第25報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。オミクロンの中では多くの亜系統が派生しており、また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称ししており、現在感染研ではオミクロン全体をVOCと位置付けている。 オミクロンは遺伝的に多様化しており、WHOやECDCは変異株の分類定義について、オミクロンの亜系統を個別にVUM、VOI、VOCに位置付けることとし、WHOは2023年3月16日以降、そのうち、XBB.1.5系統を「現在流行中の懸念される変異株(Currently circulating variants of interest (VOIs))」、BQ.1系統、BA.2.75系統、CH.1.1系統、XBB系統XBF系統を「現在流行中の監視下の変異株 ((Currently circulating variants under monitoring(VUMs)」としている。ただし、亜系統間で感染者数増加の優位性、免疫逃避の可能性以外に、重症度や感染・伝播性などのウイルスの形質が大きく変わるという知見はない状況にあり、当面は現行の変異株の分類を継続する。引き続き、特定の亜系統の限らず、国内や検疫におけるゲノム解析による変異株の発生動向の監視や知見の収集を幅広く実施していくことが重要である。
    2023年2月13日~3月13日に、世界各地でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの98.4%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2023a)。2023年第8週(2月20日~26日)には、XBB系統が検出された亜系統の44.8%を占め、西太平洋地域を除くWHOの6つの地域で主流となっている (WHO, 2023a)。検出された亜系統のうち上位3位は、XBB.1.5系統(35.1%)、BQ.1系統(15.1%)、XBB.1.5系統を除くXBB系統(9.7%)であった(WHO, 2023a)。日本国内では2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流となったが、10月以降はBQ.1系統及びBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある。

  •    BQ.1系統、XBB系統をはじめとした、特徴的なスパイクタンパク質の変異が見られ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの免疫逃避の可能性や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。特に北米で増加しているXBB.1.5系統のように、いくつかの地域で既存の流行株に比して感染者数増加の優位性が見られる亜系統も報告されている。しかし、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。

  •    現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与する形質を持つがその他の形質は大きく変化していない変異株が生じていると考えられる。世界の人口の免疫獲得状況や、介入施策が多様になる中で、変異株の形質が流行動態に直接寄与する割合は低下していると考えられる。変異株の発生動向や病原性・毒力(virulence)、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像等の形質の変化を継続して監視し、迅速にリスクと性質を評価し、それらに応じた介入施策が検討される必要がある。

  •    2022年11月以降、中国で急速な感染拡大が報告された。中国ではゼロコロナ政策が施行されていたが、12月7日以降感染対策を緩和しており、全国的な感染者数の増加が12月下旬をピークに、重症者数、入院者数の増加が1月上旬にピークを迎えたのち、いずれも減少した。中国からGISAIDに登録されたゲノム解析結果では、BA.5.2.48系統、BF.7.14系統が主流となっていると考えられ、いずれも日本国内でも検出されているBA.5.2系統、BF.7系統と比較して免疫逃避が起こる可能性や感染・伝播性、重症度に影響を与える可能性は低いと考えられている。日本では12月30日から2023年2月28日まで中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員に入国時検査を実施しており、主にBA.5.2系統、BF.7系統が検出された。3月1日以降、中国(香港・マカオを除く)からの直行旅客便での入国者の最大20%程度のサンプル検査として、入国時検査を実施する方針に変更している。

第25報からの更新点

  •    各変異株の国内外での発生状況の更新
  •    XBB.1.5系統の重症度に関する知見の追加
  •    中国における変異株の状況についての更新

目次

  •    BA.5系統について
  •    BA.2.75系統について
  •    オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について
     ・BQ.1系統について
     ・XBB系統について
  •    中国における感染拡大と変異株の状況について
  •    参考  表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年3月17日時点)

BA.5系統について

  •    BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加したが、2023年第8週(2月20日~26日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界でGISAIDに登録された株に占める割合は20.1%と、第3週以降減少傾向が続いている (WHO, 2023a)。BA.5系統の亜系統のうち、BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)とその亜系統が欧州やオセアニアから、BF.7系統(BA.5.2系統の亜系統)を含むBA.5.2系統とその亜系統が中国から多く登録されたが、全世界的にはXBB系統、BA.2.75系統への置き換わりが進んでいる。

  •    国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2023)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた(国立感染症研究所, 2022)。

BA.2.75系統について

  •    BA.2.75系統(亜系統を含む)は、2023年3月15日時点で、GISAIDに117か国から185,400件登録されている(covSPECTRUM, 2023)。日本からは3月15日時点で、国内で11,140件登録されている(covSPECTRUM, 2023)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高くなっているとの報告がある(Cao Y. et al., 2022a) 。一方で、ワクチン接種による中和抗体からの免疫逃避については、BA.2系統と比して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.2.75系統はインドでの検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されている。国内においては、2022年10月以降XBB系統やBQ.1系統などと共にBA.2.75系統の亜系統であるCH.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)やBN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)が検出されている(国立感染症研究所, 2023d)。しかし、これら亜系統間において感染・伝播性や重症度が上昇するという知見は得られていない。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •    世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統、これらの組換え体が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高まっていることが懸念されている。米国ではXBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体)の亜系統であるXBB.1.5系統が主流となったほか、英国を含む欧州やオセアニアではCH.1.1系統、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統が、アジアではXBB.1.5系統、XBB.1.9系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2023)。一方で、これらの系統が占める割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在見られない。
  •       これらの亜系統おいては、特定のスパイクタンパク質における変異が注目されており、XBB.1.5系統やXBB.1.9.1系統が持つF486P変異や、BQ.1.1.29系統やCH.1.1系統、EG.1系統(XBB.1.9.1系統の亜系統)の有するQ613H変異などが免疫逃避に影響することが示唆され、注目されている。一方で、他に獲得した変異と影響を及ぼしあう可能性もあり、これらの変異を獲得したことで、実際にウイルスの形質に影響を及ぼすとは限らないとしている意見もある(GitHub, 2023)。既知の亜系統の中では、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などがBA.5系統に比較して中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。ただし、これらの亜系統に関して、重症度の上昇などの免疫逃避以外の形質が大きく変化しているという知見はない。

  •       これらの系統について、WHOは3月16日に変異株に関する分類を変更し、XBB.1.5系統を「Currently circulating variants of interest」、BQ.1系統、BA.2.75系統、CH.1.1系統、XBB系統、XBF系統の5系統を「Currently circulating variants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、BA.2.75系統(BN.x系統、CH.x系統、その他の亜系統含む)、BQ.1系統、XBB系統(XBB.1.5系統(とその亜系統)以外の下位の亜系統を含む)、XBB.1.5系統の4系統を「Variants of interest」、BN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)、CH.1.1系統を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、CH.1.1系統、XBB系統、XBB.1.5系統を「Designated Variants」、XBB.1.9.1系統、XBB.1.9.2系統、XBB.1.16系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023b、WHO, 2023b、UKHSA, 2023)。 
  •       また、オミクロンとデルタの組換え体についても、ECDCはXBC系統とXAY系統(いずれもBA.2系統とデルタ組換え体)を「Variants under monitoring」、UKHSAはXBC系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023b、UKHSA, 2023)。

 

BQ.1系統について

  •       2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2023)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は2023年3月15日時点で、GISAIDに欧米を中心に132か国から434,921件が登録されている(covSPECTRUM, 2023)が、2023年第2週(1月9日~15日)時点で、BQ.1系統の占める割合は全世界で検出された株の46.9%となったのをピークに低下傾向にある (WHO, 2023a)。米国では8月以降BQ.1系統の占める割合が上昇し2022年51週(12月18日~12月24日)には60%に達したが、11月以降XBB.1.5系統への置き換わりが進み、2023年第10週(3月5日~3月11日)には5.7%まで低下すると予測されている (CDC, 2023a)。欧州でも9月末以降複数の国でBQ.1系統の占める割合が上昇し、BQ.1系統が主流となった国もあるが、2023年3週頃からXBB.1.5系統への置き換わりが進んでいる(UKHSA, 2023、ECDC, 2023c)。日本からは2023年3月15日時点で、BQ.1系統が15,655件GISAIDに登録されており、そのうちBQ.1.1系統とその亜系統が12,566件と多くを占めている(covSPECTRUM, 2023)。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは2023年第4週(2023年1月23日~1月29日)には22.3%まで割合が上昇したが、以降低下傾向にある (国立感染症研究所, 2023b)。

  •       BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体から免疫逃避が起こる可能性が高くなることが示唆されている。また、実験でも中和抗体から免疫逃避する可能性が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) 。一方で、ハムスターを用いた動物実験では、BQ.1.1系統の病原性はBA.5系統と同等またはより低かった (Ito J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高いものの、BA.5系統と比較して入院リスクの上昇はみられなかった(UKHSA, 2023)。ワクチンの有効性に関しては、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりもBQ.1系統に対する免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。また、ワクチンの重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022)が、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。

 

XBB系統について

  •            2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体が登録されている。2023年3月15日時点で、GISAIDに117か国から174,967件が登録されている(亜系統を含む)(covSPECTRUM, 2023)。2023年第8週時点で、XBB系統とその亜系統は全世界で検出された株の44.5%(うちXBB.1.5系統が35.1%)を占め、前週からその割合は上昇している(WHO, 2023a)。2022年9月から10月にかけてXBB系統の占める割合が上昇したインド、バングラデシュ、シンガポールなどでは、XBB系統の増加による感染者数や重症者数の増加は明らかではなく、シンガポールでは2022年10月下旬以降BQ.1系統やBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある (outbreak. info, 2023、Our World in Data, 2023)。
  •             一方で、米国では2022年11月からニューヨーク州など東海岸を中心にF486P変異を有するXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が検出され始め、12月以降、他の系統に比べて感染者数増加の優位性(growth advantage)が顕著でありその割合が増加した。2023年第10週(3月5日〜3月11日)には米国で検出された株の91.1%を占めると予測され(CDC, 2023a)、主流となっている。2023年3月15日時点で87の国と地域からGISAIDに111,3402件が登録されており、米国から68,507件が登録されているほか、英国11,186件、カナダ7,271件、ドイツ4,498件、オーストリア2,966件、フランス1,807件など、欧州からも多く報告されている (covSPECTRUM, 2023)。
    また、欧州を中心に、XBB.1.5系統と同じくF486P変異を有するXBB.1.9系統とその亜系統が2022年10月頃から検出され始め、3月15日時点で62の国と地域から8,957件がGISAIDに登録されている(covSPECTRUM, 2023)。特に英国から1,956件が登録されており、英国内で感染者数増加の優位性を見せていることから(UKHSA, 2023)、今後の動向に注意が必要である。
    日本からは2023年3月15日時点でXBB系統(亜系統を含む)が683件登録されており、うちXBB.1.5系統が227件、XBB.1.9系統が66件登録されている (covSPECTRUM, 2023)。また、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、XBB系統(亜系統を含む)は、2023年第1週(1月2日~8日)は0.38%、第7週(2月13日~19日)には1.8%とわずかながら増加傾向にある(国立感染症研究所, 2023a、国立感染症研究所, 2023c)。
  •       XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体から逃避する可能性が高いこと(Cao Y. et al., 2022b) や、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている (Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりも免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022)。
  •              XBB.1.5系統はXBB系統と同等の免疫逃避が起こる可能性があり、かつACE2受容体への結合親和性がXBB系統より高いことから、感染・伝播性がより高くなっている可能性が指摘されている(Uriu K. et al., 2023)。また、XBB.1.5系統の感染性や重症度に関する疫学的、臨床的な知見はない。米国から、2022年12月から2023年1月の期間に、18~49歳の免疫不全のない成人において、XBB系統、XBB.1.5系統における2価ブースターワクチンの発症に対する接種後2~3か月以内のワクチン効果は、BA.5系統と比較して差はなかったとの報告がある(Link-Gelles R. et al., 2023)。
    WHOは2023年2月24日にXBB.1.5系統に関するリスク評価を改正し、感染者数増加の優位性及び免疫逃避に関する知見がある一方で、重症度の上昇の兆候はみられず、現時点で他のオミクロンの亜系統と比較して公衆衛生上のリスクの増加につながる証拠はないとしている(WHO, 2023c)。その後米国から、XBB.1.5系統が主流であった2022年11月から2023年1月までのニューヨーク州において、XBB.1.5系統の感染者の重症度はBQ.1系統の感染者と比較して上昇していないと報告された(Luoma E. et al., 2023)。
    一方で、XBB.1.9系統は既存の亜系統に比較して感染者増加の優位性を見せているものの、免疫逃避が起こる可能性、受容体への結合親和性に関するウイルス学上の知見、感染性や重症度の上昇を示唆する所見はなく、また、全世界的に報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

中国における感染拡大と変異株の状況について

  •       中国におけるCOVID-19の患者数は2022年11月から急激に増加し、2023年1月26日の中国疾病預防控制中心(中国CDC)の発表によれば、国内における陽性者数、発熱外来受診者数、検査陽性率は2022年12月末、重症者数、入院者数は1月初旬にピークを迎えたものの、その後減少傾向に入っているとのことであった。また、地域差はあるが、国内で検出されている変異株は北京や天津でBF.7系統、その他の地域ではBA.5.2系統が中心であり、新規変異株の検出や置き換わりの兆候は見られないこと、ワクチン接種を進めており、基礎接種が全年齢の90%、初回ブースター接種が60歳以上の92%で終了しているとした(中国CDC, 2023)。
  •             中国からスパイクタンパク質やORF1a領域に変異を獲得したBA.5.2系統、BF.7系統の亜系統である、BA.5.2.48系統、BA.5.2.49系統、BA.5.2.50系統、BF.7.14系統と、それらの亜系統が新規の亜系統として登録されている。2022年12月1日から2023年2月28日までに、中国本土(香港、マカオを除く)からGISAIDに登録された12,473件のゲノム解析結果では、BA.5.2.48系統、BF.7.14系統が多くを占めた(GISAID, 2023) 。なお、これら変異株が獲得した変異はいずれも抗原性に影響を与えない変異であり、既知のBA.5.2系統、BF.7系統に比して免疫逃避が起こる可能性や感染・伝播性、重症度に影響を与える可能性は低いと考えられている(GitHub, 2023)。ほかのBA.5.2系統、BF.7系統と共に、BA.5系統に比較して感染者数増加の優位性がみられたが、BQ.1系統、XBB系統に比較して感染者数増加の優位性を示す知見はみられない。
  •             日本では2022年12月30日から2023年2月28日の間、中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員に入国時検査が実施された。また、2023年1月12日から2月28日の間、マカオからの直行旅客便での入国者についても、出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提出を求めるとともに、全員に入国時検査を実施するとの水際措置の見直しが実施された。この臨時措置に基づいて検疫で実施された検査数は80,472件であり、うち陽性となったのは1,004件であった。また、これらの入国者から検出されたウイルスに対して実施されたゲノム解析では、628件の系統分類が判明し、内訳はBF.7系統が254件、BF.7系統を除くBA.5.2系統が366件であった。
    2023年2月28日で全員を対象とした入国時検査は終了し、3月1日以降、中国(香港・マカオを除く)からの直行旅客便での入国者の最大20%程度のサンプル検査として、入国時検査を実施する方針に変更している。3月1日以降の措置に基づいて検疫で実施された検査数は3月9日までに3,527件であり、陽性となったのは8件、うち1件からBA.5.2.48系統が検出されている(厚生労働省, 2023)。

参考  

表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年 3月17日時点)

系統名

感染研(NIID)

WHO

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

(オミクロン)

VOC

※各亜系統を以下の通り分類

Currently circulating variants of interest (VOIs): XBB.1.5

 

Currently circulating variants under monitoring (VUMs): BQ,1, BA.2.75, CH.1.1, XBB, XBF

※各亜系統については以下の通り分類

VOI

BA.2.75, BQ.1, XBB, XBB.1.5

VUM

XBC注1), BN.1, CH.1.1, XAY注1)

De-escalated variant:

BA.1, BA.2, BA.3, BA.4, BA.5, BA.2+L452X, XAK, B.1.1.529+R346X, B.1.1.529+K444X, N460X, B.1.1.529+N460X, F490X, BA.2.3.20, BF.7

※各亜系統については以下の通り

VOC: BA.1, BA.2, BA.4 BA.5.

Designated variants

XE, BA.2.75, BA.4.6, BQ.1, XBB, CH.1.1, XBB.1.5.

Signals in monitoring

XBB.1.9.1, XBB.1.9.2, XBB.1.16

VOC

VOC: Variant of concern(懸念される変異株)、VOI: Variant of interest(注目すべき変異株)、VUM: Variant under monitoring(監視下の変異株)、Designated variants (指定された変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)、Currently circulating(現在流行中)

注1)  オミクロンとデルタの組換え体

引用文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

26 2023/ 3/24   9:00時点

25 2023/ 2/10   9:00時点

24 2023/ 1/13   9:00時点

23 2022/12/16  9:00時点

22 2022/11/18  9:00時点

21 2022/10/21  9:00時点

20 2022/09/08  9:00時点

19 2022/07/29  9:00時点

18 2022/07/01  9:00時点

172022/06/03  9:00時点

162022/04/26  9:00時点

第15報 2022/03/28 9:00 時点

注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

14 2021/10/28  12:00 時点

13 2021/08/28  12:00 時点

12 2021/07/31  12:00 時点

11 2021/07/17  12:00 時点

102021/07/06  18:00 時点

 9 2021/06/11 10:00 時点

 8 2021/04/06 17:00 時点

  7 2021/03/03 14:00 時点

  6 2021/02/12 18:00 時点

第  5 報 2021/01/25 18:00 時点

注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4 報 2021/01/02 15:00 時点

第  3 報 2020/12/28 14:00 時点

第  2 報 2020/12/25 20:00 時点

注)タイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第  1 報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

 

 

国立感染症研究所

2023年2月10日9:00時点

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English(summary)

変異株の概況

  •    現在流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第24報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。2022年12月30日~2023年1月30日に、世界各地でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの99.9%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2023a)。オミクロンの中では多くの亜系統が派生しているが、2023年第2週(1月9日~15日)では、BA.5系統が65.7%、BA.2系統が14.6%、 BA.4系統が0.3% (いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が流行の主流となっている(WHO, 2023a)。検出された亜系統のうち上位3位は、BQ.1.1系統(28.2%)、BQ.1系統(14.1%)、XBB.1.5系統(11.5%)であった(WHO, 2023a)。日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流となったが、10月以降はBQ.1系統及びBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称し、2023年1月13日以降は、そのうち、BF.7系統、BQ.1系統、BA.2.75系統、XBB系統を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。

  •    BQ.1系統、XBB系統をはじめとした、特徴的なスパイクタンパク質の変異が見られ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの免疫逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。 特に北米で増加しているXBB.1.5系統のように、いくつかの地域で既存の流行株に比して感染者数増加の優位性が見られる亜系統も報告されている。しかし、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。

  •    現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与する形質を持つがその他の形質は大きく変化していない変異株が生じていると考えられる。世界の人口の免疫獲得状況や、介入施策が多様になる中で、変異株の形質が流行動態に直接寄与する割合は低下していると考えられる。変異株の発生動向や病原性・毒力(virulence)、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像等の形質の変化を継続して監視し、迅速にリスクと性質を評価し、それらに応じた介入施策が検討される必要がある。

  •    2022年11月以降、中国で急速な感染拡大が報告されている。中国ではゼロコロナ政策が施行されていたが、12月7日以降感染対策を緩和しており、12月下旬をピークに全国的な感染者数の増加と、1月上旬をピークに重症者数、入院者数の増加が見られたが、現在は減少に転じている。中国からGISAIDに登録されたゲノム解析結果では、BA.5.2系統、BF.7系統が主流となっていると考えられ、いずれも日本国内でも検出されている系統であった。日本では12月30日より中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員に入国時検査を実施しており、主にBA.5.2系統、BF.7系統が検出されている。1月下旬の春節及びその前後における中国国内外への旅行者の増加、中国政府が自国民の海外旅行を解禁するなどの影響から、引き続き中国での状況を注視する必要がある。

第24報からの更新点

  •    各変異株の国内外での発生状況の更新
  •    中国における変異株の状況についての更新

目次

  •    BA.5系統について
  •    BA.2.75系統について
  •    オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について
     ・BQ.1系統について
     ・XBB系統について
  •    中国における感染拡大と変異株の状況について
  •    参考  表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年2月1日時点)

BA.5系統について

  •    BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2023年第2週(1月9日~15日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界でGISAIDに登録された株の65.7%を占め、主流となっている (WHO, 2023a)。BA.5系統の亜系統のうち、BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)とその亜系統が欧州やオセアニアから、BF.7系統(BA.5.2系統の亜系統)とその亜系統が中国から多く登録されている。

  •    国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた(国立感染症研究所, 2022a)

BA.2.75系統について

  •    BA.2.75系統(亜系統を含む)は、2023年1月24日時点で、GISAIDに106か国から99,480登録されている(covSPECTRUM, 2023)日本では、2月1日時点で、BA.2.75系統(亜系統を含む)が検疫で205件、国内で6,664件登録されている(GISAID, 2023)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの逃避が起こる可能性が高くなっているとの報告がある(Cao Y. et al., 2022a) 。一方で、ワクチン接種による中和抗体からの免疫逃避については、BA.2系統と比して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.2.75系統はインドでの検出状況から系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されている。国内においては、2022年10月以降XBB系統やBQ.1系統などと共にBA.2.75系統の亜系統であるCH.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)やBN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)が検出されている(国立感染症研究所, 2023c)。しかし、これら亜系統間において感染・伝播性や重症度が上昇するという知見は得られていない。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •    世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高まっていることが懸念されている。米国ではXBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体の亜系統であるXBB.1.5系統が、英国を含む欧州ではBQ.1系統や、CH.1.1系統、XBB.1.5系統が、アジアではBQ.1系統やXBB系統、オセアニアではBQ.1.1系統、CH.1.1系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統が占める割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在見られない。
  •       これらの亜系統が有するスパイクタンパク質における変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向が見られており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘されている(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較して、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などは中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。これらの亜系統に関して、重症度の上昇などの免疫逃避以外の形質が大きく変化しているという知見はない。

  •       これらの系統について、WHOは、BF.7系統、BQ.1系統、BA.2.75系統、XBB系統の4系統を「Omicron subvariants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、BA.2.75系統(BN.x系統、CH.x系統、その他の亜系統含む)、BQ.1系統、XBB系統(XBB.1.5系統(とその亜系統)以外の下位の亜系統を含む)、XBB.1.5系統の4系統を「Variants of interest」、BA.2.3.20系統、BF.7系統、XBC系統(デルタ株とBA.2系統の組換え体)、BN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)、CH.1.1系統、XAY系統(デルタ株とBA.2系統の組換え体)を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、CH.1.1系統、XBB系統、XBB.1.5系統(とデルタ株)を「Designated Variants」、XBC系統、BQ.1.1系統、BN.1系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023b、WHO, 2023b、UKHSA, 2023)。 
  •       また、オミクロンとデルタの組換え体についても、ECDCはXBC系統とXAY系統を「Variants under monitoring」、UKHSAはXBC系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023b、UKHSA, 2023)

 

BQ.1系統について

  •       2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2023)BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は2023年1月24日時点で、GISAIDに欧米を中心に115か国から321,434件が登録されている(covSPECTRUM, 2023)。2023年第2週(1月9日~15日)時点で、BQ.1系統は全世界で検出された株の46.9%を占め、割合は上昇傾向が続いている(WHO, 2023a)。米国では8月以降BQ.1系統の占める割合が上昇し2022年51週(12月18日~12月24日)には60%に達したが、11月以降XBB.1.5系統の占める割合が上昇するにつれて、BQ.1系統の占める割合は低下傾向にあり、2023年第5週(1月25日~2月4日)には27.2%を占めると予測されている (CDC, 2023a)。欧州では9月末頃から複数の国でBQ.1系統の占める割合が上昇しており、BQ.1系統が主流となっている国もある(UKHSA, 2023、ECDC, 2023c)。日本では、2023年2月1日時点で、BQ.1系統は検疫で98件9,648件検出されている(GISAID, 2023)。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2022年第43週(10月24日~30日)には1.4%であったが、2023年第1週(2023年1月2日~1月8日)には19.2%と割合が上昇しており(国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2023a)、2023年第6週(2月6日~2月12日)においては42%を占めると推定されている (国立感染症研究所, 2023b)。

  •       BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体から免疫逃避が起こる可能性が高くなることが示唆されている。また、実験でも中和抗体から免疫逃避する可能性が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) 。一方で、ハムスターを用いた動物実験では、BQ.1.1系統の病原性はBA.5系統と同等またはより低かった (Ito J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高いものの、BA.5系統と比較して入院リスクの上昇はみられなかった(UKHSA, 2023)。ワクチンの有効性に関しては、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりもBQ.1系統に対する免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。また、ワクチンの重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022)。ただし、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。今の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

XBB系統について

  •    2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体が登録されている。2023年1月24日時点で、GISAIDに99か国から52,121件が登録されており(亜系統を含む)、インドネシア、インド、マレーシア、シンガポールなどアジア各国のほか、米国、英国、ペルー、カナダ、オーストリア、デンマークなどから多く登録されている(covSPECTRUM, 2023)。2023年第2週時点で、XBB系統とその亜系統は全世界で検出された株の16.3%(うちXBB.1.5系統が12.1%)を占め、前週からその割合は上昇している(WHO, 2023a)。2022年9月から10月にかけてXBB系統の占める割合が上昇したインド、バングラデシュ、シンガポールなどでは、XBB系統の増加による感染者数や重症者数の増加は明らかではなく、シンガポールでは2022年10月下旬以降BQ.1系統やBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある (outbreak. info, 2023、Our World in Data, 2023)。
  •             一方で、米国では2022年11月からニューヨーク州など東海岸を中心にF486P変異を有するXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が検出され始め、12月以降、他の系統に比べて感染者数増加の優位性(growth advantage)が顕著でありその割合が増加している。2023年第5週(1月28日〜2月4日)には米国で検出された株の66.3%を占めると予測されていることから(CDC, 2023a)、動向を注視していく必要がある。2023年1月30日時点で欧州、アジアなど57の国と地域からGISAIDに16,302件が登録されている。米国から12,645件が登録されているが、英国1,145件、デンマーク239件、カナダ651件、ドイツ259件、フランス137件など、米国以外からの登録数は限られている。
    日本からは2023年2月1日時点でXBB系統(亜系統を含む)が462件登録されており、うちXBB.1.5系統が国内で37件登録されている (GISAID, 2023)。また、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、XBB系統(亜系統を含む)は、2022年第42週(10月24日~30日)は0.25%、第1週(2023年1月2日~1月8日)にも0.38%と横ばいで推移している (国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2023a)。
  •       XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体から逃避する可能性が高いこと(Cao Y. et al., 2022b) や、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている (Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりも免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022)。
  •              XBB.1.5系統はXBB系統と同等の免疫逃避が起こる可能性があり、かつACE2受容体への結合親和性がXBB系統より高いことから、感染・伝播性がより高くなっている可能性が指摘されている(Uriu K. et al., 2023)。また、XBB.1.5系統の感染性や重症度に関する疫学的、臨床的な知見はない。米国から、2022年12月から2023年1月の期間に、18~49歳の免疫不全のない成人において、XBB系統、XBB.1.5系統における2価ブースターワクチンの発症に対する接種後2~3か月以内のワクチン効果は、BA.5系統と比較して差はなかったとの報告がある(Link-Gelles R. et al., 2023)
    WHOは2023年1月23日にXBB.1.5系統に関するリスク評価を改正し、感染者数増加の優位性及び免疫逃避に関して一定の知見がある一方で、重症度の上昇を示す知見はなく、現時点で他のオミクロンの亜系統と比較して公衆衛生上のリスクの増加につながる証拠はないとしている。最初に報告された米国をはじめ欧州、アジアなどからも報告されていることから、感染者数増加の優位性、免疫逃避、重症度を評価するために、加盟国に対してさらなる調査を呼びかけている(WHO, 2023c)。
    XBB.1.5系統は米国で増加しているものの、日本を含めた米国以外の国での報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

中国における感染拡大と変異株の状況について

  •       中国から公式に報告されたCOVID-19の患者数は2022年11月から急激に増加し、12月2日に1日当たり40,790.57人(7日間移動平均)、人口100万人当たり28.61人となり、過去最高を記録した(Our World in Data, 2023) 。
    2023年1月26日に中国疾病預防控制中心(中国CDC)は2022年12月9日以降の臨床及び疫学情報を公表し、国内における陽性者数、発熱外来受診者数、検査陽性率は2022年12月末をピークに減少しており、全国のILI(インフルエンザ様疾患)サーベイランスでも同様の傾向が見られること、重症者数、入院者数は1月初旬をピークに減少していること、地域差はあるが、国内で検出されている変異株は北京や天津でBF.7系統、その他の地域ではBA.5.2系統が中心であり、新規変異株の検出や置き換わりの兆候は見られないこと、ワクチン接種を進めており、基礎接種が全年齢の90%、初回ブースター接種が60歳以上の92%で終了していることを公表した(中国CDC, 2023)。
    ただし、中国政府は2022年12月7日以降、感染対策やサーベイランスの方針を変更しており、以前の情報との単純比較は困難であることに注意が必要である。
  •             2022年12月1日から2023年1月30日までに、中国本土(香港、マカオを除く)からGISAIDに7,742件のゲノム解析結果が登録された。登録された変異株はBF.7系統を除くBA.5.2系統が最多で次いでその亜系統であるBF.7系統が多くを占めた (GISAID, 2023)。またXBB.1.5系統が3件登録されたが、いずれも輸入例であることがGISAIDの登録情報で判明している(GISAID, 2023)。 なお、中国からは報告されたBA.5.2系統、BF.7系統はスパイクタンパク質やORF1a領域に変異を獲得しており、BF.7.14系統、BA.5.2.48系統、BA.5.2.49系統と、それらの亜系統が新規の亜系統として登録されている。しかし、これら変異株が獲得した変異はいずれも抗原性に影響を与えない変異であり、既知のBA.5.2系統、BF.7系統に比して免疫逃避が起こる可能性や感染・伝播性、重症度に影響を与える可能性は低いと考えられている(GitHub, 2023)。
  •             2022年11月からの中国での感染者数の増加を受け、日本では2022年12月30日より中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員に入国時検査が実施されている。また、2023年1月12日以降、マカオからの直行旅客便での入国者についても、出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提出を求めるとともに、全員に入国時検査を実施するとの水際措置の見直しが実施された。以降、2023年1月26日までにこの臨時措置に基づいて検疫で実施された検査数は31,884件であり、うち陽性となったのは848件であった。 また2022年12月30日から2023年1月19日までに中国(香港、マカオを除く)滞在歴のある入国者から検出されたウイルスに対して実施されたゲノム解析では、550件の系統分類が判明した。内訳はBF.7系統が222件、BF.7系統を除くBA.5.2系統が321件であった。
  •     中国で主流となっていると推定されるこれらの亜系統に関して、日本では、BA.5.2系統は2022年5月ころから検出され始め、以降2023年1月25日時点でGISAIDに亜系統を含めて15万件以上が登録されている。日本国内で検出されたBA.5系統のうち大半を占めていたが、BQ.1系統への置き換わりにより日本国内での検出数は減少傾向にある(covSPECTRUM, 2023)。また、BF.7系統は2022年6月に初めて検出され、2023年1月30日時点でGISAIDに6,175件が登録されている。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは検体数全体に占めるBF.7系統の割合は10月以降緩徐に上昇し、2023年第1週(2023年1月2日~1月8日)時点で17.3%を占めているが、上昇の程度はBQ.1系統の方が顕著である(国立感染症研究所, 2023a, 国立感染症研究所, 2023b)。BF.7系統は欧州(ベルギー、デンマーク、ドイツなど)や米国などで2022年10月頃に一時的に検出割合の上昇が見られたものの、その後BQ.1系統への置き換わりが進み、各国で検出割合は下降している(covSPECTRUM, 2022)。BA.5系統に比較して感染者数増加の優位性を見せていたものの、BQ.1系統、XBB系統に比較して感染者数増加の優位性を示す知見はみられない。

参考  

表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年 2月1日時点)

系統名

感染研(NIID)

WHO

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

(オミクロン)

VOC

Currently circulating variants of concern (VOCs)

※各亜系統については以下の通り

Omicron subvariants under monitoring

BF.7, BQ,1, BA.2.75, XBB.

VOC

※各亜系統については以下の通り

VOC: BA.2, BA.4, BA.5

VOI

BA.2.75, BQ.1, XBB, XBB.1.5

VUM

BA.2.3.20, BF.7. XBC注1), BN.1, CH.1.1, XAY注1)

De-escalated variant:

BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK, B.1.1.529+R346X, B.1.1.529+K444X, N460X, B.1.1.529+N460X, F490X

VOC

※各亜系統については以下の通り

VOC: BA.1, BA.2, BA.4 BA.5.

Designated variants

XE, BA.2.75, BA.4.6, BQ.1, XBB, CH.1.1, XBB.1.5.

Signals in monitoring

XBC, BQ.1.1, BN.1

VOC

VOC: Variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VOI: Variant of interest(注目すべき変異株)、VUM: Variant under monitoring(監視下の変異株)、Designated variants (指定された変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)

注1)  オミクロンとデルタの組換え体

引用文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

25 2023/ 2/10   9:00時点

24 2023/ 1/13   9:00時点

23 2022/12/16  9:00時点

22 2022/11/18  9:00時点

21 2022/10/21  9:00時点

20 2022/09/08  9:00時点

19 2022/07/29  9:00時点

18 2022/07/01  9:00時点

172022/06/03  9:00時点

162022/04/26  9:00時点

第15報 2022/03/28 9:00 時点

注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

14 2021/10/28  12:00 時点

13 2021/08/28  12:00 時点

12 2021/07/31  12:00 時点

11 2021/07/17  12:00 時点

102021/07/06  18:00 時点

 9 2021/06/11 10:00 時点

 8 2021/04/06 17:00 時点

  7 2021/03/03 14:00 時点

  6 2021/02/12 18:00 時点

第  5 報 2021/01/25 18:00 時点

注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4 報 2021/01/02 15:00 時点

第  3 報 2020/12/28 14:00 時点

第  2 報 2020/12/25 20:00 時点

注)タイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第  1 報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

 

 

 

 

 

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