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2022年2月16日9:00時点

国立感染症研究所

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 WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )

  2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.1系統, BA.1.1系統, BA.2系統, BA.3系統が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要 

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

英国

 

スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

(BA.2系統はVUI、BA.3系統はSignals currently under monitoring and investigationに分類)

VOC

BA.1/BA.2系統共に主流:G142D, G339D, S373P, S375F, K417N, N440K, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K

BA.1系統で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G446S, G496S, T547K, N856K, L981F (BA.1.1ではR346K)

BA.2系統で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S

 

オミクロン株について 

B.1.1.529系統の下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。さらにBA.1系統の下位にBA.1.1系統が位置付けられている。国内での検出は、ほとんどがBA.1系統(BA.1.1系統を含む)であるが、検疫ではインド、フィリピン等に渡航歴がある者からBA.2系統が検出され、その割合は増加傾向である。国外では、デンマーク、インド、南アフリカ等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統とBA.1系統では、共通する変異が多いが、それぞれの系統に特異的な変異や欠失が複数ある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2系統B.1.1.529系統, BA.1系統と同様にL452R陰性となる。 BA.1系統(BA.1.1を含む)はスパイクタンパク質の一部が欠失(S: Δ69-70)しているため、一部の国ではS遺伝子のPCRが陰性となるSGTF(S gene target failure)を一つの指標にしてデルタ株とオミクロン株を判別している。一方、BA.2系統はデルタ株と同様に当該欠失(S:Δ69-70)がないことからS遺伝子のPCR は陽性のSGTP(S gene target positive)となり、デルタ株との判別に用いることはできない。

 

海外での発生状況

オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の報告数の世界的な増加は継続している。一方で、2021年にオミクロン株感染者が早期に急増した国々の一部では、2022年1月初旬から新規感染者数が減少に転じている。オミクロン株の下位系統(BA.1系統、BA.1.1系統、BA.2系統ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統(BA.1.1系統を含む)が最も多くを占めていると推定されるが、いくつかの国でBA.2系統の占める割合の増加が報告されている。

 

  •       2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染者が報告されて以降、2022年1月20日までに日本を含め全世界171か国から感染者が報告された(WHO. Enhancing response to Omicron SARS-CoV-2 variant. 21 January 2022)。
  •       直近30日間にGISAIDに登録された検体の解析では、オミクロン株の占める割合は89.1%(332,155/372,680:検体採取日が2021年12月25日-2022年1月23日の検体)、93.3%(403,991/433,223:検体採取日が2021年12月31日-2022年1月29日の検体)、96.7%(412,265/426,363:検体採取日が2022年1月7日-2月5日の検体)と経時的に増加した。
  •    2022年2月8日時点で、世界67か国から48,622検体のBA.2系統株のゲノム情報がGISAIDに登録され、そのうち多くはデンマークからの報告であった(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 36. 11 February 2022)。
  •       デンマークでは、第4週から第5週にかけて国内の新規感染者数は若干減少したものの、一部地域では新規感染者数が増加している。ゲノム解析結果の得られた検体のうちBA.2系統の占める割合は、2021年第52週(では約であったが、2022年第週には約85%に達した (SSI. Genomic overview of SARS-CoV-2 in Denmark. Accessed 13 February 2022, Ugentlige tendenser: Covid-19 og andre luftvejsinfektioner Uge 6. 10. February 2022
  •       英国においても2022年1月からデンマークと同様にBA.2系統株が増加し、同年2月7日時点でゲノム解析により7,194例からBA.2系統株が確認されている。英国においては、非SGTF例(BA.2系統と想定される)の割合が、2022年1月24日時点では5.1%であったが、2月6日時点では18.7%と増加している(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 36. 11 February 2022. )。
  •       米国では2022年1月30日から2月5日までに採取された検体の3.6%(95%PI 1.8-6.8%)はBA.2系統で、1月23日から1月29日までの採取検体に占める割合1.2%(95%PI 0.7-1.8%)と比較し、増加傾向と推定されている(CDC. Variant Proportions. Accessed 9 February 2022
  •       南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、2021年12月はBA.1系統が87%(2,559/2,949件)、BA.2系統が4%(119/2,949件)であり、2022年1月はBA.1系統が60%(660/1,107件)、BA.2系統が30%(337/1,107件)であった(NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 11 FEB 2022)。

 

日本での発生状況

全国的に依然高い新規感染者数の報告が認められているものの、その増加の加速度は鈍化し、地域によって新規感染者数が減少傾向あるいは上げ止まりとなっているところもあるただし、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続しており、検査陽性率は、依然として増加傾向である。首都圏や関西圏含めオミクロン株に置き換わっているが、引き続き、地域によってはデルタ株も検出されている。

BA.2系統は、2021年第52週に国内で初めて検出された。これまでに71検体が検出されている(厚生労働省. 新型コロナウイルスゲノムサーベイランスによる国内の系統別検出状況(国立感染症研究所データ)2022年2月9日掲載)。2021年第52週から2022年第4週の5週間で検出されたオミクロン株のうち、BA.2系統の割合は0.5%を占めた。なお、ゲノム解析の報告遅れがあるので、この数値は暫定値である。また、地域によって各系統が占める割合は異なる可能性がある。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •        感染・伝播性 

国内外でオミクロン株では、これまでの流行株と比べてより短い潜伏期間(中央値2.9日(95%CI:2.6-3.2)(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告)とされている。

国内においては、首都圏および関西圏での実効再生産数も緩やかに低下傾向を示しており、流行拡大の鈍化が期待される一方で、急激な感染拡大によって報告の遅れが考えられるために解釈には注意が必要である。

また、置き換えが報告されているデンマーク及び英国からBA.2系統に関して、2次感染率が高く発症間隔がBA.1系統に比べて短縮するという報告があった。これらの要素が、BA.1系統に比してBA.2系統の感染者数増加における優位性に寄与している可能性がある。国内でもBA.2系統の割合が増加する可能性があり、その場合、感染者数の増加(減少)速度に影響を与える可能性がある。

  •        首都圏および関西圏での実効再生産数は1月24日時点でそれぞれ1.09(95%CI 1.08-1.09)と1.06 (95%CI 1.05-1.06)、1月17日時点ではそれぞれ1.23と1.19であった。また東京都および大阪府での2月7日までの直近1週間の倍加時間はそれぞれ2.15日と2.44日であるが、直近2週間ではそれぞれ3.11日と3.46日であった(第70回、第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年2月2日、8日)。
  •       デンマークで登録された症例における世帯内2次感染率はBA.1系統では29%だったのに対しBA.2系統では39%であった。一方でブースター接種を受けた世帯ではいずれの系統においても2次感染の発生オッズは2回接種の世帯に比べて有意に低かった(Lyngse et al.)。
  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)では2022年1月10日以降のS遺伝子が検出されない(SGTF)例と検出される(SGTP, S-gene target positive)例での感染例ペアを検討したところ、発症間隔の中央値はBA.2系統で2.68日(95%CI 2.50-2.87)とBA.1系統(中央値3.27日、95%CI 3.17-3.36)よりもさらに短縮した(UKHSA. Technical Briefing 36)
  •   2022年1月5-20日のデータを使った英国のREACT-1研究では、約2,400検体のウイルス遺伝子が解析され、0.8%がBA.2系統であった。BA.1系統およびBA.1.1系統の日ごとの再生産数を1とするとBA.2系統の相対的な再生産数は0.46倍(95%CI 1.10-1.92)増えて、1.46と算出された。(Elliott et al.

 

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避 

BA.1系統は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、ゲノム配列やラボでの実験、疫学データから示されている。ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してBA.1系統への感染では著しく低下するが、3回目接種(ブースター接種)によりBA.1系統感染による発症予防効果が一時的に高まることが示されている。国内においても、2回接種後一定期間経過すると発症予防効果が低下すること、短期的には3回接種で発症予防効果が高まることが示されている。海外の報告では、3回接種後の発症予防効果が数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。

入院予防効果および死亡予防効果もデルタ株と比較してBA.1系統において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果および死亡予防効果においても、3回目接種(ブースター接種)により効果が高まるという報告があるが、長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、発症予防効果はBA.2系統においても大きな違いはないとする英国からの報告がありを用いたラボでの実験データもこれを支持している。

一方で、細胞性免疫に関する実験による(in vitro)データが複数の研究機関から報告されており、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はBA.1系統に対しても交差反応性を維持している可能性がある。さらに、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、BA.1系統の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。

BA.2系統に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の交差反応性については知見の蓄積が待たれる。

重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。

第7報までの報告に加えて、以下の知見が新たに報告された。

  •   国立感染症研究所では、複数の医療機関の協力のもとで、成人(20歳以上)を対象として、検査陰性デザイン(test-negative design; TND)を用いた症例対照研究により新型コロナワクチンの発症予防効果を検討した。オミクロン株流行期における2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した有効性の評価が報告された(国立感染症研究所. 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第3報))。2回接種から0-2ヶ月の有効率は71%(95%CI 36-87%)、2回接種から2-4ヶ月の有効率は54%(95%CI 29-70%)、2回接種から4-6ヶ月の有効率は49%(95%CI 25-65%)、2回接種から6ヶ月以降の有効率は53%(95%CI 16-74%)、ブースター接種後2週間程度(中央値(範囲) 16(3-37)日 )の有効率は81%(95%CI 41-94%)であった。
  •   UKHSAはTNDを用いた症例対照研究により、オミクロン株による死亡に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した予防効果の評価を報告している(UKHSA. COVID-19 Vaccine Surveillance Report Week 6))。2回接種から25週後以降の有効率は59%(95%CI 4-82%)、ブースター接種2週以降の有効率は95%(95%CI 90-98%)であった。
  •   さらに、BA.2系統に対する新型コロナワクチンの有効性についての知見として、UKHSAはTNDを用いた症例対照研究により、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種と未接種と比較した予防効果の評価を行った(UKHSA. COVID-19 Vaccine Surveillance Report Week 6 )。2回接種から25週後以降の有効率はBA.12回接種から25週後以降の有効率はBA.1系統に対して10% (95%CI 9-11%)、BA2系統に対して18%(95%CI 5-29%)、ブースター接種2-4週後はBA.1系統に対して69%(95%CI 68-69%)、BA.2系統に対して74%(95%CI 69-77%)、ブースター接種5-9週後はBA.1系統に対して61%(95%CI 61-62%)、BA.2系統に対して67%(95%CI 62-71%)、ブースター接種10週後以降はBA.1系統に対して49%(95%CI 48-50%)、BA.2系統に対して46%(95%CI 37-53%)であった。なお、本解析はワクチンの種類ごとには行われていない。
  •   オックスフォード大学の報告では、モノクローナル抗体を用いた中和試験からは、BA.1系統とBA.2系統ではわずかな抗原性の違いがあることが示唆されている(UKHSA. Technical Briefing 36;データなし)。一方で、直近にブースター接種した者から採取された血清はBA.1系統とBA.2系統に対して同等の中和能があるとしている。このほか、BA.1系統およびBA.2系統それぞれで認めるスパイクタンパク質の変異を持つに対する中和能を評価した報告がある(Yu et al. , Cao et al.)。2回接種2週間後に採取された血清では、BA.1系統およびBA.2系統に対して同等に大幅に(従来株と比較してそれぞれ1/23、1/27)低下していた。ブースター接種直前においてはBA.1系統およびBA.2系統に対して中和能は検出感度未満であった。しかし、ブースター接種後には従来株と比較してBA.1系統とBA.2系統でそれぞれ1/6.1、1/8.4まで中和能が上昇した(つまりBA.1系統と比較してBA.2系統は1/1.4の中和能であった)。BA.1系統に感染した者(mRNAワクチン3回接種4名、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製ワクチン1回・mRNAワクチン1回接種1名、mRNAワクチン2回接種2名、未接種1名)で約2週間後に採取された血清では、BA.系統1に対して高い中和能を示し、BA.2系統に対しても中和能は1/1.3と類似していた。

*実験・抗体検査を目的に人工的に作られる、別のウイルス粒子の表面にSARS-CoV-2のスパイクタンパクを発現させたウイルス。

 

  •   重症度 

デルタ株感染者に比べてオミクロン株感染者では入院や死亡リスクの低下が示唆されている。英国およびフランスではデルタ株感染者と比較しオミクロン株感染者では入院や重症ハザードが低かったことが報告された。また、国内ではHER-SYSデータに基づきオミクロン株陽性例は届け出時点での肺炎割合はデルタ株陽性例と比べて低かった。現在までの所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくいと考えられる。

ただし、国内の重症例および死亡例は高齢者が多く、高齢者において感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性に注意する必要がある。また、重症化や死亡の転機を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。さらに、小児での評価についても知見の集積が必要である。

BA.2系統について、重症化・死亡のリスクが増加するという報告はないが、引き続き知見の集積が必要である。

 

  •   国立感染症研究所の分析では、2022年2月6日までにHER-SYSに報告されたオミクロン株感染者の届け出時点での肺炎割合をデルタ株と比較したところ、ワクチン2回接種ありで65歳以上では0.38倍(95%CI 0.35-0.42)であり、12-64歳では0.24倍(95%CI 0.21-0.27)であった。ただし届出時点であること、検査や医療体制による影響を考慮する必要があり、重症度の直接的な比較ではない点に注意する必要がある(第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年2月8日)。
  •   厚生労働省の分析では、2021年7月1日から10月31日の期間における新型コロナウイルス感染者28,446人を対象に、年齢階級別に重症化割合および死亡割合を算出したところ、いずれも依然と比べ低下しており、重症化割合は0.98%(50歳代以下で0.56%、60歳代以上で5.0%)、死亡割合は0.31%(50歳代以下で0.08%、60歳代以上で2.5%)であった(第70回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年2月2日)。
  •   英国での大規模なコホート研究の査読前論文によれば、デルタ株と比較してオミクロン株では入院ハザード比(調整済み)は、0.41(95%CI 0.39-0.43)で、年齢ごとにみると40代から70代の入院ハザード比は全体(0.41)よりも低いが、80代以上は0.47(95%CI 0.40-0.56)と上昇した。また10歳未満ではデルタ株と変わらなかった(ハザード比1.10、95%CI 0.85-1.42)。ただし死亡ハザードに関しては、デルタ株およびオミクロン株ともにサンプル数が少ないために評価できていない(Nyberg et al )。
  •   ノルウェーでの患者レジストリデータを用いた研究によれば、入院期間の中央値はデルタ株感染者と比較しオミクロン株感染者では、6.5日から2.8日に短縮していた(Venti et al)。
  •   フランスでの患者レジストリデータを用いた研究の査読前論文によると、デルタ株(L452R陽性株)感染者と比較してオミクロン株(E484KないしL452R陰性、またはオミクロン特異のスパイク領域変異が陽性)感染者でのICU/CCU入室ないし死亡の重症イベントのハザード比(調整済み)は、18歳から79歳までで0.13(95%CI 0.09-0.18)であるのに対し、80歳以上では0.30(95%CI 0.17-0.54)であった(Auvigne et al
  •   デンマークでは、2021年11月21日から2022年1月22日までに全ゲノム配列(全体の16%)で系統が確定された感染者で比較したところ、BA.2系統とBA.1系統では入院リスクに違いは認められなかった。入院例の年齢(中央値)は、BA.2系統が40歳と、BA.1系統の51歳より若かった(SSI. Risk assessment of Omicron BA.2
  •   2021年12月21日から2022年1月18日まで那覇市立病院に入院したオミクロン株によると想定される患者40例を対象に行われた後ろ向きの臨床的な検討(男性40%、年齢中央値(範囲)62.5歳(22-90歳)、ワクチン2回接種歴あり88%、透析患者4例を含む)では、軽症が29例(73%)、中等症Iが3例(8%)、中等症IIが8例(20%)〔うち高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula: HFNC)が2例〕で、人工呼吸管理を要する例はいなかった。転帰は自宅退院が17例(43%)、ホテル療養が6例(2%)、療養型病院へ退院したのが3例(8%)、施設退院が1例(3%)、残る13例(33%)は2022年1月21日時点で入院中であった。デルタ株が流行した第5波(2021年7月1日-9月30日)の際に同院に入院した症例と比較すると、軽症が多く、中等症IIの割合は低かったことが報告された。ただし、軽症が多かった理由については、2021年12月21日から29日まではオミクロン株感染者は重症度にかかわらず全例入院となっていたこと、入院時に重症化リスク因子のある軽症患者にソトロビマブの投与が行われていたこと、などが関与している可能性があげられた。(国立感染症研究所. IASR:那覇市立病院における新型コロナウイルスオミクロン株感染とみなされた初期入院症例40例の臨床的特徴)

オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、BA.1系統ウイルスとマウスおよびハムスターを用いた動物モデルおよびex vivoでの評価に関する論文報告がある。いずれも、オミクロン株のBA.1系統では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。また、BA.2系統ウイルスの病原性に関する実験科学的な知見については報告がなく、今後の解析が待たれる。

 

    •   検査診断
      •       国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
      •       オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
      •       WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
      •        国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
      •        WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。
      •         2022年1月4日以降、GISAIDに日本から登録されているSARS-CoV-2は9,815検体あり、L452R陽性712検体中708検体はデルタ株、4検体はオミクロン株であった。また、L452R陰性検体9,103検体のうち9,088検体はオミクロン株、3検体はデルタ株、12検体はPango分類不能であった。L452R陰性となる他の変異株の存在割合について継続的にモニタリングが必要であるが、現時点ではL452R陰性と判断された場合はほぼオミクロン株と見做しうる状況にあると考えられる。

 

当面の推奨される対策 

      • ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
      • オミクロン株は、潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、発症間隔が早まっており、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに特に軽症の感染者への対応と医療提供体制等について地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、感染者数の急激な伸びの抑制策や中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築が望まれる。
      • 重症度等の知見を集積・監視するために、重症例及び死亡例については、可能な限り全例に対してL452R 変異株 PCR 検査・ゲノム解析を実施する。
      • 全ゲノム解析された検体の中での割合が増加しているBA.2系統については、ゲノムサーベイランスを通じて引き続き発生動向を監視しつつ、ワクチン効果、抗ウイルス薬/抗体医薬の効果への影響も注視する。

 

基本的な感染対策の推奨

 個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、適切なマスクの着用、手洗い、換気などの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

      •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第8報 2022/2/16 9:00時点(2021/3/18 一部修正) 

第7報 2022/1/26 9:00時点

第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)

第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

第4報 2021/12/15 19:00時点

第3報 2021/12/8

第2報 2021/11/28 

第1報 2021/11/26

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan