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国立感染症研究所

2022年3月28日9:00時点

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変異株の再分類

  •   2021年11月28日にB.1.1.529系統を懸念される変異株(VOC)と位置付けて以来、オミクロン株は国外でも、国内でも割合が増加しデルタ株からの置き換わりが進行し、世界でも過去30日間にゲノム解析されGISAID登録されたウイルス株の99.8%を占め、デルタ株が0.1%を占めるのみとなった(WHO, 2022)。国内でも全てオミクロン株に置き換わった状況にある。変異株の流行状況が大きく変化したことから、変異株の分類を見直すこととした。
  •   B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)については、世界的に検出数は継続して減少し、GISAIDデータベース上では最終検出日は、それぞれ、2021年12月30日、2022年1月10日と2カ月以上にわたって検出されていない。そのため、監視下の変異株(VUM)に位置付けを変更する。
  •   B.1.617.1系統の変異株(旧カッパ株)、C.37系統の変異株 (ラムダ株)、B.1.621系統の変異株 (ミュー株)についても、世界的に検出数は減少し、GISAIDデータベース上での最終検出日は、それぞれ、2022年2月14日、2022年1月29日、2022年2月11日である。国内では、旧カッパ株は2021年5月7日、ミュー株は2021年8月4日が最後の検出日であり、ラムダ株は国内では検出されていない。そのため、VUMの位置付けから除外する。
  •   AY.4.2系統の変異株については、GISAIDデータベース上での最終検出日は2022年2月17日で、国内では検出されたことがない。デルタ株全体として大幅に検出が減少しており、デルタ株の中でAY.4.2について現状で特段増加の優位性を認めるものではないことから、VUMの位置付けから除外する。
  •   以前よりVUMに位置付けていたB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)については、国内では2021年10月1日以降登録がないが、GISAIDデータベース上では現在も散発的に登録がある。そのため、VUMの位置付けを維持する。

デルタ株とオミクロン株の組換え体について

  •   SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え(2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-Co-V-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出された事例があり、PANGO系統(XA/XB/XC系統)に分類されているものもある。
  •   デルタ株とオミクロン株の組換え体は、おそらくは、デルタ株からオミクロン株への置き代わりの時期に、ヒトなどでの共感染によって出現し、感染が維持されたものが検出されていると考えられる。いくつかの組換え体については、PANGO系統の付与、あるいはモニタリング対象として指定されているほか、英国は、デルタ株とオミクロン株の組換え体を包括的にVariants in monitoring(監視中の変異株)として扱っている(UK Health Security Agency, 2022a)
  •   そのほかにも、組換えを起こした系統や組換わった部分が異なる複数種類のデルタ株とオミクロン株の組換え体が報告されている。これらの組換え体のウイルス学的な性質や感染者における症状等はまだ明らかではなく、特段これまでの変異株と形質が異なるという所見はない(WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 84, published 22 March 2022)。また、検出数も多くはなく、引き続きゲノムサーベイランスの中で動向を監視していく。

表1 国立感染症研究所による国内における変異株の分類(2022年3月28日時点)

分類

定義

主な対応

該当

変異株

懸念される変異株

(VOC; Variants of Concern)

公衆衛生への影響が大きい感染・伝播性、毒力*、及び治療・ワクチン効果の変化が明らかになった変異株

対応

 ・週単位で検出数を公表(IDWR)

 ・ゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

 ・必要に応じて変異株PCR検査で監視

 ・積極的疫学調査

デルタ株

オミクロン株

注目すべき変異株

(VOI; Variant of Interest)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び治療・ワクチン効果や診断に影響がある可能性がある、又は確実な変異株で、国内侵入・増加の兆候やリスクを認めるもの(以下、例)

・検疫での一定数の検知

・渡航例等と無関係な国内での検出

・国内でのクラスター連鎖

・日本との往来が多い国での急速な増加

警戒

 ・週単位で検出数を公表(IDWR)

 ・ゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

 ・積極的疫学調査

 ・必要に応じて変異株PCR検査の準備

該当なし

監視下の変異株

(VUM; Variants Under Monitoring)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び診断・治療・ワクチン効果に影響がある可能性がある変異を有する変異株

また、VOCやVOIに分類された変異株であっても、以下のような状況では、本分類に一定期間位置付ける

・世界的に検出数が著しく減少

・追加的な疫学的な影響なし

・国内・検疫等での検出が継続的に僅か

・特に懸念される形質変化なし

監視

 ・発生状況や基本的性状の情  報収集

 ・ゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

 ・(VOC/VOIからVUMに移行後国内発生が継続するものは)週単位で検出数を公表 (IDWR)

アルファ株

ベータ株

ガンマ株

* 毒力virulence: 病原体が引き起こす感染症の重症度の強さ

IDWR: 感染症発生動向調査週報

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022年3月28日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

英国HSA

CDC

B.1.617.2系統

(デルタ株)

VOC

currently circulating VOC

VOC

VOC

VOC

B.1.1.529系統

(オミクロン株)

VOC

currently circulating VOC

VOC

VOC

VOC

B.1.1.7系統

(アルファ株)

VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

VOC

VBM

B.1.351系統

(ベータ株)

VOC

→VUM

previously circulating VOC

VOC

International VOC

VBM

P.1系統

(ガンマ株)

VOC

→VUM

previously circulating VOC

VOC

VOC

VBM

B.1.617.1系統

(旧カッパ株)

VUM

→なし

previously circulating VOI

De-escalated variant

なし

VBM

C.37系統

(ラムダ株)

VUM

→なし

previously circulating VOI

De-escalated variant

なし

なし

B.1.621系統

(ミュー株)

VUM

→なし

previously circulating VOI

De-escalated variant

International VUI

VBM

AY.4.2系統

(デルタ株の
 一亜系統)

VUM

→なし

なし

De-escalated variant

VUI

なし

VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOI: Variant of Interest(注目すべき変異株)、VUI:Variant under Investigation(調査中の変異株)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)

* WHOは2022年3月22日よりVOCとVOIについて、previously circulating(かつて流行していた)とcurrently circulating(現在流行中)の2種類に分けている。

 

引用文献

  •   European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern as of 17 March 2022. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern.
  •   UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variant data update, England. Version 24. 11 March 2022a. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1060192/routine-variant-data-update-24-data-england-11-March-2022.pdf.
  •   UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England. Technical briefing 39. 25 March 2022b.
  •   WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 84, published 22 March 2022. https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---22-march-2022.

 

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第15報   2022/03/28 9:00 時点       注)タイトル変更

             「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の変異株について」

第14報   2021/10/28  12:00時点

13   2021/08/28  12:00 時点

12   2021/07/31  12:00 時点

11   2021/07/17  12:00 時点

10報 2021/07/06  18:00時点

  報 2021/06/11 10:00時点

      2021/04/06 17:00 時点

     2021/03/03 14:00時点 

      2021/02/12 18:00時点

5報 2021/01/25 18:00時点 注)タイトル変更

  「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の新規変異株について」

  報 2021/01/02 15:00時点

  報 2020/12/28 14:00時点 

  2報 2020/12/25 20:00時点 注)第1報からタイトル変更

         「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について」

  1報 2020/12/22 16:00時点

     「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

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