注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は、ヒトパルボウイルスB19(Human parvovirus B19)を病原体とし、幼児、学童の小児を中心にみられる流行性の発疹性疾患である。典型例では両頬に蝶形紅斑が出現することが特徴的で、リンゴのように赤くなることから「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもあるが、本疾患の約4分の1は不顕性感染である。感染経路は通常は飛沫感染もしくは接触感染である。
本疾患の特徴的な症状は、感染後10〜20日の潜伏期間を経て出現する両頬の境界鮮明な紅斑であり、続いて腕、脚部にも両側性に網目状・レース様の発疹がみられる(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/443-5th-disease.html:写真1、写真2参照)。体幹部(胸腹背部)にもこの発疹が出現することがある。感染後約1週間頃にウイルス血症を起こしており、インフルエンザ様症状を呈することがある(倦怠、発熱、筋肉痛、鼻汁、頭痛、掻痒症など)。この時期にウイルスの体外への排泄量は最も多くなる。まれにウイルス血症の時期に採取された血液製剤からの感染の報告がある。発熱はあっても軽度である。発疹出現時期を迎えて伝染性紅斑と臨床的に診断された時点は抗体を産生する頃であり、ウイルス血症はほぼ終息し、既に周囲への感染性は殆どないといわれている。発疹は1週間前後で消失するが、一度消えた発疹が短期間のうちに日光や熱(入浴や運動など)により再出現することがある。成人では両頬の蝶形紅斑は少ない。非典型例の鑑別診断として風しんは重要である。
ヒトパルボウイルスB19感染症の典型的な臨床像が伝染性紅斑であり、基本的には予後良好であるが、他にも多彩な臨床像が知られる。関節痛・関節炎がみられることがあり、小児より成人、男性より女性に多く、数日から数カ月に及ぶ場合がある。また、妊婦が感染すると、ウイルスが胎児に垂直感染し、流産や死産、胎児水腫を起こすことがある。なお、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、ヒトパルボウイルスB19感染が確認された新生児でも妊娠分娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多い。さらに、生存児での先天異常は知られていない。その他、鎌状赤血球症などの溶血性貧血患者が感染した場合に貧血発作(aplastic crisis)を引き起こしたり、免疫不全者が感染すると、重症で慢性的な貧血を引き起こしたりする場合がある。
伝染性紅斑は、感染症発生動向調査では5類定点把握疾患に分類され、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて動向を収集・分析されている疾患である。伝染性紅斑は1982年よりその発生動向の調査が開始されている。報告数のピークが高く、比較的大きな流行となったのは、感染症法施行以前では1987年、1992年、1997年、同施行後においては2001年、2007年、2011年、2015年であり、ほぼ4〜6年ごとの周期で大きな流行を迎えていた。2018年は5月頃より増加を認め、同年12月から2019年1月にかけてピークを形成し、定点当たり報告数は2018年第49週では0.96、第51週では0.92、2019年第2週では1.00であった。2月からはやや減少したが、例年を上回る報告数で現在まで継続している。2019年第14週の伝染性紅斑の定点当たり報告数は0.56(報告数1,782例)となり、第14週としては過去10年間では、2011年の流行時(定点当たり報告数0.68、報告数2,114例)に次ぐ高値であった。また、2019年第1〜14週までの定点当たり累積報告数は8.87(累積報告数28,039例)であり、2009年以降の同期間では最多となっている。
2019年第14週の都道府県別の定点当たり報告数は、石川県(1.86)、福岡県(1.02)、青森県(0.98)、山形県(0.97)、富山県(0.97)、新潟県(0.95)、茨城県(0.92)の順となっている。2019年に入ってからの定点からの累積報告数を見ると、人口の多い関東地方〔埼玉県(2,307例)、千葉県(1,560例)、東京都(3,367例)、神奈川県(2,103例)〕からは計9,337例で全体(28,039例)の約3分の1を占める一方、宮城県(1,879例)、福岡県(1,545例)、新潟県(1,440例)、大阪府(1,220例)はいずれも1,000例を上回っており、流行レベルは地域によって異なるものの、全国から患者報告はみられる。
2019年第1週から第14週までの定点からの累積報告数における年齢群別割合をみると、5歳の18%を最多に3〜6歳までの各年齢でそれぞれ10%を超え、7歳以下で全報告数の約80%を占めているのは例年と同様であった。
2018年から2019年にかけての伝染性紅斑の流行は、2015年以来の流行と考えられる。2015年までは、伝染性紅斑の報告数は例年夏季に増加し、第26週前後でピークとなることが多かった。例年の傾向を勘案すると、今後さらに患者数が増加していく可能性もあり、全国的に注意が必要である。また、2018年より、伝染性紅斑との鑑別が必要な発熱・発疹性の疾患である風しんの流行や、輸入例に端を発する麻しんの集団発生が相次いでいる。これらはワクチン予防可能疾患であることから、定期接種対象者を中心とした、ワクチンを用いた感受性対策を行っておくことが重要である。
伝染性紅斑は多彩な臨床像を呈する疾患であり、冒頭で述べたように、不顕性感染も一定程度存在する。本症は発疹出現時期には殆ど感染力を消失しているが、反対にウイルス排泄時期には特徴的な症状を呈さず診断に至らないため、その対策は容易ではない。特に溶血性貧血を基礎疾患に持つもの、免疫不全のあるもの、そして妊婦に対して、本疾患の流行に関する情報を提供することが重要である。流行地域の家庭内で調子を崩している小児を妊婦がケアをする場合においては、手洗いの通常以上の徹底や、食器の共有をしないこと、本疾患が流行している保育園や学校などに対しては、流行が終息するまでの間、妊婦等は施設内に立ち入らないこと、などを考慮すべきである。2019年においても引き続き、全国の伝染性紅斑の発生動向には注意が必要である。
【参考文献】
国立感染症研究所 感染症疫学センター |