国立感染症研究所

 

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流行性角結膜炎患者からのヒトアデノウイルス新規リコンビナント株の検出―広島市

(IASR Vol. 45 p127-129: 2024年7月号)
 

本市において流行性角結膜炎と診断された患者から, ヒトアデノウイルス(HAdV)新規リコンビナント株が分離され, その解析を行ったので報告する。

感染症発生動向調査として採取された結膜ぬぐい液について, ウイルス分離および遺伝子解析を行った。ウイルス分離については, A549細胞において細胞変性が確認されたため, HAdV中和用抗血清(デンカ)を用いて中和試験を実施したところ, 8型と同定された。遺伝子解析については, 病原体検出マニュアル1)に従い, HAdVの主要な構造タンパクをコードするペントンベース(P), ヘキソン(H), ファイバー(F)の3領域についてダイレクトシーケンスにより部分配列を決定し, 参照株との相同性解析を実施したところ, に示す株と高い相同性を示した。各領域で最も高い相同性を示した型で病原体検出マニュアル記載のPHF表記を行うと, [P64H8F53]または[P64H8F85]となる。また, 各領域の系統樹解析の結果は図1のとおりであった。

HAdVのリコンビナント発生状況を取りまとめているHuman Adenovirus Working Groupのwebサイト(http://hadvwg.gmu.edu/)上では, 2024年4月5日現在, に示した型の組み合わせによるリコンビナントの報告はなく, 今回の分離株は新規リコンビナントであると考えられたため, 上記の3領域以外での組み換え状況の確認を目的として, 次世代シーケンサー(NGS)による全ゲノムシーケンスを行った。得られた全長配列を用いて, 分離株に対する各参照株の相同性を可視化するため, 図2に示すとおり, Simplot++2)による解析を実施したところ, ペントンベース領域の上流および下流についても64型と高い相同性を示した。これらの領域ではカプシドや核タンパク質の形成に関与するpⅢa, pⅦ, pⅤ, pⅩ, pⅥなどのタンパク質がコードされており3), ペントンベース領域と同様に組み換えが起こったと推察される。また, これらの領域およびヘキソン領域を除いてはHAdV-53型[P37H22F8]との相同性が高く, 今回分離された株はHAdV-53型由来のリコンビナント株であることが示唆された。

近年, 国内外で複数のHAdVリコンビナントが報告されており4,5), リコンビナント株がさらなる組み換えを起こしている状況にある。今後も新たな組み換えが多く発生すると予想され, 状況に応じてゲノム解析等を活用しながら, 引き続き検出状況について注視する必要があると考える。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎 検査・診断マニュアル(第3版)
  2. Samson S, et al., Bioinformatics 38: 3118-3120, 2022
  3. Russell WC, J Gen Virol 90: 1-20, 2009
  4. 廣瀬絵美ら, IASR 42: 78-79, 2021
  5. Akello JO, et al., Sci Rep 11: 24038, 2021
広島市衛生研究所生物科学部   
 山木戸 聡 宇野拓也 児森清香 川原康嗣 山本美和子     
広島市保健所環境衛生課     
 垰 朋実           
国立感染症研究所感染症危機管理研究センター   
 花岡 希

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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