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2018/19シーズンに愛知県で分離されたクレード3C.3aに分類されるAH3亜型インフルエンザウイルス

(IASR Vol. 41 p51-52: 2020年3月号)

2018/19シーズン(2018年第36週~2019年第35週)に, 全国地方衛生研究所で分離同定された後, 国立感染症研究所(感染研)に分与されたAH3亜型ウイルス株の遺伝子解析の結果, クレード3C.2a(L3I, N144S, F159Y, K160T, Q311H)に属する株が検出された。その一方で, 欧米や中東地域からは2018年11月~2019年6月にかけてクレード3C.3a(L3I, S91N, N144K, F193S)に属する株が検出されている1,2)。本稿では全国的に検出されなかった3C.3a株が愛知県において分離されたため, その詳細を報告する。

愛知県では2018年第42週~2019年第23週までにAH3亜型ウイルスが205株分離された。そのうち40株について遺伝子解析を行ったところ, 2019年第11週の3月12日~第14週の4月7日に採取された検体から3C.3a株が7株分離された(図1, )。同時期またはその前後に採取された検体からは3C.2a株が33株分離されていることから (図1), 3C.3a株の市中流行は一時的であったと推測された。

当所において分離された2018/19シーズンのAH3亜型インフルエンザウイルス40株のHA遺伝子系統樹解析 (近隣結合法) の結果を図2に示した。なお, 国外のAH3亜型インフルエンザウイルス株のHA遺伝子の配列情報はGlobal Initiative on Sharing All Influenza Data(GISAID)EpiFlu database(https://www.gisaid.org/)から入手した。33株の3C.2a株は3C.2a1b+131K群(3C.2a+E62G, K92R, N121K, T131K, H311Q)および3C.2a2に, 7株は3C.3aに分類された。当所で分離された3C.3a株の検体採取地域は県西部を除く県内の比較的広範囲に分布していた。また, 検体が採取された患者の渡航歴は不明であったこともあり, ウイルスの県内への侵入経路は不明だった。これらの3C.3a株は系統樹上で2つの小クラスターに分類され, 欧米で3~5月に採取された株と比較的近縁であった(図2)。このことから, 県内の複数地域に異なる経路で複数の株が侵入したと考えられた。

近年はHA活性が不十分なためHI試験が実施不可能であったAH3亜型分離株が増加しており, 2018/19シーズンにおいてもHI試験で亜型同定可能であった分離株は12%(25株)であった。しかし, 今回3C.3aに分類された7株すべてが1.0%モルモット赤血球を用いたHA試験において十分な活性を示し, HI試験が実施可能であった。感染研より配布された2018/19シーズンの同定試験用であるワクチン株(A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016:3C.2a1)に対する抗血清を用いたHI試験での3C.3a株のHI価と, それとほぼ同時期に採取された3C.2a株のHI価とで比較した。その結果3C.2a株ではホモ価と比べた抗血清との反応性の低下が8-32倍であったのに対し, 3C.3a株では8-256倍の低下を示した()。HA活性を十分に示さなかった分離株の中に3C.3a株が存在しないとは言い切れないが, HI活性を測定可能であった分離株において抗血清との反応性が大きく低下した株は表に示した3C.3a株以外には存在しなかった。

また, 感染研にて行われた中和試験において, 当所で同定した3C.3a分離株の1株であるA/Aichi/218/ 2019株は, 細胞分離株であるSingapore/INFIMH-16- 0019(3C.2a1)およびA/Kansas/14/2017(3C.3a)用抗血清に対して, それぞれ中和抗体価<20(ホモ価160)および20(同80)を示した(感染症発生動向調査: NESIDの病原体検出情報システムによる還元)。このことから, 当該株は3C.2a1株との抗原性の違いが示唆された。また, 欧米においても同様に3C.2a1bに属する流行株と3C.3aに属する流行株は抗原性が異なることが示されている1,3)。これらのことから, A/Aichi/ 218/2019株を含む当県分離の3C.3a株は国内流行株 (3C.2a1) と抗原性が異なっていると推測された。

2018/19シーズンの終盤以降, 3C.3a株は県内で確認されていない。その一方で, 欧米等の広い地域で確認されている。また, 2019/20シーズンのワクチン株が2018/19シーズンの国内流行株 (3C.2a1) と同じクレードに属するSingapore/INFIMH-16-0019(IVR-186)から3C.3aに属するA/Kansas/14/2017(X-327)に変更されていることもあり, 2019/20シーズン流行株の動向を注視していく必要があると考えられる。

 

参考文献
  1. Influenza virus characterisation, summary Eu-rope, June 2019-ECDC
  2. 岸田典子ら, IASR 40: 180-185, 2019
  3. A weekly Influenza surveillance report : 2018-2019 Influenza Season Week 13 ending March 30, 2019-CDC
    https://www.cdc.gov/flu/weekly/weeklyarchives2018-2019/Week13.htm
 
 
愛知県衛生研究所
 齋藤友睦 齋藤典子 皆川洋子
 伊藤 雅 安井善宏 松本昌門
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