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重症急性呼吸器感染症アウトブレイクと関連するアデノウイルスB種14p1型の日本で初めての探知と拡大への注意喚起

(速報掲載日 2025/2/26) (IASR Vol. 46 p63-64: 2025年3月号)
 
概 説

1975年以降, アデノウイルス(Ad)に関連する咽頭結膜熱や流行性角結膜炎等の発生動向と関連するAd型が記録されている。これまでAd-B種14型(Ad-B14)については1989年と1991年に東京都で各々1症例の記録(方法等詳細不明)はあったものの, 分離同定や詳細解析の報告はなかった。

Ad-B14は元来Ad-B種7型とは異なり重症急性呼吸器感染症(SARI)に関連することは稀であった1)。しかしながら2006年, 米国で発生したSARIの流行にAd-B種14p1型(Ad-B14p1)という新しい14型が関与していることが明らかとなり1,2), 以降Ad-B14p1はヨーロッパ各地3)や中国等へ拡大し, SARIの流行を引き起こし, 死亡例も報告されている4)

2023年6月, 福島県の眼科で流行性角結膜炎疑いの患者の結膜スワブからAd-B14p1が日本で初めて分離同定された5)図1, 図2)。さらに2024年5~7月にかけて, Ad病原体サーベイランスによって, B種に特徴的な眼や呼吸器等幅広い感染能を有するAd-B14p1が福島県以外の4つの自治体から報告された(図1)。完全長ゲノム配列を基にした系統樹解析では, 日本で同定された14型は明らかに標準株とは異なる14p1に属しており(図2), 急性脳症にも関連していることも報告された6)。また各地のAd-B14p1の違い(図2)から, 少しずつ配列が変化しながら全国的に拡散している可能性が示唆された。特に14p1型は閉鎖空間でのアウトブレイクと関連することが報告されているため注意が必要である2)。これまでの知見や我々のサーベイランス結果から, Ad-B14p1は急性の重症呼吸器感染症以外にも, 結膜炎や咽頭炎, また脳症などの重篤な疾患に関与する可能性が明らかとなった。2025年1月31日現在, Ad-B14p1は日本で5例分離同定されており, 2024年のAd病原体サーベイランスとしては, 約0.6%を占めていた(https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/510-graphs/1532-iasrgv.html)。

推測されるAd-B14p1探知背景とAdレファレンスにおける重要性と対応方法

日本ではこれまでAd-B種3型(Ad-B3)が最も検出, 流行しているAd型であった7)。2020~2022年での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下では, 多くの感染症と同様に咽頭結膜熱や流行性角結膜炎等でも定点当たりの報告数が激減した。一方, 2023年には, 流行性角結膜炎患者数の再増加や咽頭結膜熱患者等のこれまでにない急増を認めた。地方衛生研究所(地衛研)等での解析の結果, 患者急増等に関与する主なAdはAd-B3であった7)。このようなCOVID-19流行前後での, Ad-B3の検出減少-再流行の傾向は世界でも報告されている8,9)。一方で, 本報告はCOVID-19流行前後での継続的なAd病原体サーベイランスによって14p1型を探知し, あわせて5例まとめて報告するものである。

これまで国内で分離報告のない型の複数地域での同定であるため, 流行状況の変化に注意が必要であるが, 地衛研等での検査方法は現状の感染研マニュアル法(https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/AdenoVirus_PCF_EKC20250202.pdf)で対応が可能である。

Ad-B14p1は世界的にもSARIによるアウトブレイク発生に関連することで動向が注目されている型であり, また一般的にAdは院内でアウトブレイクを引き起こすリスクが知られている10)。そのため医療機関等へ迅速に情報を伝える必要もあり, 医療機関-保健所-地衛研等が連携し, 病原体検査の積極的な実施が求められる。

本報告が, 日々実施されているAd病原体サーベイランスへの情報提供と型の判別の重要性に対する認識向上につながることを期待する。

 

参考文献
  1. CDC, MMWR 56: 1181-1184, 2007
  2. Kajon AE, et al., J Infect Dis 202: 93-103, 2010, doi: 10.1086/653083
  3. Carr MJ, et al., Emerg Infect Dis 17: 1402-1408, 2011, doi: 10.3201/eid1708.101760
  4. Huang G, et al., Influenza Other Respir Viruses 7: 1048-1054, 2013, doi: 10.1111/irv.12118
  5. Hanaoka N, et al., J Med Virol 97: e70265, 2025, doi: 10.1002/jmv.70265
  6. Mizuno S, et al., Emerg Infect Dis 31: 377-379, 2025, doi: 10.3201/eid3102.241168
  7. Koyama M, et al., Jpn J Infect Dis 77: 292-295, 2024, doi: 10.7883/yoken.JJID.2024.035
  8. Abdullah O, et al., J Clin Microbiol 62: e0123723, 2024, doi: 10.1128/jcm.01237-23
  9. Giardina FAM, et al., J Infect Chemother 30: 1097-1103, 2024, doi: 10.1016/j.jiac.2024.07.017
  10. Sakata H, et al., J Hosp Infect 39: 207-211, 1998, doi: 10.1016/s0195-6701(98)90259-6
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