注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆咽頭結膜熱
咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever)は発熱、咽頭発赤、結膜充血などの症状・所見を伴う、小児に多い急性ウイルス性感染症である。5月頃から徐々に増加しはじめ、6~7月にピークを形成する夏期に多い感染症であるが、一年を通して感染する恐れがある。咽頭結膜熱はアデノウイルスが原因病原体であり、流行を起こすのは多くが3型であるが、2型、4型、7型、11型なども本症を起こす。潜伏期間は5~7日で、発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎が3主症状である。まれに肺炎など重症化する場合がある。感染症法に基づく医師の届出においては、発熱、咽頭発赤、結膜充血の3つの臨床症状を全て満たす必要がある。感染経路は、接触感染、飛沫感染、経口(糞口)感染である。特異的治療法はなく、対症療法が中心となる。また、感染対策を検討するうえで、アデノウイルスがアルコールに対して抵抗性を示すことにも留意が必要である。
咽頭結膜熱は、感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告されている。2023年は、例年、患者報告数が減少する第33週(2023年8月14~20日)頃から増加に転じ、第42週(2023年10月16~22日)は過去10年の定点当たり報告数の中で最も多い報告数(定点当たり報告数2.16)となっている(以下、報告数等は集計時点暫定値)。年齢群別にみた2019年第1週(2018年12月31日~2019年1月6日)~第42週(2019年10月14~20日)の累積報告数との比較では、特に2歳から8歳までの小児において増加がみられる(表1)。2023年第1〜42週の男女別累積報告数は、男性が42,888例(54.5%)、女性が35,798例(45.5%)であり、男性に多かった。更に、2023年第1〜42週の定点当たり累積報告数を都道府県別にみると、福岡県で最も多く(定点当たり報告数64.88)、2019年第1~42週との比較では、福岡県のほか関西地域において顕著な増加がみられる(表2)。
病原体検出情報(IASR)速報では、2023年の第1〜42週に咽頭結膜熱と診断された患者から検出されたアデノウイルス(総検出報告数105:2023年10月30日現在)は、アデノウイルス2型34.3%(検出報告数36)、3型28.6%(検出報告数30)、1型18.1%(検出報告数19)の順となっている。第1〜26週(2023年6月26日~7月2日)は、2型および1型が大半の割合を占めていたが(1型28.8%、2型49.2%、計78.0%) 、第27〜42週においては3型の割合が多い(65.2%)。
小児の集団生活の中では感染が拡大しやすいことから、保育施設などでは、職員を含め体調不良者は出勤・登園を控えることや、流水・石鹸による手洗いや手指消毒の励行、タオルを共有しないこと、手すりやドアノブ、おもちゃなど多くの人が接触する場所や物の消毒、排泄物の適切な処理等が感染予防策として大切である。
咽頭結膜熱の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●IASR アデノウイルス感染症 2008~2020年
https://www.niid.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/adeno-pfc-iasrtpc/10290-494t.html
●咽頭結膜熱とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)過去10年間との比較グラフ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html
●IASR アデノウイルス
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html
●厚生労働省 咽頭結膜熱について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/01.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター