国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.34 No.9(No.403)

HIV/AIDS 2012年

(IASR Vol. 34 p. 251-252: 2013年9月号)

 

わが国では、エイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年~1999年3月はエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき、診断した医師の全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集で記載するHIV感染者数*とAIDS患者数**は、厚生労働省エイズ動向委員会による平成24年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省疾病対策課より公表されている[http://api-net.jfap.or.jp/status/2012/12nenpo/nenpo_menu.htm])。

2007年以降、毎年、HIV感染者数とAIDS患者数を合わせた新規報告件数は1,500件前後で推移しており、累積報告件数は2012年には2万件を超えた(図1)。世界に目を向けると、2012年のUNAIDS(http://www.unaids.org/en/)の発表では、HIV感染者数は約3,400万、毎年約 250万人の方が新たに感染し、年間約170万人の方がエイズ関連で亡くなっていると推定されている。

そこで本特集では、以下に平成24年エイズ発生動向年報に基づく本邦のHIV感染動向を記載するとともに、特集関連記事(本号3~12ページ)において、国内のHIV診断検査、長期抗HIV薬治療下の非致死的病態、HIVの進化および予防ワクチンに関する最近の知見を紹介する。

1.1985~2012年のHIV/AIDS報告数の推移:2012年に新たに報告されたHIV感染者は1,002件(男性 954件、女性 48件)で、2008年(1,126件)をピークとして、2007年以降、年間 1,000件程度で推移している(図2)。AIDS患者は 447件(男性 418件、女性 29件)で、過去3位の報告数であった。1985~2012年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は、HIV感染者14,706件(男性12,518件、女性 2,188件)、 AIDS患者 6,719件(男性 6,022件、女性 697件)で、2012年10月1日人口10万対累積HIV感染者は11.507、同AIDS患者は 5.258となった。なお、この他に、「血液凝固異常症全国調査」(2012年5月31日現在)において血液凝固因子製剤によるHIV感染者が累計で1,439件(2008~2011年と同数:死亡者 682件を含む)報告されている。

国籍・性別:2012年は、全HIV感染者のうち日本国籍男性が89%(889/1,002)(2011年 923/1,056)、全AIDS患者のうち日本国籍男性が87%(387/447)を占めた。

感染経路・年齢群別:2012年の日本国籍男性HIV感染者においては、同性間の性的接触によるものが77%(683/889)と最も多くを占める状況にかわりはなく(図3参考)、20~40代が多くを占めた(図4)。日本国籍女性HIV感染者の感染経路は84%(26/31)が異性間性的接触であった。母子感染の報告はなかった。なお、静脈薬物使用によるものは、HIV感染者・AIDS患者あわせて8件(日本国籍者7件、外国国籍者1件)(2011年5件)で、これ以外に静脈薬物使用と他の感染経路との重複として「その他」の感染経路として分類されているものが17件(2011年7件)であった。

推定感染地域:感染地は、1994年までは海外感染が主であったが、それ以降は国内感染が大部分である。2012年においても、HIV 感染者の推定感染地域は、国内感染が全HIV感染者の86%(864/1,002)で、日本国籍例では90%(829/920)を占めていた。

報告地(医師により届出のあった地):報告地の地域別では、HIV感染者・AIDS患者ともに、関東・甲信越、近畿、東海地域の件数が多くを占めた(表1)。 

2.献血者のHIV 抗体陽性率:2012年には、献血件数 5,271,103中68件(男性62件、女性6件)の陽性者がみられ、献血10万件当たり 1.290(男 1.701、女 0.369)で2011年(1.695)を下回った(図5)。

3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は、2012年には131,235件(2011年 131,243件)で、2008年をピークとしてほぼ横ばいであった(図6)。陽性件数は 469件(2011年 453件)、陽性率は0.36%(2011年0.35%)であった。このうち保健所での検査陽性率は0.29%(294/102,512)であるのに対し、自治体が実施する保健所以外での検査陽性率は0.61%(175/28,723)と、昨年までと同様に利便性の高い保健所以外での検査の陽性率が高かった。また、2012年の相談件数は153,583 件(2011年163,006件)と、4年連続で減少した。

まとめ:本邦では、2007年以降、HIV感染者数とAIDS患者数を合わせた年間の新規報告件数は1,500件前後で推移しており、2012年には累積報告件数が2万件を超えた。新たな報告件数の30%あまりがAIDSと診断されてHIV感染が判明したものであることは、報告件数以上のHIV感染者の存在を意味しており、HIV感染の早期診断に至っていないことを示している。また、自治体が実施しているHIV検査件数も、2008年をピークとして減少した後、横ばいとなっている。

国および各自治体においては、感染者・患者発生の特徴を把握し、予防や早期発見の啓発とそれを推進する効果的な対策を立案・実施し、感染拡大の抑制・早期治療の促進を図る必要がある。対策が重要な男性同性愛者、青少年、性風俗産業従事者およびその利用者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供(本号ページ)、受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお、対策を講ずる際には、人権への配慮や、必要な関係者(企業、NGO、医療関係者、教育関係者等)と協力して実行することが重要である。

本邦のHIV感染症克服に向けては、グローバルなHIV感染拡大抑制に結びつく取り組みに加え、国内の感染動向の把握、予防啓発、早期診断・治療に向けた取り組みが必要となる。一方、HIV感染者においては、抗HIV薬治療の導入によりAIDS発症抑制が可能となったが、治癒にはいたらず長期の抗HIV薬治療継続が必要であり、薬剤耐性株出現を含め、長期服薬に伴う諸問題が生じている。特に近年、抗HIV薬治療下のHIV潜伏感染に伴う様々な非致死的病態が問題となってきている。今後は、このような長期治療のもたらす新たな問題に対処していくことが重要となる。

* HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い後天性免疫不全症候群と診断されたもののうち、AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの

**AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められ、AIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSと診断された場合は除く)
 

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