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The topic of This Month Vol.36 No.9(No.427)

HIV/AIDS 2014年

(IASR Vol. 36 p. 165-p. 166: 2015年9月号)

わが国は、1984年にエイズ発生動向調査を開始し、1989年~1999年3月はエイズ予防法、1999年4月からは感染症法の下に施行してきた。診断した医師には全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集の統計は、厚生労働省エイズ動向委員会:平成26年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省より公表されている; http://api-net.jfap.or.jp/status/2014/14nenpo/14nenpo_menu.html)。
 
届出患者は、HIV 感染者とAIDS患者に分類される(その定義は脚注*の通り)。2007年以降、毎年、HIV感染者とAIDS患者を合わせ1,500件前後報告されており、2014年現在の累積報告件数は2.4万件を超えた(図1)。世界中では、約3,500万のHIV感染者/AIDS患者がおり、年間、約210万人の新規感染者、約150万人の死者が出ていると推定されている(UNAIDS 2014; http://www.unaids.org/en/)。
 
1.1985~2014年のHIV/AIDS報告数の推移:2014年に新規に報告されたHIV感染者数は1,091(男性1,041、女性50)、AIDS患者数は455(男性435、女性20)で、HIV感染者数は過去3位(2007年以降、年間1,002~1,126)、AIDS患者数は過去4位(2007年以降、年間418~484)であった(図2)。1985~2014年の全報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は、HIV感染者16,903(男性14,619、女性2,284)、AIDS患者7,658(男性6,923、女性735)であった。なお、「血液凝固異常症全国調査」(2014年5月31日現在)によると血液凝固因子製剤によるHIV感染者は累積1,439(死亡者700)である。
 
国籍・性別:2014年は、HIV感染者1,091中、日本国籍者は994 (男性959、女性35)、外国国籍者は97 (男性82、女性15)であった。日本国籍男性はHIV感染者の88% (959/1,091)、AIDS患者の90%(409/455)を占めた。
 
HIV感染者の感染経路・年齢群別: 男性同性間性的接触**による感染が大多数を占め〔全体の72%(789/1,091)、日本国籍男性HIV感染者の77%(736/959)〕(図3参考)、その大多数は20~40代であった(図4)。日本国籍女性HIV感染者の91%(32/35)が異性間性的接触であった。母子感染の報告は2013年と同じく1件であった。静注薬物使用によるものは、HIV感染者・AIDS患者あわせて7件(すべて日本国籍者)(2013年は5件)、その他(同性間感染と薬物使用、輸血関連)が35件あった。年代別人口で10万対の発生数を比較すると、ほとんどの年代で罹患率が上昇傾向にあり、特に25~29歳で顕著であった。
 
HIV感染者の推定感染地域:1992年までは海外での感染が主であったが、それ以降は国内感染が大部分である。2014年でも、HIV感染者の推定感染地域は、国内感染が全HIV感染者の87%(951/1,091)、日本国籍者の91%(901/994)であった。
 
報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者581、AIDS患者203)、近畿(HIV感染者206、AIDS患者82)に多い。2014年には、近年増加傾向がみられる九州の件数(HIV感染者109、AIDS患者58)が、初めて東海を上回り、近畿に次ぐ報告数となった。特に沖縄県では、人口10万対でのHIV感染者件数が47都道府県中3位、AIDS患者件数が1位であった(表1)。
 
2.献血者のHIV抗体陽性率:2014年には、献血件数4,999,127中62件(男性59件、女性3件)の陽性者がみられ、献血10万件当たり1.240(男性1.681、女性0.202)であった(図5)。
 
3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は、2014年には145,048件で、前年(136,400件)よりやや増加した(図6)。陽性件数は490 (2013年453)、陽性率は0.34%(2013年0.33%)であった。うち保健所での検査陽性率は0.27%(298/111,743)、自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は0.58%(192/33,305)で、後者での検査の陽性率が高かった。また、2014年の相談件数は150,993件で前年(145,401件)より増加した。
 
まとめ:2014年のHIV感染者数とAIDS患者数を合わせた年間新規報告件数は1,546(2013年1,590)で過去3位であった。特にAIDS患者数はいまだ減少なく、2014年の報告件数の約30%がAIDS発症によりHIV感染が判明していることから、自身の感染を知らないHIV感染者の存在が示唆される。HIV感染の早期診断のために、国および各自治体レベルで、感染者・患者発生の特徴(特に20代のHIV罹患率の高さと60歳以上のAIDS患者数の増加)を把握し、予防や早期発見の啓発とそれを推進する効果的な対策を立案・実施し、感染拡大の抑制・早期治療の促進を図ることが重要である。対策が重要な男性同性愛者、青少年、性風俗産業従事者およびその利用者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供、受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお、対策を講ずる際には、人権への配慮や、必要な関係者(医療関係者、教育関係者、企業、NGO等)と協力して実行することが重要である。
 
本邦のHIV感染症克服に向けては、グローバルなHIV感染拡大抑制に結びつく取り組みに加え、国内の感染動向の把握、予防啓発、早期診断・治療に向けた取り組みが必要となる。抗HIV薬治療の導入はAIDS発症抑制を可能にしたが、治癒は現状では望めない。長期投薬継続が必要となり、薬剤耐性株出現や、抗HIV薬治療下のウイルス複製抑制状態における神経認知障害、骨粗鬆症、心血管障害等の促進や悪性腫瘍の発生が問題となってきている。
 
* HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い「後天性免疫不全症候群」と診断されたもののうち、AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの
AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSを発症した場合は含まれない)
**両性間性的接触を含む

 

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