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HIV/AIDS 2017年

(IASR Vol. 39 p149-150: 2018年9月号)

わが国は, 1984年にエイズ発生動向調査を開始し, 1989年~1999年3月はエイズ予防法, 1999年4月からは感染症法の下に施行してきた。診断した医師には全数届出が義務付けられている (届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html)。本特集の統計は, 厚生労働省エイズ動向委員会:平成29年エイズ発生動向年報に基づいている (同年報は厚生労働省健康局結核感染症課より公表予定である;http://api-net.jfap.or.jp/status/index.html)。

届出患者は, HIV感染者とAIDS患者に分類される(定義は脚注の通り)。1985~2017年の累積報告数(血液凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者19,896(男性17,470, 女性2,426), AIDS患者8,936(男性8,122, 女性814)である(図1)。なお, 「血液凝固異常症全国調査」(2017年5月31日現在)によると血液凝固因子製剤によるHIV感染者は累積1,432(死亡者710)である。2017年, 世界中で約3,690万人のHIV感染者/AIDS患者がおり, 年間約180万人の新規感染者, 約94万人の死者が出ていると推定されている(UNAIDS FACT SHEET JULY 2018; http://www.unaids.org/sites/default/files/media_asset/UNAIDS_FactSheet_en.pdf)。

1.本邦の2017年のHIV/AIDS報告数

2007年以降, 毎年, HIV感染者とAIDS患者合わせて1,500件前後報告されてきたが(2007年以降の年間報告数はHIV感染者1,002~1,126, AIDS患者418~484), 2017年の新規報告数は, HIV感染者976(男性938, 女性38), AIDS患者413(男性375, 女性38)であった(図2)。HIV感染者976中, 日本国籍者は824(男性802, 女性22), 外国国籍者は152(男性136, 女性16)で, 日本国籍男性がHIV感染者の82%(802/976)を占めているものの, 外国国籍男性は3年連続で増加し, 過去最高であった(2014年82, 2015年88, 2016年108, 2017年136)。HIV感染者の中では, 男性同性間性的接触(両性間性的接触を含む)による感染が全体の73%(709/976)〔日本国籍男性HIV感染者の中での同性間性的接触の割合は78%(624/802)〕で(図3), その大多数は20~40代であった(図4)。これに対し男性異性間性的接触による感染は全体の13%(126/976), 日本国籍男性HIV感染者の中での異性間性的接触の割合は13%(108/802)であった。日本国籍女性HIV感染者22のうち, 異性間性的接触が12, 母子感染が1, その他不明が9であった。日本国籍男性の静注薬物使用は, 2001年以降2013年を除き毎年1~5件報告されていたが, 2017年は0件であった。

HIV感染者の推定感染地域:1992年までは海外での感染が主であったが, それ以降は国内感染が大部分である。2017年のHIV感染者の推定感染地域は, 国内感染が全HIV感染者の80%(781/976), 日本国籍者の88%(723/824) であった。

報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者528, AIDS患者170), 近畿(HIV感染者174, AIDS患者81)に多い。人口10万対では, HIV感染者およびAIDS患者報告数上位10位に九州, 四国の県が含まれる()。

2.献血者のHIV抗体陽性率

2017年には, 献血件数4,775,648中43件(男性42件, 女性1件)の陽性者がみられ, 献血10万件当たり0.900(男性1.213, 女性0.076)であった(図5)。

3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談

自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は, 2017年には123,432件で, 前年(118,005件)より増加した(図6)。陽性件数は463(2016年422), 陽性率は0.38%(2016年0.36%)であった。うち保健所での検査陽性率は0.31%(283/92,022), 自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は0.57%(180/31,410)で, 後者での検査の陽性率が高かった。また, 2017年の相談件数は123,768件で前年(119,378件)より増加した。

まとめ:2017年のHIV感染者数とAIDS患者数を合わせた年間新規報告数は1,389(2016年1,448)であった。2017年の報告数の約30%がAIDS発症によりHIV感染が判明していることから, 自身の感染を知らないHIV感染者の存在が示唆される。エイズ予防指針に基づき, HIV感染の予防や早期発見の啓発と, それを推進するケアカスケードをふまえた効果的な対策を立案・実施し, 感染拡大の抑制・早期治療の促進を図ることが重要である。対策が重要な男性同性愛者, 青少年, 性風俗産業従事者およびその利用者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供, 受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお, 対策を講ずる際には, 人権への配慮や, 必要な関係者(医療関係者, NGO, 教育関係者等)と協力して実行することが重要である。

本邦のHIV感染症克服に向けては, グローバルなHIV感染拡大抑制に結びつく取り組みに加え, 国内の感染動向の把握, 予防啓発, 早期診断・治療に向けた取り組みが必要となる。抗HIV薬治療の導入はAIDS発症抑制を可能にしたが, ウイルスの完全な排除は現状では望めない。長期投薬継続が必要となり, 薬剤耐性株出現や, 抗HIV薬治療下のウイルス複製抑制状態における神経認知障害, 骨粗鬆症, 心血管障害等の進行が問題となってきている。

 

*HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い「後天性免疫不全症候群」と診断されたもののうち, AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの

*AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSと診断された場合には含まれない)

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