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国立感染症研究所 感染症疫学センター
2019月9月11日現在
(掲載日:2019年10月16日)

わが国のHIV/AIDSサーベイランスは1984年9月にエイズ発生動向調査として開始され, 1989年2月~1999年3月はエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき実施されている。感染症法に基づく感染症発生動向調査においては、「後天性免疫不全症候群」として5類感染症全数把握対象疾患に指定されており、HIV感染者(AIDS指標疾患を発症していない症例を含む)を診断した場合には保健所への届出が義務づけられている1)。2019年1月からは、HIV感染症における正確な病態の把握や全HIV感染者数の推定に資する情報として、診断時CD4値が報告されるようになった。診断時CD4値報告の状況を中心に、2019年第1~36週のHIV/AIDSの届出状況について報告する。

2019年第36週までの累積報告数813例は、2015〜2019年の各年同週までの累積報告数と比較すると、最も少ない報告数であった(2015年965例、2016年979例、2017年961例、2018年896例)。また、AIDS患者(初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断された症例)に限定した2019年第36週までの累積報告数は219例であり、同じく2015〜2019年で最も少ない報告数であった(2015年300例、2016年299例、2017年270例、2018年264例)。性別では、男性が770例(94.7%)、女性が43例(5.3%)で、年齢中央値は37歳(範囲2〜78)であった〔男性:37歳(2〜78)、女性:37歳(16〜58)〕。第1〜36週の累積報告数を都道府県別にみると、東京都(268例)が最も多く、次いで大阪府(82例)、愛知県(63例)、神奈川県(49例)、福岡県(46例)、埼玉県(31例)、千葉県(30例)、北海道(29例)、兵庫県(20例)、京都府(14例)の順で上位10位を占めた。推定感染経路別では、同性間性的接触(男性)が553例(68.0%)で最も多く、異性間性的接触126例(15.5%)(男性96例、女性30例)、静注薬物使用3例(いずれも日本国籍男性)(0.4%)、母子感染2例(いずれも日本国籍男性)(0.2%)、その他(輸血などに伴う感染例、推定される感染経路が複数ある例を含む)38例(4.7%)、不明91例(11.2%)であった(以上、暫定値)。

2019年9月11日時点では、第1〜36週に診断、届出された813症例のうち、CD4値が記入されていた届出は425例(52.3%)であった。CD4値記入割合を届出機関別にみると、エイズ治療拠点病院からの届出では67.0%(352/525例)、エイズ治療拠点病院以外の病院・診療所からの届出では32.9%(69/210例)、保健所等からの届出では5.1%(4/78例)であった。CD4値記入割合を病型別にみると、AIDS患者においては65.8%(144/219例)、AIDS指標疾患を発症していない有症状者においては54.2%(45/83例)、無症候性キャリアにおいては46.2%(236/511例)であった。

CD4値が記入されていた425症例におけるCD4値(/μL)の分布は、500以上が59例(13.9%)、350以上500未満が44例(10.4%)、200以上350未満が100例(23.5%)、200未満が222例(52.2%)であった。病型別には、AIDS患者、AIDS指標疾患を発症していない有症状患者、無症候性キャリアの順に、CD4値が低値に分布する傾向がみられた(図)。ただし、CD4値の記載があった届出は全体の5割強であり、報告バイアスの可能性に注意が必要である。前述のように、病型によってもCD4値の記入割合に偏りが見られている。

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図. CD4値記入症例におけるCD4値の分布(2019年9月11日時点)

UNAIDS及びWHOが提唱するケアカスケードに基づく90-90-90(診断割合、治療割合、治療の成功割合のいずれも90%以上)達成に向けて、国内においてもこれらの情報の把握が必要である。HIV/AIDSサーベイランスにおいて診断時CD4値のデータを蓄積していくことは、未診断者を含めた累積HIV感染者数の推計や、国内のHIV感染者における病態の把握において重要な意義があり、より正確な感染者数推計及び病態把握のためには、CD4値の記入割合の改善が求められる。CD4値の感染症発生動向調査への報告は2019年に開始されたばかりであることから、届出の約65%を占めるエイズ治療拠点病院を中心に、診断時CD4値が届出票に追加されたことに関するさらなる周知が必要と考えられる。また、CD4値を測定しない医療機関や保健所からの届出においては、紹介先医療機関等で測定されたCD4値を取得出来た場合には追加報告を行う等、CD4値記入割合の改善に向けた取り組みを検討することは重要であると考えられる。

 

参考文献

  1. 厚生労働省 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html

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