黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は, ヒトや動物の皮膚, 粘膜等の体表面に常在するグラム陽性球菌である。健常人の20-30%が保菌者であるといわれている。本菌は化膿症や膿痂疹などの皮膚軟部組織感染症(SSTI), さらには菌血症や毒素性ショック症候群(TSS)など様々な感染症を引き起こすが, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)感染症で多いのは肺炎, 菌血症や手術関連感染症である。黄色ブドウ球菌の多様な病原性の理由の1つは, 多種多様な毒素や病原性関連因子を産生することである(本号3ページ)。
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疥癬は, ヒト皮膚角質層に寄生したヒゼンダニが, ヒトからヒトへ感染することで広がる疾患である1,2)。疥癬は診断や治療が確立されているものの, 現在でも高齢者施設等での集団発生事例が散発しており, 対応に苦慮する事例も多い。今回, 都内の保健所が管内高齢者福祉施設で長期に及ぶ疥癬集団発生事例を経験したので, その疫学調査について報告する。
レプトスピラ症(leptospirosis)は, レプトスピラ属細菌(Leptospira spp.)によって引き起こされる人獣共通の細菌感染症である1)。レプトスピラはげっ歯類を中心とした動物の腎尿細管に定着しており, 尿とともに排出される。ヒトは保菌動物の尿により汚染された水や土壌から経皮的あるいは経粘膜的に感染する2)。
ヒトアストロウイルス(human astrovirus: HAstV)は, 主に乳幼児において感染性胃腸炎を引き起こす公衆衛生上重要なウイルスであり, 遺伝子型により, classic HAstVはHAstV 1~8の8種類, MLB HAstVはMLB 1~3の3種類, およびVA HAstVはVA 1~5の5種類に分類される1)。我々はこれまでに, 2015~2016年にかけて福岡県の終末処理場の流入水中からclassic HAstV, MLB HAstV, VA HAstVを検出したことから, 福岡県においてこれらのヒトアストロウイルスが流行していると推察している2)。一方, 当所において臨床検体を対象として実施するヒトアストロウイルス検出方法では, classic HAstVのみを検出するMon269/270プライマー3)を用いており, MLB HAstVとVA HAstVは検出できない。そこで今回, SF0073/SF0076プライマー4)を臨床検体に適用し, 流行状況の把握を試みたので報告する。
ヒトパレコウイルス(パレコウイルスA: PeV-A)はピコルナウイルス科に分類され, エンテロウイルスと近縁のウイルスである。その中でもヒトパレコウイルス3型(パレコウイルスA3: PeV-A3)は新生児や生後4か月未満の乳児において髄膜炎や脳炎, 敗血症を引き起こし, 腹部膨満や網状チアノーゼ, 発疹, 手足の紅潮を呈し, 敗血症においては自発呼吸喪失といった症状をともなうことがある。また生後4か月以降の小児や成人では, 軽症の胃腸炎や呼吸器感染症, 流行性筋痛症や筋炎が特徴的な臨床像である1)。