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真菌症 2023年12月現在

(IASR Vol. 45 p15-16: 2024年2月号)
 
真菌症の分類

真菌症は病原真菌が引き起こす感染症の総称で, 病変の局在によって, 表皮・粘膜面に病変が限局する表在性真菌症と, 1つまたは複数の臓器病変, あるいは, 播種性病変を形成する深在性真菌症の2つに大別される。前者には口腔カンジダ症, カンジダ腟炎, カンジダ皮膚炎などが含まれ, 罹患者数は多いが一般的に重症度は低い。一方で後者は主として免疫不全患者に生じ, 頻度は低いものの, 重篤な病態を引き起こすことが多い。他にも真菌が原因となる病態としては, アスペルギルス属等によるアレルギー性疾患(気管支喘息・副鼻腔炎)や, アフラトキシン等のマイコトキシンによる中毒が挙げられ, これらも広い意味で真菌症に含まれる。

 

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奈良県におけるバロキサビル耐性変異インフルエンザウイルスのcommunity cluster

(IASR Vol. 45 p31-32: 2024年2月号)
 

抗インフルエンザ薬バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ, 以下バロキサビル)はキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤で, 2018年に日本国内で承認された。国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センターと全国地方衛生研究所は共同で, 2017/18シーズンから国内におけるバロキサビル耐性ウイルスの発生動向を監視している。

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国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター第一室

 

全国地方衛生研究所

 日本は世界最大の抗インフルエンザ薬使用国であり、薬剤耐性株の検出状況を迅速に把握し、自治体および医療機関に情報提供することは公衆衛生上重要である。そこで全国地方衛生研究所と国立感染症研究所では、ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル)、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルマルボキシル(商品名ゾフルーザ)ならびにM2阻害薬のアマンタジン(商品名シンメトレル)に対する薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

 

 

 薬剤耐性株サーベイランスは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく施策として位置づけられた感染症発生動向調査事業として実施されており、検体の収集については感染症発生動向調査事業実施要綱に規定されている。

すなわち、都道府県が関係医師会等の協力を得て選定した病原体定点医療機関において、インフルエンザ あるいはインフルエンザ 様疾患患者から検体が採取され、インフルエンザの流行期には少なくとも週1検体、非流行期には少なくとも月1検体が地方衛生研究所に送付される。

各地方衛生研究所において検体から分離されたウイルス株は国の感染症サーベイランスシステムに登録され、登録株の約10〜15%がコンピューターで無作為抽出された後、国立感染症研究所に送付される。

国立感染症研究所では、原則として送付されたすべてのウイルス株について解析を行い、国内外に向けて随時結果を報告している。

 

 

 下記の表に、遺伝子解析により薬剤耐性マーカーを検出した結果ならびに薬剤感受性試験を行った結果の集計を示す。集計結果は随時更新される。

ノイラミニダーゼ阻害薬については、世界保健機関(WHO)の基準に準じ、薬剤感受性試験においてA型ウイルスでは100倍以上、B型ウイルスでは50倍以上の感受性低下が確認された場合に耐性ウイルスと判定する。

キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬については、WHOの暫定基準に準じ、薬剤感受性試験において3倍以上の感受性低下が確認された場合に感受性低下ウイルスと判定し、合わせて薬剤耐性マーカーの検出結果を示す。

M2阻害薬については、薬剤耐性マーカーの検出結果を示す。

 
 

2023/2024シーズン  (データ更新日:2024年2月20日)NEW

  dr23 24j20240220 1s
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
   2022/2023シーズン  (データ更新日:2024年2月20日)NEW
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
  2021/2022シーズン  (データ更新日:2023年2月2日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
  2020/2021シーズン  (データ更新日:2021年07月27日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
  2019/2020シーズン  (データ更新日:2021年08月18日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
  2018/2019シーズン  (データ更新日:2019年12月27日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
  2017/2018シーズン  (データ更新日:2019年09月24日) 
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.ノイラミニダーゼ阻害薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
  表5.エンドヌクレアーゼ阻害薬耐性変異株検出情報 報告機関別
   
  2016/2017シーズン  (データ更新日:2020年01月27日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2015/2016シーズン  (データ更新日:2020年01月27日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2014/2015シーズン  (データ更新日:2016年03月04日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2013/2014シーズン  (データ更新日:2015年04月23日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2012/2013シーズン  (データ更新日:2014年3月10日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2011/2012シーズン  (データ更新日:2013年4月11日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2010/2011シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
  表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
   
  2009/2010シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
  表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
  表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
  表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別

 

 

 

 

日本の輸入感染症例の動向について

Trends in Notification of Imported Cases among 
Select Notifiable Infectious Diseases in Japan

 

国立感染症研究所 実地疫学研究センター・感染症疫学センター

 更新日:2024年2月20日

 

■目的

感染症発生動向調査により収集されている日本の輸入感染症例のデータを、渡航者のリスク評価のために、適時に還元することが目的です。ただし、適時の情報還元と共有を目的としているため、数値についてはシステムからデータを取り出した時点の情報であり更新される可能性があります。

渡航国別の輸入感染症報告数は、渡航先の感染症の流行の程度や、渡航者数等により影響を受けます。渡航者数の変動の影響を考慮する場合は、渡航国別の日本人渡航者数(日本政府観光局(JNTO). http://www.jnto.go.jp/jpn/reference/tourism_data/visitor_trends/index.html等の情報源を参照)を分母代替データとして、ご活用ください。

世界の感染症流行状況については、厚生労働省検疫所FORTH(http://www.forth.go.jp/)、外務省. 海外安全ホームページ(http://www.anzen.mofa.go.jp/)、WHOのウエブサイト(http://www.who.int/en/)等において取りまとめられていますので、そちらも合わせて参照してください。

本ウェブページにおいては、急性の発症経過で、例年一定数以上の報告があり、報告例の中で輸入例の割合が比較的高い、以下の15疾患につき取り上げました。尚、流行曲線は最大月別報告数が5例以上の場合のみ作成し、直近12か月における推定感染地として多い上位4か国とその他の国を積み上げました。

アメーバ赤痢 Amebiasis 

E型肝炎 Hepatitis E  

A型肝炎 Hepatitis A    

クリプトスポリジウム症 Cryptosporidiosis 

細菌性赤痢 Shigellosis     

ジアルジア症 Giardiasis 

ジカウイルス感染症 Zika virus infection  

チクングニア熱 Chikungunya fever

腸チフス Typhoid fever

デング熱 Dengue fever

パラチフス Paratyphoid fever

風疹 Rubella 

麻疹 Measles  

マラリア Malaria 

レプトスピラ症 Leptospirosis 

 

尚、デング熱については、以下のページで定期的に輸入例の動向が更新されますのでご参照ください。

デング熱:https://www.niid.go.jp/niid/ja/dengue-imported.html

 

国立感染症研究所

2024年2月16日時点
PDF

背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2024年1月24日現在、SARS-CoV-2の変異株は、EG.5.1系統などのXBB系統(BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体)の亜系統から、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統とその亜系統への置き換わりが世界的に進んでいる (WHO, 2024a、covSPECTRUM, 2024)。

 

検出状況について

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され、さらにスパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が10月に欧州から報告された(GISAID, 2024)。BA.2.86系統が報告された当初は、XBB系統からの急速な置き換わりはみられなかったが、JN.1系統は欧州諸国を中心に感染者数増加の優位性を示しており、世界的にXBB系統からの置き換わりが進み、多くの国で主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。
  •    2024年2月7日までに94ヵ国から89,361件のJN.1系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されている。フランス、デンマーク、スペイン、シンガポールなどでは、2023年10月から11月にかけてJN.1系統の占める割合が上昇し、12月初旬には主流となっている(covSPECTRUM, 2024)。また、米国でも1月21日から2月3日に検出されたSARS-CoV-2の93.1%を占めると推測され、1月以降主流となっていると考えられている(CDC, 2024)。ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存すること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、解釈には注意が必要である。
  •    日本国内では週に1,000件程度のゲノム解析が実施されており、2024年2月5日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年第15週(4/10-16)以降59,790件のゲノム解析結果が登録されている。
    BA.2.86系統は2023年第35週(8/28-9/3)に、JN.1系統は第39週(9/25-10/1)に初めてCOG-jpに登録されている。2024年2月5日時点で、2023年第35週以降登録された23,466件のゲノム解析結果のうち、BA.2.86系統とその亜系統が2,794件、さらにそのうちJN.1系統とその亜系統が1,592件を占めている。JN.1系統とその亜系統の報告数は増加傾向にあり、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2024年第7週(2/12-18)には77%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2024a、国立感染症研究所, 2024b)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には注意が必要である。

 

科学的知見について

  •    JN.1系統は、スパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統である。L455S変異は標的細胞のACE2受容体への結合能を低下させる一方で、中和抗体による免疫から逃避する可能性を高めることが示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。また、BA.2.86系統に感染したハムスターの血清を用いた実験において、JN.1系統の免疫を逃避する可能性はBA.2.86系統と同等であったと報告されている。XBB.1.5系統やEG.5系統に感染したヒトの血清では、BA.2.86系統及びHK.3系統(EG.5.1系統の亜系統)と比較してJN.1系統の免疫を逃避する可能性が高かったと報告されている(Kaku Y. et al., 2023、 Wang Q. et al., 2023、 Yang S. et al., 2023)。ただし、これらの知見については、査読を受ける前のプレプリント論文を含むことに注意が必要である。一方で、2023年9月に採取された、ワクチン接種歴のある成人の血清においては、BA.2.86系統、JN.1系統に対して免疫を逃避する可能性の上昇は見られなかったと報告されている(Jeworowski LM. et. al., 2024)。
    SARS-CoV-2に対する細胞性免疫について、SARS-CoV-2特異的T細胞のBA.2.86系統に対する応答はCD4陽性T細胞で72%、CD8陽性T細胞で89%が保存されると予測されており、安定したT細胞応答が得られると可能性が報告されている(Sette A. et al., 2024)。
  •    日本を含む複数の国で2023年9月以降に接種されているXBB.1.5系統対応1価ワクチンに関して、ワクチン接種者の血清とシュードウイルスを用いた実験ではBA.2.86系統と比較してJN.1系統の中和抗体価が低く、L455S変異がこれに影響している可能性が示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。
  •    XBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種により、JN.1系統に対する中和抗体価の上昇が認められている (Wang Q. et al., 2023)ほか、検査や治療薬への影響について、BA.2.86系統と比較して検査精度、抗ウイルス薬の有効性が低下するという知見はない。
    米国疾病管理予防センター(CDC)は上記の結果をもとに、免疫を逃避する可能性は指摘されているもののワクチンへの影響は限定的であるとして、現行のワクチン、検査、治療薬はいずれもJN.1系統に対して有効であるとしている(CDC, 2023)。また、WHOも2023年12月に実施されたTAG-CO-VACの会議を受けた声明の中で、前述の動物及びヒトの血清を用いた実験結果を引用し、知見は限定的であるものの、引き続きXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が推奨されるとしている(WHO, 2023) 。
  •    また、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関して、2023年9月21日から2024年1月14日までに米国内の薬局で実施された無料のPCR検査、抗原検査の結果を解析した結果が報告されている。この中で、S遺伝子標的陰性(S gene target failure:SGTF)により調査当時に米国内で流行していたXBB系統とJN.1系統を区別し、感染予防に対するワクチン効果がSGTFの場合(JN.1系統を含む)49%(95%信頼区間:19-68%)、S遺伝子標的陽性(SGTP)の場合(XBB系統を含む)60%(95%信頼区間:35-75%)であったと報告されている(Link-Gelles R. et al., 2024)。
    これらの結果から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンはJN.1系統に対して、特に発症予防効果や重症化予防効果において、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できると考えられる 。
  •    重症化リスクに関しては、WHOは、新型コロナウイルスワクチンに関する技術諮問グループであるTAG-CO-VACの会議で示されたデータとして、デンマークで行われた65歳以上を対象とした研究において、BA.2.86系統以外の亜系統に感染した患者と比較したJN.1系統に感染した患者の入院のオッズ比は、1.15(95%信頼区間:0.74-1.78)と有意な差がなかったと報告した(WHO, 2024c)。またフランスでも同様の傾向が見られたとしたほか、シンガポールからのデータとして、JN.1系統に感染した高齢者、若年者で、ともに入院リスクと重症度が低かったと報告した(WHO, 2024c)。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは2023年8月17日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VOI:Variants of Interest)に指定した。その後、他のBA.2.86系統の亜系統と比較してJN.1系統が世界各地で感染者数増加の優位性を見せたことから、12月18日にJN.1系統をBA.2.86系統とその亜系統から独立させる形でVOIに指定した(WHO, 2024b)。
    欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統をVOIに指定しており、JN.1系統もこの中に含めた取り扱いとしている (ECDC, 2024)。
  •    WHOとCDCはそれぞれJN.1系統の評価を公表しており、世界的に感染者数増加の優位性がみられることに加え、BA.2.86系統と比較して免疫を逃避する可能性が高いとしているものの、感染者の重症度が高くなる知見はなく、公衆衛生的なリスクは他の亜系統と同等としている(CDC, 2024b、WHO, 2024c)。また、英国健康安全保障庁(UKHSA)も公式ブログの中で、公衆衛生上の勧告に変更はないとしている(UKHSA, 2024)。ただし、特に疫学的、臨床的な知見が少ないことから、JN.1系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。

 

関連項目

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan